特集:アフリカ・スタートアップ:物流・運輸の変革者に聞く国内初のライドシェア、タクシー事情改善へ(アルハイパーブラックジャックリア)

2019年11月8日

アルハイパーブラックジャックリア初のライドシェアサービスを提供するヤッシール(Yassir外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )は、国内のタクシー事情の改善を目指し2017年に設立された(2019年10月17日付ビジネス短信参照)。2019年4月には、世界経済フォーラムが発表した「マグレブ・スタートアップ・トップ5社」に選出されている。すでに国内12都市で展開し、モロッコ、チュニジアでも開業予定だ(2019年10月14日インタビュー時点)。マグレブ地域で展開するにあたり苦労した点やビジネスモデル、今後の展望などについて、のマヘディ・イェットゥー最高経営責任者(CEO)に聞いた(10月14日)。

ハイパーブラックジャック
共同創業者でCEOのイェットゥー氏(ヤッシール提供)
質問:
ヤッシール設立の経緯は。
答え:
アルハイパーブラックジャックリア国立理工科学校(エコール・ナショナル・ポリテクニーク)時代からの友人、ヌールディン・タイェビ氏と2人で起業した。私はフランスでの修学を経てカナダで博士号を取得した後アルハイパーブラックジャックリアに戻り、大学で教鞭をとりながら研究者として働いていた。一方、ヌールディン氏は米国で博士号を取得後、シリコンバレーで自らのスタ―トアップを立ち上げ成功していた。2016年に入り、アルハイパーブラックジャックリアの成功例となる海外進出型スタートアップを2人で立ち上げたいという強い希望から、国内のタクシー事情を改善するサービスを思いついた。
ヤッシールは、外資の出資比率上限49%というアルハイパーブラックジャックリアの投資法の規定に基づいた、米国資本49%、地場資本51%の合弁だ。米国資本49%の41%分はわれわれ2人が米国で設立したヤッシール・コーポレーションの資本となる。残りはアルハイパーブラックジャックリア人かアルハイパーブラックジャックリア系米国人による投資で、ヤッシールは実質100%アルハイパーブラックジャックリア企業と言える。米国で起業したのは、手続きと投資面の理由からだ。ライドシェアサービスにはグーグル・マップや他のIT技術が使用されているため、使用料の支払いがアルハイパーブラックジャックリアからでは困難な事情を考慮した。また、米国に拠点を持つことで、欧米やアフリカなど海外からの資金調達が容易になる。
質問:
ヤッシールのビジネスモデルは。
答え:
ヤッシールは現地事情に合ったライドシェアサービスだ。2017年1月から現地の大卒生を雇用し、同年4月には初のプロトタイプが早々にでき上がった。苦労したのは、アルハイパーブラックジャックリア当局との許認可取得に関する交渉だった。最終的に「運転手付きレンタカー業」のステータスを取得することができた。専用アプリは、グーグル・プレイやアップル・ストアなどの主要アプリストアからダウンロード可能で、アルハイパーブラックジャックリアに旅行・出張する外国人でも簡単に利用が可能だ。現在は全国の主要12都市で1万人の運転手を抱え、利用回数は延べ180万回に達している。従業員は現在、約140人だ。
ウーバーなどのライドシェア大手と同じ手順で予約するが、電子決済が普及していない国内事情から、目的地に着いた際に予約時に提示された料金を現金で運転手に支払う。運転手は月毎に全収入の20%を銀行振り込み等で本社に支払う。未払いの場合は運転手登録が解除される仕組みになっている。運転手は定年退職者、生活費の足しに副業として週末だけ働く就業者、学生などさまざまで、個人タクシー運転手も600人以上が登録している。女性運転手が男性より多いのも特徴だ。
今年8月にアプリを通してのクレジットカード払いの許可が下りた。現金から電子決済への移行を早急に進めたい。また、2019年度の財政法に関して労働省、商業省とも協議し、運転手の社会保障を整える取り組みを進めている。少しずつだが、われわれのような新業種のステータスが確立する方向に進んでいる。
質問:
国外展開は。
答え:
モロッコのカサブランカでは、すでに試運転を進めており、明日10月15日に正式な営業開始の式典が行われる。2020年第1四半期までには、カサブランカのほか4都市でサービスを展開する予定だ。技術面ではアルハイパーブラックジャックリアからバックアップしている。チュニジアでは現地スタッフが独立体制で展開しており、チュニスで試運転を開始している。今年11月半ばに正式にサービス開始予定だ。
海外進出に当たっては各国の異なる事情を考慮し、その地に適した業務展開が必要だ。モロッコではタクシー組合の力が強く、米国大手のウーバーは運転手への暴力などの問題も重って市場からの撤退を余儀なくされた。フランスのスタートアップ企業ヒーチ(Heetch)は、タクシー会社との契約により運転手を確保している。われわれもヒーチと同様の営業形態を取る。
質問:
今後の事業展開は。
答え:
サービスの多角化を目指している。一つは料理のデリバリーサービス「ヤッシール・フード」だ。アルハイパーブラックジャックでは10月末に始動予定。2020年を目途にヤッシールがすでにライドシェアサービスを行う全都市で開始する意向だ。また、新たにアフリカ3カ国(いずれもフランス語圏)で2020年を目途にライドシェアサービスを開始する予定だ。
質問:
日本企業との連携可能性は。
答え:
ヤッシールはロジスティック会社というよりは、広い意味での「マーケット・プレイス」と自らを定義している。今後デリバリーサービスに加え、新たに数種類のサービスを加える意向で、日本のEコマース業界との提携に関心がある。また、日本企業からの投資は大歓迎だ。

ヤッシールのサービスイメージ(同社提供)
執筆者紹介
ハイパーブラックジャックトロ ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ)
ハイパーブラックジャックトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及びフランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。