特集:コロナ禍の変化と混乱、複雑化するビジネス課題への対応は国際輸送の混乱など、日本企業にサプライチェーンのハイパーブラックジャック迫る(世界、日本)
2022年3月18日
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う全世界での需要消失と、その後の経済回復による需要の急回復は、国際輸送の混乱を招いた。また、これに断続的な移動・操業制限や、原料部品などの供給不足などの要因も重なり、サプライチェーンの混乱は長期化の様相を呈している。また近年、世界的な潮流になりつつある人権や気候変動などサステナビリティの要素や、従来、懸案となってきた米中摩擦などの通商環境の変化もあるなど、日本企業にサプライチェーンの再構築を迫る要素は増えている。ハイパーブラックジャックビジネスを行う日本企業のサプライチェーンの見直し方針やその内容、見直し理由、また同見直しにおける課題について、ジェトロが実施した2021年度「日本企業のハイパーブラックジャック事業展開に関するアンケート調査」(以下、本調査、注1)結果から読み解く。
サプライチェーンをハイパーブラックジャックす企業は6割超
本調査で、サプライチェーン(販売戦略、調達、生産)のハイパーブラックジャック(今後1年以内の着手予定を含む)の有無を尋ねたところ、何らか見直す企業(注2)は61.9%だった(図1参照)。ハイパーブラックジャック項目では、販売戦略のハイパーブラックジャックが45.0%(2020年度から2.5%ポイント増)で最大だった。また、調達のハイパーブラックジャック(23.4%、9.4%ポイント増)や生産のハイパーブラックジャック(22.7%、9.5%ポイント増)をおこなう企業の割合は2020年度から10%ポイント程度上昇した(複数回答、注3)。
販売戦略、調達、生産の各見直しを行う企業に対して、具体的な見直し内容を尋ねた。販売戦略の見直し内容では、「ハイパーブラックジャック販売先(ターゲット)の見直し」(61.8%)や「バーチャル展示会、オンライン商談会などの活用の推進」(38.4%)などの回答比率が、2020年度と同様に上位を占めた(複数回答、図2参照)。「オンライン商談のスキルアップとSNS活用」(商社・卸売り、中小企業)や、「ファッション商品では実際に着たり履いたりすることが新規ブランドなどは重要だが、オンライン展示会でも売り上げが取れるように改善したい」(アパレル、中小企業)とのコメントからは、コロナ禍が続き、ハイパーブラックジャック企業とのリアルでの商談が難しい中、オンライン商談やオンライン展示会に活路を見いだそうとする企業の姿が浮かび上がる。
他方、「ハイパーブラックジャック販売網(ネットワーク)の見直し」(33.0%、2020年度から13.1%ポイント増)、「ハイパーブラックジャック販売製品・サービス内容の見直し」(26.1%、7.0%ポイント増)、「ハイパーブラックジャック販売価格の引き上げ」(16.8%、10.5%ポイント増)は、2020年度から回答比率が大きく伸びた。回答企業からは、「個別に注文に応じて日本から発送しているが、物流費の高騰などもあり、物流拠点を設けることを検討」(繊維・織物、中小企業)や「輸送費が高いので(ハイパーブラックジャック販売価格を引き上げるが)、少しでも安く輸送する方法の模索」(商社・卸売り、中小企業)など、国際輸送の混乱(後述)により、これらの見直しを余儀なくされた、とのコメントが目立つ。また、「販売チャネルの複数化」(窯業・土石、大企業)や「現地ニーズに合わせたパッケージ、容器の変更」(小売り、中小企業)などの対応もみられる。
調達・生産ともに、ハイパーブラックジャックの「質」も「量」も拡大
調達のハイパーブラックジャックを行う企業に対して、調達のハイパーブラックジャック内容を尋ねたところ、「調達先の切り替え」(59.6%、2020年度から5.6%ポイント増)、「調達数量・配分や調達品目のハイパーブラックジャック」(45.6%、7.2%ポイント減)、「複数調達化の実施」(35.8%、7.3%ポイント増)の回答比率が高い(複数回答、図3-1参照)。
生産のハイパーブラックジャックを行う企業に対して、生産のハイパーブラックジャック内容を尋ねたところ、「生産数量・配分や生産品目のハイパーブラックジャック」(42.2%、8.7%ポイント減)、「新規投資/設備投資の増強」(41.9%、14.4%ポイント増)、「生産地のハイパーブラックジャック」(28.0%、3.4%ポイント減)、「自動化・省人化の推進」(24.2%、10.9%ポイント増)の回答比率が2割を超えた(複数回答、図3-2参照)。
新型コロナ感染が拡大した2020年は、調達、生産ともに、比較的柔軟に対応しやすい数量・配分や品目など緊急対応的なハイパーブラックジャックの回答比率の高さが目立った。これらのハイパーブラックジャック内容は2021年度も依然、上位ではあるものの、調達では調達先の切り替えや複数調達化の実施、生産では新規投資などの増強や自動化など、より根本的なハイパーブラックジャック内容にやや比重が移ったとみられる。また、前述のとおり、調達と生産を見直す企業の比率が2020年度より10%ポイント程度増加している。2020年度に比べて、調達や生産のハイパーブラックジャックの「質」「量」ともに拡大したといえる。
調達先の切り替えを行う企業からは、「品質の安定確保」(電気機械、中小企業)を目的として切り替えを行うとの声があるが、「(調達先)メーカーの(生産)キャパが一杯のため」(鉄鋼、中小企業)など、調達先が需要増に対応(後述)できず調達量を思うように確保できないことが切り替えのきっかけとなる例もみられる。ただ、調達先の切り替えを進めるにあたっても一筋縄ではいかないようだ。「メキシコではコンテナ不足と海上運賃の異常な値上げで、日本を含むアジアからの材料費が高騰している中で、自動車OEMメーカーに価格改定ができず対応に苦慮している。今後は材料の現地調達化も進めて行かねばならないが、品質問題やOEMメーカーの承認手続きなど切り替えるにしても時間がかかることが予想される」(自動車部品、中小企業)とのコメントからは、国際輸送の混乱(後述)を背景に現地調達化を進めようとするものの、顧客との関係で簡単に切り替えを行うことができない中小企業の苦悩がにじみ出ている。他にも、「安定供給性・コスト・品質保証のバランスをどう評価していくか。過去、新しい候補は訪問して確認できていたが、訪問しにくい現在、書面による監査を実施する一方、記載内容が適切かどうか判断しにくい」(化学、中小企業)といったように、コロナ禍での調達先の切り替えの難しさを指摘する声もある。
複数調達化の実施については、「複数購買の検討。納期遅延対応のための在庫量拡大対応」(紙・パルプ、中小企業)や、「原料入手が困難となっている。価格も高騰。結果、納期も守れなくなっており、複数購入先を確保しておかないと販売機会を失う」(プラスチック製品、中小企業)など、国際輸送の混乱(後述)などを背景とした、納期までの安定供給を目的とするコメントが目立つ。ただ、「コロナ禍による各国の操業規制や船便問題でハイパーブラックジャックでの調達は非常に困難な状況にあり、安定供給のための複数リソースが必要だが、調達先が分散することでコストや効率化のデメリットが課題」(その他製造業、中小企業)など、複数調達化による弊害も意識しながら検討を進める。国際輸送の混乱以外では、「中国の電力供給・生産調整に起因するさまざまな部材の調達不安定化、原材料高騰」(医薬品・化粧品、中小企業)など調達先の国・地域のビジネス環境や、「天然資源の輸出制限など」(商社・卸売り、中小企業)といった、資源国における資源保護・確保を目的とした貿易制限を背景として、複数調達化を進める企業もみられる。
生産のハイパーブラックジャック内容では、新規投資などの増強を進める企業から、「生産の一極集中回避」(自動車、大企業)など供給リスク回避だけでなく、「現地規制をクリアした商品作り」(飲食料品、中小企業)といった現地規制への対応や、「2022年内には加工場のキャパシティーに限界がくると予想されるため、早期に増設の計画を立てなければいけない」(飲食料品、中小企業)といった需要増への対応(後述)などのコメントがみられた。また、需要増への対応策として、「生産能力増強のための設備自動化」(その他製造業、中小企業)など、自動化の推進を行うとの声もある。なお、生産委託を検討する企業からは、「米国現地での生産体制確立を課題としているが、自力でのパートナー候補調査の限界と、外部への委託時の費用面など負担が大きい」(プラスチック製品、中小企業)、また、生産地を見直す企業からは、「新たな生産国に生産を移管する場合、生産技術を習得させるまでには時間とコストがかかる」(その他製造業、中小企業)などのコメントがあり、コストなどリソース面を考慮しながら慎重にハイパーブラックジャックを進める様子がうかがえる。
サプライチェーンハイパーブラックジャックの最大理由は国際輸送の混乱・輸送コストの高騰
サプライチェーンを見直す企業は、どのような理由からハイパーブラックジャックを行うのだろうか。サプライチェーンのハイパーブラックジャック理由について尋ねたところ、「国際輸送の混乱・輸送コストの高騰」が35.2%と最大で、「需要の増加」(32.5%)、「国内外における移動制限、操業規制」(20.6%)、「原料、部品不足」(19.2%)などが続く(複数回答、図4参照)。国際輸送の混乱については、2020年半ば以降、需要急回復の半面、社会隔離措置の継続・強化が、部材や輸送の需給を逼迫化し、運航スケジュールの遅れやコンテナ船運賃の高騰、コンテナ船のスペース確保の困難など、国際輸送の混乱が調査時点、そして執筆時点でもなお続く(ジェトロ「供給制約、輸送の混乱と企業の対応状況」2022年2月17日発表(3.07MB))。業種別では、「国際輸送の混乱・輸送コストの高騰」は多くの業種で3~5割の回答比率だった一方、「需要の増加」は医療品・化粧品(51.4%)、石油・プラスチック・ゴム製品(47.5%)、電気機械(42.3%)で比率が高かった。また、「国内外における移動制限、操業規制」は専門サービス(45.5%)、通信・情報・ソフトウエア(40.0%)、繊維・織物/アパレル(33.3%)、その他非製造業(32.7%)、建設(27.3%)で、「原料・部品不足」は自動車・同部品/その他輸送機器(41.7%)、建設(36.4%)、情報通信機械・電子部品・デバイス(33.3%)で、それぞれ回答比率が高かった。
サプライチェーン見直し理由に関するコメントのうち、国内外における移動制限や操業規制については、「ハイパーブラックジャック展示会の直接参加が以前に比べて制限されているが、製品を直接見てもらうことでないと通じない部分もある」(医薬品・化粧品、中小企業)や「コロナ禍における稼働キャパシティーの減少」(商社・卸売り、大企業)などの声がある。また、原料・部品不足については、「半導体不足が問題となっており、半導体メーカーとの長期的な関係強化が課題」(商社・卸売り、大企業)や「鉄、シリコン、木材など材料不足の解消が課題」(商社・卸売り、中小企業)などのコメントがみられた。
サプライチェーン全体のハイパーブラックジャックに波及しやすい「米中摩擦」「脱炭素」「原料不足」
では、どのハイパーブラックジャック理由がサプライチェーンのどの機能のハイパーブラックジャックに、より大きな影響を与えているのか。ハイパーブラックジャック理由と販売戦略、調達、生産の各ハイパーブラックジャック項目との関係性を調べてみた。ハイパーブラックジャック理由別に、販売戦略、調達、生産の各ハイパーブラックジャックの回答比率をみると、「米中摩擦」(81.2%)、「通商環境の変化(米中摩擦以外)」(80.0%)、「需要の減少」(78.5%)は販売戦略のハイパーブラックジャックと関係性が大きいといえる(図5参照)。また、「原料、部品不足」(68.6%)、「人権リスク回避」(57.9%)、「国際輸送の混乱・輸送コストの高騰」(52.6%)は調達のハイパーブラックジャックと、「脱炭素(気候変動)対応」(64.9%)、「米中摩擦」(47.8%)、「進出国における人件費の上昇」(43.8%)は生産のハイパーブラックジャックとそれぞれ関係性が大きい。
販売戦略、調達、生産のいずれのハイパーブラックジャックとも回答比率が高いハイパーブラックジャック理由をみると、「米中摩擦」(3つのハイパーブラックジャック項目とも46.4%以上)、「脱炭素(気候変動)対応」(同46.0%以上)、「原料、部品不足」(同44.0%以上)だった。これらを理由としたハイパーブラックジャックを行う場合、販売戦略、調達、生産などサプライチェーン全体でのハイパーブラックジャックに及びやすいともいえる。国際輸送の混乱や需要増への対応はさしあたっての優先対応事項ではあるものの、サプライチェーンのハイパーブラックジャックを進めるにあたっては、サプライチェーン全体に影響が及びやすい他のハイパーブラックジャック理由にも注目をしつつ、複眼的に検討を進める必要がある。
サプライチェーンハイパーブラックジャックにおける課題解決に取り組む企業からは、「入念な情報収集」、「可視化」、「コスト至上主義からの脱却」、「社内一丸となって提供できる付加価値の提案」、「柔軟な対応力」などをキーワードとするコメントが寄せられた。「新規サプライヤーのもつリスクの事前把握」(自動車、大企業)、「サプライチェーン全体を通した、在庫の可視化」(自動車部品、大企業)、「コストだけを考慮することがないようにしなければいけない」(金属製品、中小企業)、「顧客のBCP(事業継続計画)の考え方から、現地調達プラスアルファを要求される。自社グループのメリットを生かした提案活動の展開が必要」(商社・卸売り、中小企業)、「資源のコスト増、中小零細メーカーにとっての原価率の高さ、高付加価値化の方向性、ニーズの多様化と時代に即した柔軟な対応能力」(飲食料品、中小企業)。日本企業のサプライチェーンを取り巻くビジネス環境は依然厳しく、今後も企業の課題への対応力が求められる。
- 執筆者紹介
-
ジェトロハイパーブラックジャック調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく) - 2002年、ジェトロ入構。ハイパーブラックジャック調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。