欧州最新政治情勢:欧州の行方を見定める注目論点英国新政権、スターマー首相の3カ月を振り返る

ギャンブル ゲーム 無料10月23日

英国で7月4日、下院議会の総選挙が行われた。事前の予想通り、労働党が勝利し14年ぶりに政権を獲得。獲得議席は議席数650のうち半数を大きく上回る411議席となったため、議会運営は盤石とみられる。本稿では労働党政権発足後の約3カ月間の動向を、英国国内の政策に着目し、整理する。

政権発足後、目玉政策に関する概要を相次ぎ発表

最終的な選挙結果は表1の通りで、労働党が400を超える議席を獲得し、14年ぶりの政権交代を実現した。

表1:ギャンブル ゲーム 無料英国総選挙の政党別獲得議席数
政党 獲得議席数 前回選挙での
獲得議席数
労働党 411 203
保守党 121 365
自由民主党 72 11
リフォームUK(注1) 5 0
緑の党 4 1
スコットランド国民党(SNP) 9 47
プライド・カムリ(ウェールズ党) 4 4
民主統一党(DUP) 5 8
シン・フェイン 7 7
社会民主労働党(SDLP) 2 2
北アイルランド同盟党 1 1
その他(注2) 9 1

注1:前回議席数は前身となるブレグジット党の議席数。
注2:議長も含む。現議会議長は労働党から選出。
出所:英国議会

首相に就任したキア・スターマー党首は翌5日に組閣を実施()。副首相兼レベリングアップ・住宅・コミュニティー相にアンジェラ・レイナー氏、財務相にレイチェル・リーブス氏を任命した。

労働党は政権発足直後から、目玉政策に関する方針を矢継ぎ早に発表した。リーブス財務相は7月8日、就任後初の演説で経済成長に向けた計画を発表。保守党政権の「負の遺産」に対応するとして、前政権から継承した歳出に関し状況の評価を行い、7月末に議会に提出するとした。成長の実現に向け、安定性、投資、改革の3つに基づく新たなアプローチをとると表明。厳格な財政規律の順守、国民保険料や所得税、VAT(付加価値税)の税率維持などを通じた安定性の実現、ナショナル・ウエルス・ファンド(NWF)の新設による民間投資の動員などを挙げた。改革については、特にインフラ計画の承認に焦点を当て、住宅の建設目標の再導入やイングランドにおける陸上風力発電所の新設の実質禁止を撤廃するほか、重要なインフラ建設に対する決定の優先などを表明した。
NWFについては、翌9日に設置に関する方針を発表した。英国インフラ投資銀行(UKIB)と英国ギャンブル ゲーム 無料銀行をNWFの傘下に置き、連携させるとしている。同ファンドでは5年間で73億ポンド(1兆4,162億円、1ポンド=約194円)を投じ、グリーン産業分野を支援、民間投資の動員を目指す。73億ポンドをUKIBの既存資金に追加、UKIBを通じて資金供給を行うとした。グリーン関連では、同日に、「ミッションコントロール」の設置を発表。この責任者として、政府諮問機関の気候変動委員会の元最高責任者を任命した。業界の専門家や政府関係者で構成され、エネルギープロジェクトの問題解決、交渉、円滑化などを担う。

7月17日には、新会期に入る英国議会の開会式で国王チャールズ3世が政府施政方針について演説した。演説では計29の法案について、計画・インフラ、旅客鉄道サービスの国有化、雇用、公営エネルギー会社グレート・ブリティッシュ・エナジー(GBE)に関する法案などを中心に言及している。

労働党が掲げる、2030年までの電力部門の脱炭素化にとって重要な役割を果たすとされるGBEに関しては、7月25日に設立に関する政策文書を公表した(ギャンブル ゲーム 無料8月7日付ビジネス短信参照)。9月にはスコットランド・アバディーンを本部とし、エディンバラとグラスゴーにもそれぞれ拠点を設置することが発表されている。

政策文書では、GBEの主要な役割として以下などが挙げられている。

  • 洋上風力や炭素回収など未成熟技術への投資および所有。
  • 英国周辺の海底を管理するクラウンエステート(国王資産の管理機関)と連携し、2030年までに最大30ギガワット(GW)の洋上風力向けの海域リース権益を提供。港湾やサプライチェーンへの投資を通じた既存事業の迅速化、開発事業者のリスク低減やリース契約から建設までのプロセスの迅速化。
  • 原子力産業を支援する政府機関グレート・ブリティッシュ・ニュークリア(GBN)との連携。

7月31日には、再エネ支援スキームの差額決済契約(Contracts for Difference: CfD)の第6回オークションの予算枠拡大も発表するなど、再エネの導入に向けた施策も発表、9月に結果が発表され、9.6GWが約定。前回(第5ラウンド)から容量では約6GW増、件数では36件増となった(再エネ支援スキームCfD第6回オークションの結果公表、カジノ)。

財政確保が目下の課題

一方で、財政面の不安も残る。リーブス財務相は、前政権下における歳出状況において、約220億ポンド規模の歳出が財政的な裏付けなしに公約されていることが明らかになったとして、複数の政策について撤回や見直しを発表した。

スターマー首相も8月末、議会再開を控えた演説で、10月30日に発表する予定の新政権の財政計画について「痛みを伴うものとなる」と述べ、増税を示唆。「最も余裕のある層が大きな負担を負うべき」と続け、富裕層の負担増をほのめかした。

この状況下で、増税の対象となるものに焦点が集まっている。すでに私立校に対するVAT免除措置やギャンブル ゲーム 無料レート(非居住用資産に対する固定資産税)の優遇措置の撤廃(イングランドのみ)、石油・ガス企業への超過利潤税の増税および延長などが発表されている一方、主要な税収源となっている所得税、VAT、国民保険料の従業員負担分、法人税については増税が否定されており、財政への影響の大きさは不透明だ。現在予想されている増税の対象としてはキャピタルゲイン税、相続税、燃料税などが挙げられる(「BBCニュース」9月18日)。このほか、単身者向けのカウンシルタックス(事実上の地方個人所得税。住居の資産価値で決まる)の割引措置の廃止、高所得者向けの年金拠出額に対する優遇税率の変更も候補として取りざたされている(「BBCニュース」9月18日)。

歳出削減策としては、国家年金受給者向けの冬季の燃料費補助(Winter Fuel Payment)の対象削減が発表されたほか、保守党政権下で発表された13億ポンド規模のAI(人工知能)関連投資の撤回などが報じられている。

党大会では移民政策や産業戦略の策定などに言及

9月22日から25日にかけては、労働党の党大会が開催された。スターマー首相は24日の党大会での演説で、実行しなければならない施策の多くが「不人気」かもしれないと述べた。一方で、保守党の緊縮財政政策への回帰は行わないとして、労働党としてのアプローチで公共サービスを回復し、労働者を保護するとした。演説では様々な施策への言及があり、国内の人材活用に向けた純移民の削減に向けた方針や、職業訓練制度の刷新も打ち出された。同日に政府から、移民助言委員会の役割の拡大や、職業訓練制度の対象拡大などの方針が発表された(ギャンブル ゲーム 無料10月1日付ビジネス短信参照)。

リーブス財務相も、党大会に合わせて、税収および納税者の負担削減に向けた歳入関税庁(HMRC)による改革や産業戦略の策定に向けた措置を発表した(ギャンブル ゲーム 無料10月2日付ビジネス短信参照)。うち、産業戦略については10月14日の国際投資サミットに合わせて政策文書を発表し、意見公募を開始した(無料 カジノ ゲーム、産業戦略策定に向けた政策文書も公表)。戦略および分野ごとのセクタープランを2025年の春に発表するとしている。

国民からの支持獲得には苦戦か

スターマー首相への支持は盤石ではない。選挙以前から、労働党の支持基盤については1997年の政権獲得時に比べると熱狂的なものではないとの見方があったが、それは7月の総選挙での得票率にも表れている(欧州最新政治情勢:欧州の行方を見定める注目論点英国総選挙を見通す)。議席数では前回から200議席以上伸ばしているが、得票率をみるとわずか1.62ポイントの増加にとどまっている。小選挙区制を敷く英国では得票率は議席数に直結しないとはいえ、大きな差がみられる。

表2:主要政党別獲得議席数および得票率(△はマイナス値)
政党 議席数(注1) 得票率(%)
前回 今回 増減 前回 今回 増減
労働党 202 411 209 32.08 33.70 1.62
保守党 365 121 △244 43.63 23.70 △19.93
リフォームUK(注2) 0 5 5 2.01 14.29 12.28
自由民主党 11 72 61 11.55 12.22 0.67
緑の党 1 4 3 2.70 6.40 3.70

注1:議長(1議席)を除く。
注2:前回議席数、得票率は前身となるブレグジット党の議席数。
出所:英国議会

直近の意識調査でも、その兆候は見られる。調査会社イプソスが9月13~16日に実施した調査では、労働党政権のこれまでの取り組みについて「落胆している(disappointed)」と回答した割合が50%となった。調査会社ユーガブの調査(9月30日付)でも、労働党政権について「支持しない(disapprove)」と回答した割合が57%となるなど、選挙後に実施された7月22日付の調査から25ポイント増加した。労働党の支持者層でもその割合は増加しており、9月30日付の調査では32%が「支持しない」と回答しており、15ポイント増加している。先のイプソスの調査では、労働党の5つのミッションのうち、「治安の回復」について、「働きが悪い(A bad job)」と回答する割合が相対的に高かった。7月末に発生した子供3人を含む死傷事件をきっかけに生じた、極右団体の暴徒化への対応に対する不満が背景の1つと考えられる。また、ユーガブの別の調査(8月27~28日実施)では、リーブス財務相を「好ましくない(Unfavourable)」と回答した割合が4割に達したが、増税や歳出削減などの施策が背景の1つと考えられる。直近では、スターマー首相や閣僚に対する裕福な支援者からの高額な贈答品や寄付を巡る論争も生じている。また、冬季の燃料費補助の削減に対しては、大手労組のユナイトが、撤回を求める動議を党大会で可決した。この決議に拘束力はないものの、労働党の支持基盤である労働組合からも反対の声が上がったかたちだ。

新政権の船出は必ずしも順調とはいえないかもしれないが、他の欧州主要国と比べると、英国は政治的に安定していると考えられる。

下院において少数派の政党が左派、中道・右派、極右の3つのブロックに分かれて併存するフランス()、州議会選挙で国政与党が苦戦するドイツ(関連ブラック ジャック トランプ やり方ギャンブル ゲーム 無料10月2日付ビジネス短信参照)と比較すると、英国では労働党が議会で圧倒的な過半数を占め、右派の台頭も限定的であった。これらを踏まえると、政権運営や政策決定は比較的スムーズに進められるだろう。

10月30日の財政計画発表を前に、財政拡大につながるような施策を打ち出しにくいタイミングであることを踏まえると、財政計画の発表以降、政治的安定性を生かし、公約で掲げた施策を国民の支持を得た形で実現に移せるかが、今後の注目点となる。

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執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
山田 恭之(やまだ よしゆき)
2018年、ジェトロ入構。ギャンブル ゲーム 無料調査部ギャンブル ゲーム 無料調査企画課、欧州ロシアCIS課を経て2021年9月から現職。