AMLO大統領、国境州で違法輸入車両の合法化を実施、国内自動車市場に悪影響も
(メキシコ)
メキシコ発
2021年10月20日
メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は10月17日、出張中のバハカリフォルニア州で行政命令に署名し、国境地帯で違法輸入の状態にある中古車の合法化に向けた措置の適用を、大蔵公債省、経済省、治安市民保護省に命じた。違法状態の輸入中古車について手数料を支払うことで合法化させ、合法的なナンバープレートを付けて車両公式登録(REPUVE)を与えることにより、違法車両を利用した犯罪を防止することが主目的。加えて、非合法車両を所有する貧困層に対して、法的安心感を与えることも狙いとされている。行政命令は10月18日夕刻の官報で公布された。
合法化の対象となる車両は、同行政命令の発効日(10月19日)以前に米国との国境州および南バハカリフォルニア州に存在する違法車両だ。同日以降に持ち込まれた車両はこの対象にならない。1台当たり約2,500ペソ(約1万4,250円、1ペソ=約5.7円)の手数料を支払うことによってREPUVEに登録でき、合法的なナンバープレートを付けることができる。AMLO大統領によると、同手数料収入は国境州における道路補修のために用いられる。
業界の反対意見に耳貸さず
メキシコでは今まで、貧困層などの票を獲得するための対策として、非合法車両の合法化を認める政令を、当時の政権が何度も公布してきた。また、2005年にビセンテ・フォックス大統領(当時)が北米自由貿易協定(NAFTA)の規定を前倒し適用し、米国・カナダ製中古車の確定輸入を認める政令を出した際には、中古車の輸入が急増し、2006年に年間の新車販売台数114万台をはるかに上回る157万5,000台の中古車が輸入された(添付資料図参照)。中古車輸入の急増は、新車販売のみならず、正規ディーラーが販売する国内の正規中古車市場にも悪影響を与える。国内自動車販売市場を安定化させるために、フェリペ・カルデロン大統領(当時)が2011年7月に中古車輸入の条件を厳格化する政令を公布した後は、中古車の輸入が2017年までおおむね減少傾向にあった。
AMLO大統領が違法中古車の合法化の意向を最初に示した2021年6月末以降、メキシコ自動車ディーラー協会(AMDA)は何度も、同政策が国内の新車市場および中古車市場に深刻な影響を与え、国内の中古車販売価格を約2割低下させると警鐘を鳴らしてきた。中古車を違法輸入する業者の中には、麻薬組織などの犯罪組織も多く、高級車を関税や付加価値税(IVA)を支払わずに輸入し、闇市場で販売しているケースも少なくないとされる。違法中古車の合法化は、「貧困層支援や犯罪取り締まりにつながるどころか、逆に犯罪組織に対して賞金を与えるに等しい」とAMDA関係者は指摘する。AMDAは、近年の不況で安価な中古車の輸入が増えてきた中で、AMLO大統領の発表により、2021年7~8月の2カ月間で同政策の適用を受けることを狙った違法輸入が7~8割増えたと主張する。AMDAは10月17日、再三の警告が大統領に一切聞き入れられなかったことに強く失望し、違法車両に対する水際措置の強化とREPUVE再建による実効性のある犯罪対策を、連邦政府や国境州の政府に求める声明を出している。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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