特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解く最新テクノロジーを駆使し、安全かつ新鮮な乳製品を製造(カンボジア)
キリス・ファーム代表に聞く

2021年4月6日

カンボジアでは、乳製品の約95%を輸入に頼っていることから、国内での乳製品の価格は高い。そのため、国民1人当たりの年間牛乳摂取量はタイやベトナムと比べて少ない(注)。そのような状況下、カンボジアで最先端技術を搭載した大型酪農施設を立ち上げたキリス・ファーム(Kirisu Farm)の代表、ショー・リティ(Chhor Rithy)氏に、カンボジアの酪農産業の可能性についてインタビューした(2020年11月27日)。

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ショー・リティ氏(キリス・ファーム提供)

イスラエルのアグリテック企業の技術導入

質問:
設立の経緯について。
答え:
私たちは、創業メンバー4人の出資のほか、シンガポール系のファンドのエマージング・マーケッツ・インベストメンツ(EMI)や、日系ファンドであるネクサシア・ホールディングス・プライベート・リミテッド(NHPR)の出資を受け、カンボジア初の最先端大型酪農施設(酪農施設と加工工場)を立ち上げた。
初期投資2,000万ドルのうち、約1,000万ドルを株式で調達し、創業メンバーが20%、EMIが40%、NHPRが40%、それぞれ出資している。あとは銀行借り入れや転換社債などで調達した。2018年4月から土地などの購入のために資金を投入し始め、2019年1月から最先端技術の大規模施設構築のためインフラの建設を開始した。約550頭のホルスタイン雌牛をオーストラリアから輸入し、建設着手からわずか1年半後の2020年8月には牛乳とヨーグルト製品の供給を開始した。
事業開始に当たっては、カナダやロシア、中国、ベトナム、アフリカなど世界中で酪農経営の実績があるイスラエルのアグリテック企業、アフィミルク(Afimilk)社と提携し、同社から必要な機器や管理システム、運営ノウハウを提供してもらっている。

キリス・ファームの大規模酪農施設(キリス・ファーム提供)
質問:
イスラエルの技術導入の経緯は。
答え:
イスラエルは、砂漠地帯にありながら食料自給率が100%近く、農産物の輸出量は2019年で21億8,200万ドルと、輸出立国でもある。第一次産業にIT技術を積極的に取り入れており、アグリテックの投資受入額は米国に次いでいる。酪農では、世界で最先端の技術を持つといわれるアフィミルク社が有名で、砂漠地帯のイスラエルでも大規模な酪農場を経営している。ベトナムで最大手のビナミルクに次いで大きい2010年創業のTHミルクという会社があるが、アフィミルク社の支援を受け、現在は3万頭を抱えるまでに成長し、ベトナムで2番目に大きい農場となった。
カンボジアでも同社の最先端技術を取り入れている。例えば、酪農にとって牛の健康管理や病気防止は最重要だ。牛の足にICチップを装着し、何時間立っていたか、どのくらい食べたか、何時間寝たかなどを全て管理している。また、出産時の牛を放置することによる流産・死産は決定的なロスなので、それを防止するために、分娩アラートという機器を利用し、出産のタイミングを見分け、必要な手当てができるようにしている。

テクノロジー駆使し安全な製品を製造

質問:
品質については。
答え:
カンボジアの人々は、新型コロナウイルス禍のため、一層安全な製品を求めるようになった。私たちは安全かつ新鮮でおいしい製品をつくることを心がけている。人間がウイルスを持ち込まないよう、施設の周囲に高さ1.8メートルのフェンスを設置し、人が建物内に入る際には、必ず検温などのヘルスチェック、消毒をしてから入所させるなど、対策を徹底している。牛には、体調に合わせてプロテイン入りの餌を与え、搾乳前にリフレッシュ、リラックスさせるためにミストを浴びさせている。また、ICチップを用いた管理により、体調やストレス状態をリアルタイムで把握でき、少しでも体調が悪い場合は、牛専用のクリニック棟に自動的にレーンを振り分けるため、搾乳はしていない。搾乳後、牛乳は人の手に触れずにタンクに自動的に送られ、輸送時はコールドチェーンを用い、新鮮な状態で製品を運んでいる。

搾乳するための施設(キリス・ファーム提供)

経済成長を背景とした需要拡大を狙う

質問:
販売戦略は。
答え:
現在はスーパーマーケットやレストラン、カフェなど約90店舗に製品を販売しているが、ブラック ジャック 賭け 方販売先の1つが閉鎖したため、今後はより多くの販売先を見つけていく必要がある。カンボジアでは、市場価格より安価にすると品質が悪いと思われる傾向があるため、小売価格は830ミリリットルで2.2ドル、2リットルで4.2ドルと、基本的には他社製品とそろえている。一方で、多くの顧客に認知してもらうために、牛乳を1つ買うとヨーグルトを1つ無料にするといったプロモーションをしている。また、幅広い顧客の嗜好(しこう)に応えるため、今後はチーズやバターなど乳製品のラインナップを充実させ、乳製品のフレーバーの数も増やしていく予定だ。売り上げは年間1,100万ドル、利益は400万ドルを見込んでいる。

キリス・ファームの製品(キリス・ファーム提供)
質問:
今後のカンボジア酪農産業について。
答え:
カンボジアの酪農施設は当社を除くと2つしかない。これまで市場では粉ミルクを輸入して水と混ぜて牛乳として売られているケースが多かった。また、生の牛乳は90%以上輸入に頼っており、関税がかかるため、830ミリリットル当たりの価格は約2.3ドルと日本よりも高い。この傾向はベトナムの15年前と似ている。ベトナムでは、かつてビナミルクが主に粉ミルクを製造販売していたが、経済成長とともに生の牛乳の国内需要が増えたため製造を始めた。所得が増えると、子どもに良いミルクを飲ませたいという思いも強まるので、地産地消の市場も大きくなる。ベトナムの15年前の1人当たり牛乳の年間摂取量は、現在のカンボジアと同じ5リットルだったが、現在は20~25リットルまで増加している。カンボジアも同じ傾向をたどる可能性が高いため、国産ブランドとして、カンボジアに乳製品を普及させていきたい。

注:
2013年の統計では、タイ29.35キログラム、ベトナム16.36キログラム、カンボジア3.47キログラム〔国連食糧農業機関(FAO)〕。
執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所
井上 良太(いのうえ りょうた)
人材コンサル会社での経験(2017年~2020年)を経て、2020年7月からジェトロ・プノンペン事務所勤務。

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