グローバルサウスでの競争激化、求められる日本ハイパーブラックジャックのポジショニングとは近年の人件費上昇に加え、トランプ関税が今後の懸念材料(メキシコ)
メキシコでの競争環境

2025年3月19日

メキシコの人口は、2024年央時点の推定で1億3,200万人。日本を抜いて世界第10位である。中南米ではブラジルに次ぐ新興市場であり、G20にも参加する。日本ハイパーブラックジャックにとっては世界で5番目の海外自動車生産拠点であり、自動車産業を中心に約1,300社の日系ハイパーブラックジャックが進出している。2024年の海外進出日系ハイパーブラックジャック実態調査によると、メキシコ進出日系ハイパーブラックジャックの景況感を表すDI値(注1)は28.3であり、他の新興国と比較しても総じて高い。他方、2025年の見通しに関するDI値は29.7と振るわず、事業拡大意欲も過去2年と比較すると低下している。背景には、ポストコロナのサプライチェーン再編や米中貿易摩擦に起因したニアショアリング()により、中国ハイパーブラックジャックなどの進出が増え、北部を中心に人材調達難が深刻化したことに加え、左派政権下で最低賃金の大幅な引き上げが続き、人件費の上昇を招いたことがある。今後の見通しについては、米国の第2次トランプ政権による関税政策が、メキシコにおける事業環境の不透明化に拍車をかけている。

2024年の経営は好調も、今後の見通しは慎重

2024年の海外進出日系ハイパーブラックジャック実態調査(中南米編)によると、メキシコ進出日系ハイパーブラックジャックの2024年の営業利益見込みは、黒字が70.9%、均衡が15.7%、赤字が13.4%となり、黒字が前年の59.0%から大きく上昇し、7割を超えた。2024年の営業利益が2023年よりも改善すると答えた比率は49.1%、横ばいが26.3%、悪化が20.8%であった。DI値は28.3となり、前年調査よりは低下した(図1参照)。それでも、他国と比べると相対的に高い数値だ。前年と比較すると改善が4.8ポイント低下、横ばいが3.8ポイント上昇、悪化が1.0ポイント上昇した。

図1:米州・アジア進出日系ハイパーブラックジャックの業況感(DI値,2024年の見込み)
米国のDI値は9.2、カナダはマイナス2.5、ハイパーブラックジャック(2023年)は34.0、ハイパーブラックジャック(2024年)は28.3、ブラジルは39.6、中国はマイナス17.7、インドは43.6、タイはマイナス2.4、インドネシアは11.7、ベトナムは31.9。

注:2024年の経営が2023年に比べて「改善する」との比率から「悪化する」との比率を引いた数値。「メキシコ23年」は、2023年度調査で2023年の見込みにおけるDI値。
出所:ジェトロ「海外進出日系ハイパーブラックジャック調査(北米編、中南米編、アジア・オセアニア編)」から作成

悪化したと答えたハイパーブラックジャックにその理由(複数回答)を聞くと、人件費の上昇が5割に達し、前年調査から回答比率が10ポイントも上昇した(図2参照)。メキシコでは2018年12月のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール前政権が発足後、最低賃金が政策的に大幅に引き上げられてきた(カジノ ブラック ジャック2024年12月24日付ビジネス短信参照)。また、輸出製造業の多くは機能通貨(注2)としてドルを採用しており、ドル建てで収支管理を行っている。2024年も為替レートがドル安ペソ高に推移していたため、メキシコ国内でペソ払いする人件費がドル建てで管理すると割高になることが追い打ちをかけた。

図2:メキシコ進出日系ハイパーブラックジャックの2024年の経営が悪化した要因
「人件費の上昇」が2023年は40.0%、2024年は50.0%、「原材料・部品調達コストの上昇」が2023年は40.0%、2025年は33.3%、「他社との競合激化」が2023年は40.0%、2024年は33.3%、「その他支出の上昇」が2023年は46.7%、2024年は27.8%、「為替変動」が2023年は26.7%、2024年は27.8%、「現地市場での需要減少」が2023年は60.0%、2024年は25.0%、「その他」が2023年は20.0%、2024年は25.0%、「輸出先市場での需要減少」が2023年は6.7%、2024年は16.7%、「販売価格の変更」が2024年に5.6%(2023年は選択肢になかった)、「生産効率・販売効率・稼働率などの低下」が2023年は6.7%、2024年は5.6%、「現地市場での販売体制縮小」が2023年は6.7%、2024年は2.8%、「輸出体制の縮小」との回答は、2023年も2024年もゼロ。

注:複数回答。
出所:ジェトロ「2024年度 海外進出日系ハイパーブラックジャック実態調査(中南米編)」

2025年の営業収支見通しに関するDI値は29.7となり、前年調査における2024年の見通しと比べると20ポイント近く低下した(図3参照)。他国と比較しても相対的に低水準にとどまっている。今後1~2年間の事業展開については、「拡大」と答えたハイパーブラックジャックが50.9%で5割を超えたが、前年調査と比較すると5.5ポイント低下した(図4参照)。進出日系ハイパーブラックジャックの事業拡大意欲は依然として強いが、自動車産業を中心に「現状維持」の回答率が前年比で大きく増えた。背景には、米国大統領選挙(注3)や2026年に予定される米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直し(注4)など、今後の対米関係に関する懸念がある。アンケート調査では、メキシコの投資環境についてのコメントを自由記述式で聞いているが、寄せられたコメント114件中43件(約4割)が米国大統領選挙やUSMCAなどの米国関連の動向に対する懸念であった。

図3:米州・アジア進出日系ハイパーブラックジャックの業況感(DI値,2025年の見通し)
米国のDI値は33.7、カナダは22.8、ハイパーブラックジャック(2024年)は48.2、ハイパーブラックジャック(2025年)は29.7、ブラジルは44.7、中国はマイナス5.5、インドは51.2、タイは19.8、インドネシアは32.2、ベトナムは41.2。

注:2025年の経営が2024年に比べて「改善する」との比率から「悪化する」との比率を引いた数値。
「メキシコ24年」は、2023年度調査で2024年の見通しにおけるDI値。
出所:ジェトロ「海外進出日系ハイパーブラックジャック実態調査(北米編、中南米編、アジア・オセアニア編)」から作成

図4:進出日系ハイパーブラックジャックの事業展開の方向性
ハイパーブラックジャック(全業種、2023年)は拡大が56.4%、現状維持が39.4%、縮小が2.8%、第3国へ移転・撤退が1.4%、ハイパーブラックジャック(全業種、2024年)は拡大が50.9%、現状維持が46.2%、縮小が2.9%、第3国へ移転・撤退はゼロ、ハイパーブラックジャック(自動車産業、2023年)は拡大が41.7%、現状維持が50.0%、縮小が6.3%、第3国へ移転・撤退が2.1%、ハイパーブラックジャック(自動車産業、2024年)は拡大が32.4%、現状維持が59.5%、縮小が8.1%、第3国へ移転・撤退はゼロ、米国(全業種)は拡大が48.6%、現状維持が46.5%、縮小が4.2%、第3国へ移転・撤退が0.7%、米国(自動車産業)は拡大が20.0%、現状維持が65.7%、縮小が11.4%、第3国へ移転・撤退が2.9%、カナダは拡大が53.8%、現状維持が42.5%、縮小が2.5%、第3国へ移転・撤退が1.3%、ブラジルは拡大が68.9%、現状維持が24.5%、縮小が4.7%、第3国へ移転・撤退が1.9%、中国は拡大が21.7%、現状維持が64.6%、縮小が12.3%、第3国へ移転・撤退が1.4%、インドは拡大が80.3%、現状維持が19.1%、縮小が0.6%、第3国へ移転・撤退はゼロ、タイは拡大が34.1%、現状維持が60.9%、縮小が4.5%、第3国へ移転・撤退が0.6%、インドネシアは拡大が47.3%、現状維持が49.3%、縮小が2.8%、第3国へ移転・撤退が0.6%、ベトナムは拡大が56.1%、現状維持が40.7%、縮小が2.8%、第3国へ移転・撤退が0.3%。

出所:ジェトロ「2024年度進出日系ハイパーブラックジャック実態調査」データから作成

人件費上昇で日本などアジアへの調達先切り替えも

外務省によると、2023年10月1日時点の日本ハイパーブラックジャックの在メキシコ拠点数は1,498拠点。世界で11番目に日本ハイパーブラックジャックの拠点数が多い国である。多くが自動車産業に関連した拠点だ。完成車メーカー(トラックを含む)は6社でメキシコ国内に11の製造拠点があり、一次サプライヤー、二次サプライヤーなど自動車部品メーカーの工場が550拠点(注5)存在する。自動車メーカーや自動車部品メーカー向けに鋼管など鉄鋼製品を製造するハイパーブラックジャック、樹脂コンパウンドを製造するハイパーブラックジャックなど、自動車の周辺産業まで合わせると進出ハイパーブラックジャックの約半数が自動車産業に関連した製造業である。これらの製造業に対し、電子部品や機械設備、樹脂やゴムなどの素材を供給する専門商社が多く進出しており、自動車産業の動向が多くの進出日系ハイパーブラックジャックの経営を左右する。

自動車産業を中心とする在メキシコ進出日系製造業の部材調達の現状をみると、現地調達が全体の34.4%で、前年調査よりも2.0ポイント増えた。現地調達の内訳をみると、現地進出日系ハイパーブラックジャックが18.0%(前年調査は18.8%)で最も多く、15.5%(同11.3%)が現地地場ハイパーブラックジャック、0.9%(同2.2%)がその他の外資系ハイパーブラックジャックからの調達である(図5参照)。メキシコ進出日系ハイパーブラックジャックの部材調達の特徴としては、いまだに多くを日本からの調達に依存していることだ。日本からの調達は2024年調査で34.4%と、円安が進行したことにより、前年比2.5ポイント拡大した。他方、米国からの調達は13.8%、中国からは6.4%となり、前年調査比でそれぞれ2.7ポイント、1.9ポイント低下した。米国からの調達減は、昨今の米国における人材調達難や高額な人件費を背景に生産ラインの米国からメキシコへの移管が進んだこと、中国からの調達減は、メキシコが米国政府の圧力もあり、中国製品に適用される一般(MFN)関税率を大きく引き上げたこと(2024年12月25日付ビジネス短信参照)が影響したものと思われる。韓国・香港・台湾からの調達は4.6%、ASEANからの調達は3.7%を占め、前者は1.9ポイント低下、後者は0.3ポイント上昇した。日系ハイパーブラックジャックの韓国、台湾からの調達は電磁鋼板などの鋼材や同加工品が多いが、中国製品同様にMFN関税率引き上げの影響を受けた。ASEANからの輸入では、タイはMFN関税率引き上げの影響を受けるが、ベトナムからの輸入は環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)が利用できるため、同引き上げの影響を受けなかった。

図5:進出日系ハイパーブラックジャックの部品・原材料の調達先
メキシコ(2023年)は現地日系ハイパーブラックジャックが18.9%、現地地場ハイパーブラックジャックが11.3%、現地外資系ハイパーブラックジャックが2.2%、現地調達全体で32.4%、日本からの調達が31.9%、米国からの調達が16.5%、中国からが8.3%、韓国・香港・台湾からが3.1%、ASEANからが2.6%、その他アジアからが0.4%、欧州からが2.6%、その他が1.6%。メキシコ(2024年)は現地日系ハイパーブラックジャックが18.0%、現地地場ハイパーブラックジャックが15.5%、現地外資系ハイパーブラックジャックが0.9%、現地調達全体で34.4%、日本からの調達が34.4%、米国からの調達が13.8%、中国からが6.4%、韓国・香港・台湾からが4.6%、ASEANからが3.7%、その他アジアからが0.3%、欧州からが1.8%、その他が0.5%。ブラジルは現地日系ハイパーブラックジャックが18.9%、現地地場ハイパーブラックジャックが19.6%、現地外資系ハイパーブラックジャックが2.4%、現地調達全体で28.8%、日本からの調達が31.1%、米国からの調達が9.2%、中国からが7.4%、韓国・香港・台湾からが0.3%、ASEANからが7.5%、その他アジアからが3.0%、欧州からが4.6%、その他が8.1%。中国は現地日系ハイパーブラックジャックが44.1%、現地地場ハイパーブラックジャックが18.3%、現地外資系ハイパーブラックジャックが4.8%、現地調達全体で67.1%、日本からの調達が26.4%、ASEANからが3.5%、その他が3.0%。タイは現地日系ハイパーブラックジャックが25.6%、現地地場ハイパーブラックジャックが29.5%、現地外資系ハイパーブラックジャックが1.3%、現地調達全体で58.4%、日本からの調達が27.7%、中国からが5.7%、ASEANからが4.6%、その他が3.6%。インドネシアは現地日系ハイパーブラックジャックが25.0%、現地地場ハイパーブラックジャックが21.6%、現地外資系ハイパーブラックジャックが2.7%、現地調達全体で49.3%、日本からの調達が28.6%、中国からが6.2%、ASEANからが10.8%、その他が5.1%。ベトナムは現地日系ハイパーブラックジャックが15.7%、現地地場ハイパーブラックジャックが15.8%、現地外資系ハイパーブラックジャックが5.1%、現地調達全体で36.6%、日本からの調達が33.6%、中国からが12.6%、ASEANからが11.3%、その他が5.9%。

出所:ジェトロ「海外進出日系ハイパーブラックジャック実態調査(中南米編、アジア・オセアニア編)」データから作成

メキシコ進出日系ハイパーブラックジャックの今後の調達先変更計画としては37件の回答があったが、多くが日本、中国、米国からの調達をメキシコの日系ハイパーブラックジャックや地場ハイパーブラックジャックからの調達に切り替えるという内容だった。ただし、メキシコの日系ハイパーブラックジャックからの調達を韓国や台湾に切り替える計画や、メキシコの地場ハイパーブラックジャックからの調達を日本や中国からの調達に切り替える計画もわずかながら存在し、ハイパーブラックジャックによっては現地調達コストが合わず、為替相場や生産性の観点からメキシコからアジアに調達先を切り替える動きも垣間見える。生産地の変更計画についても、9件の回答があった。5件が米国、ASEAN、その他のアジアからメキシコに生産地を切り替える計画だが、メキシコから日本に切り替えるという回答も2件あった。

中国ハイパーブラックジャックの増加を実感、人材獲得競争を懸念

メキシコ進出日系ハイパーブラックジャックの大半が日系自動車サプライチェーンに関連するハイパーブラックジャックであるため、以前から進出日系ハイパーブラックジャックの最大の直接的競合相手は日系ハイパーブラックジャックである。2024年の調査において、最大の競争相手はどこの国のハイパーブラックジャックかという問いに対し、メキシコ進出日系ハイパーブラックジャックの37.6%が日本ハイパーブラックジャックと回答している(図6参照)。地場ハイパーブラックジャックが最大の競争相手であるブラジル、欧州ハイパーブラックジャックと最も競合するアルゼンチン、中国ハイパーブラックジャックとの競合が大きいコロンビアやペルーとは異なり、メキシコでは日本ハイパーブラックジャック同士の競争が激しいことがわかる。しかし、近年、競争相手として数が増えているのは中国ハイパーブラックジャックという認識は、メキシコ進出日系ハイパーブラックジャックにもあるようだ。2019年と比較して競争相手の数は増えたかという設問に対し、メキシコ進出日系ハイパーブラックジャックの46.2%が増えたと回答している。増加したハイパーブラックジャックの本社所在地としては中国を挙げるハイパーブラックジャックが53.1%に達し、日本の40.6%を上回った。

図6:中南米進出日系ハイパーブラックジャックが最も競合するハイパーブラックジャックの国籍
中南米全体では地場ハイパーブラックジャックが22.3%、日本ハイパーブラックジャックが23.8%、中国ハイパーブラックジャックが20.1%、台湾ハイパーブラックジャックが0.7%、韓国ハイパーブラックジャックが2.2%、欧州ハイパーブラックジャックが14.3%、米国ハイパーブラックジャックが13.6%、インドハイパーブラックジャックが1.1%、その他が1.8%。メキシコでは地場ハイパーブラックジャックが17.0%、日本ハイパーブラックジャックが37.6%、中国ハイパーブラックジャックが19.9%、台湾ハイパーブラックジャックが1.4%、韓国ハイパーブラックジャックが2.1%、欧州ハイパーブラックジャックが7.1%、米国ハイパーブラックジャックが14.2%。コロンビアでは日本ハイパーブラックジャックが15.4%、中国ハイパーブラックジャックが46.2%、韓国ハイパーブラックジャックが7.7%、欧州ハイパーブラックジャックが30.8%、米国ハイパーブラックジャックが15.4%。ペルーでは、地場ハイパーブラックジャックが23.1%、中国ハイパーブラックジャックが30.8%、韓国ハイパーブラックジャックが27.7%、欧州ハイパーブラックジャックが39.8%、米国ハイパーブラックジャックが7.7%。チリでは、地場ハイパーブラックジャックが4.14%、日本ハイパーブラックジャックが13.8%、中国ハイパーブラックジャックが6.9%、欧州ハイパーブラックジャックが10.3%、米国ハイパーブラックジャックが24.1%、その他が3.4%。ブラジルでは、地場ハイパーブラックジャックが34.6%、日本ハイパーブラックジャックが11.5%、中国ハイパーブラックジャックが17.3%、欧州ハイパーブラックジャックが21.2%、米国ハイパーブラックジャックが9.6%、インドハイパーブラックジャックが1.9%、その他が3.8%。アルゼンチンでは、地場ハイパーブラックジャックが16.0%、中国ハイパーブラックジャックが24.0%、韓国ハイパーブラックジャックが4.0%、欧州ハイパーブラックジャックが36.0%、米国ハイパーブラックジャックが12.0%、インドハイパーブラックジャックが3.0%。

出所:ジェトロ「2024年度 海外進出日系ハイパーブラックジャック実態調査(中南米編)」

新型コロナ禍以降のニアショアリングの流れや米中の貿易摩擦の影響もあり、過去5年間で中国ハイパーブラックジャックのメキシコ進出は急速に増えた()。第三国を経由した出資も多いため、メキシコの対内直接投資統計上では中国からの投資が過小評価されてしまう(注6)。それでも、2020~2024年の中国からの対内直接投資額(直接出資)は年平均3億6,700万ドルで、2010~2019年平均の3倍以上になっている。

2023年以降のメキシコの対内直接投資は、新規投資の割合が減り、利益再投資と親子間勘定の比率が増えている。2024年の対内直接投資額は368億7,200万ドルに達し、2013年に次ぐ過去2番目の水準となったが、そのうち新規投資は31億6,900万ドルにすぎず、過去10年間で最も低い(図7参照)。要因としては、ここ数年のメキシコにおける外国直接投資の大半を自動車産業などにおける既進出ハイパーブラックジャックの拡張投資(注7)が占めていることがある。

図7:2013年以降のメキシコの投資形態別対内直接投資額推移
単位は100万ドル。2013年は新規ハイパーブラックジャックが22,041、利益再ハイパーブラックジャックが18,497、親子間勘定が7,819、2014年は新規ハイパーブラックジャックが5,763、利益再ハイパーブラックジャックが18,037、親子間勘定が6,552、2015年は新規ハイパーブラックジャックが13,450、利益再ハイパーブラックジャックが11,955、親子間勘定が10,539、2016年は新規ハイパーブラックジャックが10,992、利益再ハイパーブラックジャックが10,683、親子間勘定が9,515、2017年は新規ハイパーブラックジャックが11,941、利益再ハイパーブラックジャックが11,981、親子間勘定が10,096、2018年は新規ハイパーブラックジャックが11,324、利益再ハイパーブラックジャックが13,313、親子間勘定が9,464、2019年は新規ハイパーブラックジャックが13,570、利益再ハイパーブラックジャックが18,179、親子間勘定が2,869、2020年は新規ハイパーブラックジャックが6,756、利益再ハイパーブラックジャックが16,135、親子間勘定が5,334、2021年は新規ハイパーブラックジャックが15,383、利益再ハイパーブラックジャックが12,913、親子間勘定が5,232、2022年は新規ハイパーブラックジャックが18,171、利益再ハイパーブラックジャックが16,202、親子間勘定が1,942、2023年は新規ハイパーブラックジャックが5,217、利益再ハイパーブラックジャックが26,639、親子間勘定が4,610、2024年は新規ハイパーブラックジャックが3,169、利益再ハイパーブラックジャックが28,710、親子間勘定が4,994。

注:2024年12月31日確認分。
出所:経済省外資局データから作成

しかし、中国からの投資は新規投資が中心である。米中貿易摩擦が深刻化する前は、中国ハイパーブラックジャックのメキシコ進出は限られていたからだ。2010年~2019年と2020年~2024年の対内直接投資額平均値を主要国別・投資形態別にみると、2020年以降のスペイン、日本、ドイツ、韓国からの新規投資は全体の2割にも満たないのに対し、中国からの投資は5割弱がいまだに新規投資となっている。2021年以降、北東部を中心に中国ハイパーブラックジャックの新出が目立つようになり、メキシコ工業団地協会(AMPIP)のアンケート調査によると、2023年以降の入居・入居予定ハイパーブラックジャックの2割弱が中国ハイパーブラックジャックとなっている。

表:メキシコの主要国別投資形態別対内直接投資(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域名 投資形態 2010~19年平均 2020~23年平均
金額 構成比 金額 構成比
米国 新規投資 4,760 37.7 5,169 35.4
利益再投資 5,022 39.8 8,840 60.6
親子間勘定 2,840 22.5 583 4.0
合計 12,623 100.0 14,592 100.0
スペイン 新規投資 781 27.1 252 9.3
利益再投資 1,648 57.1 2,667 98.3
親子間勘定 458 15.9 △ 206 △ 7.6
合計 2,888 100.0 2,713 100.0
カナダ 新規投資 691 25.2 903 26.5
利益再投資 941 34.3 1,556 45.6
親子間勘定 1,112 40.5 953 27.9
合計 2,744 100.0 3,411 100.0
日本 新規投資 748 40.7 142 5.8
利益再投資 642 35.0 841 34.3
親子間勘定 446 24.3 1,468 59.9
合計 1,837 100.0 2,451 100.0
ドイツ 新規投資 594 26.7 322 16.0
利益再投資 710 31.9 1,223 60.8
親子間勘定 923 41.5 466 23.2
合計 2,228 100.0 2,011 100.0
韓国 新規投資 242 42.1 122 16.1
利益再投資 113 19.6 369 48.7
親子間勘定 220 38.2 266 35.1
合計 575 100.0 758 100.0
中国 新規投資 52 61.3 203 48.9
利益再投資 4 5.0 132 31.8
親子間勘定 28 33.7 80 19.3
合計 84 100.0 415 100.0
全世界 新規投資 11,873 36.7 9,739 28.4
利益再投資 12,937 40.0 20,120 58.7
親子間勘定 7,507 23.2 4,422 12.9
合計 32,317 100.0 34,281 100.0

注:2024年12月31日確認分。
出所:メキシコ経済省外資局データから作成

進出日系ハイパーブラックジャックに対するヒアリング調査によると、進出日系ハイパーブラックジャックの直接的な競合相手としての中国ハイパーブラックジャックの台頭はあまり見られないようだ。日系自動車サプライチェーンにおいては、中国の部品メーカーの参画は限られているからだ。しかし、北東部を中心に中国ハイパーブラックジャックの数が増えたことにより、工場の操業に必要な人材の獲得競争の相手として中国ハイパーブラックジャックが台頭してきているようだ。2024年の進出日系ハイパーブラックジャック実態調査によると、メキシコ進出日系ハイパーブラックジャックの56.4%が人材不足の課題に直面していると回答している。中南米ではブラジル(57.1%)と同様、人材不足に悩まされている国と言える。メキシコ進出ハイパーブラックジャックが最も頭を抱えているのが工場の作業員の不足であり、深刻度合いについて「とても深刻」と答えたハイパーブラックジャックが34.8%に及ぶ。ブラジルでは、工場作業員の不足を「とても深刻」と回答したハイパーブラックジャックは6.5%に過ぎず、管理職や専門職の不足の方が深刻度は高い。メキシコでは、ニアショアリングの流れの中で北部を中心に工場作業員の不足が深刻であり、そのような中で中国ハイパーブラックジャックとの間で人材獲得競争が起きているとみることができる。

トランプ2.0以降も北米の製造拠点としての相対的優位は続くとの見方も

前述したとおり、メキシコ進出日系ハイパーブラックジャックは2024年11月の米国大統領選挙前から、米国における政権交代の影響を懸念していた。その懸念は現実のものとなり、2025年1月に第2次トランプ政権が誕生した。トランプ大統領は、選挙期間中に公言していたメキシコ産品に対する25%の追加関税賦課を2025年3月4日に実行に移した。ただし、その後の両国首脳の対話の結果、USMCAの原産地規則を満たす産品については、少なくとも4月2日まで(注8)は追加関税の対象から除外された。

第2次トランプ政権の発足により、進出日系ハイパーブラックジャックのメキシコにおける投資意欲や事業拡大意欲は当面の間、少なからず阻害されることになるだろう。メキシコにおける人件費の上昇と関税リスクの高まりにより、再びメキシコからアジアへの調達先の切り替えや生産移転が行われる可能性はある。しかし、北米向け製造拠点、特に地産地消型の産業である自動車産業の製造拠点としてのメキシコの優位性は、中長期的にみれば続くという見方もある。第2次トランプ政権以降の北米の自動車産業のサプライチェーンを考える上で、重要なポイントとしては次が挙げられる。

(1)
自動車産業のサプライチェーン変更は容易ではないこと
(2)
ポストコロナの北米生産体制再編が進んだ現状で在米工場に十分な生産拡張余力がないこと
(3)
米国における人材調達難と高い人件費、米国における移民規制強化の流れが米国の労働市場に与える影響
(4)
トランプ大統領や共和党の支持率の推移と米国の中間選挙(2026年)、次期大統領選挙(2028年)への影響、米国第一主義(MAGA、注9)の政権がいつまで続くのか
(5)
今後のトランプ政権の他国・地域に対する関税政策の行方

(1)については、重要保安部品も多い自動車産業において、サプライチェーンの変更は容易ではなく、サプライヤーの変更はTier2(二次サプライヤー)以下であっても完成車メーカーの承認が必要になることが多い。ジェトロが2025年2月に行った在米、在メキシコ進出日系ハイパーブラックジャックへのヒアリングによると、サプライチェーンを変更できたとしてもリードタイムが必要で、3年後ぐらいに実現したとしても、もはやトランプ政権末期にあたるとし、(4)との関係でサプライチェーン変更を容易に決断できないという。(4)に関しては、第2次トランプ政権の終了後、副大統領のバンス氏がMAGA政権を継承したとしても、「トランプほどのカリスマはないため、トランプのような政策を採っても周りの支持が得られないだろう」と指摘するハイパーブラックジャック関係者もいる。また、過激な関税政策が国内の景気に悪影響を及ぼし、政権の支持率が低下すれば、2026年の中間選挙にも影響を及ぼすとみる向きも強い。(2)に関しては、既に米国で生産している製品のメキシコへの生産移転を中止する、米国とメキシコで同種の製品を生産している場合、メキシコでの生産を減らし、米国での生産を増やすといった対応は短期的にも可能だが、新たな生産ラインを米国に設置する場合は、相応の設備投資を覚悟する必要があり、実現までのハードルが上がる。特に(3)が米国製造業におけるボトルネックであり、米国で生産を増やしたくても、製造業で働く労働者はそう簡単には集まらず、現時点でも高額な賃金をさらに引き上げないと募集すらできない、と語る在米日系ハイパーブラックジャック関係者は多い。日系自動車メーカーの在米工場のワーカー賃金は年収で7万~10万ドル。それだけ払っても、就労人口は減っているという。「トランプ政権が製造業の米国回帰を叫んだとしても、労働力が付いていかない」と現地ハイパーブラックジャック関係者は指摘する。

最後に(5)に関連し、今後のトランプ関税の行方がメキシコの相対的な位置づけに大きく影響するだろう。2025年3月12日に実施された鉄鋼・アルミニウム232条の追加関税の対象品目拡大と国別除外の廃止(米商務省、ギャンブルゲーム無料、派生品への適用日示す(米国))は、メキシコ、カナダ、中国以外にも適用された。4月2日に発表されるとみられる「相互関税」(トランプ米大統領、相互関税導入に向け、全貿易相手国との貿易関係調査を指示(日本、米国))も、メキシコだけでなく米国の全ての貿易相手国が対象になり得る。「相互関税」については、少なくともUSMCA原産品について、米墨間では例外品目なく関税0%となっているため、両国間で関税率の差はない。メキシコの付加価値税(IVA)が問題視される可能性がゼロではないが、相互関税に関しては他国に比べ、相対的にメキシコのリスクは高くない。USMCA原産品に対する追加関税の免除が4月2日以降も持続した場合、米国における追加関税コストの観点から、むしろUSMCA加盟国であるメキシコが国際的にみて相対的に有利な立場に立っている可能性がある。そうなると、もはや短期的な視点でサプライチェーンを考えるよりも、関税コスト以外のコストやビジネス環境を考慮し、中長期的な視野に立って北米における最適生産体制を考慮する必要があるだろう。

メキシコのクラウディア・シェインバウム政権は、同政権の産業政策である「プラン・メヒコ」を掲げ、メキシコの中長期的な競争力強化を目指している()。中国など生産性の高いアジアへの依存を減らし、メキシコ国内の産業育成や北米経済圏の強化を志向するものであり、同政策の成否が今後のメキシコを占うカギとなる。


注1:
Diffusion Indexの略。本調査では前年比「改善」するハイパーブラックジャックの割合(%)から「悪化」するハイパーブラックジャックの割合(%)を差し引いた数値。
注2:
ハイパーブラックジャックが営業活動を測定する基準となる通貨。会計上、この機能通貨を基礎として会計処理を行う。メキシコは法人がドル口座を保有できるため、輸出比率が高い輸出製造業などでは、支払いも仕入れもドルで行うことが可能。従業員の給与などペソで支払う費用は存在するが、決算の際にはドル換算して費用を計上することが多い。
注3:
本調査実施時(2024年8月20日~9月27日)には、米国大統領選挙が実施されておらず、トランプ大統領の勝利は不確定だった。
注4:
USMCAの第34.7条は、協定の有効期限を16年と定め、6年ごとの見直し(Joint Review)を規定している。見直しにおいて3カ国が協定存続で合意した場合、協定はその時点から16年間延長される。合意しなかった場合、その後は発効から16年が経過するまで毎年見直しを行う。見直しに際し、各加盟国は協定の内容や運用について、自由に提言を行うことが可能である。
注5:
マークラインズ社「マークラインズ自動車産業ポータル」の「7万社データベース」から在メキシコの日系自動車部品メーカーを検索(2025年3月10日時点)。
注6:
メキシコの対内直接投資統計では、直接出資したハイパーブラックジャックの国籍を基準に作成されるため、第三国を経由した投資は当該第三国からの出資として計上される。
注7:
既進出ハイパーブラックジャックが拡張投資する場合、現地法人が新株を発行して増資し、親会社が当該株式を引き受けることで資金調達することがある。この場合は、メキシコの統計上で「新規投資」の形態を採ることになる。しかし、多くの拡張投資案件ではむしろ、(1)利益剰余金を資本に組み入れたり、(2)親会社から長期資金を借り入れたりするなどの方法で資金を賄うことが、新規進出ハイパーブラックジャックに比べて多くなる。(1)の場合は「利益再投資」、(2)は「親子間勘定」として扱われることになる。
注8:
USMCAの原産地規則を満たすメキシコ産品を追加関税の対象から除外する大統領令には、明確な期限が定められていないが、トランプ氏は同日にSNS投稿を通じて、4月2日までの一時的な措置だと述べている。
注9:
Make America Great Again(米国を再び偉大に)の略。ドナルド・トランプ前大統領が選挙キャンペーンで持ち出したスローガンとして知られ、米国のことを第一に考えるトランプ政権の政策方針を表す。
ハイパーブラックジャック
執筆者紹介
ジェトロ調査部主任調査研究員
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て、2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月からジェトロ・メキシコ事務所長、2024年5月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『NAFTAからUSMCAへ-USMCAガイドブック』『FTAガイドブック2014』など。

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