特集:アフリカ・スタートアップ:有望アグリテックに聞くブラック ジャック コツ1)(英国、タンザニア)
2019年9月25日
農業はアフリカ経済の重要なセクターで、アフリカ開発銀行によれば、アフリカの総人口の64%にとって主な収入源となっている。農業従事者の8割は零細農家で、十分な農業資材を保有しておらず、生産性が低い。食糧安全保障の確保や、農業での収益を拡大させるためには、生産性の向上やロジスティクス、サプライチェーンの再編成、農家を市場や金融サービスにつなぐことが必要だ。こうした課題に対して、アグリテックによる解決を目指すスタートアップであるアグリインサイト(AGRIinsight)の会長兼創設者のパトリック・ガイベー氏に、取り組みについて話を聞いた(6月4日)。
- 質問:
- ビジネスの特徴と概要は。
- 答え:
- 2014年にアグリテック分野のスタートアップとして、英国のケンブリッジで設立した。革新的な技術とビジネスソリューションを開発し、オンラインプラットフォームやモバイルアプリケーションなどを、新興市場の零細農家に提供している。農家は低価格の携帯電話(フィーチャーフォン)を通じて、農業資材(タネ、肥料、農薬、農業用機械など)を購入、収穫物を販売、金融・保険など関連サービスにアクセスできる。
- また、ケンブリッジのアリア・フーチャー・ビジネスセンター(Allia Future Business Centre)主催の、未来を変えるような影響力のある事業を行う企業しか参加できない「シリアス・インパクト」スタートアッププログラムへの参加資格を獲得した。さらに、英国政府機関である「イノベートUK」と国際貿易省から表彰された実績もある。2018年からは、タンザニアのモロゴロ地方で、アプリケーション「オオベア・ソーコ(Ubia Soko)」(図参照)の提供を開始し、すでに3,000戸以上の農家が登録した。2019年中に7万8,000戸の登録獲得を目指している。これにより、農家全体で2,000万ドルの収入を生み出すことができ、地域全体では4億ドルの経済効果がある。タンザニアのモロゴロ地域全体では、約150万人の零細農家があるが、主な生産物はトウモロコシ(メイズ)とコメである。
- 質問:
- モバイルアプリケーション「オオベア・ソーコ」はどのようなものか。
- 答え:
- 「オオベア・ソーコ」は、スワヒリ語でマーケティング・パートナーシップという意味である。さまざまな機能を1つのオンラインプラットフォームに集約し、同時に金融サービスにアクセスすることを可能にするアプリケーションだ。USSD(注)のプロトコルを使用することで、アフリカの農家でも入手できる低価格の古い携帯電話で利用できる。アプリに接続している間、農家は農業資材(タネ、肥料など)販売企業、農産物商社、金融・保険などのサービス業者と簡単に接続し、取引できるようになっている。
- 質問:
- 「オオベア・ソーコ」導入で今までどのような影響が見られたか。
- 答え:
- アグリインサイトは、農業資材販売企業、農産物商社、保険会社と提携している。これら4者が一体となって、地元農民協会を介して、農家にアプリを無料で登録してもらう。登録した農家はアプリを通じて直接資材を購入し、収穫物を販売するような電子決済サービスをし始めている。プラットフォームの中に、e-ウォレットも入っているので、現金は必要がなく、利益はそのまま電子通貨として使用できる。それを使って、資材の購入や、別のサービスの利用も可能。
- アグリインサイトでは、取引データをマッピングプラットフォームに保存・分析している。ほぼリアルタイムのデータ分析結果を匿名化し、提供し始めている。この匿名化されたデータを使用することで、農業資材販売企業や政府、投資家などの機関は、より効果的に事業を計画することができる。
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メリットとしては、以下4点が考えられる。
- 1. 農家はキャッシュレス割引価格で資材を購入でき、高値で収穫物を販売できるため、利幅が拡大し、健康保険などの別のサービスも利用できる。
- 資材販売企業は、地域の農家の購買行動について多くのデータを分析できるため、より正確に需要を把握できる。
- 農産品商社は、経費と時間を削減できる。例えば従来、コメを買い付ける場合には、仲買人や代理人を直接、畑に送らなければいけなかった。このため、人件費がコストとしてかかる上、ときには取引の際に農民から搾取する業者がみられ、さらに買い付けに3~4週間を要するなどの問題があった。プラットフォームを通じて直接、農家から買い付けることができれば、数時間から数日で済む。
- 保険会社や他の小売りサービスなども、プラットフォームにアクセスできることにより、容易に新規市場に参入できる。
- 質問:
- 「オオベア・ソーコ」によるその他の影響は。
- 答え:
- アフリカの零細農家の過半数は女性である。「オオベア・ソーコ 」が女性に力を与えていることもわかった。登録を募集すると、列の前の方に女性が並ぶ。農業資材の購入や収穫物を販売する場合、これまでは男性の仲買人や代理人を通じて行う必要があり、多額の手数料を取られていた。携帯電話で直接、購入や販売が可能になれば、その分、経費を節約でき、利益を上げることができる。
- 農業以外のサービスも、プラットフォーム上に用意した。例えば、簡易な銀行口座へのアクセスや保険の購入だ。アプリの利用者に女性が多いことから、女性に人気のある家族向け健康保険や学費積み立て関連サービスなどを提供した。
- 注:
- USSDは、アフリカで多く使われているGSM携帯電話用メッセージ交換技術。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ロンドン事務所
キャサリン・ロブルー - 2015年よりジェトロ・ロンドン事務所に勤務。同事務所のアフリカデスク立ち上げに関与。主に英国・アフリカ調査に従事。