金融政策、インフレ抑制を最優先
アルゼンチン新ブラック ジャック 勝ち 方の改革(1)

ブラック ジャック 勝ち 方9月4日

1971年にノーベル経済学賞を受賞した、米国の経済学者サイモン・クズネッツ氏は、「世界には4つの国しかない。先進国と発展途上国、そして日本とアルゼンチン」と語っている。戦後復興で先進国の仲間入りをした日本と、かつて世界第5位の経済大国に上り詰めたアルゼンチンの凋落(ちょうらく)が対比された。

そのアルゼンチンで、リバタリズムを標榜(ひょうぼう)するハビエル・ミレイ氏が大統領選挙に勝利。2023年12月に大統領に就任した。同ブラック ジャック 勝ち 方は、過去何度も失敗したアルゼンチン経済再生に着手した。

ミレイブラック ジャック 勝ち 方下では、単月ベースで2023年12月末に36億3,100万ドルのマイナスだった財政収支が2024年1月以降プラスに転じ、5月には13億1,700万ドルの黒字を達成した。2023年12月に25.5%に達した消費者物価指数月間上昇率は、2024年5月に4.2%に低下した。その結果、中央銀行は、政策金利を2023年12月の126%から2024年5月までに40%に段階的に引き下げた。2024年上半期の貿易収支も、輸入の大幅減と好調な一次産品輸出で、前年同期や2023年通年の赤字から一転して黒字化した。議会では、ミレイブラック ジャック 勝ち 方が提出した経済・財政・規制改革項目を包括的にまとめたオムニバス法案を2023年12月に提出。2024年6月28日に議会可決にこぎつけた。

一見、多大な成果を上げたように見えるミレイブラック ジャック 勝ち 方だが、GDP成長率の低下や失業率の上昇など痛みを伴っており、本格的な改革・成長軌道への道程はこれからだ。ブラック ジャック 勝ち 方与党少数派のミレイブラック ジャック 勝ち 方がなぜ急ピッチな経済改革を進められるのか。その要因の1つは、ミレイブラック ジャック 勝ち 方と類似した志を持って2015年12月からアルゼンチン経済の再生に取り組んだマウリシオ・マクリ中道右派ブラック ジャック 勝ち 方の経験に学んだことであることが分かった。本稿では3本の柱、「金融政策」「財政」「成長戦略」に焦点を充て、3回シリーズでミレイブラック ジャック 勝ち 方の政策をマクリブラック ジャック 勝ち 方と比較・考察する。

ミレイブラック ジャック 勝ち 方が掲げる理想:リバタリズムとは

ミレイ大統領が標榜するリバタリズムは、個人的な自由、経済的な自由の双方を重視する。ペロン主義(左派ナショナリズム・ポピュリズム)やペロン主義から派生したキルチネリズム(左派ポピュリズム)に基づく過去のアルゼンチンのブラック ジャック 勝ち 方による統制経済とは正反対の経済路線となる。リバタリズムは、中道右派で2015年12月から開放経済を推し進め失敗したマクリブラック ジャック 勝ち 方よりもはるかに徹底しているが、自由・開放路線という意味では似通っている。

ミレイブラック ジャック 勝ち 方、マクリブラック ジャック 勝ち 方、目的は同じでも異なるインフレ抑制手法

これまで両ブラック ジャック 勝ち 方が推し進めたアルゼンチン経済改革の第1の柱は、大胆な内容を含む金融政策だ。その目的は双方とも、インフレを管理して経済を安定化し、内外の投資回復を目指すもの。双方とも一定の成果を上げているが、その手法は全く異なっている。

マクリブラック ジャック 勝ち 方時の金融政策は、規制緩和による外国との資本取引活性化に主眼を置いているように見える。中央銀行は、インフレ率を考慮してペソを一定割合で段階的に下落させるクローリング・ペッグから変動相場制に移行し、過大評価だったペソを下落させた(表1参照)。急激なペソ下落によるインフレ上昇は為替コントロールを行わず金利を大幅に引き上げることで、景気抑制によるインフレ抑制と内外金利差拡大により自国通貨ペソの下落を防いだ。さらに対外債務返済合意でIMFとの関係改善と国際金融市場復帰による国債発行を再開した。これにより外貨準備が積み上がり中銀のバランスシートが改善し、金利を段階的に引き下げることができるようになった。

表1:ミレイブラック ジャック 勝ち 方とマクリブラック ジャック 勝ち 方時の金融政策経緯
項目 内容
マクリブラック ジャック 勝ち 方(2015年12月10日~2019年12月9日) 大胆な金融政策(金融規制緩和、国際金融市場への復帰、インフレ防止)
  • (2015年12月)ペソの過大評価・二重相場を解消すべく変動相場制に移行(34%ペソ下落)。中国人民銀行と通貨スワップ協定による保有人民元(31億ドル)ドル交換で合意。ドル建て中銀債を発行して輸入債務に置き換え(想定の20%のみ)。50億ドルのリバースレポ取引(債券担保による資金借り入れ)で外準積み増し。
  • (2016年4月)外債務返済合意(IMFとの関係改善・国際金融市場復帰)。
  • (2016年5月)国債売り出し。
  • (2016年2~4月)政策金利を18%から30%に引き上げ、6月まで据え置き後、段階的引き下げ25%前後で維持。
  • (2016年1月)基礎的財政収支目標設定
  • (2017年1月)2017年インフレ目標設定(12~17%)⇒実績は24.8%、2018年目標を8~12%から15%に修正。
ミレイブラック ジャック 勝ち 方(2023年12月10日~) 大胆な金融政策(ハイパーインフレ脱却)
  • (2023年12月)公定レート切り下げ(1ドル=365ペソ⇒800ペソ、50%超切り下げ)。インフレ抑制のため月2%にペソを小刻みに切り下げるクローリング・ペッグで為替維持(変動相場制導入による二重相場是正先延ばし)。
  • (ブラック ジャック 勝ち 方1月~)中央銀行バランスシート改善(ドル建て中銀債を発行して輸入債務・未払い配当金を置き換え・外貨支払い遅延解消)、単月・四半期で財政収支黒字化によりインフレ沈静化、政策金利126%を2023年12月から段階的に6月までに40%に引き下げ。
  • (ブラック ジャック 勝ち 方6月)中国人民銀行と締結した通貨スワップ協定発動済み350億元分(約50億ドル)の枠を12カ月間更新。
  • (ブラック ジャック 勝ち 方7月)オムニバス法案可決を受け、政府財政赤字の補填で膨れ上がった中銀有利子負債を財務省に移転、中銀のバランスシート健全化し、対ドルレート裏付けを強化する方針発表。
  • 資本取引規制の解除時期は未定。条件が整えば外貨購入時に課税されるパイス税を引き下げ。

出所:各種報道などからブラック ジャック 勝ち 方作成

一方、ミレイブラック ジャック 勝ち 方発足時は、一気に50%超の為替切り下げ後に、対ドルレートを月2%の下落水準で為替レートを維持するクローリング・ペッグを採用した。さらに、インフレを引き起こすマネタリーベースの増加防止に注力した。具体的には、大胆な財政緊縮による景気抑制と財政収支を黒字化し、ドル建て中銀債発行により同中銀債を輸入債務や未払い配当金の支払いに充てることでペソを吸収し、中銀の短期債務を中期債化、外貨準備高を積み上げることでバランスシートの改善を進めた。一連の取り組みによりインフレ率が低下したことにより、政策金利を引き下げ、マネタリーベース増加のもう1つの要因である中銀の有利子負債利払いの削減を進めた。

以上のように、両ブラック ジャック 勝ち 方時の金融政策の中身が大きく異なる理由は何か。それは、第1に、当時のアルゼンチン内外の金融環境がマクリブラック ジャック 勝ち 方時とミレイブラック ジャック 勝ち 方時で全く異なっていること、第2に、第1の要因を踏まえ両ブラック ジャック 勝ち 方の最優先課題が異なっていたことに起因しているようだ。

マクリブラック ジャック 勝ち 方発足前月(2015年11月)のインフレ率は月間1.6%で、諸外国から見れば高水準だが、ミレイブラック ジャック 勝ち 方時の11.7%とは比較にならないほど低かった(表2参照)。同月の米国の政策金利が0.25%、米長期債利回り2.18~2.35%とリーマン・ショック以来の低水準が続いていた。このため、自国の金利を引き上げれば、変動相場制に移行してもドル流出を招くリスクが低かったと言えそうだ。

表2:ミレイブラック ジャック 勝ち 方、マクリブラック ジャック 勝ち 方発足後半年間の主要経済指標比較

ミレイブラック ジャック 勝ち 方(2023年12月発足)

経済指標(1)
項目 2023年4Q ブラック ジャック 勝ち 方1Q ブラック ジャック 勝ち 方2Q
GDP成長率(%) △2.49 △2.57 TBA
失業率(%) 5.7 7.7 TBA
経済指標(2)
項目 2023年4Q ブラック ジャック 勝ち 方1Q ブラック ジャック 勝ち 方2Q
10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月
インフレ(CPI)月間上昇率(%) 7.8 11.7 25.5 20.6 13.2 11.0 8.8 4.4 4.6
月末対ドルレート・ペソ(前月比、%) 340(△2.7) 359.97(5.87) 808.47(124.59) 825.65(2.13) 841.78(1.95) 857.48(1.87) 876.64(2.23) 894.27(2.01) 911(1.87)
指標金利(翌日物リバースレポ金利)(年%) 111⇒126 126 126⇒100 100 100 100⇒80 80⇒70 60⇒50 50⇒40
米国政策金利(%) 5.5 5.5 5.5 5.5 5.5 5.5 5.5 5.5 5.5
米10年物国債利回り(終値%) 4.56~4.80 4.46~4.73 3.86~4.26 3.92~4.18 3.88~4.33 4.08~4.32 4.31~4.70 4.34~4.64 4.22~4.47

マクリブラック ジャック 勝ち 方(2015年12月発足)

経済指標(1)
項目 2023年4Q ブラック ジャック 勝ち 方1Q ブラック ジャック 勝ち 方2Q
GDP成長率(%) △1.16 △0.75 △1.74
失業率(%) 5.9 6.6 9.3
経済指標(2)
項目 2023年4Q ブラック ジャック 勝ち 方1Q ブラック ジャック 勝ち 方2Q
10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月
インフレ(CPI)月間上昇率(%) 1.4 1.6 3.9 4.1 4.0 3.3 6.5 4.2 3.1
月末対ドルレート・ペソ(前月比、%) 9.52(1.1) 9.68(1.78) 12.96(33.88) 13.89(7.16) 15.57(13.00) 14.6(△6.23) 14.28(△2.19) 13.99(△2.03) 15.29(9.29)
翌日物リバースレポ金利(年%)(注2) 18 18⇒21 21⇒18 18 18 18⇒25⇒29 29⇒30 30 30⇒29⇒28⇒27.25
米国政策金利(%) 0.25 0.25 0.25⇒0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5
米10年物国債利回り(%) 1.98~2.17 2.18~2.35 2.15~2.32 1.92~2.24 1.71~1.95 1.77~1.98 1.69~1.93 1.74~1.87 1.44~1.84

注1:TBA:ブラック ジャック 勝ち 方8月14日時点で未公表。
注2:アルゼンチンの指標金利は2016年12月31日までは35日物中央銀行債(LEBAC)レート、2017年1月2日以降は7日物レポレート、2018年8月8日以降は中央銀行債(Leliq)レート、2020年1月21日以降は28日物Leliqレート、2023年12月18日以降は翌日物リバースレポレートと変遷している。
出所:国家統計センサス局(INDEC)、中央銀行

マクリブラック ジャック 勝ち 方は、「アルゼンチン経済を国際金融市場に復帰し、普通の国になる」ことを旗印に、がんじがらめの資本取引規制を撤廃し、債務問題の解決に道筋をつけることで、当時コストが低かった長期の投資向けの資金調達を復活させ、それまで停滞していた経済を浮揚させることを優先したと言えそうだ。

一方、ミレイブラック ジャック 勝ち 方発足月(2023年12月)には月間25.5%の深刻なハイパーインフレに見舞われていた。しかも、当時の米国の政策金利水準は5.5%と歴史的にも高水準だ。同ブラック ジャック 勝ち 方は資本取引規制の撤廃を目指しつつも、一刻も早くハイパーインフレを鎮静化することが優先課題だったと言えそうだ。

アルゼンチン中銀および経済省は、2024年6月28日にオムニバス法が成立したことを受けて、ミレイブラック ジャック 勝ち 方の経済安定化計画は第2段階に入ったことを明らかにし、7月にはその概要をアルゼンチン中銀ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます で公表している。第2段階は、中銀有利子負債のさらなる削減に向け、広義のマネタリーベースに上限を設け、流動性管理を強化し、マネタリーベースを増加させる資金供給源の排除を目指している。中銀は第2段階が完了し、条件が整えば、第3段階として資本取引規制の解除に移行できるとしている(ブラック ジャック 勝ち 方7月2日付ビジネス短信参照)。

ブラック ジャック 勝ち 方
執筆者紹介
ブラック ジャック 勝ち 方調査部主幹
大久保 敦(おおくぼ あつし)
1987年、ブラック ジャック 勝ち 方入構。ブラック ジャック 勝ち 方・サンパウロ事務所調査担当、ブラック ジャック 勝ち 方・サンティアゴ事務所長、ブラジル日本商工会議所理事、同副会頭、ブラック ジャック 勝ち 方北海道地域統括センター長等を経て現職。