輸出製造業に税制恩典を付与、ニアショアリングを視野に
(メキシコ)
メキシコ発
2023年10月12日
メキシコ政府は10月11日、連邦官報で政令を公布し、輸出製造業に対する一時的な税制恩典を導入した。施行は翌12日から。内容は、投資の即時償却の恩典(2023~2024年)と、従業員の研修費用の追加費用控除の恩典(2023~2025年)。政府は同政令の目的として、昨今のニアショアリング(生産拠点を消費地の近隣国に移転する)の追い風を生かし、戦略的分野の投資を促進して競争力を強化し、メキシコの国際的な立ち位置を強固にするためとしている(政令前文)。
恩典を受けるためには、次の10の戦略業種(注1)で製造を行い、輸出額が「総取引高」の50%以上という必要がある。
- 人、家畜用の食品
- 肥料・農薬
- 製薬用原料、医薬品
- 電子コンポーネント(電子基板、回路、コンデンサー、抵抗器、コネクター、半導体など)
- 計測・管理・航行用機器、電子医療機器
- バッテリー・電池、電気ケーブル、コネクター、コンタクト、ヒューズ、電気設備付属品
- 自動車用のガソリン・ハイブリッド・代替燃料エンジン
- 自動車、鉄道、船舶、飛行機に用いられる部品
- 航空機用の内燃機関エンジン、タービン、トランスミッション
- 医療・歯科用・研究所用非電子機器、医療用使い捨て素材、眼科用光学機器
これら10業種の輸出製造企業は、政令第2条に定めた最大償却率(添付資料参照)まで投資額を初年度に即時償却できる。ただし、同償却率を上回った分は次年度以降に償却できないため、納税者の選択性(注2)となる。10業種にはないが、映画や著作権のある動画を輸出向けに製作する場合、関連する投資は即時償却が可能。即時償却を適用する機械は「新品」(注3)の必要があり、償却適用年度後、原則として2年間は使用を継続する必要がある。
従業員の研修に関する恩典については、2023~2025年の3年間に限り、2020~2022年の従業員の研修費の年間平均額を上回る部分の25%について、追加で損金算入が認められる。
産業界は一定の評価
アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)現政権下では、AMLO大統領が重視する北部国境地帯の開発やテワンテペック地峡の開発など特定地域の振興を除き、企業への税制恩典の付与や特定産業を振興する産業政策は皆無だった。今回の政令には、半導体や電子部品などメキシコが未成熟な分野の投資を促す狙いが見られ、産業界も一定の評価をしている。全国工業会議所連合会(CONCAMIN)は10月12日付で声明を出し、「投資と人材育成の新興は複雑な国際環境で競争していく上の必要条件で、この政令は米国の主要な貿易パートナーであるメキシコの位置づけを確固たるものにする」と評価している。ただし、10業種以外にも税制恩典を広げるべきだともコメントしている。
なお、政令には不明瞭な部分(注4)も多く、詳細については、政令第7条に基づいて国税庁(SAT)が今後公布する細則を待つ必要がある。
(注1)戦略的10業種の中には、自動車や航空機の組み立て(完成車や完成機の製造)が含まれていない。しかし、即時償却設備の対象リスト(政令第2条)には完成車・完成機製造のための機械設備が含まれるため、完成車メーカーも恩典の対象になると考えられる。
(注2)メキシコの減価償却は通常、所得税(ISR)法の第34、第35、第209条に基づき、初期投資額に分野別に定められた償却率を乗じた金額まで、毎年損金算入することが可能(定額法)。残存簿価は残さなくて良いため、最終的には全額を償却できる。今回の政令の恩典を活用した場合、初年度に大きな損金算入が可能になるものの、初期投資額の全額を損金算入する権利を失う。即時償却を選択した場合、月次予定納税で最初に償却を適用した月の翌30日以内に国税庁(SAT)に対して恩典適用を通知する義務がある。
(注3)政令第1条は「新品」の定義として、「メキシコで初めて使用されるもの」としているため、メキシコの中古市場で調達した機械への適用はできないが、日本など外国で使用されていた中古機械を持ち込む場合は、即時償却を適用できる可能性がある。
(注4)注3の「新品」の扱いに加え、輸出比率の計算分母となる「総取引高」(原文ではFacturación Total)の定義、輸出額には輸出向け製造・マキラドーラ・サービス産業プログラム(IMMEX)を利用した間接輸出(バーチャル輸出)を含むのかどうかなど。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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