米USTR、カナダの乳製品輸入の関税割り当てでUSMCA紛争解決パネル設置要請

(米国、カナダ)

ニューヨーク発

2021年05月27日

米国通商代表部(USTR)は5月25日、カナダ政府が乳製品輸入に設定している関税割当制度(TRQ)の運用が米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に違反するとして、同協定の紛争解決章(第31章)に基づき、パネルの設置を要請外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

USTRは2020年12月にUSMCA第31章に基づくカナダ政府との協議を要請し、両国は同月から協議を続けてきたが、解決に向けた合意ができなかったとして、今回初めてパネル設置の要請に至った。同第31章の規定に基づき、パネルは要請とともに設置され、今後、両国政府がパネルの議長と4人のパネリストを選定することになる。パネルは人選が完了してから120日以内に第1段階の報告書を提出することになっている(注1)。

TRQとは、輸入国が特定の品目の輸入に関して、一定量までは低い関税率を適用し、その割り当て枠を超えた輸入には高い関税率を適用する制度となる。よって、一般的には輸入国で国際競争上劣位にある品目に導入される。USTRによると、カナダはUSMCAの下、14種類の乳製品(注2)TRQを維持することが認められているが、低税率での輸入枠の一部を国内の乳製品加工業者のために確保しており、それがUSMCA違反になると主張している。本件については、USMCA発効前から、カナダ国内の乳製品加工業者の競合相手となる米国の乳製品関連の業界団体が懸念を示していた。例えば、現農務長官のトム・ビルサック氏が会長兼CEO(最高経営責任者)を務めていた米国乳製品輸出協会もその中に含まれる。ビルサック長官は今回のUSTRの判断について「米国の農業界にとって重要な一歩であり、乳製品業界がUSMCAの恩恵を十分に受けられるようその実現に近づけるもの」と称賛する声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出している。

一方、カナダのメアリー・エング中小企業・輸出振興・国際貿易相は同日、「米国が紛争解決パネルを要請したことに落胆した」としながらも、「われわれの政策はCUSMA(注3)におけるTRQの義務を順守していると確信しており、紛争解決手続きでその立場を堅持していく」との声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出している。

USTRは既に労働分野で、在メキシコのゼネラルモーターズ(GM)工場の労働権侵害の疑いについて、USMCAの「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRLM)」に基づく事実確認の要請を行っており(米USTR、ブラック ジャック5月14日記事参照)、USMCAの紛争解決手続きを積極的に活用する姿勢を示している。キャサリン・タイUSTR代表は「バイデン・ハリス政権の最優先事項はUSMCAを完全に執行し、米国の労働者を利することを確かにすることだ」として、かねて掲げる「労働者中心の通商政策」の実現を強調している。

(注1)USMCA第31章17項によると、パネルは通常の場合、150日以内に第1段階の報告書を提出することになっているが、腐食性を伴う品目に関する場合は120日以内の提出に努めると規定されている。

(注2)牛乳、クリーム、脱脂粉乳、バターおよびクリームパウダー、産業用チーズ、全種類のチーズ、粉乳、加糖練乳、ヨーグルトおよびバターミルク、粉状バターミルク、乳清、生乳成分で構成される製品、アイスクリームおよびアイスクリームミックス、その他乳製品。

(注3)カナダではUSMCAの正式名称は「カナダ・米国・メキシコ協定(CUSMA)」としている。

(磯部真一)

(米国、カナダ)

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