労働協約失効から3カ月経過
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2022年10月25日
米国西海岸の港湾で、労働協約が7月1日をもって失効した(米西海岸港湾の労働協約が7月1日に失効、ブラック)。ただし、雇用者側の太平洋海事協会(PMA)と労働者側の国際港湾倉庫労働者組合(ILWU)は、協約失効後も「港湾の通常業務は継続する」と表明。そのため、港湾機能はストライキなど不測の事態に発展することなく維持されている。
その一方で、労使交渉は現在も続いている。しかし、医療給付に関する暫定合意の発表以降は主だった進展は報告されていない。報道には、交渉の行き詰まりを指摘するものも見られる。
この連載では、運輸産業の労使交渉や港湾実務などへの影響を追う。前編では、労働協約失効後3カ月が経過した10月1日時点の情報を基に、港湾労使交渉に関連する7月以降の主な動きと西海岸港湾を取り巻く状況の変化に触れる。後編では、鉄道労使交渉が及ぼす影響と今後の港湾労使交渉の行方を考察する。
医療給付の暫定合意発表も、続報なし
米国では、新型コロナウイルス禍を発端として、港湾の混雑やコンテナ不足が発生。それに伴う海上輸送運賃の高騰が、物価高に拍車をかけている。それが社会問題として捉えられるようになって、一般的な関心を集めている状況だ。今回の労使交渉はこうした異例の状況下で進められている。そのため、ビジネス関係者だけでなく、11月に中間選挙を控えるバイデン政権も注目している。一方で、PMAやILWUとしても、港湾機能停滞につながる強硬手段(ストライキやロックアウト)は取りづらい。そのため、7月の労働協約失効後も、両者とも自制しつつ交渉を継続。妥結を急ぐとみられていた。
実際、こうした中、交渉に一定の進展もあった。PMAとILWUは7月26日、交渉中の他の問題の合意を条件として、医療給付に関する暫定合意に達したと発表したのだ()。今回の労使交渉の最大の争点は、ターミナルの自動化問題とされている。対して、医療給付については、労使双方の隔たりが小さかったとみられる。しかし、この発表以降、主だった進展は報告されていない。
シアトル港ターミナルの管轄権を巡って対立、労使交渉は停滞か
PMAとILWUの労使交渉は非公開。両者は、交渉内容をメディアで議論しないことに合意している。そのため、労使交渉の動静は、両者からの公式発表を除き、事情に通じた関係者の話を報じるリーク報道から把握することになる。
各種報道によると、PMAとILWUはシアトル港の荷役ターミナル設備の管轄権を巡って対立している。交渉は停滞しているもようだ。
- 8月19日付「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版によると、ILWUは同組合の労働者がシアトル港の荷役ターミナル設備の保守や修理の業務を担うことを保証するよう求めている。PMAは、これを拒否。同紙は「組合(ILWU)は、シアトル港に関する意見の不一致が解決するまで、賃金や使用者が港湾に自動化設備を導入する権利といった他の重要な問題には目を向けないだろう」という関係者のコメントを紹介した。
- シアトル港の港湾労働者有志が9月12日の週に会合を招集し、抗議活動に備えたという報道もある(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版9月19日)。9月27日にはILWUが声明を発表。声明では、「ターミナル運営会社のSSAマリンが、同組合の労働者への作業割り当てを回避するために、全国労働関係委員会(NLRB)の介入に向けて手続きを進めている」と非難した。その上で、「われわれは、SSAマリンがこのような行動を起こしたことに衝撃を受けている。そのため、交渉の進め方を現在再考中」とコメントしている。
労使交渉が行き詰まりをみせる中、港湾労働者が実際に抗議活動に踏み込む事例も報道されている。
- 9月4日と19日付の「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版は、(1)心肺蘇生法の訓練に関する意見の相違を理由に、タコマ港の荷役施設の労働者が8月の夜間シフトを拒否した事例や、(2)安全上の懸念から、ロサンゼルス港のAPMターミナル(注1)で、労働者が自動コンテナ処理装置を使用した勤務を約4週間にわたり拒否した事例、を報じた。
- 9月19日の週には、オークランド港やシアトル港、タコマ港で、ILWUの一部組合員が意図的に荷役作業を停滞させている(「ジャーナル・オブ・コマース」9月26日)。報道によると、作業開始の遅延やシフトに必要な事務員の半分の欠勤によって、オークランド港の処理能力が25%低下した。
さらに、港湾労使交渉と直接は無関係な争点で、港湾労働者が抗議活動に加担する事例や港湾機能が停滞する事例も報道されている。
- 米国最高裁判所は6月30日、従業員と独立請負人の分類を再定義するカリフォルニア州法(AB 5)に関する審理請求を却下した。これを発端にオークランド港では、トラックドライバーが一部のターミナルで入場を妨害し、港湾労働者がこれに従った。その結果、7月18日から1週間にわたり、荷役作業が一部中断された(「マリタイム・エグゼクティブ」7月25日)。
- ロサンゼルス港やロングビーチ港の警備員の労働組合、ILWUローカル26は、労働協定について雇用者と交渉。その戦術として、ストライキを承認した。不測の事態を回避するため、影響を受けるターミナルが予防的に閉鎖された(9月6日付「ジャーナル・オブ・コマース」紙)。
ちなみに、ILWUローカル26が交渉中の労働協定は、職域レベルの協定に該当する。ILWU・PMA間の労働協約とは関係ない。ジェトロ・ロサンゼルス事務所の森本政司物流アドバイザーは、「警備員労働組合の構成員がターミナル入り口などで妨害活動を進めた場合、ILWUの港湾労働者が感化されることもあるだろう。さらにそれに従うことにより、港湾機能が停滞することはあり得る」と説明していた(9月8日に開催されたジェトロのセミナーで解説。ブラック ジャック 必勝 法、「米国西海岸港湾の最新状況と労使交渉の行方」セミナー)。その後、9月20日付「ジャーナル・オブ・コマース」紙は、ILWUローカル26とPMAが暫定合意に達し、全体の労働協約の交渉妥結後に詳細を詰める予定と報じた。ILWUローカル26によるストライキは、いったん回避されたことになる。
交渉決裂を警戒し、西海岸からのシフト鮮明に
このように、西海岸港湾の労使交渉をめぐっては、先行きに懸念が高まっている。そうした中、仕向け港を西海岸から東海岸やメキシコ湾岸などにシフトする動きがある。荷役作業の停滞やストライキなどの不測の事態に発展し、サプライチェーンが寸断されるリスクを避けるためだ。
その実態を探るためジェトロは、アジア上位10カ国・地域発・米国向けのコンテナ取扱量を米国港湾別に分析した(注2、2022年8月4日付地域・分析レポート参照)。結果、2022年上半期(1~6月)のコンテナ取扱量は前年同期に比べ、ロングビーチ港(前年同期比1.4%増)で微増にとどまり、ロサンゼルス港(6.1%減)で減少していた。一方、東海岸などの主要港では、大幅に増加した。例えば、ニューヨーク・ニュージャージー港(20.6%増)、サバンナ港(12.7%増)、メキシコ湾のヒューストン港(42.2%増)だ。港湾別のシェアでみると、ロサンゼルス港は2021年上半期の27.5%から2022年上半期に24.7%に、ロングビーチ港は21.5%から20.9%に低下した。半面、ニューヨーク・ニュージャージー港は12.3%から14.2%に、サバンナ港は10.0%から10.8%に、ヒューストン港は3.7%から5.0%に上昇している。コンテナの取り扱いが、西海岸から東海岸やメキシコ湾岸にシフトしていることが確認できる。
7月以降もこの動きは続いている。2022年7~8月累計の実入り輸入コンテナ取扱量は、前年同期比で、ロサンゼルス港は6.9%減、ロングビーチ港は3.8%減だった(注3)。対して、ニューヨーク・ニュージャージー港は4.8%増、サバンナ港は15.6%増、ヒューストン港は14.5%増だ。
こうした動きを受け、物流会社は東海岸向けサービスの強化を開始している。例えば日本通運は8月3日、東海岸のニューヨーク・ニュージャージー港やノーフォーク港を仕向け港とする新たな海上輸送サービスを発表した。
西海岸での混雑解消や運賃下落で状況に変化も
ここまで見たとおり、労使交渉の決裂を警戒し、西海岸から東海岸やメキシコ湾岸へ仕向け港をシフトする動きがはっきりしてきた。その結果もあって、西海岸港湾で混雑解消が顕著になっている。実際、ロサンゼルス港とロングビーチ港の沖合で停泊許可を待っているコンテナ船の数は、ピーク時の2021年1月の109隻から、10月13日には6隻に激減した。反対に、東海岸などでの沖待ちのコンテナ船が増加している。その数は10月13日現在、ニューヨーク・ニュージャージー港で11隻、サバンナ港で32隻になっている。
また、米国では、物価上昇と連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めなどから、景気の先行きに不透明感が漂い始めた。その影響も受け、コンテナ取扱量自体が頭打ちになっている。これが、減少に向かう可能性も大きい。全米小売業協会(NRF)は、10月7日に公表した報告書で現状を分析。(1)全米の輸入コンテナ取扱量が7月に2022年で初めて前年同期比で減少に転じたこと、(2) 8月以降も、少なくとも2023年2月までは前年同月を下回り続けること、(3) 2022年通年の取扱量は前年比0.7%増と前年水準を維持するものの、下半期(7~12月)には前年同期比で4.0%減に落ち込む見通し、を示した(米主要港、ブラック ジャック トランプ 無料)。いずれにせよ、こうした動きも西海岸港湾の混雑が解消する一因になっているとみられる。
混雑解消に伴い、高騰していた運賃の下落も顕著だ。英国調査会社ドリューリー(Drewry)によると、10月13日時点の上海発ロサンゼルス行き40フィートコンテナの海上輸送運賃(2,619ドル)は、2021年9月のピーク時(1万2,424ドル)に比べて78.9%減と大きく落ちこんだ。
こうした状況を反映し、グローバル・サプライチェーン圧力指数(GSCPI)は、5月から9月にかけて5カ月連続して改善している。GSCPIは、米国内や国際的なサプライチェーンの逼迫度合いを示す指標だ。長期的水準としては、供給網の逼迫状況はまだ高い。しかし、2021年12月のピーク時からは大幅に改善し、新型コロナ禍前の水準以下となっている。こうしてみると、米国全体として、サプライチェーンの逼迫が解消しつつあると評価できる。
新型コロナ禍を発端とした港湾の混雑やコンテナ不足、それに伴う海上輸送運賃の高騰は国際的なサプライチェーンの混乱を招いた。同時に、港湾機能の重要性を世間一般が再認識するきっかけになったともいえるだろう。さらに、港湾の稼働を停止することなく、円滑な物流を継続する必要性がこれまで以上に高まった。海上輸送運賃高騰と貨物取扱量急増によって、海運会社には2021年、2,000億ドルを超える利益がもたらされたとも報じられている(「ザ・ロード・スター」4月26日)。加えて、米国では労働市場が逼迫して労働者不足が深刻化し、賃金上昇が顕著だ。こうした状況は、結果としてILWUの交渉力を高めたと考えられる。
しかし、ここまで見てきたとおり、港湾を取り巻く状況には変化が見られる。こうした外部環境の変化が今後のILWUの交渉力を相対的に低下させる要因となり得るか、今後の動きが注目される。
- 注1:
- APMターミナルでは自動化設備を導入済み。
- 注2:
- この分析は、米国調査会社デカルト・データマインの海運統計データに基づいた。
- 注3:
- 特に8月は、ロサンゼルス港の実入り輸入コンテナ取扱量が前年同月比16.9%減と大きく落ち込んだ。その要因について、市港湾局のジーン・セロカ局長は「西海岸港湾での港湾混雑を回避し労使交渉に備えるため、一部の荷主が東海岸やメキシコ湾岸にコンテナを迂回(うかい)させた」と述べている。
米西海岸港湾の労使交渉に停滞感
- 労働協約失効から3カ月経過
- 今後の行方を探る
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ロサンゼルス事務所
永田 光(ながた ひかる) - 2010年、財務省入省。2020年8月からジェトロに出向、現職。