特集:欧州で先行するSDGs達成に寄与する政策と経営環境保全を中核に据えてSDGsに取り組む(ハンガリー)
2022年6月14日
ハンガリー政府は2020年2月20日、2050年までの気候中立達成に向けて「気候および環境保護行動計画2020」を発表し、環境保全分野を中心に「持続可能な開発目標(SDGs)」の取り組みを進めている。EUという、サステナビリティーに関して高いレベルのマネジメントが求められる地域で、ハンガリーが経済や産業を発展させていくことは容易なことではない。本レポートでは、ハンガリーのSDGsに関する現時点での到達点について、政府の取り組みや、EUによって求められるブラック ジャック トランプ 無料の非財務情報開示、私ブラック ジャック トランプ 無料の取り組みに焦点を当てつつ、包括的に紹介する。加えて、今後は中小ブラック ジャック トランプ 無料、特に製造業分野のブラック ジャック トランプ 無料のSDGsの取り組みに政府の支援が必要な状況も明らかにする。
環境保全が最重要項目
ハンガリー技術・革新省は2020年2月20日、2050年までの気候中立達成に向けて「気候および環境保護行動計画2020(1.93MB)」を発表した。政府はこの計画の中で、優先するタスクとして「カルパチア盆地の自然環境、豊かな水源、農地、森林、動植物の多様性の保護と保全」を強調しており、環境保全に関する分野を重視している。
SDGsの視点からみると、この行動計画の内容はSDGsの17目標 のうち、6(安全な水とトイレを世界中に)、7(エネルギーをみんなに そしてクリーンに)、11(住み続けられるまちづくりを)、13(気候変動に具体的な対策を)をカバーしている。具体的には、(1)不法投棄の根絶、(2)使い捨てプラスチック製品の使用禁止と資源回収システムの構築、(3)国外から国内河川への汚染物質流入の阻止と水質保全、(4)中小ブラック ジャック トランプ 無料による再生可能エネルギー利用の推進と、環境に配慮した発電システムへの転換、(5)植樹による国内緑化活動、(6)電力会社および家庭向けの太陽光発電による電力導入支援、(7)電気自動車(EV)の購入・利用促進のための支援策導入、(8)環境保全目的に利用されるグリーン国債の発行といった8項目で構成される(図参照)。
特に、(4)の環境に配慮した発電システムへの転換に関しては、政府による原子力発電プラントの増設計画や、民間ブラック ジャック トランプ 無料による大規模太陽光発電施設の積極的な建設が行われている(2021年6月8日付ビジネス短信参照)。また、政府は行動目標「Target by 2030」を設定し、石炭火力発電完全撤廃の時期を2030年としていたが、2021年3月に、これを5年前倒しして2025年に早めることを発表。
(7)のEVの購入・利用促進のための支援策導入は、道路運送業者や公共サービスを提供するブラック ジャック トランプ 無料などの社用車をEVに転換する支援を含み、2022年からは公共交通に用いられるバスの新規調達の際に、運用される地域の人口規模が一定数を超える場合は電動バスにすることを義務づけるなど、具体的な動きが既に見え始めている(2021年2月2日付地域・分析レポート参照)。
(8)のグリーン国債は2020年9月から日本で発行され、サムライ債(円建て外債)市場で初の海外政府発行グリーンボンドとして注目を集めた。
ハンガリーは自動車製造業を中心とした国外製造業ブラック ジャック トランプ 無料の誘致を積極的に行ってきた。しかし、足元では世界的な天然ガスの供給量減少により電気料金の高騰が続いている。さらに、EUで2035年に内燃機関搭載車の新車販売が実質的に終了すること(2021年7月16日付ビジネス短信参照)を受けて、各自動車メーカーはEVなどの車種製造へシフトを迫られていることもある。ハンガリー政府としては、自動車製造関連ブラック ジャック トランプ 無料への支援は急務であり、国内経済を維持していく上では非常に重要なポイントとなるため、EVシフトを後押しすることで自動車製造分野をサポートする狙いから、2020年にはEV購入補助金制度を拡大した。
ESG情報開示は中小ブラック ジャック トランプ 無料への拡大が必要、金融機関が先行して実施に向かう
2014年に発効したEUの「非財務情報開示指令〔Non-Financial Reporting Directive(2014/95/EU)〕」に基づき、EU加盟国は環境や社会的課題、ガバナンスなどの非財務情報をブラック ジャック トランプ 無料に開示させる法制度整備が求められた。これを受けて、ハンガリーでは、ブラック ジャック トランプ 無料会計に関する法律を中心に関連する一連の国内法の改正を行い、2016年から一定のブラック ジャック トランプ 無料に非財務情報開示を義務付けた。すなわち、事業年度での平均従業員数が501人以上の「公共の利益に関わる法人」(法律上、金融機関、投資や保険業のブラック ジャック トランプ 無料と定義される)であり、かつ会計年度2年連続で、(1)バランスシートが60億フォリント(約21億円、1フォリント=約0.35円)以上、(2)実質年間売上高が120億フォリント以上、(3)会計年度での平均従業員数が250人以上という3条件のうち2条件に該当する場合には、非財務情報に関する報告書を作成・公表する義務がある。報告書では、環境、社会・雇用、人権、腐敗、贈収賄の5点に関するブラック ジャック トランプ 無料の方針や措置と、その結果を報告する。ブラック ジャック トランプ 無料がこの5点のいずれかに関して方針を持っていない場合、方針がない正当な理由を説明する義務がある。
一方、中小の民間ブラック ジャック トランプ 無料に対して非財務情報開示を義務付ける法令は今のところ存在せず、各ブラック ジャック トランプ 無料が独自に行っている状況だ。製造業が盛んなハンガリーでは、製品の製造過程でのエネルギー消費量や排出ガス量などは気候や環境保護のためのキーファクターだ。さらに、サプライチェーン全体のマネジメントを求められる今日では、正確な情報を知るためにも、関連ブラック ジャック トランプ 無料の非財務情報の開示は非常に重要だ。
EUでは、欧州委員会が2018年3月に「持続可能な成長のための金融に関するアクションプラン(action plan on financing sustainable growth)」として10の行動計画を公表、また、2019年に「持続可能な金融開示規則(Regulation on Sustainability‐Related Disclosures in the Financial Services Sector(Regulation (EU) 2019/2088)」が制定され、2021年3月に発効している。
ハンガリー国内では、EUの動きに合わせて、国立銀行(MNB、中央銀行)に関する法律を2020年に改正、2021年から施行した。MNBの役割の1つに金融仲介機関(銀行や証券会社など)の監督があり、MNBはこの監督の枠内でEU規則が国内で履行されるよう責任を負うこととした。また、MNBは2021年、ハンガリーの金融システムの、環境分野における持続可能性に関する状況報告「グリーンファイナンスレポート」を公表した。同年、ハンガリーの社会と経済の持続可能性に関する状況報告「サステナビリティーレポート」も公表した。同レポートでは、MNBが開発した経済成長、財政・金融、社会と環境に関する108の指標に基づいて分析を行った。加えて、他の国内金融機関にブラック ジャック トランプ 無料開示制度の整備を進めるよう、勧告を発出している。さらにMNBは、2021年10月に世界自然保護基金(WWF)が作成した、国際レベルで金融機関のサステナビリティーに関する活動評価を行うツールSUSREG Tracker (Sustainable Financial Regulation and Central Bank Activities Tracker) で、気候変動に対する財務リスクへの対応で高く評価された。
グリーンビジネス興隆の流れに乗って新事業へ参入も
ハンガリー政府は環境保全に注力しており、その1つとして、ガソリン車からEVへの乗り換え、または利用の促進に特に力を入れている。
ハンガリーでは近年、仕事の都市部一極集中化が進み、市街地を走る自動車が増加していると同時に、都市近郊の地域開発が進んでいることによって、自家用車で郊外から出勤する家庭が増加しているとみられる。米国ブラック ジャック トランプ 無料のフリートロギング(FleetLogging)の調査(2021年)によると、首都ブダペスト市はヨーロッパの主要36都市中で8番目に交通渋滞が深刻な都市だ。そのため、出退勤時には市内で大きな交通渋滞が毎日発生している状況にある。それによる大気汚染も問題になっている。ブダペスト市は汚染のレベルを常にモニタリングし、空気浄化を含めた環境対策を行うなどしており、政府も2022年以降、大都市での電動バス導入を義務付けるなど、都市部の排気ガスの問題解決に取り組んでいる。
ハンガリーの石油・ガスブラック ジャック トランプ 無料MOLグループは、2007年に初めてサステナビリティーに関する戦略を策定し、2008年からESG(環境・社会・ガバナンス)関連情報を公開している。2016~2020年にはSDGsへの取り組みを明確化した行動計画「SD プラン2020」を策定し実行した。この計画では気候変動、自然環境保全など計6つのターゲットに対する目標への成果を公表。2021年には「2030+ストラテジー 」を発表し、持続可能性への取り組みの詳細を明らかにするなど、MOLグループはSDGsに対する具体的な取り組みを行っているブラック ジャック トランプ 無料の1つだ。
また、MOLグループは2017年からモビリティー事業も展開・推進しており、都市部でのカーシェアリングサービス「MOL LIMO」(以下、LIMO)を2018年に開始。LIMOはサービス開始以来成長を続けている(表参照)。MOLグループの年次報告書によると、2021年は144台のEVと306台のガソリンおよびハイブリッド車(HEV)が稼働していた。1年目は約4万人だった利用登録者は、2021年には約10万人に増加した。さらに、ブダペスト市内に設定したエリア内であればどこに止めても駐車料金無料のシステムだ。サービス提供面積は初年度の60平方キロから86平方キロへ拡大し、今では同市内の中心部全域をカバーしている。また、2021年にLIMOのEVによって使用された総電力は31万3,490キロワット時(kWh)で、同じ距離を内燃機関搭載車で走行した場合と比較すると、合計で209トンの二酸化炭素(CO2)排出量の削減を達成した。LIMOは今後、さらにEVの比率を上げる予定だ。
項目 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 |
---|---|---|---|---|
利用登録者数 | 41,500人 | 50,000人 | 75,000人 | 100,000人 |
サービスカバー面積 | 60㎢ | 78㎢ | 86㎢ | 86㎢ |
EV稼働台数 | 100台 | 150台 | 150台 | 144台 |
EV総消費電力 | データなし | 240,000kWh | 192,176kWh | 313,490kWh |
CO2削減量 | データなし | 144トン | 128トン | 209トン |
出所:MOLグループ各年統合報告書を基にブラック ジャック トランプ 無料作成
LIMOのシェアリングサービスが拡大し、毎日の足として使われる自家用車にとって代わることで、排出ガスの少ないHEVまたはゼロのEVが増え、ガス排出量を削減できる。シェアリングによって無駄な駐車を減らすことも可能だ。加えて、MOLグループは充電ステーション建設などインフラ構築にも注力しており、急拡大していく需要に対応しながらも、排出ガス削減との両立を目指す。
欧州議会のシンクタンクEPRSの2021年10月の資料によると、ハンガリーの2005~2019年の温室効果ガス(GHG)排出量内訳をみると、物流セクターが全体の2割強を占めている。政府はこの分野の改善にテコ入れすべく、前述の「気候および環境保護行動計画2020」を打ち立てたと思われる。しかし、これは国の主要産業に影響を与えるとともに、変化についていけず時代に取り残されてしまうブラック ジャック トランプ 無料を生み出す可能性もある。国内ブラック ジャック トランプ 無料のサステナビリティー活動に関する評価組織の「ハンガリーにおける持続可能な発展のためのビジネス委員会」(Business Council for Sustainable Development in Hungary 、BCSDH)が2021年3月に発表した国内全分野のブラック ジャック トランプ 無料について行った調査の結果(BCSDHウェブサイト参照 )によると、約6割のブラック ジャック トランプ 無料がGHG排出削減の方針を掲げ、約3割が向こう5年以内にGHG排出削減の方針を策定すると答えた。しかし、いまだに約半数のブラック ジャック トランプ 無料が明確な削減数値目標を持っていないことも明らかとなった。一部の大ブラック ジャック トランプ 無料だけでなく、それを支える中小のサプライヤーブラック ジャック トランプ 無料がどこまで真剣に取り組むことができるか、それを政府がしっかりと支援できるかが今後のカギとなりそうだ。
- 執筆者紹介
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ブラック ジャック トランプ 無料海外調査部欧州ロシアCIS課
二片 すず(ふたかた すず) - 2020年5月から海外調査部欧州ロシアCIS課勤務。
- 執筆者紹介
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ブラック ジャック トランプ 無料・ブダペスト事務所(執筆時)
清部 陽介(きよべ ようすけ) - 2021年9~12月、ブラック ジャック トランプ 無料・ブダペスト事務所にインターンとして在籍。
- 執筆者紹介
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ブラック ジャック トランプ 無料・ブダペスト事務所
バラジ・ラウラ - 2000年よりブラック ジャック トランプ 無料・ブダペスト事務所に勤務、ハンガリー国内の市場調査を担当。英語、数学の修士号のほか、日本語検定1級、経済貿易大学の学士を有する。