等身大の中国市場を理解する急速に変化する人口構造と多様化する価値観
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2024年11月27日
中国進出日系企業のビジネス拡大意欲の低下が鮮明になっている。ギャンブル ゲーム 無料が進出日系企業を対象に実施したアンケート調査の2024年版の結果によると、中国で今後1~2年間の事業展開の方向性について「拡大する」と回答した企業は21.7%と、非製造業を含めて実施した2007年度調査以降で過去最低水準となった。同結果からは、景気低迷、中国企業との競争激化、人口動態の変化などから、依然として中国が巨大市場であるにもかかわらず、日系企業の中国ビジネスに対するセンチメントが弱っている姿がうかがえる。 本稿においては、中国市場で生じている変化について、前編では消費市場における「人」と「お金」に、後編では産業動向にそれぞれ焦点を当てながら、日本企業が今後の中国ビジネスを検討するうえで注目すべきポイントを探る。
中国の人口は減少局面に入った。足元では不動産市場の低迷などから需要不足が続いており、市場にはデフレ圧力が高まっている。中国企業の台頭も著しく、競争はさらに激化している。他方で、市場全体が大きく沈んでいる状況でもない。多様化する価値観をうまく捉えてターゲット層を絞り込み、彼らに響く情緒的価値を提供できたビジネスでは、消費者の支持を得て活況を呈するケースも多くみられる。人口が減少し始めたとはいえ、中国は依然として巨大市場であることに変わりはなく、ニッチな分野でも相当の市場規模を持っている。所得水準が向上し、大量の情報があふれるデジタル社会の中で、消費者の好みも多様化する今だからこそ、むしろ付加価値のある商品・サービスへのニーズは高まっている。そうした今の中国で、日本企業はどのようなビジネスを行うと商機が得られるのか。どのようなアプローチが有効なのだろうか。
中国の人口規模は21世紀末までに半減、年齢階層別の人口構成も大きく変化
はじめに、中国が直面する最大の変化ともいえる人口構造の変化について見ておきたい。中国国家統計局のデータによると、中国の生産年齢人口(15~64歳)は2014年から減少(前年比)し、2022年には総人口も減少局面に入った。また、2022年および2023年の出生数は2年連続で1,000万人を下回り、建国以来の過去最低を更新した。高齢化も刻一刻と進行している。2023年末時点の65歳以上の人口は2億1,676万人で、高齢化率(注1)は15.4%となり、前年から0.5ポイント増加した。政府は2035年前後に60歳以上人口が30%を超えると予測している(2024年1月29日付ビジネス短信参照)。
中長期的な人口動態の予測について、2024年7月11日に発表された国連による「世界人口推計」の最新版(以下、「2024年推計」)をみると、中国の人口は、2024年から2054年にかけて世界で最大の落ち込みが見込まれ(2億447万人減)、21世紀末(2100年)までには2024年比で55.4%減少すると予測している(2024年7月19日付ビジネス短信参照)。うち、生産年齢人口は2024年比で7割減と予測される一方、65歳以上の高齢者人口は2050年代後半にかけて増加を続け、現在の規模からおよそ倍増するなど、年齢層の構成変化も大きい。高齢化の進行も、日本を上回るスピードで加速し、高齢化率は2060年代に日本を上回ると予測される(図1、2参照)。
他方で、「2024年推計」によれば、中国の人口はインドに次ぐ世界2位の地位を、21世紀末の2100年にかけて維持するとみられている。
多様化する価値観、Z世代は自身の満足を得るための消費を重視
中国市場をみる際、消費者の価値観、嗜好(しこう)が多様化している点にも目を向ける必要がある。例えば、急速な経済発展もあってか、世代による考え方や価値観の違いも大きいとされる。今後の市場の牽引役として注目される「Z世代(1995~2009年生まれ)」は、前の世代とは大きく異なる価値観や消費観を持つといわれる。一人っ子政策下で大切に育てられ、教育水準も高いといった背景から、個性や趣味を大切にし、自身の満足を得るための消費を惜しまない傾向が見られる。また、国産ブランドの実力が向上したこともあり、「国潮」と呼ばれる中国製品や中国伝統文化の要素を取り入れる消費嗜好もみられている。さらに、インターネットやSNSなどのデジタル社会に囲まれ、大量の情報があふれる中で育ってきたことから、複数の情報ソースで精査する「理性消費」と呼ばれる傾向も強いとされる(2024年3月14日付地域・分析レポート参照)。
中国市場は、人口規模の面では既に減少局面に突入しており、年齢階層別の人口構成も急速に変化していく。同時に、各年齢層や属性によって価値観の差が大きく異なる中で、後述のとおり消費性向が複雑化しており、景気低迷を受けて節約志向が高まっている面もみられる。中国市場は、これまで以上にターゲット層の選定や、各ターゲット層に向けたきめ細かな販売・広告戦略が必要な市場へと変容している。
節約志向が定着、趣味・嗜好には旺盛な消費意欲
所得の状況についてみると、2023年の都市住民1人当たり可処分所得は5万1,821元(約108万8,241円、1元=約21円)で、10年前の2013年比で95.8%増(名目)とおおむね倍増した。他方、各年の伸び率(実質)の推移をみると、経済成長率の鈍化に伴い、所得の伸び率も2010年代半ばから低下傾向が続く。足元では不動産市場の低迷など、景気回復が遅れる中で、2023年の伸び率は前年比4.8%と、新型コロナ禍前の2019年の伸び率(5.0%)を下回った(図3参照)。
中国人民銀行(中央銀行)が2024年8月9日に発表した、2024年第2四半期(4~6月)の都市部預金者アンケート調査によれば、消費、貯蓄、投資に関する意向について、「より消費する」との回答は25.1%、「より貯蓄する」は61.5%、「より投資する」は13.3%だった。2020年第1四半期以降の動きをみると、「より消費する」の割合は22~25%台で推移している。他方、「より投資する」の割合は2022年第2四半期以降、20%を下回り、前期比で低下しており、「より貯蓄する」の割合は2022年第2四半期以降、50%台後半から60%台前半で推移し高止まりが続いている。不動産市場の低迷が続く中、住宅価格の上昇も見込めない状況下で、収入を貯蓄に回す傾向が顕著になっている。
他方、中国国家統計局が公表した2023年の都市部住民1人当たり消費支出をみると、食品・たばこ(前年比6.0%増)、衣類(8.4%増)、生活用品・サービス(6.1%増)などは1桁台の伸び率にとどまったのに対して、交通・通信(15.0%増)、教育・文化・娯楽(17.7%増)などでは2桁増となった(表参照)。食品や生活用品など生活必需品への支出は抑える一方で、教育、娯楽、旅行などには支出を惜しまない傾向がみられる。
項目 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
---|---|---|---|---|---|
都市住民一人当たり平均消費支出(元) | 28,063 | 27,007 | 30,307 | 30,391 | 32,994 |
(実質伸び率、%) | 4.6 | △ 6.0 | 11.1 | △ 1.7 | 8.3 |
食品・たばこ(元) | 7,733 | 7,881 | 8,678 | 8,958 | 9,495 |
(名目伸び率、%) | 6.8 | 1.9 | 10.1 | 3.2 | 6.0 |
衣類(元) | 1,832 | 1,645 | 1,843 | 1,735 | 1,880 |
(名目伸び率、%) | 1.3 | △ 10.2 | 12.0 | △ 5.8 | 8.4 |
住居(元) | 6,780 | 6,958 | 7,405 | 7,644 | 7,822 |
(名目伸び率、%) | 8.4 | 2.6 | 6.4 | 3.2 | 2.3 |
生活用品・サービス(元) | 1,689 | 1,640 | 1,820 | 1,800 | 1,910 |
(名目伸び率、%) | 3.7 | △ 2.9 | 11.0 | △ 1.1 | 6.1 |
交通・通信(元) | 3,671 | 3,474 | 3,932 | 3,909 | 4,495 |
(名目伸び率、%) | 5.7 | △ 5.4 | 13.2 | △ 0.6 | 15.0 |
教育・文化・娯楽(元) | 3,328 | 2,592 | 3,322 | 3,050 | 3,589 |
(名目伸び率、%) | 11.9 | △ 22.1 | 28.2 | △ 8.2 | 17.7 |
医療・保健(元) | 2,283 | 2,172 | 2,521 | 2,481 | 2,850 |
(名目伸び率、%) | 11.6 | △ 4.8 | 16.1 | △ 1.6 | 14.9 |
その他用品・サービス(元) | 747 | 646 | 786 | 814 | 953 |
(名目伸び率、%) | 8.7 | △ 13.5 | 21.7 | 3.5 | 17.1 |
出所:中国国家統計局からギャンブル ゲーム 無料作成
食品や日用品などの分野で小売業を営む日系企業からは、店頭への来場者は多いものの、客単価は低下しており、節約志向が定着しているといった声が聞かれている。競争も激化する中で、以前からのビジネスモデルを継続してきた一部の日系小売企業では店舗閉鎖なども伝えられている。他方で、アウトドア・キャンプ、スポーツ、アニメ・ゲームのコンテンツと連携した商品の販売など、趣味や嗜好に関するビジネス分野では、貿易会社、販売会社の新規設立などの現地市場の取り込みに向けた活発な動きもみられている。ターゲット層の消費嗜好を捉えたコンセプトを打ち出せるか否かで、明暗が分かれている。
「情緒的価値」に響く販売戦略がカギ
世界一のEC(電子商取引)大国となった中国市場(注2)において、SNSを活用した販売・広告戦略の重要性は言うまでもない。特にZ世代へのアプローチには欠かせないツールとなっている。
Z世代の消費嗜好や、SNSの活用に明るいギャンブル ゲーム 無料の王艶・経済連携促進アドバイザーは、「Z世代の嗜好を熟知したうえで、彼らに響く『情緒的価値(趣味、遊び心など)』を捉え、適切なSNS・EC媒体を通して効果的に宣伝を打つことが重要だ」と語る。最も重要なのは、企業自身が製品の「情緒的価値」をどう捉えているのかであり、そのうえで、製品の「情緒的価値」にあった、中国独自に発展するSNS・EC媒体の特徴を理解し、どのように消費者に伝えるのかを検討することが第一歩だ。Z世代のネット上の情報収集手段は、bilibili(ビリビリ)、抖音(Douyin)、快手(Kuaishou)といった動画中心に移行していると言われるが、得意とするコンテンツやコンセプトの違いから、それぞれの媒体でユーザー層が異なる。例えば、ショート動画を主なコンテンツとする点で共通する抖音と快手でも、抖音はトレンドをリードし「美しい生活」の発信に注力しているのに対し、快手は「実際の生活」に焦点を当てることに重きを置いている点で違っている。従って、快手のユーザーの所属都市分布では、3級都市以下が占める割合が62.1%と相対的に高い傾向がある(抖音の同割合は48.5%)(注3)。
また、画像やショート動画、つぶやき(テキスト)などを共有でき、EC機能を持ち合わせた「小紅書(RED)」もZ世代の支持を集めている。王アドバイザーによれば、REDでは、抖音や快手などの動画アプリと比べ、画像の内容について説明するテキストが多いことから、学歴・経済力が相対的に高い若者に支持されていることが特徴の1つだという。
適切な媒体を選択したうえで、効果的な発信を継続的に行えるかが重要だ。アカウントを作って、単発の発信で終わってしまってはほとんど意味がない。王アドバイザーは、「KOL(キー・オピニオンリーダー)も活用しながら、各SNS上で形成される『圏層(共通の趣味、嗜好のグループ)』に対し、効果的に『種草(種まき、注4)』を行うことで、口コミ拡散、知名度向上へとつなげられるかがカギだ」と指摘する。トップクラスのKOLの販促費は高額化する中で、数万~数十万のフォロワーを持つKOLによる発信と消費者の口コミ拡散をうまく連動させ、認知度を上げていく手法も取られているという。継続的な取り組みが必要になることから、中国で一からブランドを育てていく長期的な戦略が求められる。
中国市場は人口減少局面に入り、かつ消費者の価値観・嗜好も多様化している。景気低迷下で節約志向が定着する中でも、消費者は自身が重視する「情緒的価値」への投資や消費には積極的な傾向がみられている。今の中国市場から見えてくる攻略のカギは、自社製品の「情緒的価値」をしっかりと位置づけたうえで、ターゲット層の選択と集中を行うことだ。絞り込んだターゲット層に対し、「情緒的価値」を届けるうえで、そこに響く適切な媒体を通し、効果的かつ継続的に発信していくことか重要だ。
後編では、中国における産業政策の行方に触れながら、産業構造の変化と日本企業のビジネスへの影響に焦点を当てていく。
- 注1:
- 総人口に占める65歳以上の人口の割合。
- 注2:
- eMarketerの推計に基づき、主要国の小売売上高全体に占めるEC小売売上高からEC比率を算出したもの。2023年の中国の同比率は48.0%と世界首位に位置する(分断と協調-岐路に立つ国際ビジネス拡大するEC市場(ギャンブル)。
- 注3:
- ギャンブル ゲーム 無料調査レポート「中国ウェブプロモーションにおけるリスクマネージメント(4.4MB)」(2024年1月)に基づく。快手、抖音とも2022年時点データ。
- 注4:
- 「種草」とは、もともと草の栽培を意味する中国語であるが、「草」は強い生命力があることから、「どんどん高まる購買意欲」を形容するものとして、商品の長所を宣伝し、他人の購買意欲をかき立てる行為を意味するマーケティング・ネット用語になっている。
- 変更履歴
- 文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2024年12月4日)
- 第14段落
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(誤)「小紅本(RED)」
(正)「小紅書(RED)」
- 執筆者紹介
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ギャンブル ゲーム 無料調査部中国北アジア課 課長代理
小林 伶(こばやし れい) - 2010年、ギャンブル ゲーム 無料入構。海外調査部中国北アジア課、企画部企画課事業推進班(北東アジア)、ギャンブル ゲーム 無料名古屋などを経て2019年6月から現職。