カタルーニャ州で非独立派政権が発足、国政への影響も

(スペイン)

マドリード発

2024年08月16日

スペイン北東部カタルーニャ州で8月12日、国政与党・社会労働党(PSOE)系列のカタルーニャ社会党(PSC)のサルバドール・イリャ氏を州首相とする新政権が発足した。5月12日の州議会選挙(ブラック クイーン ブラック)では、スペインからの独立派が40年ぶりに過半数割れ。政権交渉が難航していたが、最終的に第1党で独立反対派・中道左派のPSCが独立派に大幅に譲歩するかたちで決着した。

イリャ氏は8月8日、州議会での信任投票で、独立派・左派のカタルーニャ共和左派(ERC)と、急進左派スマール系政党の賛成票によって辛うじて過半数を獲得し、州首相に選出された。「独立運動疲れ」の中で14年ぶりに生まれた非独立派政権となる。同州では独立問題で州選挙が繰り返され、州政府や議会の機能不全、公共サービスや競争力の低下などが指摘されており、新政権には、州政の正常化だけでなく、企業の州外流出や外国投資減少などといった経済の「地盤沈下」への対応が期待される。

新政権の発足により、同州の再選挙は回避されたが、国政への影響に関しては、次の2点で懸念が生まれている。

1つ目は、自治州財政だ。ペドロ・サンチェス首相の擁護を受けて、PSCは独立派ERCとの政権樹立合意で、カタルーニャ州への大幅な財政自治拡大を認めた。国税局が持つ徴税・租税立法権限を同州に完全に移譲するもので、これまでバスク州とナバラ州のみに歴史的特権として適用されてきた経済協約との類似が指摘される。この2州以外は共通の自治州財政制度が適用され、「豊かな州」の税収の一部が交付金として「貧しい州」に移転されてきたが、スペインのGDPの19%を占めるカタルーニャ州が抜けると、このシステム自体が揺らぐとの批判が多くの自治州から出ている。

2つ目の懸念は、下院での議会運営だ。新しい州首相の信任投票日には、2017年に違法な州独立宣言をした後、国外逃亡を続けているカルラス・プチデモン元州首相がバルセロナ州議事堂付近に現れ、集まった支持者を前に短い演説をした後、再びベルギーへ逃亡するというハプニングがあった。

議会は5月末にカタルーニャ独立派に対する恩赦法案を可決したが、最高裁は7月上旬に独立宣言を巡る罪状の一部(公金横領罪)は恩赦対象外との判断を示し、プチデモン氏への逮捕状を取り下げなかった。スペインでは2023年7月の総選挙後、政権交渉が難航。サンチェス氏はプチデモン氏率いるカタルーニャ連合(Junts)から信任を得る見返りに、恩赦法案に合意した経緯があった。報道によると、Juntsは、プチデモン氏への恩赦が適用されない限り、下院でのサンチェス政権支持は保証しない構えという。この状況が続けば、2024年に続き、2025年国家予算案の議会提出も困難となる。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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