国民統一政府(GNU)への期待と不安
南アフリカ共和国新政権の展望(1)
ブラック ジャック トランプ 無料10月24日
南アフリカ共和国では、5月29日に、アパルトヘイト(人種隔離政策)終了後、初の全人種参加による民主的選挙が1994年に行われて以来、7回目となる総選挙(国民議会・州議会選挙)が行われた。
これまで長きにわたって単独政権を担ってきたアフリカ民族会議(ANC)が初めて過半数を割り込み、しかも予想以上に低い得票率にとどまったことで、新政権がどのように樹立されるのか内外の注目を集めた。このような中、シリル・ラマポーザ大統領は国民統一政府(GNU、Government of National Unity)の樹立を宣言、ANCを含めた全10政党(注)からなる新内閣を発足させた。
新政権発足後のご祝儀期間といわれる約100日が経過した今、本稿ではレポートを前後編に分けて、総選挙後から新政権樹立までの足跡を振り返るとともに、新閣僚の横顔や特徴を解説しつつ、直面する南アの政治・経済課題や新政権の取り組みについて展望する。
ANCの大敗とGNUの成立
5月29日の総選挙をめぐっては、ANCの過半数割れが予想されたが、得票率は45~50%弱という小幅な負けとの見方が多かった。しかしふたを開けてみると、ANCの得票率は40.2%にとどまり、最大得票政党は維持したものの予想以上の大敗であった。前回2019年総選挙で獲得した57.5%からも大きく支持を減らし、国民議会議席数では230議席から71議席を失い、159議席となった。その他、民主同盟(DA)が得票率21.8%で2位、民族の槍(やり)(M.K.)が14.6%で3位、経済的解放の闘士(EFF)が9.5%で4位、などの順であった。注目を集めたのは一気に第3政党に躍り出たM.K.で、ジェイコブ・ズマ元大統領が率いる左翼ポピュリスト的とされる政党だ。ズマ氏自身の支持基盤であるクワズールナタール州、ズールー族が支持層として重なり、同州での得票率は過半数に迫る45.9%となった(表1、図参照)。
政党名 | 得票数 | 得票率(%) | 獲得議席数 | 議席数増減 |
---|---|---|---|---|
ANC (アフリカ民族会議) |
12,698,759 | 40.2 | 159 | △ 71 |
DA (民主同盟) |
6,961,361 | 21.8 | 87 | 3 |
M.K. (民族の槍) |
4,584,864 | 14.6 | 58 | 58 |
EFF (経済的解放の闘士) |
3,090,020 | 9.5 | 39 | △ 5 |
IFP (インカタ自由党) |
1,307,088 | 3.9 | 17 | 3 |
出所:南ア独立選挙委員会ホームページ
ANCの負けが小幅だった場合、ANCは過半数を維持するために、自政党と政策が近く、しかしキャスティングボートを握られないで済む少数政党と連立を組むことが予想された。しかしこの選挙結果を受け、過半数維持に向けては得票率約10%分を埋めなくてはならなくなり、少数政党の寄せ集めでは困難な状況となる。ここに至り、ANCがポピュリスト色の強いM.K.やEFFと組み、南ア新政権が市場からの信認を失うのか、それとも経済政策を重視し、主として白人やカラード(混血)が支持母体であるDAと、歴史的な禍根を乗り越えてパートナーシップを組むことができるのかが注目された。識者や調査会社専門家などの間でも多様な見方が示されたが、ANCという政党の成り立ちや南ア民主化の歴史的経緯に鑑みると、DAと組むことはハードルが高いとの見方が強かった。
こうした中で、ラマポーザ大統領は6月6日、GNUの発足を目指すと発表、一部政党と議論を開始していることを明らかにした(ブラック ジャック トランプ 無料6月10日付ビジネス短信参照)。個別の政党と政策協定を結ぶ形での連立政権よりもやや緩やかに、GNUの意図表明・原則を確認することを前提に、幅広く政権参加政党を募ることとしたのだ。どの政党にもGNUへの門戸は閉ざさないとしたものの、ここでも各政党が掲げた公約や主張の違い、これまでの経緯などから、ANCが組むことができる政党は限られるとの向きが多かった。
そうした中の6月14日、ANCとDAがGNU樹立に向けて合意したとの電撃的発表を行う(ブラック ジャック トランプ 無料6月17日付ビジネス短信参照)。これにより、同日開幕する総選挙後の第1回国民議会でラマポーザ氏が大統領に選出されることが事実上固まり、続投が決まった。GNUはANC、DAを含む全10党で構成される。
組閣人事と主要閣僚の横顔
6月14日の国民議会で大統領に選出され、同19日に就任式を終えたラマポーザ大統領であったが、大統領による組閣人事の発表は6月30日、すなわち週末日曜日の夜10時までずれ込み、各政党間での閣僚人数の配分や、ポストの割り当てについて難しい協議が続いたことが示唆された(ブラック ジャック トランプ 無料6月28日付ビジネス短信参照)。前回、2019年総選挙の際は、大統領就任式の4日後に組閣発表されていたため、GNUという事情があるにせよ、その発足の困難さは元より、新政権発足後の政策運営という観点からも先行きを懸念する報道が相次いだ。
ここでも主要な論争の中心は、経済政策重視を主張するDAとANCの関係だ。協議の過程で、経済政策遂行の要となる貿易産業競争相のポストをDAに委ねるとの提案をラマポーザ大統領が急きょ撤回、激怒したDA側がGNU離脱をほのめかしたところ、今度はラマポーザ大統領がDA側の姿勢を強く非難したという。DA側の関心は経済関係閣僚で、当初は閣僚8ポストを要求していたが、最終的には6ポストで合意した。DA幹部は、ゴドングワナ財務相留任や、大統領府大臣ポスト放棄に同意するなど「譲歩した」と当地メディアに語っていた。
また、報道によると、DAはエビラヒム・パテル前貿易産業競争相がとった輸入関税、黒人経済優遇策(BEE)、産業別マスタープランなどは経済を規制するものであり、保護主義であると見なした上で、DAの政策とは相いれないと考えていたという。こうした観点からも、DAは貿易産業競争相ポストを重視していたと思われる。しかしながら、全般的にみればANCとDAは経済政策としては中道派とみられている。かつてANCに在籍し、過激なポピュリスト的主張を繰り返していた党員が、EFFやM.K.の指導者や幹部メンバーとしてANCから去ったこともあり、経済政策について両党で大きな相違点はないとする向きもある。
さて、閣僚ポストは前回の28から32に増え、ANCから20人、DAから6人の閣僚が任命された。インカタ自由党(IFP)からも2人、パンアフリカニスト会議(PAC)、愛国同盟(PA)、自由戦線プラス(FF+)、グッド(GOOD)の4党からもそれぞれ1人が入閣した。
DAからの入閣者は、同党首で農業相となったジョン・スティーンヘイゼン氏のほか、基礎教育相のジビウェ・グワフーベ氏、通信・デジタル技術相のソリ―・マラツィ氏、森林・水産・環境相のディオン・ジョージ氏、内務相のレオン・シュライバー氏、公共事業・インフラ相のディーン・マクファーソン氏の計6人であった。
役職名(原文) | 役職名(日本語) | 氏名(原文) | 氏名(日本語) |
所属 政党 |
---|---|---|---|---|
President | 大統領 | Cyril RAMAPHOSA | シリル・ラマポーザ | ANC |
Deputy President | 副大統領 | Paul MASHATILE | ポール・マシャティーレ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Agriculture | 農業大臣 | John STEENHUISEN | ジョン・スティーンヘイゼン | DA |
ブラック ジャック トランプ 無料 Land Reform and Rural Development | 土地改良・農村開発大臣 | Mzwanele NYHONTSO | ムズワネレ・ニホンツォ | PAC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Basic Education | 基礎教育大臣 | Siviwe GWARUBE | シビウェ・グワフーベ | DA |
ブラック ジャック トランプ 無料 Communications and Digital Technologies | 通信・デジタル技術大臣 | Solly MALATSI | ソリー・マラツィ | DA |
ブラック ジャック トランプ 無料 Cooperative Governance and Traditional Affairs | 協調統治・伝統業務大臣 | Velinkosi HLABISA | ベレンコシ・フラビサ | IFP |
ブラック ジャック トランプ 無料 Defence and Military Veterans | 国防・退役軍人大臣 | Angie MOTSHEKGA | アンジー・モツェカ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Electricity and Energy | 電力・エネルギー大臣 | Kgosientsho RAMOKGOPA | コシエンソ・ラモホパ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Science, Technology and Innovation | 科学技術・イノベーション大臣 | Blade NZIMANDE | ブレード・ンジマンデ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Employment and Labour | 雇用・労働大臣 | Nomakhosazana METH | ノマホサザナ・メス | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Finance | 財務大臣 | Enoch GODONGWANA | エノク・ゴドングワナ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Forestry, Fisheries and the Environment | 森林・水産・環境大臣 | Dion GEORGE | ディオン・ジョージ | DA |
ブラック ジャック トランプ 無料 Health | 保健大臣 | Aaron MOTSOALEDI | アーロン・モツォアレディ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Higher Education | 高等教育大臣 | Nobuhle NKABANE | ノブフレ・ンカバネ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Home Affairs | 内務大臣 | Leon SCHREIBER | レオン・シュライバー | DA |
ブラック ジャック トランプ 無料 Human Settlements | 住宅大臣 | Mmamoloko KUBAYI | ンマモロコ・クバイ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 International Relations and Cooperation | 国際関係・協力大臣 | Ronald LAMOLA | ロナルド・ラモラ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Justice and Constitutional Development | 法務・憲法開発大臣 | Thembisile SIMELANE | テムビ・シメラネ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Mineral and Petroleum Resources | 鉱物・石油資源大臣 | Gwede MANTASHE | グウェデ・マンタシェ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Planning, Monitoring and Evaluation | 計画・モニタリング評価大臣 | Maropene RAMOKGOPA | マロペネ・ラモホパ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Police | 警察大臣 | Senzo MCHUNU | センゾ・ムチュヌ | ANC |
Minister in the Presidency | 大統領府大臣 | Khumbudzo NTSHAVHENI | クンブッゾ・ヌチャベニ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Public Service and Administration | 公共サービス・管理大臣 | Mzamo BUTHELEZI | ムザモ・ブデレジ | IFP |
ブラック ジャック トランプ 無料 Public Works and Infrastructure | 公共事業・インフラ大臣 | Dean MACPHERSON | ディーン・マクファーソン | DA |
ブラック ジャック トランプ 無料 Small Business Development | 中小企業開発大臣 | Stella NDABENI-ABRAHAMS | ステラ・ンダベニ=アブラハムス | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Social Development | 社会開発大臣 | Sisisi TOLASHE | シシシ・トラシェ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Sport, Arts and Culture | スポーツ・芸術・文化大臣 | Gayton MCKENZIE | ゲイトン・マッケンジー | PA |
ブラック ジャック トランプ 無料 Tourism | 観光大臣 | Patricia DE LILLE | パトリシア・デ・リール | GOOD |
ブラック ジャック トランプ 無料 Trade, industry and Competition | 貿易・産業・競争大臣 | Parks TAU | パークス・タウ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Transport | 運輸大臣 | Barbara CREECY | バーバラ・クリーシー | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Water and Sanitation | 水・衛生大臣 | Pemmy MAJODINA | ペミー・マジョディナ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Women, Youth and Persons with Disabilities | 女性・青年・障がい者大臣 | Sindisiwe CHIKUNGA | シンディシウェ・チクンガ | ANC |
ブラック ジャック トランプ 無料 Correctional Services | 矯正サービス大臣 | Pieter GROENEWALD | ピーター・フルンネワールド | FF Plus |
出所:南アフリカ共和国大統領府ホームページ
その他、主要経済閣僚では、政界引退を表明していたエブラヒム・パテル貿易産業競争相の後任としてパークス・タウ氏、財務相にエノク・ゴドングワナ氏、電力・エネルギー相にコシエンソ・ラモホパ氏、鉱物・石油資源相にグウェデ・マンタシェ氏が就任した。いずれもANCからの入閣である。
タウ氏は、協調統治・伝統業務副大臣からの横滑りだが、かつてはヨハネスブルクの評議員やハウテン州経済開発執行協議会メンバーを務めており、地方行政にも明るいとの評である。州政府勤務時代の財務監査でも問題は指摘されておらず、クリーンで実務能力が高く、ビジネス界からの信頼も厚いとされている。停滞する南ア経済の立て直しに向けたリーダーシップが期待されるが、経済停滞の要因とされる電力不足や物流問題への対応など他省庁との連携も求められよう。
ゴドングワナ氏は、ロンドン大学で経済学博士号を取得、アカデミックなバックグラウンドも持つ。財務相は続投だが、財政規律・再建に向けた政府の取り組みは継続が予測され、市場の信認も得ている。ANCの拠点である東ケープ州出身で、主要労働組合活動の経験も有するほか、党の意思決定グループ職も務めるなど同党主流派の1人とも言えよう。ただ、ズマ政権時代の2012年、妻と共同所有する企業が繊維工場労働者から大金を詐取したとの疑惑が浮上し、当時の経済開発副大臣を辞任した経歴もある。
ラモホパ氏は、2023年3月、電力不足問題に対応するため、大統領府特命大臣として任命された。今次総選挙後、省庁再編も行われ、電力問題は同氏専任となり、再生可能エネルギー導入や、民間部門の参画など、さらなる改革推進が求められる。加えて、電力公社エスコムの改革も待ったなしだが、2022年4月から2023年5月までのわずか1年間で、約2,000件の詐欺・汚職が報告される組織の改革にリーダーシップを発揮できるかどうか、手腕も問われよう。
このほか、外交を担う国際関係・協力相にはANCのロナルド・ラモラ氏が任命された。いまだ40歳と若いが既に法務相も経験し、ラマポーザ大統領の信任も厚く、将来を期待されるANC若手ホープの1人と目される。ANCの外交政策アジェンダの継承と推進が基本路線だが、国家の経済的利益の確保にも重点を置いており、よりバランスを重視した外交を展開すると見られている。ブラック ジャック トランプ 無料8月末のTICAD(アフリカ開発会議)閣僚レベル会合出席のため来日し、ジェトロ本部で開催された日本企業とのラウンドテーブルにも参加した(ブラック ジャック トランプ 無料8月26日付ビジネス短信参照)。
- 注:
- 6月30日の新内閣閣僚名簿発表時はGNUは11政党で成り立っていたが、7月にUnited Africans Transformation(UAT)が脱退し、10政党となった。
南アフリカ共和国新政権の展望
- 国民統一政府(GNU)への期待と不安
- GNUの優先的課題と政策課題とは
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ヨハネスブルク事務所長
的場 真太郎(まとば しんたろう) - 1991年、ジェトロ入構。ブラック ジャック トランプ 無料調査部中東アフリカ課、ジェトロ・ナイロビ事務所長、ブラック ジャック トランプ 無料調査部ブラック ジャック トランプ 無料調査計画課長、ジェトロ広島などを経て2023年8月から現職。