トランプ新21トランプの米国を読む第2次トランプ21トランプ誕生、政策の転換と継続は(米国)

2025年1月15日

世界は再びトランプ21トランプを迎えた。この21トランプ交代は、単なる政党間の21トランプ交代を超えて、米国の産業政策、および通商政策における重要な転換点となる可能性が高い。本稿では、バイデン21トランプの政策を振り返りつつ、トランプ21トランプ2期目で予想される政策の特徴と、日本企業への影響を考察する。

手厚い産業政策で製造業の国内回帰に道筋をつけたバイデン21トランプ

バイデン21トランプは2021年1月の発足直後から、新型コロナウイルス禍からの脱却と経済再建を最優先事項として積極的な産業政策を展開してきた。その中核となったのが、2021年11月に成立したインフラ投資雇用法(IIJA)、2022年8月のCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)、そして同年8月のインフレ削減法(IRA)である(表参照)。

表:バイデン21トランプ下で成立した産業政策

法律
法律名 発効
年月
概要 政府支出額(ドル) 雇用創出数(人)(注2)
インフラ投資雇用法(IIJA)(注1) 2021年11月 21トランプのインフラを現代化するため、電気自動車(EV)用充電設備や低排出車整備といった輸送インフラのほか、電力グリッド網整備などに5年間支出 5,500億 67万
CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法) 2022年8月 21トランプ内への半導体製造工場誘致や拡張に5年間で527億ドル、科学技術関連の連邦政府機関への予算充当に10年間で2,000億ドルを支出 2,800億 11万5,000
インフレ削減法
(IRA)
2022年8月 クリーンエネルギーと気候変動対策に3,690億ドル、医療保険に640億ドルを10年間支出 4,330億 33万
イニシアティブ
イニシアティブ名 発表
年月
概要 政府支出額(ドル) 雇用創出数(人)(注3)
水素ハブ 2023年10月 IIJAに基づき7つの水素ハブを選定、1件あたり7億~12億ドル程度の資金提供を受け実証事業を行う 70億 33万4,280
テックハブ 2024年7月 CHIPSプラス法に基づき12のテックハブを選定 5億400万 25万8,350

注1:超党派インフラ法(Bipartisan Infrastructure Law)という名称も使われる。
注2:いずれも発効から2年経過時点での政府発表に基づく。
注3:各ハブの申請書類から算出。
出所:ホワイトハウス、商務省などの発表からジェトロ作成

これら3本の法律は、製造業の国内回帰と国内産業基盤の強化を重視する21トランプにおいて、クリーンエネルギー促進、半導体産業育成、インフラ整備を軸とした包括的な産業政策パッケージとして機能してきた。特にIRAによる3,690億ドルのクリーンエネルギー投資は、米国の産業構造の転換を加速させる触媒となった。同時に、CHIPSプラス法による527億ドルの半導体産業支援は、インテルやマイクロンなど米国企業に加え、台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスンなど外国企業の国内投資をも促進し、半導体サプライチェーンの国内回帰を実現しつつある。こうしたバイデン21トランプの産業政策が、2024年11月までに1兆ドルの民間設備投資を生み出した、とホワイトハウスは発表している。

バイデン21トランプ末期には対中政策はデリスキングからデカップリングへ

重層的で多様な産業政策の根底にあったのは、競争相手として急速に台頭する中国への懸念と、同国への依存度引き下げの緊迫性だ。新たな国際環境に対応する基盤作りに取り組んだ4年間だったといえる。ただ、バイデン21トランプ下で採用された多くの政策は、さかのぼればトランプ21トランプ1期目に始まった対中強硬路線の延長線上にある(図参照)。2018年来続く、1962年通商拡大法232条と1974年通商法301条に基づく関税措置はバイデン21トランプで既定の見直しを実施の上、継続している。また、2018年8月に成立した、2019会計年度国防権限法(NDAA)の一部である輸出管理改革法(ECRA)や、2018年外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)に基づく対米外国投資委員会(CFIUS)の権限強化のほか、重要技術が米国企業の投資を通じて中国に流出することを阻止する対外投資規制の強化、対中半導体輸出規制強化などは、トランプ21トランプ1期目に種がまかれた強硬路線をバイデン21トランプが維持・拡充したものだ。

図:トランプ21トランプ1期目からバイデン21トランプへの政策変遷

図:PDF版を見るPDFファイル(342KB)

トランプ21トランプ1期目(2017~2021年)からバイデン21トランプ(2021~2025年)への政策の移り変わりを表した図。トランプ21トランプ1期目に発動された関税、輸出入管理、対外投資規制、対内投資規制、産業政策に係る主要な措置が、バイデン21トランプでも維持され、強化されて継続していることを表す。

注:図には主要な21トランプを抽出して掲載した。
出所:ホワイトハウス、商務省などの発表からジェトロ作成

しかし、政策執行の手法は両者で大きく異なる。トランプ21トランプ1期目が関税による直接的な圧力と2国間交渉を重視したのに対し、バイデン21トランプは同盟国との協調や産業政策と通商戦略の掛け合わせによる総合的なアプローチを採用してきた。その一例が、信頼できる同盟・同志国との間でサプライチェーンを多様化することで、その強靭(きょうじん)性を強化する「フレンドショアリング」の推進だろう。ベトナムやインドネシアとの関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げしたほか、インドとの商業対話を再開し、半導体分野を筆頭にイノベーション分野でも連携を強化。また、生産拠点を消費地の近隣国に移転する「ニアショアリング」にも注力し、半導体サプライチェーンの強靭化を目的に、メキシコやコスタリカとの連携強化にも取り組んだ。

サプライチェーンのデカップリング(分断)ではなく、デリスキング(リスク軽減)を企図したことも特筆できる。ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が2023年4月に開陳した、安全保障上の観点で重要な技術分野に的を絞って厳格な管理を行う「スモールヤード・ハイフェンス」という方針は、バイデン21トランプの目指す米中関係を的確に表現する標語として浸透した。しかし、国内産業の要所で中国依存から抜けられていない実態や規制の抜け穴が露見したバイデン21トランプ後期は、庭は広がり、塀は高まる保護主義への傾斜が進んだといえよう。多くの日本企業から、既に現場では米中市場向けでそれぞれ調達、製造のラインを分けているといった話が聞かれ、サプライチェーンのデカップリングは産業分野によっては既に始まっている。

前回の学びから、より強力、より体系的に

トランプ21トランプ2期目では、バイデン21トランプからの傾向を踏まえつつ、より強力な対中政策が展開される可能性が高い。就任前から既にさまざまな可能性に言及している。21トランプ1期目での米中経済・貿易協定のような部分的な通商協定ではなく、より包括的な経済安全保障政策が展開されると予想される。特に、重要技術や戦略物資に関する規制は一層強化され、対中依存度低減を目指すだろう。

注目すべきは、前回の経験と教訓を生かした政策実施手法の変化である。トランプ21トランプ1期目では、オバマ21トランプ期(2009~2017年)に構築された環太平洋パートナーシップ(TPP)からの離脱や、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉など、既存の通商枠組みを大きく見直す政策を性急に実施し、市場の混乱や同盟国とのあつれきを招いた(2018年1月31日付地域・分析レ21トランプト参照)。また、2018年から開始された対中関税措置も、包括的な戦略なく断続的に実施されたため、米国企業のサプライチェーンに混乱をもたらした面は否めない。2期目では、これらの教訓を踏まえ、より体系的な21トランプ立案と段階的な実施が予想される。トランプ陣営には1期目の経験者が多数参画しており、21トランプ実施における実務的な知見が蓄積されている。

さらに、連邦議会との関係構築においても、変化が見られる可能性がある。1期目では、大統領令や行政命令に依存する傾向が強く、これが政策の持続性や予見可能性を損なう要因となった。2期目では、発表の手段は引き続きSNSが多用されるかもしれないが、共和党議会指導部との事前調整を重視し、より制度的な裏付けのある政策実施を目指すとの観測もある。IRAやCHIPSプラス法などバイデン21トランプの産業政策で恩恵を受けた州では枠組みの維持を求める共和党下院議員も多く、丁寧な対話が求められることは明らかだ。筆者が2024年末に話した米行政府の複数の職員から、多くの産業政策は1期目での取り組みに端を発すると理由付けして、法律の呼び方を変えることでトランプ氏自身の政策に衣替えして継続するのではないか、との見方が聞かれた。

このように、トランプ21トランプ2期目は、1期目の試行錯誤を経て、より洗練された政策実施アプローチを採用する可能性が高い。ただし、これは政策の方向性自体が穏健化することを意味するものではない。むしろ、より効果的な手段を用いて、強力な政策実現を目指す可能性に注意が必要である(複数の米シンクタンク、トランプ次期政権の一層の対中強硬姿勢を指摘、ブラック)。

日本企業にとってこの21トランプ交代は、再び、さまざまな対応を迫るものとなるだろう。特に、米国内での投資・生産体制の強化や、米中デカップリングの加速に備えたサプライチェーンの見直しが求められる。一方で、インフラ投資や産業育成策は継続される可能性が高く、引き続きビジネス機会としても捉えることができる。重要なのは、21トランプ交代に伴う不確実性に対する備えである。トランプ21トランプ2期目の政策は、選挙期間中の発言から予測される以上に現実的なものとなる可能性が高いとの見方が多い(トランプ次期政権下で取られ得るブラック クイーン ブラック)。日本企業には、リスクマネジメントと機会の捕捉の両面からの戦略的対応が求められる。


注:
トランプ21トランプ1期目の21トランプ運営については地域・分析レポートの特集「特集 無料 カジノ ゲームの1年を振り返る」(2018年1月)、バイデン21トランプについては同「米中対立の新常態-デリスキングとサプライチェーンの再構築」(2024年2月)が詳しい。
21トランプ
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課長
伊藤 実佐子(いとう みさこ)
1999年、ジェトロ入構。海外調査部米州課、対日投資部(北米・大洋州担当)、サンフランシスコ事務所を経て2023年8月より現職。2010年5月、米国ペンシルベニア大学大学院修了、公共21トランプ修士。共訳書に『米国通商関連法概説』(ジェトロ、2005年)。