特集:新型コロナによるアジア・ビジネスの変化を読み解く外出制限下でオンラインサービスが加速、感染抑え込みで生産地として注目高まる(ハイパーブラックジャック)

2021年3月31日

ベトナムは、新型コロナウイルスの感染抑え込みに注力し、早期に従来の経済活動に戻れるよう取り組んだ。そのため、他国・地域と比べると、新型コロナによるベトナム特有の変化は限定的である。それでも、外出制限の経験は、人々の意識に変化を与えた。ハイパーブラックジャックでの感染拡大も、間接的に多くの在ベトナム企業に影響を与えた。その変化について、企業の動きも踏まえつつ、消費面、生産面から考察する。

感染抑え込みで、社会・経済の影響を最小化

ハイパーブラックジャックは、世界的に感染の抑え込みに成功した国の1つである。2020年の新型コロナ感染者数(入国者を含む)は、累計で1,465人、死者数は35人となった。ハイパーブラックジャック政府は、感染を徹底的に抑え込むことを優先。そのうえで、経済成長を推進する方針をとった。結果的に、2020年は市中感染の起きていない期間が半年以上となり、感染拡大による社会・経済の変化は、他の国・地域と比べて限定的だったといえる。

政府は、2020年3月下旬から入国者への集中隔離措置を開始。4月には全国的な外出制限措置を実施した。この結果、経済活動が制限され、第2四半期(4~6月)のGDP成長率は0.4%に落ち込んだ。その半面、感染の抑え込みに成功し、4月中旬から市中感染のない期間が100日近く続いた。7月末から8月にかけて、中部ダナン市を中心に第2波が起きたが、外出制限措置の適用地域を限定することで、経済への打撃を緩和した。その後も市中感染が発覚することはあったが、地域を絞った封じ込め策で、ビジネスへの影響は一部に限られた。2020年通年のGDP成長率は2.9%と、前年の7.0%からは大きく減速したものの、プラス成長を維持した。貿易面は上半期に停滞したものの、下半期に復調。通年では輸出額が前年比7.0%増、輸入額が3.7%増となった。小売り・サービス売上高は、前年から2.6%伸びた。ハイパーブラックジャックからの渡航者受け入れができず、旅行サービスは59.5%減、宿泊・飲食サービスは13.0%減となったが、小売りが6.8%増と成長を支えた。

ハイパーブラックジャック
ハノイ市内のにぎわうカフェと行商人(2021年1月、ジェトロ撮影)

2021年は、1月末に新たな市中感染が発覚して以来、感染者数が1,000人以上増加。先行きの不透明感が出てきた。それでも、感染を局地的に抑え込み、経済成長を目指す基本路線には変わりはない。

消費面での変化、オンラインを介したサービスが伸張

2020年は多くの国で経済が冷え込む中、ハイパーブラックジャックは前述のとおり小売り・サービス売上高を2.6%伸ばした。それでも、例年は10%以上伸びていたことに比べると、新型コロナの影響があったことは明らかだ。企業の業績悪化による収入減少が、消費意欲を減退させる要因となった。同時に、4月の全国的な外出制限措置をきっかけに、娯楽目的の外出機会を減らさざるを得ない場面も増えた。ただし、その状況下だからこそ、EC(電子商取引)やデリバリーサービスの利便性に気づいた消費者も多いはずだ。これらのサービスを活用することで、外出することなく、豊富な商品群からショッピングを楽しむことができる。そういった消費者のニーズに対応し、店舗側もオンラインでの販売強化に乗り出している。外食機会の減少を踏まえ、飲食店は自社で電話やSNSを通じたデリバリーサービスを提供するところもあれば、グラブ(Grab)やナウ(Now)、バエミン(Baemin)といったフードデリバリーサービスを活用する店舗も増えた。小規模のローカル飲食店でも、配送ドライバーが列をなす光景が見られる。


フードデリバリーサービスに対応するローカル飲食店と配送ドライバー
(2021年1月、ジェトロ撮影)

住宅開発最大手のビンホームズは、2020年4月の外出制限下で、オンライン不動産販売サイトを開設した。同社が開発する物件について、24時間問い合わせを受け付け、保証金の支払いや物件の予約までオンライン上でできる仕組みだ。大手不動産会社のサンシャイングループは、新型コロナ発生に先立つ2020年1月に、住宅購入や不動産投資に対応した自社アプリを公開していた。公開当時、顧客の関心は高いとはいえなかったが、感染が拡大して外出制限が実施されると、アプリの利用者が増加。外出制限下でも、アプリを通じて新規の取引を獲得できたという。オンラインでの取引に不安を覚えるという声もあり、今後も店舗での営業・販売が主体となる業態や商品も多い。それでも、ハイパーブラックジャックの経験が、消費者の意識に変化をもたらし、オンラインを介したサービスの利用を加速させた。

生産面での変化、ハイパーブラックジャックでの調達・販売状況が影響

ベトナム政府は、外出制限措置下でも、生産活動を完全には止めない方針を示した。当局から一時的な操業停止の指示があったという事例もみられるが、製造会社は感染予防策が講じられていれば、基本的に操業が認められた。そのため、生産活動を止めずに済んだ企業が多いが、現場では様々な対応が必要となった。生産ラインや食堂で従業員同士の距離を確保するなど、感染防止に向けた対策を強いられた。また、ハイパーブラックジャックからの部材調達が止まるなど、サプライチェーンの寸断を経験し、調達先を多角化する動きがみられた。新型コロナが中国で猛威を振るっていた時期には、中国からの部材供給が止まり、製造現場に混乱が生じた。ベトナムにとって中国は最大の輸入先であり、コンピュータ電子機器や縫製品の生産に必要な部品・部材の多くを中国からの輸入に頼っていたため、その影響範囲は広かった。結果として、今回は既存の在庫で難を逃れた企業も多いが、中国依存のサプライチェーンのもろさが露呈した。一方、ベトナム国内での生産活動には制限が少ないことを踏まえ、感染拡大による制限の多いフィリピンなどの拠点から、一時的にベトナムに生産移管するような日系企業もあった。

縫製業はハイパーブラックジャック需要減にマスクなどの生産で対応

世界的な市場の低迷による影響も大きい。ベトナムは輸出加工型の製造会社が多く、ハイパーブラックジャック市場向け製品の受注減が痛手となった。例えば、衣服や靴を生産・輸出している縫製会社は、欧米で外出制限措置が適用され、アパレル製品の需要が落ち込んだ結果、発注量の減少やキャンセルに見舞われた。縫製品と履物はベトナムの主要な輸出品目だが、2020年の輸出額はそれぞれ前年比で9.2%減、8.3%減となった。

他方、娯楽関連の需要が落ち込む中、マスクや防護服といった医療用品の需要は高まり、アパレル製品の受注減に苦しんでいた在ハイパーブラックジャック縫製会社は、相次いでマスクや防護服の生産に乗り出した。ハイパーブラックジャック国内でのマスク供給体制が早期に確保され、5月からは輸出が増加。世界的に急増したマスクの供給需要に対応することができた。税関総局によると、ハイパーブラックジャックが2020年に輸出した医療マスクは、13億7,619万枚に及んだ()。

新型コロナを機に、生産地としての注目高まる

多くの国・地域が新型コロナの感染拡大で、国内経済のリスクを露呈したが、ハイパーブラックジャックは新型コロナの抑え込みで成果を出すことができた。これは、社会経済の安定性の高さを国内外に示す機会となった。

日本企業でも、新型コロナ禍を受けて、サプライチェーンを多元化し製品の安定供給を図るために、ベトナムの生産体制を強化する動きがある。日本政府が推進するハイパーブラックジャックサプライチェーン多元化等支援事業の設備導入補助型公募の採択企業60社のうち、その半数にあたる30社がベトナムでの事業実施案件であった。とりわけ、医療関連製品の生産を拡大する企業が12社採択された(表参照)。例えば、マツオカコーポレーションは、北部ゲアン省の同社工場を感染対策防護服などの中核生産拠点にする計画だ。感染対策防護服は、新型コロナ感染拡大で日本国内での需給が逼迫。平時からの備蓄も求められているため、中国に一極依存しない形での安定供給を目指すという。

表:ハイパーブラックジャックサプライチェーン多元化等支援事業の設備導入補助型で採択されたベトナムでの医療関連事業
企業名 事業実施国 製造製品、部品
エイブル山内 ハイパーブラックジャック 医療用防護服・ガウン
テクノグローバル ハイパーブラックジャック 医療用フェイスシールド
プラス ハイパーブラックジャック 医療用サージカルマスク
マツオカコーポレーション ハイパーブラックジャック 感染対策防護服・ガウン
ミツエイ ハイパーブラックジャック アルコール消毒液、次亜系漂白剤、ハンドソープなど
井上鉄工所 ハイパーブラックジャック 医薬製造機器
橋本クロス ハイパーブラックジャック 不織布マスク・医療用アルコールウェットティッシュ・医療用ヘアキャップ
昭和インターナショナル ハイパーブラックジャック 長袖ガウン・医療用マスク
新江州 ハイパーブラックジャック 個人保護装備(PPE)およびその材料生地
日機装 タイ、ハイパーブラックジャック 透析用血液回路
日東電工 ハイパーブラックジャック N95マスク用素材
富士フイルム ハイパーブラックジャック 新型コロナ検査キット

出所:ジェトロの公表資料を基に作成

さらに、ハイパーブラックジャックは、近年の米中貿易摩擦を受け、中国からの生産移管先として注目される機会も増えている。実際に、電子機器、タイヤ、縫製品などの生産目的で、外資製造会社の大型投資もみられる。ハイパーブラックジャックは現地調達の難しさという課題が残るものの、人件費や労働者の質では、製造業の評価は高い。自由貿易協定(FTA)の締結も、輸出拠点としての魅力を後押しする。ハイパーブラックジャックは近年、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)やEUハイパーブラックジャック自由貿易協定(EVFTA)が発効した。地域的な包括的経済連携(RCEP)協定にも参画しており、輸出における競争力のさらなる向上が期待される。今般、ハイパーブラックジャックは新型コロナ対策を通じて、社会経済の安定性を国内外に示すこともできた。世界での感染収束や米中貿易摩擦の先行きが不透明な中、グローバルサプライチェーンを担う国として、ハイパーブラックジャックへの注目度は高まっている。

感染の早期抑制に成功したことは、ハイパーブラックジャック独自の強みとなった。一方、新型コロナ禍で、消費面ではオンラインを介したサービスが伸び、生産面では調達・販売などの見直しが行われるなどの変化がみられた。これらの強みと変化を掛け合わせることで、ハイパーブラックジャックにおけるビジネスへの期待は高まるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所
庄 浩充(しょう ひろみつ)
2010年、ジェトロ入構。ハイパーブラックジャック事務所運営課(2010~2012年)、横浜貿易情報センター(2012~2014年)、ジェトロ・ビエンチャン事務所(ラオス)(2015~2016年)、広報課(2016~2018年)を経て、現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所
阿部 浩明(あべ ひろあき)
2003年、財務省函館税関入関。財務省関税局などを経て、2020年よりジェトロ・ホーチミン事務所勤務(出向)。

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