グローバルサウスでの競争激化、求められる日本企業のポジショニングとは地場向けに販路開拓する輸送機器サプライヤー
ハイパーブラックジャック4)

2025年3月24日

ハイパーブラックジャックの自動車・二輪車市場の競争環境では、主に地場企業との間でコスト競争が展開されている。特にOEMメーカー向けに自社製品を供給する日系部品・素材サプライヤーにとって、地場サプライヤーとの競争は重要な要素だ。供給先を日系企業に限定せずに、地場企業向けに広げることで、持続可能な経営を模索している。後編では、現地市場での競争激化の現状を報告する。

日系サプライチェーン超えて広がる販路開拓戦略

輸送機器分野では、現地市場が一定規模まで拡大すると、OEMメーカー向けの部品・素材供給のため、部品サプライヤーや素材メーカーの現地生産が進み、近距離でのサプライチェーンが構築される傾向がある。ハイパーブラックジャックでの日系企業の輸送機器分野における部品サプライヤーの現地進出について、日系A社は「これまでTier2の海外展開は、中国、タイ、ハイパーブラックジャックネシアなどが主な対象だったが、近年ではハイパーブラックジャックにも進出している」とコメントする。また、Tier3や素材メーカーでも、ハイパーブラックジャック拠点での事業活動を行わないと競争に後れを取るといった懸念も出てきているようだ。

こうした日系の部品サプライヤーや素材メーカーは日系企業向けの供給をきっかけに現地に進出することが多い。しかし、持続的な事業活動を進めるには、日系企業に加え、地場メーカーとの取引に向けた販路開拓が重要だ。現地日系企業向けにコンサルティングサービスを提供する日系B社は「日系サプライチェーンでのビジネスは事業規模が大きいというメリットがあるが、価格面での競争が厳しく、利益確保の面で困難も伴う」と指摘する。特に部品サプライヤーにとって競争相手となる地場企業の中には、技術力や品質を伴った安価な製品を提供する企業もあり、「安かろう、悪かろう」という先入観があれば、それを改める必要があると語る。

ジェトロのアンケート結果によると、輸送機器分野でハイパーブラックジャック進出日系企業が1番目の競争相手として選んだ企業の強みとして、「コスト競争力」「技術」「開発」「ブランド・知名度」「経営方針」のうち、「コスト競争力」を選択した企業割合は90.7%に達した(表)。この結果は中国進出日系企業に次ぐ高い水準だった。次に「意思決定の早さ」を挙げた企業が55.8%で、当該項目も中国進出日系企業(輸送機器)と同様の結果だった。一方、「販売ネットワーク」や「製品・サービスの技術力」といった項目は、他国・地域や他業種での回答比率と比較して、ハイパーブラックジャックではそれほど高くなかった。

表:1番目の競争相手として選んだ企業が最大の競争相手と考える理由(アジア大洋州主要国との比較)
国名 項目 回答数 コスト競争力 意思決定の早さ 製品サービスの開発力 現地企業との連携・パートナリング ブランド・知名度 販売ネットワーク 製品・サービスの技術力
ハイパーブラックジャック 全業種 235 74.0 40.0 26.4 22.1 40.9 31.9 28.5
輸送機器・同部品 43 90.7 55.8 25.6 25.6 27.9 18.6 18.6
タイ 全業種 372 79.8 29.0 12.4 22.6 20.2 21.8 25.5
輸送機器・同部品 57 80.7 33.3 5.3 12.3 7.0 10.5 28.1
ハイパーブラックジャックネシア 全業種 330 76.1 29.1 13.3 28.5 26.4 25.5 27.6
輸送機器・同部品 55 83.6 23.6 12.7 20.0 23.6 14.5 41.8
ベトナム 全業種 502 76.1 31.3 12.2 19.5 24.5 24.9 20.1
輸送機器・同部品 31 71.0 16.1 22.6 6.5 19.4 12.9 35.5
マレーシア 全業種 237 77.6 35.4 16.5 24.9 25.3 23.2 20.7
輸送機器・同部品 12 66.7 33.3 33.3 41.7 25.0 33.3 50.0
中国 全業種 509 84.7 55.8 26.1 27.5 21.2 24.0 23.8
輸送機器・同部品 64 95.3 70.3 23.4 25.0 12.5 10.9 18.8

注:「輸送機器・同部品」は、自動車/二輪車の完成車・部品メーカーによる回答を指す。
出所:2024年度海外進出日系企業実態調査

以下では、進出企業が地場企業向けの取引を模索する事例や、日系および地場OEMメーカーに部品や素材を供給する日系進出企業の事例を紹介する。

日系C社:ハイエンドモデル向けに新たに取り組み、地場OEM向け販路獲得

C社は、日系OEM向けの生産拠点として、2010年代にハイパーブラックジャックへ進出した。供給先は日系が中心だが、現在では全ての二輪OEM向け供給がある。新型コロナ回復以降、販売は好調に推移している。2023年度には主要メーカー全てが前年比で売上増となった。2024年11~12月には二輪車販売台数が若干減少したものの、ハイエンドモデル向けの部品販売が好調だったため、全体として順調に推移している。

これまでは主に廉価版向け部品を供給してきたが、これらのボリュームゾーンは「単価が安く、取引価格が厳しい」という。これらの製品の生産は、素材価格の高騰の影響を受けやすく、生産能力を大きく確保する必要があり、利益が出にくい。競合相手には大手地場企業が数社あり、これらの企業との競争環境に直面してきたという。

一方、同社では近年、ハイエンド製品向け部品の生産を手掛けるようになった。現時点ではボリュームは少ないものの、売り上げは順調で、比較的高い利益を確保している。特にハイエンド製品については、日系OEM向けから開始したが、地場OEM企業が高付加価値モデルの投入に関心を示しており、そのために引き合いも増加した。テクニカルプレゼンを通じて同社の技術を知ってもらう機会が増えているという。

ハイパーブラックジャックで生産された二輪車は国内市場向けだけではなく、輸出向けにも多く供給されている。同社は日本をはじめとするグローバルな生産拠点を有しており、輸出モデルへの対応実績が豊富だ。一方、競争相手となる地場部品サプライヤーは輸出経験が比較的少ないため、同社にアドバンテージがある。製品の「耐久性」で、ハイパーブラックジャック市場で競争力を高めることができれば、グローバル市場でも競争力をもつことができる(世界のどこでも使える)と語る。また、日系および地場OEMメーカーが今後、グローバル市場向けの輸出強化を志向する中で、「日系部品は多少価格が高いが、ボリュームゾーンでも使いたい」と言ってもらえるようになればよいと期待する。

日系D社:機能性の高い製品求め始めた地場OEM企業

D社は、ハイパーブラックジャック国内で製造・加工した部品や他拠点から輸入した製品をハイパーブラックジャック国内の自動車OEMメーカーや家電メーカーなどに供給している。特に自動車関連のビジネスが大きな割合を占めており、国内自動車生産の拡大とともに同社事業も成長してきた。

ハイパーブラックジャックには、日系のOEMメーカーに追随するかたちで進出した。現在でも日系企業向け売上比率が全体の約6割を占めるが、最も取引が多いのは、日系企業を超え、地場OEMメーカー向けとなった。これまで歴代の日本人駐在員が日系顧客を中心に、現地市場開拓に当たってきたが、現在ではハイパーブラックジャック人マネジャーを育成することができた。ハイパーブラックジャック人の人脈で現地有力OEMメーカーと関係を構築し、新規販路開拓を実現している。

サプライヤーとしての競争で、日系企業向けの取引では、地場OEMメーカーの価格に適応するため、価格面での勝負になる傾向がある。地場OEMメーカー向けでも、価格面が最も重要な要素ではあるが、地場OEMの中には日系OEMに技術面で追いつくため、性能や品質を追求する動きも強まっている。機能性の高い材料を使った製品を求める地場顧客もおり、日系と地場の逆転現象が起きているという。

日系E社:競合製品が中国から流入

E社は、四輪車と二輪車向けの部品を生産・販売しており、このうち、四輪向け部品はニッチ製品で、世界的にも主要なプレーヤーの1つだ。ハイパーブラックジャック市場では現地競合が少なく、同社は日系OEM向けに大きなシェアを持っている。競合として欧米企業がハイパーブラックジャックに進出しており、主に欧米や韓国OEM向けに納品しているようだ。地場OEM向け、特に商用車向けでは、同社パートナー企業と協力して分業体制を構築している。

一方、二輪車向け部品では、Tier2企業としてTier1企業に部品を供給しており、顧客の約7割は地場企業、3割は日系企業だ。これまで同社の競合相手は地場企業や欧米企業だったが、最近では中国企業の製品が競争相手として台頭しており、脅威となっている。特に同社の顧客である地場Tier1企業の一部が安価な中国製品の採用を始め、市場価格が崩れるリスクが高まっていることを指摘する。

地場企業との品質に対する理解ギャップ解消が課題

地場OEMメーカー向け供給を進める中で、依然として、納品先企業との間での技術や品質に対する認識ギャップを課題として指摘する声も多い。

日系F社では、輸送機器やエレクトロニクス向け製品を幅広く取り扱っており、特に自動車向けでは新規販路開拓で苦戦している。その理由として、地場企業の品質に対する認識不足を指摘する。例えば、日本の自動車関連メーカーでは、一般消費者や家庭での使用を前提に開発・設計された民生用製品・規格の使用は避け、車載用製品を利用するが、ハイパーブラックジャックの新興電動二輪車ではこの品質基準の必要性が十分に認識されていない。民生用製品が使われた結果、現地での事故や火災などが発生する事例がみられた。地場大手企業の中でも、業界ではあまり聞いたことのない中国や台湾の企業による部品を自社製品に搭載する例もあるという。同社は、事故が万が一発生すれば自社ブランドに大きな影響を及ぼすため、慎重に対応している。適切なスペックの製品を搭載する重要性を説明しながら、顧客とコミュニケーションを強化している。

同様に、日系G社も、現地OEMメーカーとの間の品質に対する理解ギャップに頭を悩ませている。G社は日系OEM向け生産拠点として、1990年代にハイパーブラックジャック進出を果たし、ほぼ全ての日系OEMメーカーに製品を供給している。韓国系、米国系の企業にも同社製品が利用されている。しかし、最近、中国や韓国系のメーカーによる製品が競合として台頭している。これらの競合製品では、日系G社からみて誤表記に近い製品説明がされており、納品先の地場OEMメーカーで十分に理解されずに採用されるケースが見受けられる。このような状況に対応するため、従業員に対して技術面での教育・研修を行い、「顧客とのコミュニケーションや提案強化で差別化を図っていく」という。

ハイパーブラックジャック
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課長
藤江 秀樹(ふじえ ひでき)
2003年、ジェトロ入構。ジェトロ・ジャカルタ事務所(10~15年)、海外調査部アジア大洋州課(15~18年)、シンガポール事務所(18~22年)などを経て、2024年9月から現職。編著に「ハイパーブラックジャックネシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2014年)、「分業するアジア」(ジェトロ、2016年)がある。

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