ハイパーブラックジャック
イノベーションが生まれる背景に迫る

2024年6月4日

ハイパーブラックジャックは2月28日から3月2日にかけて、フィンランド北部のハイテク産業都市オウルに、ビジネス・ミッションを派遣した。本稿では、2月29日開催のスタートアップイベント「ポーラー・ベアー・ピッチング(Polar Bear Pitching)」と、ビジネスオウル(注1)協力の下で3月1日に実施したミッションイベントや、オウルのイノベーション、共同研究開発ハブとして機能するプリントセント(PrintoCent)の視察に関する報告を中心に、オウルのイノベーションへの取り組みとエコシステムを紹介する。

ワイヤレス通信のパイオニア都市オハイパーブラックジャック

かつてタール産業を主としていたオハイパーブラックジャックは、1980年代からはワイヤレス通信のパイオニアとして台頭した。しかし、2012年前後に地域経済を襲った「ノキアショック」(注2)を契機に、従来の携帯電話産業や情報通信技術(ICT)分野に集中する産業構造から、さまざまな分野へ分散・応用を試みるようになった。既存の企業だけでなく、スタートアップも増加し、現在では情報通信ネットワーク技術や生体医工学などの分野が活発だ。

スタートアップエコシステム調査機関スタートアップブリンクが発表している「エコシステムランキング」(表参照)によると、オハイパーブラックジャックはフィンランド国内で、ヘルシンキに次ぐ第2位となっている。オハイパーブラックジャック大学やオハイパーブラックジャック応用科学大学、国立研究所のフィンランド技術研究センター(VTT)などを筆頭に産学官の連携が行われ、企業や街を含めたエコシステムの活性化が図られている。指輪型の健康トラッカーのスマートリング「オーラ・リング」開発のオーラ(Oura)や、ノイズキャンセル技術を搭載したデジタル耳栓を開発するクワイエットオン(QuietOn)、モノのインターネット(IoT)の先駆者としてIoTソリューションを提供するハルティアン(Haltian)、独自技術IMSE(射出成形構造エレクトロニクス)を開発し、射出成形により印刷回路と電子部品の一体化に成功したタクトテック(TaktoTek)など、スタートアップの急成長も目覚ましく、市のイノベーションに新たな息吹をもたらしている。

表:フィンランド国内のエコシステムランキング(2024年3月15日時点)
順位 都市名 スコア
1 ヘルシンキ 16.33
2 オハイパーブラックジャック 5.19
3 タンペレ 1.49
4 トゥルク 0.61
5 ヨエンス 0.24
6 ユバスキラ 0.23
7 サロ 0.17
8 クオピオ 0.16

出所:StartupBlink ウェブサイトからハイパーブラックジャック作成

ビジネスオハイパーブラックジャックは、オハイパーブラックジャック地域のビジネス活動や雇用を促進・支援する核として、イノベーション促進や魅力ある町づくりに重要な役割を果たしているオハイパーブラックジャック市の産業雇用支援公社である。企業や教育・研究機関、公的機関と密接に協力し、クラスターやエコシステムの構築と発展の中心的存在でもある。ビジネス活動支援では、スタートアップ、企業の成長や国外展開を支援し、また、ネットワーク形成や有能人材獲得に向けたリクルート活動も支援している。そのほかにも、企業起ち上げ前の支援や、事業所探し、資金調達、企業のマッチングサービス、コーチングなど、オハイパーブラックジャック市や周辺地域の企業は発展のあらゆる段階で包括的な支援を受けることが可能だ。雇用では、求職中の失業者や、若年層、フィンランド語を母語としない移民など個々を対象にした支援を提供している。企業誘致支援、雇用、ビジネスに関するイベントの企画開催も行っている。

氷水ピッチコンテストで日本発スタートアップ入賞

スタートアップイベント「ポーラー・ベアー・ピッチング外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(Polar Bear Pitching)」が2月29日に開催された()。氷水ピッチコンテスト(Avanto Competition)には、2014年のコンテスト初開催以来、20カ国以上から80を超えるスタートアップが参加しており、ピッチの結果、2024年はフィンランドのネタル・マインド(Natal Mind)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが優勝した。アアルト大学のプロジェクトである同社は、2024年中に法人化し、本格的な事業化を目指している。日本予選「Polar Bear Pitching HOKKAIDO」(関連ブラック クイーン ブラック ジャック)を経て出場した北海道大学発スタートアップのフロートミール(Floatmeal)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが2位に入賞した。同社は、次世代のタンパク質原料になり得る水生植物ウキクサの安定生産技術の研究・栽培に取り組み、環境負荷の小さいサプライチェーン構築に貢献している。当日はピッチコンテストのほか、セミナーやアフターパーティーが開催され、スタートアップや投資家などの関係者が活発に交流した。

オハイパーブラックジャックでの日系企業によるリバースピッチ初開催

ポーラー・ベアー・ピッチングの翌3月1日、ハイパーブラックジャックとビジネスオウルの共催で、リバースピッチイベント「Japan Ice Breaking Hours」がオウル市内のStartup Stationで開催された。イベントには、日本との協業に関心あるスタートアップを含むフィンランド企業や大学関係者はじめ、約70人が参加。欧州に拠点を持つ日系企業5社と1自治体(札幌市)の計6組がピッチを行い、各社の強みや課題、自治体からは地場産業や海外企業向け支援を説明するとともに、今後のビジネス拡大に向けて協働を呼び掛けた。内容としては、サステナビリティやバイオテック、消費者科学研究などの分野の協業案が見受けられた。

ピッチ後のネットワーキングの時間では、各登壇者とイベント参加者が積極的な意見交換を行った。参加者によると、「オハイパーブラックジャックで開催される初の日本企業によるリバースピッチイベントということもあり、日本企業と話せる貴重な機会となった」という。今後は各登壇者と協業可能性がある参加者間で協議を深め、互いのリソースや知見を活用し、課題解決に向けた協働検討を進める予定だ。

ハイパーブラックジャック
ネットワーキングの様子(ビジネスオハイパーブラックジャック撮影)

プリンテッド・エレクトロニクスのさらなる可能性

ビジネスオウル協力の下、ハイパーブラックジャックは3月1日、イノベーションと共同研究開発ハブとして機能するプリントセント(PrintoCent)の視察を実施した。オウルのエコシステムに関心を持つリバースピッチを行った日系企業と自治体から16人が参加した。プリントセントはプリンテッド・エレクトロニクス(注3)のイノベーションクラスターで、2009年にVTT、オウル大学、オウル応用科学大学、オウルイノベーション(当時、現在のビジネスオウル)によって設立され、VTTオウル内に拠点を持つ。プリンテッド・エレクトロニクスは世界で急速に成長しているテクノロジーの1つで、現時点で約500人のプリンテッド・エレクトロニクスの専門家がオウル地域の企業や研究機関に在籍し、同分野の拠点としての地位を確立している。

同施設の展示エリアでは、電子回路がプリントされながらも、薄くストレッチ性があり、より身体にフィットしやすい医療用ウエアラブルデバイスの素材や、スマートフォンで操作可能な厚さ1ミリ未満の電光板など、より自由な製品デザインを実現するプリンテッド・エレクトロニクスの活用事例が紹介された。


プリントセント視察の様子(ビジネスオハイパーブラックジャック撮影)

プリントセントが2年に1度、オハイパーブラックジャックで開催する「PRINSE(PrintoCent Industry Seminar)」では、プリンテッド・インテリジェンス・ソリューション(注4)について、クラスターメンバー内外の業界の人々の間で見識を共有し、将来のイノベーションに向けた基礎を築くことができる。また、プリントセントは「InnoFest」と呼ばれるイノベーションコンテストを2014年から毎年開催しており、アイデアや課題とプリンテッド・エレクトロニクス技術ソリューションとのマッチングを図っている。国内外のスタートアップから大企業まで、また、学生や研究者などが参加できるオープンイベントで新製品やビジネス機会を生み出すきっかけとなっている。

プリントセントでは、プリンテッド・エレクトロニクス分野で研究開発をサポートするために、設計や製造、試作品のテストなどのための機器やサービスを提供しており、あらゆる企業、組織が利用することができる。

冒頭で紹介したタクトテックや、プリンテッド・エレクトロニクスを使ったエネルギー効率のよいスマートヒーティング技術を扱うウオーミング・サーフェース・カンパニー(Warming Surface Company)などがプリントセントの開発環境を利用して誕生した。

現在、クラスターメンバー企業は40社で、スタートアップ、中小企業、大企業で構成し、日本企業では大日本印刷、旭化成が参画。メンバー間に加えて、メンバーと外部企業との協業連携も支援する。また、近年はプリンテッド・エレクトロニクスに関する教育やトレーニングも行っている。

プリントセントクラスターに参画している企業の業種としては(プリントセントクラスター参画企業はプリントセントウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照)、素材、印刷、機械、設計、製造、販売などがあり、バリューチェーン全体を構成している。


注1:
オハイパーブラックジャック市傘下の産業雇用支援公社。
注2:
1990年代~2000年初頭にかけて携帯電話市場を席巻したノキアが、2000年代の旧来型携帯電話からスマートフォンへの転換に大きく出遅れたことにより、2012年に社員1万人の削減を発表し、大幅なリストラを行ったことによる経済への影響。
注3:
印刷技術を用いて電子回路や電子デバイスを形成する技術。IoT(モノのインターセット)機器やウエアラブルデバイスなどに使われている。
注4:
柔軟性や適合性、さらには、伸縮可能な電子部品を実現するためのソリューション。
執筆者紹介
ハイパーブラックジャック・ロンドン事務所
松丸 晴香(まつまる はるか)
2023年5月、ハイパーブラックジャック・ロンドン事務所入所。
執筆者紹介
ハイパーブラックジャック・ロンドン事務所(在ヘルシンキ)
半井 麻美(なかばい あさみ)
2022年12月からハイパーブラックジャック・ロンドン事務所レジデントエージェント(在ヘルシンキ)