財政ブラック ジャック 必勝 法、過去の失敗に学ぶ
アルゼンチン新政権のブラック ジャック 必勝 法(2)
2024年9月4日
前回は、ハビエル・ミレイ新政権の金融政策を取り上げた。今回は、アルゼンチン経済再生に向けた第2の柱である財政・構造ブラック ジャック 必勝 法に焦点を充てて、ミレイ新政権の政策を、2015年12月に発足しミレイ現政権と同様に財政ブラック ジャック 必勝 法を進めた中道右派のマウリシオ・マクリ政権と比較し、考察する。
ミレイ政権、マクリ政権、全く異なる財政構造ブラック ジャック 必勝 法のスピード
ミレイ政権は財政構造ブラック ジャック 必勝 法、規制ブラック ジャック 必勝 法も一気に推し進めている。政権発足月の2023年12月中には省庁再編のみならず、2025年末までの緊急事態宣言を行い、財政構造ブラック ジャック 必勝 法を進めるための必要緊急大統領令(DNU)を発令。さらに、オムニバス法案を国会に提出する異例の速さだ(表1参照)。
項目 | 内容 |
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マクリブラック ジャック 必勝 法 (2015年12月10日~2019年12月9日) |
段階的な財政構造ブラック ジャック 必勝 法 行政措置:2015年12月 省庁再編(20省⇒10省)、公共料金・エネルギー補助金削減(値上げ)。所得税課税最低対象額引き上げ発表。2018年7月公務員の新規採用の凍結(~2019年末) 法案審議: 2016年6月 未申告外貨の正規化法案可決(申告額の約10%が課税)⇒申告総額1,168億ドル 2016年11月 官民パートナーシップ法案可決 2017年12月 財政責任法提出、2018年財政赤字目標(GDP比3.2%)達成に向け、補助金や行政経費削減を想定。 2017年12月 税制ブラック ジャック 必勝 法法成立、公共料金やガソリン補助金削減の継続、2018年4月にはガス、公共交通機関、通信料金引き上げ。 2018年12月 年金ブラック ジャック 必勝 法法可決・成立⇒デモ・ゼネスト発生 |
ミレイブラック ジャック 必勝 法 (2023年12月10日~) |
急速な財政構造ブラック ジャック 必勝 法 行政措置:
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法案審議:
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出所:ブラック ジャック 必勝 法ビジネス短信、各種報道などからブラック ジャック 必勝 法作成
DNUとオムニバス法案の具体的な内容としては、財政構造ブラック ジャック 必勝 法、規制ブラック ジャック 必勝 法に必要な項目が広範囲に盛り込まれている(表2、表3、表4参照)。前者は、行政措置で即時発効して司法判断による効力停止・修正、上下両院による修正・否決がない限り効力を維持できる。後者は、2024年2月の下院での審議を中断したが、その後、ミレイ政権は大胆な行動にでた。ミレイ大統領は通常国会開始時の2024年3月1日の施政方針演説で、1810年の5月革命でアルゼンチン初の政府が誕生した祝祭日である5月25日を期限に「5月協定」の締結を提案した。
項目 | 内容 |
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概要 | 2025年末まで経済、金融、財政、行政、社会保障、公共サービス、衛生、社会に関する緊急事態を宣言。ブラック ジャック 必勝 法に必要な300項目の法改正を定める。 |
経過 | 2023年12月議会提出⇒2023年1月司法が一部修正、無効化⇒2023年3月上院否決⇒下院で否決されない限り有効 |
主要ブラック ジャック 必勝 法項目 |
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注:太字は司法が2024年1月に修正または無効化したもの。
出所:ブラック ジャック 必勝 法ビジネス短信、各紙報道。
項目 | 内容 |
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行政府への立法権の付与 |
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国家機構ブラック ジャック 必勝 法 |
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国家による契約と和解 |
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正規雇用の促進 |
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労働制度の近代化 |
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エネルギー政策 |
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大型投資奨励制度 (RIGI) |
大規模投資への税制、為替規制上の優遇と法的安定性を保証。 税制、為替規制上の優遇。 |
注:表項目以外の太字部分は議会審議過程で追加、除外、削除があったもの。
出所:ブラック ジャック 必勝 法ビジネス短信
項目 | 内容 |
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目的 | 個人所得税、個人資産税を緩和し、租税回避を是正し徴税力を強化。 |
個人所得税 | 非課税下限額(額面給与)を現行の最低賃金の15倍(約350万ペソ)から単身者の場合は180万ペソ、子供のいる夫婦の場合は総額220万ペソに引き下げ。2025年から消費者物価指数(CPI)上昇率で下限額調整。 |
個人資産税 | 最高税率を2.25%から0.45%に引き下げ。無申告の資産については、最大15%の税金を支払うことで正規化。本制度の受益者は、民事訴訟や過去の租税、為替、関税の違反行為の罰則から免除。 |
出所:ブラック ジャック 必勝 法ビジネス短信、各紙報道
5月協定とは、新経済秩序を構築し、アルゼンチンを失敗の道から救い、再び世界の経済大国への道に入るために必要な10項目で構成され、議会が「オムニバス法」を修正し承認することを条件としている(表5参照)。ミレイ大統領は施政方針演説で、政治家、ジャーナリスト、労働組合員(ミレイ大統領はこれらの人々を「カースト」と呼ぶ)に対する痛烈な主張にあわせて同協定締結を提案した。ミレイブラック ジャック 必勝 法は国会議員、特に上院議員に影響力がある州知事を中心に締結を進め、キルチネル派や他の左派系議員など法案に反対する抵抗勢力の封じ込めを図った。「オムニバス法」は6月28日に国会承認され、スペイン帝国王党派と戦ったアルゼンチン独立軍が1896年に独立宣言を布告した祝祭日(7月9日)当日に24州・自治市のうち、18州・自治市の首長が5月協定に調印している。
項目 | 5月協定の概要 | 5月評議会 |
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締結・構成 | ミレイ大統領が州知事、元大統領、主要政党代表などに締結呼びかけ。国会議員に影響力がある州知事が主たる対象。 | 協議会代表、閣僚、州知事、議会各議院代表、労働組合代表、実業家代表 |
目的 |
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10項目 |
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経緯 |
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出所:ブラック ジャック 必勝 法ビジネス短信、各紙報道
一方、マクリ政権の財政構造ブラック ジャック 必勝 法は政治的な対立を避けつつ段階的に行われ、当時「漸進主義(gradualismo)」と呼ばれていた。行政措置で実施可能な省庁再編や、公共料金やエネルギーに対する補助金以外は大胆な財政構造ブラック ジャック 必勝 法の試みは行われず、2017年10月の議会中間選挙で政治基盤をさらに強固にした後、本格的なブラック ジャック 必勝 法審議に移行した。財政構造ブラック ジャック 必勝 法を進めるまでの間、アルゼンチンは対外債務返済合意によるIMFとの関係を改善し国際金融市場に復帰、2016年5月からは国債発行や外資流入により中銀のバランスシートを維持することで、経済安定化政策を維持した。結果的に、この「漸進主義(gradualismo)」により、本格的なブラック ジャック 必勝 法を後回しにしたことがその後、誤算を招いた。
2016年12月以降に、国際金融が徐々に制限的となっていった。世界的なインフレ高騰で、米国連邦準備制度理事会(FRB)は2016年12月から、政策金利を0.5%から2018年12月に2.5%まで段階的に引き上げた。2016年に2%未満だった米10年物国債利回りは、同年11月に2%台に上昇し、2018年には3%前後まで上昇した。2018年には、トルコ・リラが急落する通貨危機も発生した。アルゼンチンでは、金利差縮小に伴いドルが流出し、ペソ下落により輸入物価が急騰、再びインフレ高騰に見舞われるようになった。こうした中で財政責任法、税制ブラック ジャック 必勝 法法、年金ブラック ジャック 必勝 法法が承認されたものの、再開されるはずの投資は増えず、インフレ再燃に伴う高金利による景気減速や年金ブラック ジャック 必勝 法による収入減に国民は耐えきれず、政権支持率は低下。2019年大統領選挙でマクリ大統領は敗退した。
大統領支持率を背景に巧みな戦術でブラック ジャック 必勝 法法案の早期審議を実現
以上の両政権が進めるブラック ジャック 必勝 法とマクリ政権によるブラック ジャック 必勝 法失敗理由をみると、ミレイ大統領はリバタリアンの思想を背景とする言動や過激な政治パフォーマンスとは裏腹に、強引にブラック ジャック 必勝 法を進めていたのではなさそうだ。むしろ、過去の失敗を踏まえ、政権支持率が高い間に財政構造ブラック ジャック 必勝 法、規制ブラック ジャック 必勝 法を可能な限り一気に進めるという戦略的な取り組みだったことが分かる。上院を中心に脆弱(ぜいじゃく)な与党議会勢力をカバーし、早期にブラック ジャック 必勝 法審議を実現するための巧みな戦術が功を奏したと言えそうだ。ミレイ政権とマクリ政権の与野党の議会勢力(表6参照)をみると、ミレイ政権与党(含む協力政党)は上下院とも過半数はおろか、上院で18%、下院で30%足らず。マクリ政権時の上院26%、下院54%と比べてもはるかに与党に分が悪い。一方、大統領支持率は政権発足当初から2024年4月まで60%近くを維持している。マクリ大統領は、発足当初(2016年1月)に支持率が70%に達したが、その後2016~2017年は50%前後。2017年10月の中間選挙時に60%台に回復するも、その後は支持率低下傾向が続き、2019年5月には30%に落ち込んでいる。
表6:ミレイブラック ジャック 必勝 法時とマクリブラック ジャック 必勝 法時の議会勢力比較
項目 | 下院(257議席) | 257議席 | シェア | シェア |
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マクリブラック ジャック 必勝 法 | 変革のために共に(JxC)(与党) | 82議席 | 32% | 54% |
ペロン党マサ派(与党協力) | 23議席 | 9% | ||
ペロン党正義派(与党協力) | 15議席 | 6% | ||
ペロン党その他(与党協力) | 18議席 | 7% | ||
ペロン党前ブラック ジャック 必勝 法派 | 80議席 | 31% | 31% | |
その他 | 39議席 | 15% | 15% | |
ミレイブラック ジャック 必勝 法 | 自由前線(LLA)(与党) | 41議席* | 16%* | 30% |
変革のために共に(JxC)等(与党協力) | 37議席 | 14% | ||
正義党(PJ)キルチネル派+ 左派 | 104議席 | 41% | 41% | |
その他 | 75議席* | 29%* | 29% |
項目 | 上院(72議席) | 72議席 | シェア |
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マクリブラック ジャック 必勝 法 | 変革のために共に(JxC)(与党) | 15議席 | 26% |
ペロン党マサ派(与党協力) | 3議席 | ||
ペロン党その他(与党協力) | 8議席 | ||
ペロン党前ブラック ジャック 必勝 法派 | 39議席 | 54% | |
その他 | 7議席 | 10% | |
ミレイブラック ジャック 必勝 法 | 自由前線(LLA)(与党協力) | 7議席 | 18% |
変革のために共に(JxC)等(与党協力) | 6議席 | ||
正義党(PJ)キルチネル派+ 左派 | 33議席 | 36% | |
その他 | 26議席 | 46% |
注1:両ブラック ジャック 必勝 法発足から半年間で入手可能な議会勢力データを基に作成したもの。
注2:*下院で2024年6月までに与党3議席が離脱(与党議席割合が16.0%から14.8%に)。
出所:在アルゼンチン日本大使館「アルゼンチンの現状と見通し」(2016年5月)、現地報道、金融機関アナリストレポ―トを基にブラック ジャック 必勝 法作成
頼みの綱である大統領支持率を背景に、早期議会審議を実現した戦術とは、(1)可能な限りブラック ジャック 必勝 法に必要な項目を盛り込んだ包括的な必要緊急大統領令(DNU)とオムニバス法案立案、(2)政権発足前から上記法案を事前準備し、政権が発足した12月に速やかに当該法案を議会へ提出、(3)アルゼンチン独立の歴史と重ね合わせた封じ込めによる法案審議の早期実現、に集約できる。
もちろん、ミレイ政権のブラック ジャック 必勝 法法案立案や法案審議に当たっては、マクリ派や過去の失敗を経験したマクリ政権時のブレーンが全面的に協力したようだ。ミレイ政権の主要閣僚であるルイス・カプート経済相は、マクリ政権時では財務相と中央銀行総裁を務めていた。2024年7月には内務省を廃止し、新設され規制緩和・国家改造省の大臣にもマクリ政権で中央銀行総裁を務めたフェデリコ・アドルフォ・スツルツェネガー氏が指名された。同氏は、必要緊急大統領令(DNU)70/2023号とオムニバス法に深く関わったといわれ、2025年末までの緊急事態宣言に基づき、ミレイ政権の規制緩和、行政ブラック ジャック 必勝 法を担っている。スツルツェネガー規制緩和・国家改造相は、オムニバス法に沿った行政措置の施行に取り組むとともに、他の財政・構造ブラック ジャック 必勝 法法案立案を関係省庁と連携して指揮することになる。ブラック ジャック 必勝 法の正念場はこれからだ。
アルゼンチン新政権のブラック ジャック 必勝 法
- 執筆者紹介
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ブラック ジャック 必勝 法調査部主幹
大久保 敦(おおくぼ あつし) - 1987年、ブラック ジャック 必勝 法入構。ブラック ジャック 必勝 法・サンパウロ事務所調査担当、ブラック ジャック 必勝 法・サンティアゴ事務所長、ブラジル日本商工会議所理事、同副会頭、ブラック ジャック 必勝 法北海道地域統括センター長等を経て現職。