フォン・デア・ライエン委員長、一般教書演説で電力市場改革やグリーン・ディールへの投資拡大を強調

(EU)

ブリュッセル発

2022年09月15日

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は914日、欧州議会本会議で、今後1年間の欧州委の活動方針を表明する一般教書演説を行った(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ロシアによるウクライナ侵攻にまず言及し、ロシアに対する制裁(2022年7月25日記事参照)を継続するとともに、ウクライナへの一層の支援を約束した。また、欧州委が最優先事項として掲げる「欧州グリーン・ディール」(注1)とデジタル化政策(注2)についても、積極的な財政拠出を続けるとした。その上で同委員長は、今後発表を予定している主な政策として、以下を挙げた。

電力市場の改革:電力価格がガス価格に実質的に連動する現行制度を改め、電力価格とガス価格を切り離す電力市場の抜本的な改革案の提案(2022年8月31日記事参照)。欧州委は同日、電力需要の削減策とエネルギー事業者の超過利潤に対する措置からなる電力市場への短期的な緊急介入案も発表した。

水素の市場拡大に向けた欧州水素銀行の設置:30億ユーロ規模を予定し、企業による水素購入の際に、一定の保証を提供することなどを検討している。水素関連の投資を拡大させ、将来的な需要と供給を合致させるには、水素市場の創設が必要なことから、欧州水素銀行はこれを後押しする狙いがあるとみられる。

特定の域外国への重要な原材料の供給依存の軽減に向けた法案:重要な原材料の採掘、精製、生産加工、リサイクルなどサプライチェーンにおける戦略上重要なプロジェクトを選定するとともに、域外からの安定的な供給にリスクのある原材料の戦略的な備蓄を進めるための法案を提案する。再生可能エネルギーへの移行に伴って重要な原材料の需要が急増すると予想される一方で、リチウムやレアアースなどの生産加工の大部分を中国に依存していることが問題視されている。そこで、重要な原材料へのアクセスでこうした特定の国への依存の軽減を目指す。

EUの産業支援の拡大:加盟国による戦略的に重要な産業への支援策で、国家補助ルールの特例措置の「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」への財政支援を強化する。また、域内の産業育成のための「欧州主権基金」の設立に向けた取り組みに着手する。

財政規律要件の見直し:再生可能エネルギーやデジタル化への移行に向けて、戦略的な投資を可能にするために、加盟国に対する新たな財政ルールを10月に提案する。新型コロナウイルス感染拡大により、現在は適用を一時停止しているが、通常、EUは加盟国に対して原則として厳格な財政規律要件を課している(2022年3月4日記事参照)。

中小企業支援パッケージ:中小企業の多くは、インフレや経済の不確実性の高まりに直面しているとして、企業向けの新たな単一税制法案のほか、資金繰りが厳しい中小企業を救済するために、支払遅延の場合に一定の利子の支払いなどを義務付けるEU指令の緩和に向けた改正案を提案する。

民主主義の強化策:EU加盟国に加盟候補国などの非加盟国を加えた欧州の民主主義国家の新たな枠組みとして「欧州政治共同体」の創設の提案。また、独裁国家からの資金提供によるEU域内への悪影響を防ぐためのスクリーニング制度を含む「民主主義防衛パッケージ」の提案も行う。

(注1)調査レポート「欧州グリーン・ディールの最新動向」を参照。

(注2)調査レポート「EUデジタル政策の最新概要」「EUデジタル政策の最新動向」を参照。

(吉沼啓介)

(EU)

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