特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の今9割超がマハティール政権に期待、投資環境改善望む(マレーシア)
ブラック ジャック ディーラー ルール
2019年4月26日
ブラック ジャック ディーラー ルールが2018年10~11月に実施した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、マレーシア進出日系企業の2018年の営業利益見通しを黒字とした企業は68.9%と、前回調査に比べ減少した。他方、約半数が今後1~2年での事業拡大を検討している。背景には、2018年5月に誕生したマハティール政権による行政手続きの簡素化や、中長期的な産業政策などビジネスフレンドリーな投資環境整備への期待感が表れているとみられる。投資環境上の課題としては、労務関連の項目が上位に挙がり、最低賃金上昇や外国人労働者に対する負担増など、コストの上昇を懸念する声も多い。
黒字比率は減少傾向の一方、拡大意欲は堅調
マレーシア進出日系企業の68.9%が2018年の営業利益見通しを「黒字」と回答した。前年調査(73.8%)と比べて4.9ポイント減少した。業種別にみると、日系企業の進出が多い電気機械器具製造業が80.8%と最も高く、次いで卸売・小売業(78.7%)、化学・医薬製造業(70.6%)と続いた(注)。売上高に占める輸出比率別にみると、輸出比率が50%以上の輸出加工型企業では、黒字比率が73.6%に対して、50%未満の内需型企業では66.1%と大きく差が開いた。輸出比率別の結果に関しては、日系製造業を中心に調査直後の2018年11月ごろから、米中貿易摩擦の影響とみられる間接的な注文を含む中国向けの受注が減少したという声も聞かれており、調査結果にはこの影響が反映されていないと思われる。
今後1~2年の事業展開については、54.0%の日系企業が事業を「拡大する」と答えた。拡大意欲は製造業に比べ、通信・ソフトウエア業、金融・保険業、運輸業、卸売・小売業などの非製造業が高かった。日系通信業A社からは「マレーシアのIT産業の成長を見越し、拡大基調の方針」、日系運輸業B社からは「コールドチェーンの需要が拡大傾向にある」とのコメントがあり、サービス業におけるマレーシア市場拡大に期待する声が多かった。他方、建設業では「拡大する」と答えた企業の割合が31.8%に対し、「縮小」および「第三国への移転撤退」が合わせて22.5%と高かった。日系建設業C社は「コンドミニアムなどの住宅を含む不動産の供給過多の状況で、建設需要の拡大が見込めない」ことを理由に挙げた。
欧州、インド向けの輸出が有望
マレーシア進出日系企業の売上高に占める輸出の比率は、全業種の平均が44.3%で、製造業だけに限ると、輸出比率は66.6%だった。特に電気機械器具製造業では、マレーシアを輸出加工拠点とし、マレーシアで生産した製品を全世界向けに輸出する企業も多い。輸出先の内訳をみると、ASEAN域内(45.0%)が最も多く、次いで日本(22.3%)、中国(6.6%)、欧州(6.0%)、米国(4.7%)と続く。他のASEAN進出日系企業と比べると、欧州向けの比率が高い。日系電気機械製造D社は「マレーシアはアジアの中でも欧州へのリードタイムが短く、欧州向け輸出拠点として設立した」として、欧州向け輸出におけるメリットがあると話す。また、日系機械部品製造E社は「高付加価値で高単価な部品への引き合いが多い」として、欧州向け輸出を強化する方針だという。今後有望な輸出先としては、インドネシアと中国を挙げた企業の割合がそれぞれ14.1%と最も高い。次いで、インドが10.6%と前回調査(4.7%)から倍増した。日系産業用機械製造F社では、「日系製造業の進出が加速しており、今後インドでの需要増が有望」だという。
基幹部品や安全部品を中心に現地調達は限定的
原材料・部品の調達では、製造業の現地調達比率が36.1%となり、5年前の2013年度調査(42.3%)と比べると6ポイント近く減少した。他方で、「工場近くの地場企業から8割程度調達が可能」(日系電気機械製造業G社)など、日系企業の平均を大きく上回る現地調達率を実現している企業も多い。しかし、自動車や精密機械向けの部品では、「取引先の品質要求を満たす原材料の供給先がない」(日系自動車部品製造H社)という。今後の原材料・部品調達について地場企業からの調達を引き上げると答える企業は57.8%だが、品質面での不安が残る。全量検査などでリスクを軽減するほか、サプライヤーの地場企業に社員を常駐させて品質向上を図る取り組みを行う企業もある。
国民の英語力の高さがメリット、労務管理に課題
投資環境上のメリットでは、「言語・コミュニケーション上の障害の少なさ」を挙げた企業が75.9%と最も高く、他のASEAN諸国の中でも最も高い割合だった。マレーシアは多民族国家のため、英語が堪能な国民が多いことが理由だ。次いで、「安定した政治・社会情勢(54.8%)」「駐在員の生活環境が優れている(54.8%)」「インフラの充実(43.7%)」「土地/事務所スペースが豊富、地価/賃料の安さ(29.5%)」と続いた。他方、投資環境上のリスクでは、「人件費の高騰」が59.5%と最も高かった。最低賃金の引き上げ、雇用保険制度の導入、外国人労働者に課せられる年次雇用税の増額など、労務コスト増に影響する制度変更が相次いでいることを指摘する声が多い。「従業員の離職率の高さ(42.0%)」「現地政府の不透明な政策運営(40.1%)」「労働力不足・人材採用難(専門職・技術職、中間管理職等)(34.2%)」「労働力不足・人材採用難(一般ワーカー、一般スタッフ・事務員等)(31.1%)」と、リスクには労務関連項目が上位を占めた。
表1:マレーシアにおける投資環境上のメリットとリスク(2018年度の上位5項目)
順位 | 回答項目 |
2018年度 回答率(%) (n=261) |
2017年度 回答率(%) (n=220) |
---|---|---|---|
1 | 言語・コミュニケーション上の障害の少なさ | 75.9 | 67.3 |
2 | 安定した政治・社会情勢 | 54.8 | 57.7 |
2 | 駐在員の生活環境が優れている | 54.8 | 51.4 |
4 | インフラの充実 | 43.7 | 41.8 |
5 | 土地/事務所スペースが豊富、地価/賃料の安さ | 29.5 | 20.5 |
順位 | 回答項目 |
2018年度 回答率(%) (n=257) |
2017年度 回答率(%) (n=213) |
---|---|---|---|
1 | 人件費の高騰 | 59.5 | 59.6 |
2 | 従業員の離職率の高さ | 42.0 | 39.9 |
3 | 現地政府の不透明な政策運営 | 40.1 | 39.0 |
4 | 労働力不足・人材採用難(専門職・技術職、中間管理職等) | 34.2 | 31.0 |
5 | 労働力の不足・人材採用難(一般ワーカー、一般スタッフ・事務員等) | 31.1 | 37.6 |
出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ブラック ジャック ディーラー ルール)
マハティール政権への期待大、急激な政策変更への懸念も
マレーシア進出日系企業に対しては、2018年5月に史上初の政権交代により誕生したマハティール政権について、期待と懸念についての質問を設けた。「期待している」「やや期待している」と回答した企業の割合は合わせて9割を超える結果となった。
期待する内容としては、「汚職防止(55.5%)」「役所・行政手続きの簡略化(54.7%)」「中長期的な製造業に対する政策の策定(47.9%)」が上位に挙がった。日系商社I社は「マハティール首相が11月に訪日した際の『ビジネスフレンドリーな国を目指す』という発言に期待したい」と述べた。他方、懸念する内容としては、「急な政策変更」が59.3%と最も高かった。特に、制度変更に際しては、十分な準備期間を設けてもらいたいという声が多く、日系機械製造業J社は、2018年9月1日に導入された売上税とサービス税について、「導入直前まで制度詳細が発表されず混乱した」と指摘する。マハティール政権に対しては、投資環境改善などへの期待が高まる一方、急な制度変更や税務、労務での規制強化によるビジネスコストの上昇を懸念する見方も強いようだ。
表2:マハティール政権に期待すること/懸念すること
順位 | 回答項目 | 回答率(%)(n=236) |
---|---|---|
1 | 汚職防止 | 55.5 |
2 | 役所・行政手続きの簡略化 | 54.7 |
3 | 中長期的な製造業に対する政策の策定 | 47.9 |
4 | 外国人労働者雇用の柔軟化 | 45.3 |
5 | 投資を促す企業税制の整備 | 44.9 |
順位 | 回答項目 | 回答率(%)(n=231) |
---|---|---|
1 | 急な政策変更 | 59.3 |
2 | 景気の低迷 | 43.7 |
3 | ビジネスコストの上昇 | 42.4 |
4 | 労働力不足(外国人労働者) | 41.1 |
5 | 過度なリンギ安の進行 | 38.1 |
出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ブラック ジャック ディーラー ルール)
- 注:
- 回答企業数が10以上の業種に限る。
- 執筆者紹介
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ブラック ジャック ディーラー ルール・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり) - 2010年、ブラック ジャック ディーラー ルール入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ブラック ジャック ディーラー ルール・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。