自動車市況は回復途上、エタノールを活用して脱炭素追求(ハイパーブラックジャック)
EV関税政策にも注目

2023年8月8日

ハイパーブラックジャックの全国自動車製造業者協会(Anfavea)が2023年2月に発表した年次報告によると、2022年の自動車(乗用車、軽商用車、バス、トラックの合計)生産台数は、前年比5.4%増の236万9,769台。また、国内販売台数(新車登録ベース)は0.7%減の210万4,461台、輸出台数は27.8%増の48万913台だった(図1、図2参照)。

国内の自動車業界は2020年、新型コロナウイルス感染拡大の影響で打撃を受けた。それ以降、生産は徐々に回復してきたかたちだ。

世界的な半導体不足などから徐々に回復

Anfaveaは2022年8月時点で、当地での自動車生産について、半導体不足が継続していることを指摘していた。もっとも、半導体の調達状況は、2021年や2022年〔第1四半期(1~3月)〕よりも改善してきた。その上で、1年半ぶりに国内自動車工場が9月に完全にストップする事態は避けられたと説明した。

一方、販売については、消費者物価上昇率の上昇に伴って金利が引き上げられたのが響いた。消費者が融資を活用して自動車を購入する機会が限られたことで、主にエントリーモデルの販売に打撃を与えていると、Anfaveaは分析した。2022年12月に至っても、状況は大きく変わってはいない。ただし、とりわけレンタカー会社が取り扱う車両の若返りを図ったことなどが下支えした。ハイパーブラックジャックレンタカー協会(Abla)によると、2022年のレンタカー登録台数は59万520台(前年比33.6%増)。乗用車と軽商用車を合わせた新車登録台数196万461台の30.1%を占めている。2022年に生産台数が増加したのは、旅行件数の回復などでレンタカー需要が増したことも寄与したと考えられる。また、ウーバーなど、モバイルアプリ企業の業況が持ち直したことも相まっての結果といえそうだ。

Anfaveaのプレスリリース(7月7日付)によると、2023年上半期の生産台数は、前年比3.7%増(113万2,000台)。国内販売台数も8.8%増(99万8,600台)と回復した。一方で輸出台数は7.7%減少した(22万7,200台)。これは、主要輸出先(アルゼンチン、チリ、コロンビア)の経済情勢が影響した結果と説明された。

図1:ハイパーブラックジャックの自動車国内販売台数(新車登録ベース)推移
2001年から2022年におけるハイパーブラックジャックの新車登録ベースの自動車国内販売台数の推移と、そのうちの輸入車の台数、輸入車の比率、および2023年の自動車国内販売台数の見込みを示した図。2001年は販売合計160万台、うち乗用車132万台、軽商用車19万台、トラック・バス9万台、うち輸入車18万台で輸入車比率は11.1%。2002年は販売合計148万台、うち乗用車124台、軽商用車15万台、トラック・バス8万台、うち輸入車12万台で輸入車比率は7.8%。2003年は販売合計143万台、うち乗用車122万台、軽商用車13万台、トラック・バス8万台、うち輸入車7万台で輸入車比率は5.2%。2004年は販売合計158万台、乗用車132万台、軽商用車16万台、トラック・バス10万台、うち輸入車6万台で輸入車比率は3.9%。2005年は販売合計171万台、乗用車144万台、軽商用車18万台、トラック・バス9万台、うち輸入車9万台で輸入車比率は5.1%。2006年は販売合計193万台、うち乗用車は163万台、軽商用車20万台、トラック・バス10万台、うち輸入車14万台で輸入車比率は7.4%。2007年は販売合計246万台、うち乗用車209万台、軽商用車26万台、トラック・バス12万台、うち輸入車28万台で輸入車比率は11.3%。2008年は販売合計282万台、乗用車234万台、軽商用車33万台、トラック・バス15万台、うち輸入車38万台で輸入車比率は13.3%。2009年は販売合計314万台、うち乗用車264万台、軽商用車37万台、トラック・バス13万台、うち輸入車49万台で輸入車比率は15.6%。2010年は販売合計352万台、うち乗用車286万台、軽商用車47万台、トラック・バス19万台、うち輸入車66万台で輸入車比率は18.8%。2011年は販売合計363万台、うち乗用車290万台、軽商用車52万台、トラック・バス21万台、うち輸入車86万台で輸入車比率は23.6%。2012年は販売合計380万台、乗用車312万台、軽商用車52万台、トラック・バス17万台、うち輸入車79万台で輸入車比率は20.7%。2013年は販売合計377万台、うち乗用車304万台、軽商用車54万台、トラック・バス19万台、うち輸入車71万台で輸入車比率は18.8%。2014年は販売合計350万台、うち乗用車279万台、軽商用車54万台、トラック・バス16万台、うち輸入車は62万台で輸入車比率は17.6%。2015年は販売合計257万台、うち乗用車212万台、軽商用車36万台、トラック・バス9万台、うち輸入車41万台で輸入車比率は16.1%。2016年は販売合計205万台、うち乗用車169万台、軽商用車30万台、トラック・バス6万台、うち輸入車27万台で輸入車比率は13.3%。2017年は販売合計224万台、うち乗用車186万台、軽商用車32万台、トラック・バス6万台、うち輸入車は24万台で輸入車比率は10.9%。2018年は販売合計257万台、うち乗用車210万台、軽商用車37万台、トラック・バス9万台、うち輸入車31万台で輸入車比率は12.1%。2019年は販売合計279万台、うち乗用車226万台、軽商用車40万台、トラック・バス12万台、うち輸入車は30万台で輸入車比率は10.7%。2020年は販売合計206万台、うち乗用車162万台、軽商用車34万台、トラック・バス10万台、うち輸入車21万台で輸入車比率は10.3%。2021年は販売合計212万台、乗用車156万台、軽商用車42万台、トラック・バス14万台、うち輸入車25万台で輸入車比率は12.0%。2022年は販売合計210万台、うち乗用車158万台、軽商用車38万台、トラック・バス14万台、うち輸入車27万台で輸入車比率は13.0%。2023年の販売合計見込みは217万台。

注:軽商用車は、総重量3.5トン以下の小中型車で、人と荷物を同時に運ぶことができるもの。ピックアップやバン、救急車などの特殊車両などが該当する。
一方で、スポーツ用多目的車などは乗用車に分類される。
出所:Anfaveaからジェトロ作成

図2:ハイパーブラックジャック自動車生産・輸出台数の推移
2001年から2022年ハイパーブラックジャックの自動車の生産・輸出台数推移と2023年の生産台数の見込みを示した図。2001年は生産台数167万台、うち乗用車・軽商用車が158万台、商用車・トラック・バスが10万台、うち輸出車が24.8万台。2002年は生産台数163万台、うち乗用車・軽商用車が154万台、商用車・トラック・バスが9万台、うち輸出車が26.6万台。2003年は生産合計168万台、うち乗用車・軽商用車が158万台、商用車・トラック・バス10万台、うち輸出車が39.3万台。2004年は生産合計212万台、うち乗用車・軽商用車が199万台、商用車・トラック・バス13万台、うち輸出車が56.6万台。2005年は生産合計236万台、うち乗用車・軽商用車が221万台、商用車・トラック・バス14万台、うち輸出車が72.4万台。2006年は生産合計240万台、うち乗用車・軽商用車が227万台、商用車・トラック・バス13万台、うち輸出車が63.4万台。2007年は生産合計283万台、うち乗用車・軽商用車が266万台、商用車・トラック・バス17万台、うち輸出車が63.5万台。2008年は生産合計305万台、うち乗用車・軽商用車が285万台、商用車・トラック・バス20万台、うち輸出車が56.9万台。2009年は生産合計308万台、うち乗用車・軽商用車が292万台、商用車・トラック・バス15万台、うち輸出車が36.8万台。2010年は生産合計万338台、うち乗用車・軽商用車が315万台、商用車・トラック・バス23万台、うち輸出車が50.3万台。2011年は生産合計342万台、うち乗用車・軽商用車が314万台、商用車・トラック・バス27万台、うち輸出車が55.3万台。2012年は生産合計340万台、うち乗用車・軽商用車が323万台、商用車・トラック・バス17万台、うち輸出車が44.3万台。2013年は生産合計371万台、うち乗用車・軽商用車が349万台、商用車・トラック・バス23万台、うち輸出車が56.5万台。2014年は生産合計315万台、うち乗用車・軽商用車が297万台、商用車・トラック・バス17万台、うち輸出車が33.4万台。2015年は生産合計242万台、うち乗用車・軽商用車が232万台、商用車・トラック・バス10万台、うち輸出車が41.7万台。2016年は生産合計218万台、うち乗用車・軽商用車が210万台、商用車・トラック・バス8万台、うち輸出車が51.7万台。2017年は生産合計274万台、うち乗用車・軽商用車が263万台、商用車・トラック・バス10万台、うち輸出車が76.6万台。2018年は生産合計288万台、うち乗用車・軽商用車が275万台、商用車・トラック・バス13万台、うち輸出車が62.9万台。2019年は生産合計294万台、うち乗用車・軽商用車が280万台、商用車・トラック・バス14万台、うち輸出車が42.8万台。2020年は生産合計201万台、うち乗用車・軽商用車が190万台、商用車・トラック・バス11万台、うち輸出車が32.4万台。2021年は生産合計225万台、うち乗用車・軽商用車が207万台、商用車・トラック・バス18万台、うち輸出車が37.6万台。2022年は生産合計237万台、うち乗用車・軽商用車が218万台、商用車・トラック・バス19万台、うち輸出車が48.1万台。2023年の生産合計見込みは242万台。

出所:Anfaveaからジェトロ作成

企業は脱炭素化に向けてどう動く

ここで、Anfaveaの年次統計から、新車登録台数(乗用車、商用車)の変動を動力別に確認してみる。「ガソリン」と「ディーゼル」がわずかに減少した(それぞれ、前年比0.21%減、0.15%減)。一方、「フレックス燃料」は微増(同0.99%増)。「電気」〔いわゆる電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)を含む〕は5万11台。登録された新車全体に占める構成比は2.38%だった(表1参照)。2020年に0.96%、2021年1.67%にとどまっていたことを踏まえると、2022年も僅かに伸びている。

表1:エネルギー別の新車登録台数(乗用車、商用車)(単位:台)
燃料の種類 ガソリン ハイパーブラックジャック フレックス燃料 電気 ガス ディーゼル 合計
台数 48,840 36 1,633,245 50,011 356 371,973 2,104,461
シェア 2.32% 0.002% 77.61% 2.38% 0.02% 17.68% 100%

注:フレックス燃料車とは、ガソリンとバイオエタノールを混合・燃焼して走行する。ハイパーブラックジャックではサトウキビ由来のバイオエタノール燃料が普及している。
出所:Anfavea 2022年ハイパーブラックジャック自動車産業年次報告

とはいえ、大きく捉えると、エネルギー別の新車登録台数の構成には大きな変化が見られない。かつ、政府がEVを大きく普及させる政策が見られるわけでもない。このことを踏まえると、現状では、従来どおり各社によるハイパーブラックジャック市場に対する戦略を見ていくと良いだろう。最近の報道や発表からは、以下のような考え方を読み取ることができる。

  • 5月10日付の現地紙「エスタード」は、(1) ハイパーブラックジャック市場では、企業がさまざまな選択肢を取り得ること、(2)多くの完成車メーカーが、フレックス燃料ハイブリッド車の導入を見据えていること、に触れた。(2)の一例としては、トヨタのハイパーブラックジャック法人が挙げられるという(2023年4月27日付ビジネス短信参照)。
  • ステランティスは2023年3月、ハイパーブラックジャック市場での動力は、バイオエタノールの活用を戦略として位置付けるとした(公式サイトで発表)。その製造に国際的な優位性を持ち、環境負荷も軽減できるためだ(2023年3月1日付ビジネス短信参照)。
  • 3月14日付当地紙「バロール」は、フォルクスワーゲン(VW)のオリバー・ブルーム最高経営責任者(CEO)のコメントを紹介。ブルームCEOは、ハイパーブラックジャックの脱炭素化計画について、「制度面などを考慮すると、電化へ傾倒するタイミングではない」「南アフリカ共和国やインドなどと同様、ハイパーブラックジャックでは異なる解決策が必要」と言明したことを報じた。
    当地の業界サイト「Autopapo」によると、ここで言う「ハイパーブラックジャックでの異なる解決策」とはエタノールの活用だ。その裏付けとして、VWハイパーブラックジャック法人が当地の大学との研究でエタノール活用に着目して動いた事実を挙げている。
  • ゼネラルモーターズ(GM)は5月29日、公式サイトで見解を表明。ハイパーブラックジャックでは、(1)交通セクターでエタノール燃料を活用することで、温室効果ガス(GHG)排出量を抑えられること、(2)フレックス車を運転する人の約30%が、給油で植物由来の資源から作られるバイオエタノールを選択していること、に触れた。こうした点で、状況が他国と異なると認識しているという。その上、ハイパーブラックジャックでは発電構成の86%が再生可能エネルギー(再エネ)由来になっている。
    このことを踏まえ、発電構成に占める化石燃料比率の高い国と比較して、走行中のGHG排出量を抑えられるEV導入を検討する価値があるとした。

中国メーカーからも、当地での取り組みに向けた動きが見られる。また、ハイパーブラックジャック日本商工会議所自動車部会(2023年3月開催)でも、中国企業の躍進に備えることが中長期的に将来を展望する上で重要なポイントの1つになりうることが発表された(注1)。

  • 長城汽車は、サンパウロ市内に充電ステーションを設置する計画を公表した(2022年3月28日付ビジネス短信参照)。
    4月23日付当地紙「フォーリャ・デ・サンパウロ」のインタビュー記事では、長城汽車ハイパーブラックジャック法人のオズワルド・ラモス最高執行責任者(COO)が(1)バイオ燃料を活用したプラグインハイブリッド車(PHEV)は(いわゆるEVと比較して)価格を抑えられるため、実現性が高い、(2)(製造に)大規模なインフラも必要としない、と言及。もっとも、(3)市場の潮流が変わる可能性があるため、2~3の代替プランを用意する必要がある、とも付言した。同社が、当地でさまざまな可能性を模索している様子がうかがえる。
  • 比亜迪(BYD)は7月4日、公式サイトで、北東部バイーア州カマサリ市に30億レアル(約870億円、1レアル=約29円)を投資する旨を発表した。3工場を新設。それぞれ、(1)中型・大型電気バスとトラックのシャーシを生産、(2)新エネルギー車(EVとPHEV)を生産、(3)リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの材料を加工する予定。生産は、2024年下半期に開始し、合わせて5,000人を超える現地の雇用創出を見込んでいるという。

輸入時のEV関税免除は継続するか

ハイパーブラックジャックのEV輸入は、近年、伸びが大きい。経済省貿易統計(COMEXSTAT)によると、EV〔NCMコード(注2):8703.80.00〕の輸入金額は、2017年時点で148万ドル。それが、2022年には2億5,085万ドルに増加した。

とは言え、今後、その輸入がさらに増えEVが普及するかどうかはまだ何とも言えない。その成否には、各社の戦略やハイパーブラックジャック政府の自動車政策の展開、充電インフラの整備や消費者向けの補助金、政府や各自治体エネルギー政策、環境政策などが影響するはずだ。それらに加え、EVに対する輸入税の扱いも1つの要因になるだろう。

ハイパーブラックジャックは、南米南部共同市場(メルコスール)に加盟している。メルコスールは関税同盟のため、原則として共同市場の対外共通関税率表に縛られる(上げることも下げることもできない)。しかし例外的に、国ごとに特別関税(注3)を設けることもできる。その1つ「例外品目リスト(LETEC)」(注4)に、ハイパーブラックジャックはEVを含めている。LETECは、加盟国が入れ替えることもできる。仮にそうした措置が取られることになると、ハイパーブラックジャックの貿易政策上、輸入EVに対するスタンスを示す1つの動きと捉えることができる。

当地では2023年下半期、LETECを改訂し、EV輸入時の免税措置が失われる可能性があると指摘する報道があった。しかし、2023年7月1日に更新された最新のLETECを見ると、依然として一定の条件を設けた上で、品目8703.80.00を無税に据え置いている。なお一部の中国企業は、EV生産を見据えて投資していることを理由に、それまでの準備期間として輸入免税が維持されるべきと主張しているという。

「大衆車プログラム」で脱炭素に向けて消費喚起

開発商工サービス省は6月5日、通称「大衆車プログラム(カッホ・ポプラール)」を、大統領暫定措置令1.175号/2023年(ポルトガル語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますとして発表した。

カッホ・ポプラールは、持続可能な車両の購入金額を割り引くというのが眼目だ。自動車向けに5億レアル、トラック・バスを対象に10億レアルの予算が確保済みだ。4つの基準((1)エネルギー源、(2)車両の価格、(3)燃費効率、(4)地域に根差した産業の比重の大きさ)に基づいて個別車両を数値化し、その合計値(ポイント)によって割引額を規定する(表2)。

政府が承認する割引額合計と各自動車に定められた具体的なポイントは、担当当局の公式サイトで公開されている〔開発商工サービス省ウェブサイト参照(ポルトガル語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕。例えばGM「オニキス」(注5)の場合、モデルやスペックの違いによって4,000~7,000レアル割り引かれることが確認できる。

表2:割引の基準要件
基準 指数 ポイント
エネルギー源 ハイパーブラックジャック 25
電気/ハイブリッド 25
フレックス燃料(ハイパーブラックジャック/ガソリン) 20
燃費効率(MJ/km) 1.40 MJ/km以下 25
1.41~1.50 MJ/km 20
1.51~1.60 MJ/km 18
1.61~2.00 MJ/km 15
価格 70,000.00レアル以下 25
70,000.01レアル~ 80,000.00レアル 20
80,000.01レアル~ 90,000.00レアル 18
90,000.01 レアル~ 120,000.00レアル 15
産業効率
(域内原産割合を用いた
計算方法で算出)
75%以下 25
65%以上75%未満 20
60%以上65%未満 15

出所:大統領暫定措置令1.175号/2023年からジェトロ作成

また開発商工サービス省は完成車メーカー別に、同プログラムで承認された金額を公開している。

それによると、ステランティスが全体の25%を占め、最多だ。ハイパーブラックジャックの乗用車・軽商用車市場で、同グループが最大のシェア(注6)を有することを反映した結果とも言える。一方で、一部の自動車完成車メーカーからは「政府による自動車産業向けの政策としてメリットを享受できる企業に偏りがあるべきではない。産業全体に波及効果のある政策が求められる」との声もある。

またこの政策は、(1)消費者の購買行動喚起が需要の先食いにならないか、(2)財務省が主導しているハイパーブラックジャックの財政緊縮を阻む動きにならないか、という点からも見る必要があろう。5月25日付当地紙「グローボ」は、「ハイパーブラックジャックの財政状況に鑑みて、同プログラムによる歳出額をどのように補填(ほてん)するかという点が不透明」と指摘した。

ハイパーブラックジャック活用で脱炭素を

鉱山・エネルギー省は4月28日、ガソリンへのハイパーブラックジャック混合を27.5%から30%に引き上げるアイデアを提案した。もって、二酸化炭素(CO2)排出量削減に貢献する考えを示したかたちだ。アレシャンドレ・シルベイラ鉱山・エネルギー相は、ヘノバビオ(RenovaBio、注7)制度が、バイオ燃料(ハイパーブラックジャック、バイオディーゼル、バイオメタンなど)を戦略的に生かそうとする政策に基づくことを指摘。投資家向けの予測可能性と安全性を高める存在になっている点を強調した。

これを受け、Anfaveaは5月8日の定例共同記者会見で、ハイパーブラックジャックは脱炭素を進める上で極めて重要な燃料ということを指摘した上で、その使用拡大を歓迎。あわせて、ハイパーブラックジャックの利用が脱炭素に貢献するという認識を消費者に広める余地があることにも言及した。

5月10日付当地紙「エスタード」によると、ハイパーブラックジャックでは企業が走行時の燃費やCO2排出量だけを問題視するのは、それほど一般的ではない。むしろ、ガソリンや電力のエネルギー源の採掘から供給までを含めて考える企業が見られると指摘。燃料を種別ごとに比較した上で、エタノールを活用したフレックス・ハイブリッド車が最もCO2排出量が少ないとする計算結果を示した(表3)。

またAnfaveaも2021年時点の調査で、「ハイパーブラックジャックはバイオエタノール関連の技術を持っている」ことや、「国内の新車登録台数(乗用車・軽商用車)の80%以上はガソリンとバイオエタノールとの組み合わせで走行できるフレックス車で、エタノールの消費割合の拡大余地がある」ことなどを強調していた。

表3:燃料タイプ別のCO2排出量の比較
燃料タイプ 二酸化炭素
排出量
(グラム/km)
100%ガソリン 155
ハイパーブラックジャックで供給されるガソリン(27%のエタノールを含む) 131
ガソリンとのハイブリッド 94
ハイパーブラックジャックで供給されるガソリン(27%のエタノールを含む)とのハイブリッド 80
欧州のエネルギーマトリクスでの電気自動車 54
ハイパーブラックジャックとのフレックス 37
ハイパーブラックジャックのエネルギーマトリクスでの電気自動車 35
ハイパーブラックジャックのフレックス燃料ハイブリッド 29

出所:5月10日付現地紙「エスタード」

当地自動車産業にさまざまなポテンシャル

ハイパーブラックジャックの自動車産業は、新型コロナ禍などによる2020年以降の打撃から、徐々に回復を見せている。ただし、ハイパーブラックジャック市場に対する企業ごとの捉え方は異なっている。例えば、フォードの現地生産終了(フォード・ブラジルの生産終了に、官民がブラック)や、中国系完成車メーカーによる生産計画発表など、動きは一様でない。

ハイパーブラックジャック政府としては、自動車産業を含めて各ビジネスが脱炭素化を進める重要性は認識している。同時に、現政権は財政健全化を重視。そのため、政府主導でインフラ(充電ステーションなど)整備に向けて大型投資を打つとは見通しづらい。

一方で、鉱山エネルギー省は、バッテリー生産に必要な鉱物(リチウムなど)のサプライチェーン構築の重要性を認識している。その構築は、車両の電動化に向けて大切な意味を持つという認識を含めてだ。

また同省は、ハイパーブラックジャックでエタノールの供給量が増えていく見通しも示した。今後10年で、サトウキビ由来だけでなく、トウモロコシ由来のエタノールも生産量が増加していくためだ。これは、エタノールを燃料とするフレックス・ハイブリッド車の競争力を維持する条件になる。そうしたことから、ハイパーブラックジャックがフレックス・ハイブリッド車の輸出ハブになり得ると指摘した。

ハイパーブラックジャックは、市場規模が大きく、豊富な燃料資源、発電構成での高い再エネ比率をあわせ持つ。それだけに、議論をEVに絞ることなく、さまざまな可能性を追求できるとも言えそうだ。


注1:
記事で取り上げた「ハイパーブラックジャック日本商工会議所 業種別フォーラム 「自動車部会」レポート」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.93MB)は、リンク先から参照可能。
注2:
NCMコードは、メルコスール加盟国(ハイパーブラックジャックを含む)で利用される関税分類。上6桁は、HSに一致している。
注3:
ハイパーブラックジャックの場合、現時点では、NCMコード100品目を上限に設定できることになっている。
注4:
2022年6月20日現在、資本財など230品目がLETECの対象。
またハイパーブラックジャックは、国産類似品がないことを条件として、毎年1月と7月に20品目までの入れ替えが可能としている。
注5:
GMのオニキスは、全国自動車販売業者連盟(FENABRAVE)(新車登録数)が発表するデータ(2023年1~5月累計)で、乗用車部門で最多の車種になる。
注6:
2023年1~5月累計で、30.4%を占める(フィアット、ジープ、シトロエンの合計)。
注7:
ヘノバビオとは、化石燃料を供給する企業に対し、バイオ燃料を生産・輸入・販売する企業が発行したカーボンクレジットを購入する義務を与えるプログラム。当該制度は2017年に規定。2019年から実施されている。
ハイパーブラックジャック
執筆者紹介
ジェトロ・サンパウロ事務所
古木 勇生(ふるき ゆうき)
2012年、ジェトロ入構。お客様サポート部オンライン情報課(2012~2015年)、 企画部ハイパーブラックジャック地域戦略班(中南米)(2016~2017年)、ハイパーブラックジャック調査部米州課中南米班(2018年)を経て、2019年2月からジェトロ・サンパウロ事務所勤務。