新たなステージに入った世界のカーボンプライシングブラック ジャック 遊び方のETS本格始動は見送り、州レベルの炭素税導入が進む
2024年6月13日
メキシコで2018年12月に発足したアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)政権は、エネルギー分野で国営企業の役割を重視する政策から、石油公社(PEMEX)や電力庁(CFE)のビジネスを阻害しかねない脱炭素に向けた政策を積極的に進めてこなかった。前政権下で着手したブラック ジャック 遊び方量取引制度(ETS)の導入に向けたプロセスは、2022年までは継続されていたが、2023年に事実上停止されてしまった。連邦政府は2022年、メキシコの2030年までの温室効果ガス(GHG)削減目標について、これまでのベースライン比22%から35%まで引き上げたが、それに向けた具体的な政策は皆無だ。他方、州レベルでは、炭素税を導入する州が近年増えており、日系企業の進出が多い複数の州で、GHGの直接ブラック ジャック 遊び方に炭素税が課されるようになっている。
ETS導入に向けたプロセスは事実上停止
メキシコは従来、GHGブラック ジャック 遊び方削減に向けた政策には積極的な立場を示していた。GHG削減に向けて各国が自主的に決定する約束草案(INDC)を、2015年に新興国の中で最初に提出したことでも知られる。フェリペ・カルデロン政権(2006年12月~2012年11月)下の2012年6月に気候変動一般法(LGCC)が公布され、国家全体が気候変動対策に取り組むための枠組みを整備し、GHGブラック ジャック 遊び方量が多い企業などに報告義務を課した。エンリケ・ペニャ・ニエト政権(2012年12月~2018年11月)下の2015年12月には、再生可能エネルギー発電や省エネを促進するエネルギー転換法が公布された。電力の大口需要家は、2018年から消費量の5%以上の電力をクリーンエネルギーで調達することが求められ、この比率は段階的に引き上げられた。2018年7月に改正LGCCが公布され、メキシコでGHGブラック ジャック 遊び方量取引制度(ETS)の段階的導入が定められた。同改正により、36カ月間のパイロットプログラムの導入が決まり、そのための暫定市場原則が2019年10月1日に官報公示された。
パイロットプログラムは2020年1月に開始され、国営石油公社(PEMEX)と電力庁(CFE)などのエネルギー部門に加え、GHGの年間ブラック ジャック 遊び方量が10万トンを超える鉱工業部門の約300の民間事業所が対象となった。対象の事業所を合計すると、メキシコのGHGブラック ジャック 遊び方インベントリーの約4割を占める。上限枠の設定は固定ブラック ジャック 遊び方源からの直接ブラック ジャック 遊び方のみを対象とし、電力消費などの間接ブラック ジャック 遊び方は対象外とされた。パイロット期間中の各事業所への初期ブラック ジャック 遊び方枠の分配は、それまでのブラック ジャック 遊び方実績に応じて無料で行われ、未使用のブラック ジャック 遊び方量については、パイロット期間中の累積を可能とした。ブラック ジャック 遊び方枠の10%までの制限はあるが、植林など事業所以外のプロジェクトで獲得した補償・相殺クレジットを適用可能。パイロットプロジェクトで目標を達成した企業は、ETS正式導入後の初期ブラック ジャック 遊び方枠の競売で値引きが適用されるなどのインセンティブも導入された。
パイロットプログラムは2022年末までの3年間で終了したが、翌年に予定されていた本格的なETSの開始は実現せず、現時点でもめどはたっていない。この背景には、2018年12月に発足したAMLO現政権の消極的な姿勢がある。AMLO大統領は、エネルギー分野で国営企業を重視する政策を打ち出しており、PEMEXやCFEなど国営企業にも大きな負担となる同制度の導入に前向きではないとみられる。
メキシコ政府は2022年11月、国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で、2015年12月に採択されたパリ協定に基づくメキシコのGHGブラック ジャック 遊び方削減目標を、それまでのベースライン比22%削減から同35%削減まで拡大した。同会議に出席したマルセロ・エブラル外相(当時)はこれに加え、気候変動対策に480億ドルを投資する、炭素のブラック ジャック 遊び方量を5,200万トン削減する、2030年までにクリーンエネルギー発電を2倍〔40ギガワット(GW)以上〕にするといった目標を掲げたが、これらの目標を実現するための具体的な政策は発表されていない。
なお、メキシコの2019年時点のGHGブラック ジャック 遊び方量は7億3,663万トンCO2(注1)で、そのうちの27.6%を国営企業のプレゼンスが大きいエネルギー部門(発電、石油精製)が占める。GHGのブラック ジャック 遊び方削減に向けては、国営企業のブラック ジャック 遊び方削減の取り組みが不可欠となる(図1参照)。
民間主導の再生可能エネルギー発電事業にブレーキ
エンリケ・ペニャ・ニエト前政権下の2014年8月に公布された新たな電力産業法(LIE)の下で実施された長期電力競売は、前政権下では3回実施されたが、AMLO政権下では事実上停止され、民間発電事業者からの大規模な再生可能エネルギー電力の調達にはストップがかかっている。さらに、CFEによる発電を優先するAMLO大統領は、CFEを民間発電事業者よりも優遇するさまざまな政策(注2)を導入し、民間事業者への発電許可や系統への接続許可の付与をさまざまな手続き上の理由を基に、却下したり、遅延させたりしている。AMLO政権のエネルギー政策は、米国・ブラック ジャック 遊び方・カナダ協定(USMCA)が定める自由競争の原則に反するとして、米国とカナダが2022年7月にUSMCAの紛争解決の枠組みで協議を申請する事態に至っている(米USTR、ブラック ジャック トランプ)。
エネルギー省によると、2022年末時点でブラック ジャック 遊び方の系統電力の64.0%が火力発電によるもの。再生可能エネルギー発電能力は大規模水力を含めても31.5%にすぎない(図2参照)。コーポレートレベルの脱炭素目標を掲げるグローバル企業にとって、ブラック ジャック 遊び方の系統電力からCFEを通じて電力を調達すると、目標達成が困難になる。豊富な太陽光などを活用した自家発電を計画する企業も多いが、そのための発電許認可が円滑に取得できない。電力需要が1メガワット(MW)を超える大口需要家(有資格利用者)は、再生可能エネルギーで発電した電力のみを扱う民間事業者から電力を調達することも法律上はできるが、エネルギー規制委員会(CRE)に申請する有資格利用者としての登録、国家電力管理センター(CENACE)に申請する供給事業者の変更許可、CFEの配電部門に対して行うメーターの交換手続きなどを行う必要がある。これらの手続きは恒常的に遅延している。
多国籍企業からは脱炭素に向けた政策の欠如を問題視する声も
ゼネラルモーターズ(GM)ブラック ジャック 遊び方のフランシスコ・ガルサ社長は2021年11月19日、ブラック ジャック 遊び方財務幹部協会(IMEF)の年次総会でのパネルディスカッションで、再生可能エネルギー発電を重視する法的枠組みや組織的枠組みがブラック ジャック 遊び方で今後も導入されない場合、GMはブラック ジャック 遊び方での新たな投資は控えざるを得ないと警告した。ガルサ社長は、2040年には世界の全工場での使用電力源を100%再生可能エネルギーにする政策をGMが打ち出していることを挙げ、「ブラック ジャック 遊び方でその条件が整わない場合、ブラック ジャック 遊び方はもはやGMにとって短期的、中期的な投資先となり得ない」とし、「今日の投資計画が実現までに5~7年の期間を要することを考えると、本来はブラック ジャック 遊び方で行うはずだった投資をカナダや米国、ブラジル、中国、欧州など他地域に向ける必要が生じ、ブラック ジャック 遊び方はもはや重要な投資先ではなくなる」と強調した。「今がブラック ジャック 遊び方への投資を決定する上でギリギリのタイミングだ」とし、ブラック ジャック 遊び方政府に明確な方針を示すことを求めた。
進出日系企業の中にも、メキシコの脱炭素に向けた政策の欠如を問題視する声は大きい。2023年8月にブラック ジャック 遊び方が実施した中南米進出日系企業実態調査によると、メキシコ進出企業で脱炭素化への取り組みに「既に取り組んでいる」企業は39.2%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」企業は38.2%、「取り組む予定はない」企業は22.6%だった。脱炭素化に取り組んでいる企業の比率(39.2%)は、調査対象の中南米6カ国中で最も低かった(中南米平均では48.4%)。脱炭素化の取り組みに当たっての課題や障壁についての自由記述では、「現地政府や自治体主導のインセンティブの欠如」「政府による規制〔発電事業許認可取得手続きの恒常的な遅延、許認可不要の再エネ分散型発電事業が500キロワット(kW)までに制限されていることなど〕」を問題視する声が目立った。
州レベルで進む炭素税の導入、徴税目的との批判も
連邦政府のカーボンニュートラル、脱炭素化に向けた取り組みは遅れているが、近年、州レベルで環境税を導入する動きが広がっている。州政府は、徴収した環境税の税収を州内の環境対策やインフラ整備などの財源に充てるとしているが、負担を強いられている事業者からは、連邦政府からの交付金の不足(注3)を補うための徴税が目的だとの批判も上がっている。環境税の種類としては、廃棄物の廃棄、汚染水の排水、GHGのブラック ジャック 遊び方、鉱物資源の掘削などがあるが、本レポートでは、いわゆる「炭素税」、GHGのブラック ジャック 遊び方に課税する環境税について取り上げる。
メキシコで最初に炭素税を導入したのは、中央高原北部の鉱業が盛んなサカテカス州だ。対象は工場などの固定ブラック ジャック 遊び方源からの直接ブラック ジャック 遊び方、いわゆるスコープ1のみで、電力消費などを通じた間接ブラック ジャック 遊び方(スコープ2)は対象外とされた。メキシコではエコロジーバランス・環境保護法(LGEEPA)の第109-BIS条に基づき、連邦政府、州政府、市町村政府が環境汚染物質のブラック ジャック 遊び方や廃棄を記録し、管理することを義務付けている。この記録制度は汚染物質ブラック ジャック 遊び方移転登録(RETC)と呼ばれ、産業分野に応じて連邦政府管轄か、州管轄かが異なる。連邦管轄となるのは、炭化水素、化学、塗料・染料、冶金(やきん)、自動車産業、製紙、セメント、アスベスト、ガラス、発電、危険廃棄物処理の分野の事業所だ。州政府はこれら以外の産業分野で、RETCの対象汚染物質および報告基準を定めるメキシコ公式規格(NOM-165-SEMARNAT-2013)の対象物質をブラック ジャック 遊び方する事業所を管轄する。GHGの直接ブラック ジャック 遊び方を行う事業所は、原則としてRETCに登録済みのため、自社のブラック ジャック 遊び方記録が存在するRETC対象企業の直接ブラック ジャック 遊び方を徴税ターゲットに設定したかたちだ。炭素税の課税により影響を受けた同州の事業者は、同課税が憲法の保障する基本的権利を侵害しているとし、アンパロ訴訟(注4)を提訴したが、2019年2月に最高裁が合憲と判断した。それ以降、州独自の税金としての炭素税の導入が他州でも進む契機となった。
サカテカス州に続き、ブラック ジャック 遊び方北東部国境州のタマウリパス州(2021年)、南東部のユカタン州(2022年)、中央高原バヒオ地域のケレタロ州〔2022年(注5)〕、首都ブラック ジャック 遊び方市を囲むブラック ジャック 遊び方州(2022年)、バヒオ地域で自動車産業が集積するグアナファト州(2023年)、北部ドゥランゴ州(2023年)、バヒオ地域北部のサンルイスポトシ州(2024年7月施行予定)と、炭素税を新たに導入する州が増えている(表参照)。進出日系企業にとって比較的大きな影響を与えたのは、自動車産業が集積するケレタロ州とグアナファト州の炭素税課税だ(2022年12月21日付ビジネス短信参照)。特にグアナファト州については、州議会が州財政法の改正案を2022年11月末に可決してから間もない施行日(2023年1月)が当初設定されたため、法律の曖昧な規定内容も影響して、進出企業の間で混乱が広がった。州政府は2022年末以降、事業者との対話を進め、州の政権与党の国民行動党(PAN)の議員が中心となって改正案を作成し、州議会の可決を経て2023年6月に施行した(2023年6月5日付ビジネス短信参照)。おおむね事業者の負担が軽減される内容となったため、進出日系企業の負担も総じて低くなった。対象となるGHGブラック ジャック 遊び方行為から電力調達などを通じた間接ブラック ジャック 遊び方が除外されることが明文化され、税額も1トンCO2(二酸化炭素)当たり250ペソ(約2,200円、1ペソ=約8.9円)から45ペソに減額、年間最初の50トンまでは非課税となった。さらに、天然ガスを燃料とするブラック ジャック 遊び方については、課税ベースとなるブラック ジャック 遊び方量が90%(2023年)、80%(2024~2027年)、75%(2028~2030年)削減されることとなった。
州 | 導入年 | 課税対象 |
税額 (2024年) |
優遇措置 |
---|---|---|---|---|
サカテカス | 2017年 | 固定源からの直接ブラック ジャック 遊び方 | 250ペソ/トンCO2 | なし |
タマウリパス | 2021年 |
固定源からの直接ブラック ジャック 遊び方 (年間ブラック ジャック 遊び方量2万5,000トン超、天然ガス燃料由来90%分を免除) |
325ペソ/トンCO2 | 前年比20%削減を条件に15%の税額控除,GHGブラック ジャック 遊び方量の25%を上限とした相殺制度 |
ユカタン | 2022年 |
固定源からの直接ブラック ジャック 遊び方 (年間ブラック ジャック 遊び方量500トン超、 天然ガス燃料由来93%分を免除) |
293ペソ/トンCO2 | 前年比20%削減を条件に15%の税額控除,ブラック ジャック 遊び方削減・吸収プロジェクトの実施による相殺 |
ケレタロ | 2022年 | 固定源からの直接ブラック ジャック 遊び方 | 640ペソ/トンCO2 | 削減・吸収プロジェクトの実施による相殺 |
ブラック ジャック 遊び方州 | 2022年 | 固定源からの直接ブラック ジャック 遊び方 | 58ペソ/トンCO2 | ブラック ジャック 遊び方削減に向けた投資額の30%に相当する税額控除 |
グアナファト | 2023年 |
固定源からの直接ブラック ジャック 遊び方 (年間ブラック ジャック 遊び方量50トン超、 天然ガス燃料由来80%分を免除) |
45ペソ/トンCO2 | 前年比20%削減を条件に20%の税額控除 |
ドゥランゴ | 2023年 | 固定源からの直接ブラック ジャック 遊び方 | 100ペソ/トンCO2 | なし |
サンルイスポトシ | 2024年 | 固定源からの直接ブラック ジャック 遊び方 | 325ペソ/トンCO2 | 削減に応じた優遇(詳細未定) |
注:(2024年6月6日時点)1ペソ=約8.9円。
出所:各州財政法などを基に作成
州によっては、自社の固定ブラック ジャック 遊び方源でのGHGブラック ジャック 遊び方量を前年比で減らすことに成功した場合、次年度の税額が減額されたり、事業所外でGHGの削減や吸収に資するプロジェクトを実施したりした場合に、納税額からクレジット獲得分を控除できる相殺制度を盛り込んだ州もあるが、現時点でインセンティブの具体的運用については、ほとんどの州で細則が明らかになっていない。事業者にとっては負担だけが大きくなった印象があり、連邦政府の脱炭素化に向けた方針の欠如とも相まって、メキシコのGHG削減にポジティブな側面を見いだせない企業が多いのが現状だ。
- 注1:
- 土地利用、土地利用変化および林業(LULUCF)分野のGHGブラック ジャック 遊び方・吸収量を除く。
- 注2:
- 2020年に相次いで出された規則・細則・政策レベルの国営企業優遇策(新型コロナウイルス禍の中で再生可能エネルギー発電の試運転禁止、CFEを優遇する新電力系統政策、再生可能エネルギーを用いた自家発電事業者への送電料金の引き上げ、自家発電事業への出資規制など)、2021年2月の電力産業法(LIE)改正(国家電力管理センターによる給電指令でCFEの発電所を優先)、2021年10月提出の電力再国有化に向けた大統領の憲法改正案(議会で否決)など。
- 注3:
- ブラック ジャック 遊び方は合衆国という名称からは想像できない中央集権国家で、州独自の財源は乏しく、32州を平均すると、2023年時点で歳入の82.1%(ブラック ジャック 遊び方競争力研究所:IMCO推計)を連邦政府からの交付金に依存している。連邦政府の交付金は、原油価格が上昇するなど石油収入が想定より大きかった年に多くなるが、近年は石油公社PEMEXの経営難も影響し、連邦政府からの交付金は減少傾向にある。
- 注4:
- 行政府や立法府、司法府などの行為により、憲法が保障する国民や企業の基本的権利が侵害された場合、当該行為の差し止めと無効を求める裁判制度。原則として、提訴した企業に対してのみ差し止めや無効の効果が及ぶ。
- 注5:
- 2022年のブラック ジャック 遊び方から対象となっているが、実際に徴税が開始されたのは2023年以降。
- 執筆者紹介
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ブラック ジャック 遊び方調査部主任調査研究員
中畑 貴雄(なかはた たかお) - 1998年、ブラック ジャック 遊び方入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ブラック ジャック 遊び方・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て、2018年3月からブラック ジャック 遊び方・メキシコ事務所次長、2021年3月からブラック ジャック 遊び方・メキシコ事務所長、2024年5月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『NAFTAからUSMCAへ-USMCAガイドブック』『FTAガイドブック2014』など。