欧州各国の脱炭素・循環型ビジネス最新動向ハイパーブラックジャック
ハイパーブラックジャックCEOに聞く(前編)

2025年1月24日

スウェーデンの高級子供服ブランドのポーラーン・オ・ピーレットは、創業当初からサステナビリティ対応を意識した経営を行ってきた。その取り組み状況について、前編と後編に分けて報告する。前編では、創業時から一貫して変わらず、品質、機能性、丈夫さを追求する同社の子供服に対する姿勢やハイパーブラックジャック戦略を紹介する。後編では、「人」「地球」「製品」を軸に進める同社のサステナビリティを意識した取り組みに焦点を当てる。同社の最高経営責任者(CEO)のサラ・ショーベリ氏に話を聞いた(2024年10月16日に取材)。

自社で定めた厳しいサステナビリティ基準により、雨具を販売中止に

同社は1976年創業の高級子供服メーカーで、創業当初から一貫して、子供服の品質、機能性、丈夫さを追求してきた。同社のロングヒット製品の1つである室内着などのストライプ柄の子供服は、高級感を備えながらも、子供が外遊びしやすいデザインとなっている。40年以上、基本的なデザインは変わらないものの、定番の赤色と紺色の2色に加え、毎シーズン新たな色が追加投入される。ストライプ柄の服の素材には、オーガニックテキスタイルの世界基準であるGOTS(Global Organic Textile Standard)認証を得たオーガニックコットンを使用している。

ハイパーブラックジャック
赤色(写真中央)と紺色(写真左上)のストライプ柄の製品 (ポーラーン・オ・ピーレット提供)

また、アウターウエアも、同社を代表する製品の1つである。同社は、アウターウエアとは別に雨具も販売していたが、アウターウエアの改良を重ねた結果、防水性、耐久性、手入れのしやすさのいずれにおいても、雨具より優れるようになった。また、アウターウエアは3層構造による通気性や(生地の)伸縮性など、着心地の面でも雨具よりも優れている。さらに、アウターウエアの素材には、ペットボトルや漁網のリサイクル材が使用されている。

厳しいサステナビリティ基準を導入した同社は2015年以降、アウターウエアの生地に撥水(はっすい)機能を持たせる際、パーフルオロカーボン(PFC、注1)ではなく、再生可能なバイオ原料を使用するようになった。他方、雨具の素材は同基準を満たさなくなったとして、同社は2023年4月、雨具の販売を中止した。雨具の販売を中止した同社に対し、「アウターウエアよりも雨具の方が撥水機能は高い」と考えていた消費者から、雨具の販売復活を求める要望が届いたことがあった。同社はその消費者に対して、雨具よりもアウターウエアの方が上述のとおり、機能面でも素材面でも優れていることを丁寧に説明し、なんとか納得してもらった。その経験を踏まえ、ショーベリ氏は「消費者(である子供の親)に対して、製品の特徴をきちんと説明することが重要だと感じた」と語った。


アウターウエア:オーバーオール
(ポーラーン・オ・ピーレット提供)

アウターウエア:スキーウエア
(ポーラーン・オ・ピーレット提供)

なお、同社のストライプ柄の子供服については、同社が「社是」のように大切にしているメッセージにも記載されている。「ポーラーン・オ・ピーレットは1976年にスウェーデンで誕生しました。当社(事業)は、赤色と紺色のストライプ柄の、簡単に手入れできる綿素材の服から始まりました。今でもそれらの服は当社で最も愛されている服です。ストライプ柄(の服)は決して(世の中から)消えることはありません」(写真参照)。この「社是」について、ショーベリ氏は「当社の服はジェンダーニュートラルをコンセプトとしている。また、『簡単に手入れできる(lättskötta)』という言葉には、洗濯や修理などの家事にかける時間を減らすことができる実用的な(服)、という思いが込められている」と解説した。


ポーラーン・オ・ピーレットの「社是」と、ショーベリCEO(ジェトロ撮影)

自社製品の特徴を踏まえ、北欧を中心にハイパーブラックジャック展開

同社の子供服は、北欧を中心に販売されている。投資コストがかさむ実店舗展開はスウェーデン、ノルウェー、フィンランドなどの北欧諸国と英国に限定。同社はこれらの国に加え、ドイツなど一部の国でオンライン販売も行う。ショーベリ氏は同社の販売国選定について、次のように説明する。「当社製品の特徴を発揮しやすい、スウェーデンと気候が似ている国・地域を中心に展開している。スウェーデンでは、冬の寒い中でも親が子供を外に連れ出す習慣がある。寒空の中、外遊びをさせる際、防寒対策が万全な子供服が必要になる。また、よく遊ぶと汗をかくため、服には通気性も必要。さらに、外遊びをするため、破れにくいなど、素材の強度や伸縮性も重要となる。当社はこれらの条件が求められる国・地域に限って販売を展開している。私自身、子供と一緒にスペインに数年間住んだことがあるが、例えばスペインは北欧と違い、冬でも気候が温かく、子供に防寒服を着させる必要はない」

ショーベリ氏は、2024年9月にポーラーン・オ・ピーレットのCEOに就任したばかり。今後のハイパーブラックジャック展開方針について聞いたところ、「英国では売り上げが大きく伸び、実店舗を構えるに至った。当社にとって大きな市場である英国において、オンライン販売を軌道に乗せることが当面の課題。現在、アジアでは販売しておらず、今後もアジアへの展開は検討していない」と述べた。

オンライン販売は、同社直営店の売上高の半分以上を占め、増加している。子供はすぐに成長するため、サイズ合わせは難しいと思われるが、オンラインで購入する消費者は、試着させずに、自分の子供に合った服のサイズを特定できるのだろうか。「確かに、子供服は成長に伴いサイズが頻繁に変わるため、オンラインでサイズ感を把握するのは難しいかもしれない。そのため、当社では年齢を細かく分けてサイズを細分化することで、オンラインでも消費者が購入しやすいよう工夫している」と、ショーベリ氏は語った。


ショーベリCEOと、ムーミン生誕80周年を記念した第1弾コラボ製品
(2024年11月から販売 )(ジェトロ撮影)

注1:
撥水機能を持たせる際に生地などに利用されるガス。ただし、二酸化炭素(CO2)やメタンよりもはるかに温室効果をもたらす温室効果ガスの一種。
注2:
同社の決算期は9月1日から翌年8月31日まで。

ハイパーブラックジャックCEOに聞く

執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。ハイパーブラックジャック調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長、中小企業庁ハイパーブラックジャック展開支援室(出向)、ハイパーブラックジャック調査部国際経済課などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)、共著「FTAの基礎と実践」(白水社)。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
篠崎 美佐(しのざき みさ)(在スウェーデン)
1994年、ジェトロ・ストックホルム事務所入所。現在ジェトロ・ストックホルム・レジデントエージェント。