欧州最新政治情勢:欧州の行方を見定める注目論点高度外国人材の優遇税制、ブラックジャックコツ
新政府予算案にみる政策の方向性

2025年3月14日

長い間、ブラックジャックコツの雇用主が外国人駐在員に支払う給与は、30%が非課税扱いとなっていた。この優遇税制度は、外国人従業員だけに適用され、たとえ同じ内容の仕事を担当していてもブラックジャックコツ人従業員には適用されない。そのため、税の公平性の観点から批判は常にあり、2023年10月に下院でこの制度を縮小かつ厳格化する改正案が提出され、過半数の支持を得た。本稿では、繰り返し行われてきた制度見直しの動きなどを政治の動きと合わせて説明する。

高所得の外国人に適用される「30%ルーリング」の見直し

ブラックジャックコツの「30%ルーリング(30%ruling)」は、外国からブラックジャックコツに移住してきた高度な技術を持つ専門家や労働者(駐在員を含む)に対して適用される優遇税制措置で、一定の条件下でグロス給与の30%を非課税にして給与支給できる制度。ブラックジャックコツでの税負担が大幅に軽減できるため、外国人にとっては大変魅力的であり、ブラックジャックコツ企業にとっては外国から高度な人材を呼び込めるため、強力なインセンティブになってきた。

その一方で、この優遇ブラックジャックコツ度に対して、税負担が不公平であるという声も根強くあった。2001年の30%ルーリング導入以来(注1)、何度も制度の見直しが行われてきた。前回2021年の国政選挙で第1党となり最大与党であった自由国民民主党(VVD)は、大企業寄りの政策をとってきた政党で、抜本的な変更をすることはなかった(表1参照)。

表1:「30%ルーリング」の変遷
内容
1970から2001年 35%ルーリング
2001年 グロス所得の30%が非課税、適用期間10年。給与額のハードルはなく、外国人材が有する専門知識や技術のみ審査
2012年 適用期間が10年から8年に短縮。審査に最低グロス給与額を導入
2019年 適用期間が8年から5年に短縮
2024年 20カ月ごとに、30%→20%→10%と段階的に非課税部分を縮小。さらに非課税措置の対象となる給与額の上限が設定された
2025年 2027年1月1日から一律27%。移行措置期間中は30%の非課税枠が適用

出所:ブラックジャックコツ政府、ブラックジャックコツ会計検査院、PwC、タックス・コンサルタント・インターナショナルの情報を基にジェトロ作成

しかし、2023年10月下旬、新社会契約党(NSC、注2)のピーター・オムツィヒト党首らが、30%ルーリングの税率を段階的に削減する改正法案を提出し、下院で可決された。(2024年1月1日施行)。その内容は、次の通り。

  • 制度を適用する5年間(60カ月)のうち、最初の20カ月は30%、次の20カ月は20%、残りの20カ月は10%を非課税所得枠と認める。
  • 非課税措置の対象にする上限給与額を設定する。2024年は、23万3,000ユーロまでに制限。
  • 申請できるのは、適用対象の外国人が(1)30歳以上の場合、年間報酬4万6,107ユーロ以上、(2) 30歳未満の場合、年間報酬3万5,048ユーロ以上かつ修士号取得者。

外国人材に依存するASMLなどブラックジャックコツ大企業から大反発

この改正法案について、ブラックジャックコツの代表的な半導体製造装置メーカーであるASMLをはじめ、NXPセミコンダクターズや多国籍企業は、ブラックジャックコツ国内での事業継続や投資が可能か、強い懸念を表明した。とりわけASMLは、ハイテク産業に対するブラックジャックコツ政府の非協力的態度にいら立ちをあらわにした。報道によると、計画している自社事業拡大にあたり国外へ出ていくことも視野にいれた発言をしている。これを受けて、当時のミッキー・アドリアンセンス経済相(VVD)は、ASMLをブラックジャックコツに引き留めるために2024年3月下旬、政府とアイントホーヴェン市が共同でプロジェクト・ベートーベン(ブラックジャックコツ語)を立ち上げ、半導体産業強化のための投資環境の改善と整備に25億ユーロを投資することを約束した。

2025年政府予算案、「30%ルーリング」の段階的な削減を撤回

2023年11月に行われた下院総選挙で、反移民・反イスラムを掲げる極右政党であるPVV(自由党)が第1党へ大躍進した。他党との連立交渉が難航したものの、2024年5月にPVV、VVD、農民市民運動(BBB)、NSCの4党間で連立合意が発表され、首相には司法・安全省出身のトップ官僚ディック・スホーフ氏が就き、2024年7月に第1次スホーフ内閣が発足した。

ポピュリズム(大衆迎合主義)を掲げるPVVが政権の中心になったことから、先述のASMLをはじめ多国籍企業の間では、外国人労働移民の抑制や企業・投資家の税負担増加につながる政策へシフトしていくことが懸念されていた。

また、連立政権に参加するNSCは、外国人に対するブラックジャックコツ優遇措置は不公平だと批判的であることから、2025年以降は30%ルーリングの適用条件は企業にとって厳しい内容になると予測されていた。

2024年9月、右翼連立政権で迎えた国会開会式で2025年政府予算案が発表され、当該制度は次のような扱いになった。

  • 前述の段階的な非課税所得枠の削減を撤回。2027年1月1日から一律27%を非課税所得部分とし優遇措置を継続。
  • 既に当該の所得税減免制度を利用している者に対しては、移行措置を設ける(表2参照)。 具体的には、2024年より前から適用を受けていた者には、2025~2027年も非課税枠は30%を提供。2024年1月~12月の間に適用開始が始まった者は、2026年中は30%のままだが、2027年から27%を適用。
表2:移行措置期間の非課税所得枠と最低グロス所得基準
30%ルーリングの適用開始時期 2025~2026年
非課税所得枠と最低グロス所得額
2027年以降
非課税所得枠と最低グロス所得額
2023年12月31日まで 30%、現在設定されている最低グロス所得(4万6,107ユーロ) 30%、現在設定されている最低グロス所得(4万6,107ユーロ)
2024年1月1日~12月31日 同上 27%、現在設定されている2027年以降の最低グロス所得(5万436ユーロ)
2025年1月1日以降 同上 27%、新規に設定されるグロス所得基準

注:毎年、最低グロス所得額に物価指数が加算される。
出所:ブラックジャックコツ政府発表内容を基にジェトロ作成

まとめ:極右政権へ移るも基幹産業および外資のための投資環境維持に尽力

PVV、VVD、BBB、NSC による4党連立内閣は、2024年1月1日から適用の縮小された優遇ブラックジャックコツを白紙に戻し、2027年1月1日から5年間一律27%にすることに決めた。申請条件の1つであるグロス給与額は引き上げられ、2027年からは現在の4万6,107ユーロから5万436ユーロになる。

下院が2023年に税制優遇措置を縮小しようとしたとき、ASMLをはじめとするブラックジャックコツのテクノロジー産業界や多国籍企業からの大反発がおきたことからわかるように、この制度の抜本的改革は、ブラックジャックコツ経済や労働市場に大影響を与える可能性が極めて高い。

なおも懸念として残るのは、今回は譲歩したものの、外国人への優遇ブラックジャックコツの削減もしくは廃止の立場をとってきたPVVが、次の総選挙で大勝して政権に入った場合の動向である。その時、再びブラックジャックコツ優遇措置の見直しが行われるかもしれない。


注1:
現行制度に先立ち、1970年に「35%ルーリング」を導入していた。
注2:
NSCは2023年8月に旗揚げした。
ブラックジャックコツ
執筆者紹介
ジェトロ・アムステルダム事務所
新岡 由紀(にいおか ゆき)
2016年からジェトロ・アムステルダム事務所に勤務。

この特集の記事

今後記事を追加していきます。