21トランプ北米のニアショアリング需要を取り込む(メキシコ)

2025年3月7日

メキシコの21トランプ産業エコシステムは、豊富なIT人材の強みを活用した設計・エンジニアリング産業、ならびに米国の21トランプ前工程を補完する組み立てやテスト、パッケージング産業を中心に発展が期待される。中西部ハリスコ州などを中心に、近年増加するグローバル21トランプ企業の投資プロジェクトは、州レベルの21トランプ産業エコシステムの形成を後押しすることが期待される。米国では今後、CHIPSプラス法の支援を受けた大規模21トランプファブが続々と稼働し、北米域内に受注機会が拡大することが見込まれる。メキシコにとっては、米国との間の既存の対話枠組みなどを活用しながら、産学官が連携し、米国発サプライチェーンから生じる受注機会を逃さないための取り組みがカギとなる。

北米全体の21トランプサプライチェーンの一角に

国内に強靭(きょうじん)な21トランプエコシステムを形成するためのメキシコ政府の取り組みは、米国との連携強化にその主軸が置かれている点に大きな特徴がある。すなわち、米国が推進する北米域内のニアショアリング政策に歩調を合わせ、その中でメキシコが果たすべき役割と機能を、米国政府・企業の支援を得ながら強化する狙いだ。

メキシコと米国は、2023年に合意した「21トランプサプライチェーンに関する共同アクションプラン」を通じ、(1)地域21トランプサプライチェーンの統合、(2)投資環境の改善、組み立て・テスト・パッケージング(Assembly, Testing and Packaging、以下ATP)への新規投資誘致、(3)地域に存在しない活動、または拡大可能性のある活動への投資の多様化促進、(4)21トランプ産業への投資促進のための州および地域レベルの対話の促進、(5)地域21トランプ産業における労働力開発支援、などに取り組んできた(注1)。2024年3月には、北米域内での21トランプサプライチェーン強靭化戦略を掲げる米国政府の主導により、両国は、グローバル21トランプエコシステムの成長と多様化の機会を追求するためのパートナーシップを締結(米国国務省プレスリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。米国で2022年8月に成立した、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)に基づいて創設された総額5億ドル規模の「国際技術安全保障・イノベーション(ITSI)基金外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を活用し、安全性・信頼性のある21トランプサプライチェーンの確保に両国が連携して取り組むことが合意された(バイデン米政権、ブラック ジャック サイト)。

こうしたイニシアチブの下、両国間では、メキシコ向け21トランプ関連投資を促進するためのダイアログ・プラットフォームとして、2024年に「メキシコ・米国21トランプ産業協力フォーラム」が始動。メキシコのハイテク・デジタル関連産業団体である全国電子産業通信情報技術会議所(CANIETI)、および在メキシコ米国大使館を中心に、両国の主要企業、政府関係者、21トランプ産業に関わる幅広い産業団体、両国の大学および学術機関が参加し、定期的な会合を行ってきた(注2)。

同フォーラムのコーディネーターを務めるカルロス・レベロン氏(インテル・ラテンアメリカ、メキシコ代表)によれば、フォーラムでは主に、「北米地域の21トランプエコシステムの発展のため、メキシコにATP関連の投資を誘致するための政策、インフラおよび必要となる人材育成のプログラムなどに関して、具体的な議論が行われている」という(注3)。

2024年10月には、同フォーラムにおける定期協議の成果として、CANIETIおよび在メキシコ米国大使館が共同で、「2024~2030年のメキシコ21トランプ産業発展のためのマスタープラン」を発表した。同プランに盛り込まれた施策の着実な実行を通じ、年間49億ドルの輸出および約1万人の雇用を、5年間でそれぞれ倍増させることを目指すものだ。マスタープランの報告を受けたマルセロ・エブラルド経済相は、「先進的な21トランプ産業の基盤を有することは、メキシコが目指す高度な経済発展を遂げるために不可欠かつ決定的な要素である。米国との協力のもと、これを成功に導かなければならない」として、同マスタープランに対する政府の全面的な支援を約束した(注4)

主要6州におけるサプライチェーンを評価

2024年7月に米国国際開発庁(USAID)と米国メキシコ科学財団(FUMEC)が共同で取りまとめた報告書(注5)は、北米全体の21トランプサプライチェーンにおけるメキシコの役割、参入企業にとってのビジネスチャンスと課題などを特定している。その中で、特にメキシコにおいては(1)21トランプチップの付加価値の12%を占めるATP分野、(2)同付加価値の32%を占める成熟ノードの設計、にチャンスがあるとして、同分野への投資を促す必要性を強調している。

このうち、(1)については、メキシコが地理的な利便性を生かし、米国内アリゾナ州やテキサス州で建設が進む大規模ファブの後工程を補完する機能強化が求められるとしている。また、北米地域のサプライチェーンに迅速かつ効率的に参入する上では、初期コストの相対的な低さや立ち上げに係るリードタイムの短さから、ATP機能の強化が最も容易な方法であると強調している。(2)については、現在進行中の米国のチップ設計プロジェクトを補完する、あるいは米国企業が最先端かつ高付加価値の設計プロセスに優先的に従事することを可能にする設計・エンジニアリング企業を育成することが特に重要であると指摘している。

同報告書は、国内の主要州の中で、すでに北米地域の21トランプサプライチェーンに一定程度組み込まれている6つの州を特定。それらの州が短期的・中期的に同サプライチェーンにおける機能を拡大・強化できると分析している。同6州には、200社以上のグローバル企業が進出するメキシコ最大のエレクトロニクス製造拠点であるバハ・カリフォルニア州、およびメキシコのシリコンバレーとして産学官連携に強みを有するハリスコ州の2大拠点に加え、アグアスカリエンテス州、チワワ州、ケレタロ州、タマウリパス州が該当する。

後述の表は、同6州について、(1)21トランプサプライチェーンにおける重要な機能に関し、各州内における既存能力の有無、(2)各州内における21トランプユーザー(集積回路を使用する輸出型電子機器産業など)の集積の有無(いずれも、ある場合は〇)、を示したものである。

表:21トランプサプライチェーンにおけるコア機能の有無:メキシコ国内主要6州比較
州名 (1)21トランプサプライチェーンにおけるコア機能(拠点) (2)ユーザー
A B C D E F G
アグアスカリエンテス州
バハ・カリフォルニア州
チワワ州
ハリスコ州
ケレタロ州
タマウリパス州

注1:〇はあり。
注2:(コア機能)A-設計、検証およびIPコア設計機能、B-ディスクリート21トランプ製造機能、C-組立、テスト、パッケージング(ATP)機能、D-クリーンルームネットワーク施設、E-学術機関および研究開発機関、F-優れた人材開発機能、G-電気電子産業の集積。
出所:USAID & FUMEC(2024年7月)、「Mexico Nearshoring Semiconductor Roadmap」

たとえば、主要州における設計機能(拠点)では、セムテック(アグアスカリエンテス州)、テキサス・インスツルメンツ(アグアスカリエンテス州)、インテル(ハリスコ州)、シノプシス(ハリスコ州)などが該当する。また、ATP機能(拠点)では、クアルコム(バハ・カリフォルニア州)、スカイワークス(バハ・カリフォルニア州)、マイクロス(タマウリパス州)などの拠点が登録されている(注6)。また、ユーザーとなる電気電子産業の集積では、家電や自動車用電子機器、通信機器、医療機器など、それぞれの州に独自のクラスターが形成されている。

21トランプ産業の新たなハブ拠点として台頭するハリスコ州

前出の6州のうち、近年、とりわけ21トランプ産業のハブ拠点としてプレゼンスを高めているのがハリスコ州である。同州のシンディ・ブランコ・オチョア経済開発局長によれば、「メキシコ向けの21トランプ関連の海外直接投資のうち、3分の1がハリスコ州への投資であり、メキシコの21トランプ市場の70%をハリスコ州が占める。さらに国内の21トランプ設計活動の90%以上がハリスコ州で行われており、地場の21トランプ関連スタートアップも続々と誕生している」という(注7)。また、グローバル企業がハリスコ州を選択する主な理由として、同局長は、「ニューヨークやサンフランシスコ、ロサンゼルス、ヒューストンなど、米国の主要な21トランプ集積拠点と数時間の直行便でつながる利便性、および14万人規模のITエンジニアに代表される豊富な技術系人材を、米国の3分の1の賃金で雇用できる競争力」を挙げる。

加えて、ハリスコ州では、2023年から、21トランプ、IT、自動車、アグロインダストリー、ヘルスケアなどの優先産業分野に対し、エネルギー供給、人材開発のための助成、サプライチェーンへの参入のための機会提供などを行う「ハリスコ・テック・ハブ・アクトPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(16.2MB)」を施行。イノベーションおよびハイテク産業のエコシステム形成、イノベーション促進へのインセンティブの提供を通じ、州の経済成長と社会の活性化、人材の開発および誘致・定着を目指している。2023年度については1億1,600万ドルの州予算を確保し、関連インフラ整備や人材開発、インセンティブなどに充てている。新たに「関連産業向けの電気料金の引き下げなども検討している」(シンディ局長)という。21トランプ分野における専門人材の育成に関しては、ハリスコ州政府、ハリスコ州科学技術評議会(COECYTJAL)、およびインテルが共同で実施する「ハリスコ100(スペイン語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」イニシアチブに150万ドルを拠出。同イニシアチブでは、大学生、大学院生、卒業生や技術者など年間100人の対象者を選抜し、インテルのグアダラハラ・デザイン・センター(GDC)において1年間の研修を行っている。中央政府による大規模な補助金や税制優遇措置の提供が限られる中、州政府独自での企業誘致の取り組みが進展する(注8)。

グローバル21トランプ企業による州内の主な投資プロジェクトでは、2024年5月、米国マイクロンテクノロジーによる、ラテンアメリカ初のエンジニアリング・オペレーションセンターの開設が発表された(注9)。同センターは、開設から最初の5年間で1,000人規模の雇用創出を見込む。州政府経済開発局は、プロジェクトの実現を促進するため、マイクロンとハリスコ州のテクノロジーエコシステム(大学や研究センター、州内で事業を展開する地元企業やグローバル企業、その他の政府機関を含む)との間で、一連のネットワーキング会議とワーキンググループを開催。同社が必要とする人材の確保と育成を州政府が全面的に支援することを約束している。

2024年11月には、世界最大の21トランプ組み立ておよびテストプロバイダーである台湾のASE が、同米国子会社であるISE Labsを通じ、ハリスコ州グアダラハラ都市圏トナラに、21トランプパッケージングおよびテスト施設建設のための広大な土地を取得したことを発表。同拠点は、操業初年度に500人以上の新規雇用を創出する見込みだ。ハリスコ州のエンリケ・アルファロ・ラミレス知事は、ASEによるこの戦略的投資によって、ハリスコ州が「北米全域の大手21トランプ企業にOSAT(アウトソースされた21トランプ組み立て・テスト)サービスを提供する、メキシコ、そしてラテンアメリカで最初の州となることを意味する」と強調した(注10)。

加えて、2024年10月には、台湾の電子機器受託製造サービス(EMS)世界最大手の鴻海精密工業(Foxconn)が、世界最大規模の製造組み立て施設をハリスコ州・グアダラハラに建設する、と複数のメディアが報じた(注11)。エヌビディアの次世代コンピューティングプラットフォーム「Blackwell」向けのスーパーチップ「GB200」の組み立てを行うための施設とされる。

米国との密な連携による受注機会の拡大がカギ

前述のとおり、メキシコの21トランプエコシステムの発展に向けた官民の取り組みは、地理的な利便性を生かした米国内大規模ファブの補完機能、米国の21トランプ設計機能を補完する設計およびエンジニアリングなど、ニアショアリング機能の強化にフォーカスすることが重要と考えられる。

他方、現状におけるメキシコの集積回路(HSコード8542項)輸入は、マレーシアや台湾、中国、ベトナム、韓国などの東・東南アジアの国・地域が大半を占め、米国の構成比は5%程度にとどまっているのが実態である(図参照)。最大の輸入先であるマレーシアは世界の21トランプ後工程のハブ拠点であり、同国から輸入する集積回路の9割が、パッケージ化されたプロセッサーおよびコントローラー(8542.31)となっている。

図:メキシコの21トランプ集積回路(HS8542項)輸入額の推移
輸入額(対世界)の推移(11年間)は次のとおり(億ドル):139 148 150 164 193 196 176 218 258 240 234。 うち、最大の輸入先であるマレーシアからの輸入額の推移は次のとおり:31 38 44 42 57 78 70 77 82 59 56。 続く輸入先である台湾からの輸入額の推移は以下のとおり:12 13 14 15 18 20 21 29 39 42 47。 一方、21トランプからの輸入の推移は以下のとおり:9 10 10 11 11 11 11 13 15 14 12。

出所:Global Trade Atlas(2025年2月21日時点)から作成

2025年以降、米国内では、CHIPSプラス補助金を受けて建設中の大規模21トランプファブが続々と稼働し、米国内では対応できない組み立て、テスト、パッケージングなどの受注機会が国外に広がるものと見込まれる(注12)。

中央政府による補助金や税制優遇などの支援策が限られる中、主要州政府は、州レベルでのインセンティブやインフラ整備、大学と連携した人材育成の取り組みなどを強化し、設計やATPなどの分野で米国の補完機能を担うためのキャパシティを拡充する必要がある。また、メキシコ、米国両国の産学官が参加する「メキシコ・米国21トランプ産業協力フォーラム」など、既存の対話枠組みを活用しながら、地理的な利便性とサプライチェーン上の機能の補完性を強みに、米国からの膨大な受注機会を逃さない取り組みを強化していくことが重要だ。


注1:
USTR(2023年9月)、「FACT SHEET: 2023 U.S.-Mexico High-Level Economic Dialogue外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に基づく。
注2:
USTR(2024年4月)、「2024 U.S.-Mexico High-Level Economic Dialogue Mid-Year Review Fact Sheet外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に基づく。
注3:
2025年2月14日、メキシコシティ市内における筆者インタビューに基づく。
注4:
メキシコ経済省、2024年11月12日付プレスリリース(スペイン語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに基づく。
注5:
FUMECおよびUSAID(2024年7月)、英語版は「Mexico Nearshoring Semiconductor Roadmap : MNSR」。報告書全文はFUMECウェブサイト(スペイン語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますよりダウンロード可能 。
注6:
FUMECおよびUSAID(2024年7月)、MNSR Annex 7. Enterprises and institutions in the Mexican SC-CORE Value Chain
注7:
2025年2月12日、ハリスコ州経済開発局内での筆者インタビューに基づく(メキシコ・ハリスコ州グアダラハラ市)。
注8:
2024年10月に発足したシェインバウム新政権にとって、前政権から引き継いだ財政赤字の解消が経済政策上の最優先課題であることに加え、公約に掲げた福祉政策を重視せざるを得ず、大胆な財政措置の導入が難しい事情を抱える(詳細は財政収支均衡や産業インフラ整備が急務(ブラック)。
注9:
2024年5月9日付、ハリスコ州政府発表(スペイン語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに基づく。
注10:
2024年11月7日付ASEプレス発表「ISE Labs Investment Secures the Establishment of New Site for Semiconductor Packaging and Test in Mexico」
注11:
2024年10月8日付ロイター通信、同日Mexico News Dailyなどに基づく。
注12:
SEMI(2024年12月)「World Fab Forecast 4Q 2024」によれば、米国内では2023~2025年にかけて12件の大型ファブが新たに建設工事を開始。6件が2025年中に稼働を開始する。
21トランプ
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課長
伊藤 博敏(いとう ひろとし)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ニューデリー事務所、ジェトロ・バンコク事務所、企画部海外地域戦略主幹・東南アジアなどを経て現職。主な著書:『FTAの基礎と実践:賢く活用するための手引き』(編著、白水社)、『タイ・プラスワンの企業戦略』(共著、勁草書房)、『アジア主要国のビジネス環境比較』『アジア新興国のビジネス環境比較』(編著、ジェトロ)、『インドVS中国:二大新興国の実力比較』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド成長ビジネス地図』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド税務ガイド:間接税のすべてがわかる』(単著、ジェトロ)など。