中道左派のサンチェス首相が続投
(スペイン)
マドリード発
2023年11月17日
スペイン下院(定数350)は11月16日、7月の総選挙を受けた首相信任投票を実施し、中道左派・社会労働党(PSOE)のペドロ・サンチェス現首相の再任について、賛成179票、反対171票で可決した。
7月23日の総選挙では右左ブロックとも過半数に届かず(総選挙、右左ブロックとも過半数に届かず、無料)、9月末に第1党の中道右派・民衆党(PP)のアルベルト・ヌニェス・フェイホー党首の首相信任投票が実施されたが、極右政党ボクス(VOX)以外にほとんど支持が得られず、否決された。今回の信任投票はそれに続くもので、総選挙では第2党だったPSOEが引き続き急進左派スマール(SUMAR)との連立に合意し、カタルーニャ州やバスク州などの地域政党の支持を取り付けたことで、下野の危機から一転、続投を果たした。
独立派への恩赦法などの譲歩に大きな批判
続投のカギとなったのは、下院で7議席を有する独立主義政党カタルーニャ連合(Junts)だ。イデオロギー的には中道右派で中道左派政権とは相いれず、カタルーニャ州独立運動を主導したカルラス・プチデモン元カタルーニャ州首相をはじめとする独立派への刑事訴追により、Juntsはこれまで政権批判を続けてきた。与党PSOEは従来の訴追方針を翻し、Juntsと首相信任投票でのサンチェス現首相の支持を見返りに、独立運動関係者を対象とした恩赦法案と同州に完全な徴税権を認める自治州財政制度法の改正に向けた交渉を開始することに合意していた(11月9日「エル・パイス」紙)。
また、サンチェス政権に閣外協力してきた他の地域政党もPSOE支持により、中央政府に対する自治州債務の減免、カタルーニャ近郊鉄道のカタルーニャ州政府への管理権移譲の完了、バスク州労働協約の優先や同州への社会保障基金の移管に向けた取り組みなどの自治権拡大を見返りとして得た。連立相手スマールとの合意では、週労働時間の短縮(給与を維持しつつ現行の最大1週40時間から37.5時間に)、最低賃金のさらなる引き上げ(平均賃金の60%を目標)、解雇の際の保障強化など、労働者の権利向上が中心となった。
こうした中、11月上旬からスペイン各地で、恩赦法案などに反対する抗議活動が広がっている。裁判所判事らも「行政権による司法への介入」と強く反発。スペイン経団連(CEOE)も「ビジネス環境や対外イメージの悪化をもたらしており、競争力や投資誘致にも悪影響を及ぼす」と批判している。
一方、6日付の電子版「フィナンシャル・タイムズ」は社説「独立派への恩赦、賭けに出る価値あり」で、「独立問題を巡る政治・社会的分断には、司法だけでなく政治的、民主的対話が必要」として、恩赦法を支持する論調を示している。
(伊藤裕規子)
(スペイン)
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