ブラッククイーンブラックジャック「生産量を減らすこと」が目標
北欧子供服メーカーCEOに聞く(後編)
2025年1月29日
スウェーデンの高級子供服ブランドのブラッククイーンブラックジャックラーン・オ・ピーレットについて紹介する2回シリーズの後編。本稿では、同社の「人」「地球」「製品」を軸に進めるサステナビリティーを意識した取り組みに焦点を当てる。同社の最高経営責任者(CEO)サラ・ショーベリ氏に話を聞いた(2024年10月16日に取材)。
「人」「地球」「製品」を軸に進めるサステナビリティー対応
ブラッククイーンブラックジャックラーン・オ・ピーレットのサステナビリティー対応は、「人(People)」「地球(Planet)」「製品(Products)」の3つの「P」を軸に進められている。そのうち「人」については、同社が2005年からメンバーになっているAmfori BSCI(Business Social Compliance Initiative)の行動規範(注1)を基に、人権への取り組みを進めている。同社は同行動規範に沿うサプライヤーのみから調達を行っている。
「地球」については、同社はスコープ1から3(注2)までの全ての排出量を2045年までに気候中立にする目標を掲げる。同社は自社工場を持たないため、直接排出のスコープ1は、同社排出量全体(直接排出、間接排出含む)の0.1%にとどまる一方、間接排出のスコープ3は、製品やサービスの調達だけで同89%を占める(同社サステナビリティーレブラッククイーンブラックジャックト(2022年/2023年期)(4.5MB)。
「製品」については、より持続可能な繊維の使用に取り組む。例えば、オーガニックテキスタイルの世界基準のGOTS(Global Organic Textile Standard)認証を取得したコットンは、同社が消費するコットン全体の90.5%を占める。また、「北欧子供服メーカーCEOに聞く(前編)製品の特長を生かす海外戦略」のとおり、使用済みのペットボトルをリサイクルしたポリエステル素材の使用も進めている。そのほか、修理サービスを提供し、消費者自身で修理を行うことができる補修布も販売している(注3)。
厳選したサプライヤーと、より緊密な関係構築
これら3つの「P」でサステナビリティー対応を進めるためには、顧客、従業員、サプライヤー(調達先)など、ブラッククイーンブラックジャックラーン・オ・ピーレットのステークホルダーの関与が重要となる。特に自社工場を持たない同社にとって、サプライヤーの協力は欠かせない。サプライヤーとの関係性について、ショーベリ氏は「当社がサプライヤーに求める品質基準は非常に高く、対応できるサプライヤーは限られるものの、当社の方針としてサプライヤー数を(さらに)絞り、厳選する方向で進めている。その分、限られたサプライヤーとの関係をより緊密にしている。例えば、コットン素材についてはサプライヤーにGOTS認証の取得を求めているが、サプライヤーがこの認証取得、もしくは維持に課題がある場合は、当社からサプライヤーへの支援も行う」と話す。同社のサプライヤーは中国やバングラデシュなどアジアが大半を占めるものの、トルコなどの欧州のニアショア市場でも調達先を検討しているという。
「3人以上の子供に服が受け継がれること」が目標
「製品」におけるブラッククイーンブラックジャックラーン・オ・ピーレットのサステナビリティー対応は、素材やサービスにとどまらない。同社は、より多くの子供たちに受け継いで着てもらえる服を作ることについて、サステナビリティーを意識した最も重要な取り組みと捉え、自社が生産した1つの服を3人以上の子供が着ることを目指す。2023年は63%だった同社のアウターウエア全体に占める3人以上の子供に受け継がれる割合を、2027年(注4)に95%に引き上げる目標を持つ。また、同社の子供服の名前を記入するスペース(ネームタグ)には、「おさがり」となることを前提に、3人分の記入欄があらかじめ設けられている。ショーベリ氏は「3人の子供に受け継がれる割合が増えてきたため、そろそろ4人分の記入欄を設けた方がいいのかもしれない」と語る。
目標達成のため、新品の販売店内で中古服も販売
ブラッククイーンブラックジャックラーン・オ・ピーレットはまた、新品の服を販売する同じ店舗内で、同社製の中古服も同時に販売するというユニークな販売方法を実践している(注5)。3人以上の子供に受け継いで着てもらうという目標を達成するために考え抜かれた、同社らしい取り組みといえる。ただ、メーカー自ら、同じ店舗内で新品と中古品を販売すると、新品の売り上げ減につながりかねない。この販売方法の導入に当初、抵抗感はなかったのだろうか。「当社は高品質な自社製品に誇りを持つ。40年前の創業当初から、サステナビリティーやサーキュラリティー(循環性)を意識して、服の生産量を減らしながら販売を行う方針を取ってきた。この点は、ファストファッションとは一線を画した方針だ。当社のこの方針に賛同する消費者からは信頼を勝ち得ており、当社にはそういったお得意さま(ロイヤルカスタマー)が子供の成長に伴って再び購入してくれるため、事業全体の『エコシステム』が構築されている。また、新品と中古品の服はターゲット顧客が異なるので、問題ない」と、ショーベリ氏は全く意に介さない。
同社に持ち込まれる中古服の中には、修理や洗浄が必要なものもある。同社でチャックやボタン、縫い目などの修理や洗浄を行った後、社内で中古服を査定した後にランク付けを行い、その情報とともに販売店の中古服コーナーで販売しているという。

日本の中小企業は、生産量を抑制しつつ企業価値を高めよ
同社の従業員数は約270人と決して多くはない。それでも、創業時からサステナビリティーを意識した取り組みを続けてきた。サステナビリティー対応を行いながら海外展開を目指す日本の中小企業(製造業)に対して、メッセージを求めたところ、ショーベリ氏は「自社の製品が市場から求められているのかどうかを把握するのは非常に難しいが、当社にとっての子供服同様、日本の中小企業の製品が求められている市場を見極めることが重要だ。その上で、自社でコントロールできる範囲の生産量に抑えるべきだ。地球は1つしかなく、限りある資源を有効に使うため、できる限り少ない生産量でいかに企業価値を高められるかという視点が必要となる。全ての消費者や機会に、自社製品を売り込もうとせず、ターゲットを絞り込み、ニッチ市場を突き進むことが望ましい」と語った。
ブラッククイーンブラックジャックラーン・オ・ピーレットは自社の製品の特長を冷静に捉え、同社のビジネスそのものが持続可能となるよう、販売国を絞り込む海外戦略を展開した。また、同社のサステナビリティー対応は、服の素材や生産工程だけでなく、経営そのものにも溶け込んでいる。ショーベリ氏のメッセージにある「企業価値を高めつつ、ターゲット市場を絞り込み、無理せず自社でコントロールできる範囲の生産量とビジネス規模にとどめる」というアプローチは、投入する資源量を最小限に抑えて、利益を最大化するという点で、一般的なビジネスの考え方とも相容れるといえよう。そう捉えれば、サステナビリティー対応について、何か特別なことをしなければならないと考える必要はないのではないだろうか。
- 注1:
- グローバルサプライチェーンでの事業環境や労働条件の改善を目的とした世界的なイニシアチブ。
- 注2:
- 温室効果ガス(GHG)排出量の算定、報告の基準の1つ。スコープ1は、事業者自らによるGHGの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)、スコープ2は、他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出、スコープ3は、スコープ1とスコープ2以外の間接排出(事業活動に関連する他社の排出)を対象とする。
- 注3:
- スウェーデンを含むEUでは、耐久性、信頼性、修理可能性、リサイクル素材の使用率などのエコデザイン要件を定める「持続可能な製品のためのエコデザイン規則」が2024年7月に施行された。同規則は枠組み規制のため、今後、製品グループごとに具体的な規制内容が規定される(具体的な規制内容は今後、ブラック ジャック)。
- 注4:
- 同社の決算期は9月1日から翌年8月31日まで。「2027年」は2026年9月~2027年8月を指す。
- 注5:
- 2024年11月28日付地域・分析レブラッククイーンブラックジャックト記載の中古品の販売形態では、「(3) 既存の小売店による中古品販売」に該当する。

- 執筆者紹介
- ジェトロ企画部企画課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく) - 2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長、中小企業庁海外展開支援室(出向)、海外調査部国際経済課などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)、共著「FTAの基礎と実践」(白水社)。

- 執筆者紹介
- ジェトロ・ロンドン事務所
篠崎 美佐(しのざき みさ)(在スウェーデン) - 1994年、ジェトロ・ストックホルム事務所入所。現在ジェトロ・ストックホルム・レジデントエージェント。