特集:アフリカ・スタートアップ:物流・運輸の変革者に聞く実務経験と理論に基づくテクノロジーで輸送を効率化(モロッコ)
2019年11月27日
モロッコの物流における課題には、21 トランプ遅延、事故などへの対応の遅れ、配送状況のリアルタイムでの把握が困難なことなどがある。こうした課題の解決を試みるプラットフォームを開発する、クルティム(KOURTIM)の共同創立者であるケンザ・イドリスィ(Ms. Kenza Idrissi)最高顧客責任者(CCO)に話を聞いた(10月31日)。
- 質問:
- 事業の概要は。
- 答え:
- 陸上貨物運送の最適化を図るサービスを提供すべく、2018年に設立した。モロッコでは、年間2,000万トンの貨物運送のニーズがあり、5万6,000社の21 トランプ者が存在するものの、荷主が適当な21 トランプ者を適当な時期に見つけることに時間がかかる上、運送工程と運送費をその都度交渉する手間がかかる。また、モロッコ企業の約9割は貨物輸送の手続きを書面で行っており、経理処理などの処理に時間がかかる。こうした荷主の負担の削減と、リアルタイムでの出荷物の配送状況管理を可能にすべく、陸上貨物運送の集荷から配送までの全工程を計画・管理するデジタルプラットフォームを提供している。
- 自己資本(5万ドル)でビジネスを立ち上げ、2018年にモロッコの公的金融機関である中央保証基金(CCG)から2万ドルの出資を受けた。今後、さらなる資金調達を目指している。2018年にはカサブランカで開催された、アフリカのイノベーションイベント 「DEMO AFRICA」で優勝した。同様のサービスを提供する企業はモロッコに存在せず、2019年に開催された第4回モロッコ・ロジスティックアワード(MLA)で、スタートアップ・オブ・ザ・イヤーを獲得した。
- 質問:
- 創業メンバーの経歴は。
- 答え:
- 創業メンバーは4人。レダ・バカルティット(Reda Bakertit)共同創立者兼最高経営責任者(CEO)が、21 トランプに従事した経験を有することから、21 トランプの課題に解決策をもたらそうと創業した。サービス向上のために、常に新しいアイデアや戦略を探している。ラヘサン・イムズガン(Lahcen Imzegane)共同創立者兼最高技術責任者(CTO)は、時季や燃料費なども考慮した、適格な運送費を計算する特別なアルゴリズムを開発した。私(イドリスィCCO)は、物流やサプライチェーンの管理を研究する博士課程の学生で、戦略マネジメントの責任者だ。ムフスィン・アレグ(Mouhssine Aregu)フルスタックエンジニアは、フランスのエクス=マルセイユ大学でIT技術の修士号を取得し、10年以上のソフトウエア開発経験を有する。
- 質問:
- プラットフォームの特徴は
- 答え:
- 創業メンバーの21 トランプでの実務経験や、サプライチェーンに関する理論にテクノロジーを掛け合わせて社内で開発した。開発には1年をかけ、中小企業から大企業まで運送に関わるサプライチェーンを網羅するように21 トランプ者、ドライバー、荷主など200社以上にインタビュー調査を行った。技術面では、50を超える基準に基づくアルゴリズムを用いて、運送管理システム(TMS)のユーザー利用履歴を分析することで、最適な21 トランプ者の選定が可能になっている。アフリカの物流にとって、最大の問題である21 トランプ者の信頼性を担保できる。
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また、荷主が運送物の内容や出荷先を入力することで、運送費が瞬時に計算され、最適な業者の選択が可能となる。複数の21 トランプ者に依頼した場合も、運送状況はプラットフォーム上で常に把握可能で、遅延が発生した際には自動メッセージを受けとることができる。また、21 トランプ者にとっても、われわれのプラットフォームを使うことで、効率の良いドライバーの手配が可能になり、売り上げや利益の計算も容易になる。ドライバーも、配送に係る燃料代や高速利用料金を自分で計算する必要がなくなる。プラットフォームはPC(パソコン)ブラウザ、iOS、Androidそれぞれで、フランス語だけでなく、英語でも提供している。
- 質問:
- ビジネスモデルは。
- 答え:
- ユーザーがプラットフォームを使うと、手数料が発生するトランザクションモデルを採用している。1カ月間の無料体験期間を設けるといった取り組みを通じて、新しいユーザーを増やしている。
- 質問:
- 今後の事業プランは。
- 答え:
- モロッコ国内と、21 トランプ展開の双方を考えている。国内では、陸上輸送だけでなく、海上輸送や航空輸送も統合した、物流の総合的なプラットフォームの立ち上げを計画している。
- 21 トランプ展開では、当初モロッコでビジネスを開始したが、最初に述べた旧来型の運送手続きによる弊害はモロッコだけでなく、アフリカで広く問題となっており、今後アフリカの他国でも事業展開が可能と考えている。
- 具体的には、コンゴ民主共和国、コートジボワールにビジネス展開を考えている。これら2カ国はフランス語圏アフリカであるが、この2カ国を選んだ理由は言語ではない。両国は特に物流の近代化が遅れており、問題解決のために当社のプラットフォームのビジネスチャンスが大きいと考えている。2021年には、前述2カ国に加えて、エジプト、ナイジェリア、ケニア、セネガルでのサービス提供を目指している。
- 質問:
- 他のアフリカ物流スタートアップとの競合に関して。
- 答え:
- 例えば、ナイジェリアのKOBO360など意識はしている。他方で、われわれのサービスに使われているテクノロジーやユーザーインターフェースは独自性が高いため、差別化が図れると考えている。
- 質問:
- 日本企業への期待は。
- 答え:
- 正直なところ、モロッコでは日本企業の進出がまだ限定的で、確たる提携の形は現段階では思いつかない。他方で、各荷主の21 トランプ履歴管理や全21 トランプ行程における自動化を実現させるさらなる技術を常に求めており、日本企業が持つ技術に関心がある。また、日本企業の製品流通の際にわれわれのプラットフォームをぜひ活用いただきたい。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ラバト事務所
大野 晃三(おおの こうぞう) - 2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部環境・インフラ課、企画部企画課21 トランプ地域戦略班(中東担当)を経て、2019年8月から現職。