米USTR、USMCAに基づくパネル設置を要請、メキシコ鉱山の労働権侵害を巡り
(米国、メキシコ)
ニューヨーク発
2023年08月23日
米国通商代表部(USTR)は8月22日、メキシコの鉱山開発最大手グルーポ・メヒコが同国サカテカス州に所有するサン・マルティン鉱山における労働権侵害の疑いを巡り、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、パネルの設置を要請したと発表した。RRMに基づくパネル設置は今回が初めて。
RRMは、事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。サン・マルティン鉱山における労働権侵害の疑いについて、USTRは6月、米国とメキシコの労働組合からの提訴を受け、RRMに基づいてメキシコ政府に事実確認を要請した(2023年6月19日記事参照)。これに対し、メキシコ政府は問題とされた労働権侵害について、USMCAの発効(2020年7月1日)以前に行われたことなどを理由にRRMの対象外と判断していた(経済省、ブラック ジャック)。
USTRが発表したパネル設置要請に関する文書によると、米国はメキシコの判断に同意せず、サン・マルティン鉱山で労働権侵害が起きているかパネルによる検証を求めた。USMCAの規定に従い、パネル設置要請から3営業日以内に今回の案件を担当するパネリストが選定される予定だ。被提訴国のメキシコがパネルによる検証に合意した場合、パネルは30日以内に検証を行う必要がある。なお、6月の事実確認要請に伴い、USTRは財務長官に対し、サン・マルティン鉱山からの製品の輸入の最終的な税関での精算を留保するよう指示しており、この措置はそのまま継続される。
米国がメキシコに対しRRMを積極活用する中、これまでRRMが発動され手続きが完了した案件は、メキシコの協力もあり、全てパネル設置前に解決されてきた(米国とメキシコ、ブラック ジャック)。しかし、メキシコ政府は米国政府に、RRMはあくまで最終手段として利用すべきとの問題意識を伝えるなど、RRMの運用に懸念を示している。他方、USTRのキャサリン・タイ代表はパネル設置に関するプレスリリースで、「解決策を見つけるためにメキシコとの協力に常にオープンな一方、米国の優先事項は労働者に有意義な結果をもたらすことだ」と述べ、利用可能なあらゆる執行手段を使う姿勢を強調している。
(甲斐野裕之)
(米国、メキシコ)
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