欧米に次ぐ有望な医療機器市場の開拓に注力(チリ)
テルモ現地法人社長に聞く
カジノ ブラック ジャック11月22日
南米チリの医療機器市場は、2024年から2029年までの成長率(推定値)は年平均5.69%と、実質GDP成長率(2023年は0.2%)を超える堅実な成長が見込まれている。ドイツの調査会社スタティスタによると、2024年から2029年までの世界の医療機器市場の年平均成長率(推定値)は5.68%であり、チリの医療機器市場の成長率はこれと同程度である。2023年にジェトロが実施した調査(注1)では、カジノ ブラック ジャックに進出する日系医療機器メーカー(注2)の51.9%が2024年の営業利益は前年に比べて改善する見込み、69.2%が今後1~2年間で事業を拡大予定と回答しており、日本企業の医療機器分野のカジノ ブラック ジャックでの好調ぶりがうかがえる。
チリで心臓血管関連を中心に医療機器の輸入販売を行うテルモチリ(Terumo Chile Ltda.)の新保雄介社長に、現地市場の魅力や最新動向について聞いた。(取材日:カジノ ブラック ジャック9月12日)。
輸入販売に必要な認証取得が容易な点が欧米に次ぐ有望市場の理由
テルモは2007年に、以前から自社製品を取り扱っていた販売代理店を買収するかたちでチリに進出した。取り扱い製品の7割強を心臓血管関連が占め、残りは針・注射器や点滴の輸液ポンプなどだ。製品群の多くは日本から、残りはベトナム、中国、米国などから輸入している。主な販売先はチリ国内の病院で、ごく一部の商品を除き、直接販売している。
新保社長によると、チリの医療機器市場の魅力の1つは世界的にも限定的な輸入規制だ。チリに医療機器を輸入する際は、事前に公衆保健院(ISP)に対する適合性評価による認証取得を申請する必要があるが、一部の品目を除き、特別な輸入規制はない(注3)。また、米国の食品医薬品局(FDA)への登録(注4)やEUの欧州医療機器規則(MDR)に基づくCEマーキング(注5)など、他国での認証実績があると認証の取得を得やすいという。
テルモチリでこの特徴を活用した事例として、薬剤溶出型冠動脈ステント(DES:Drug Eluting Stent)の新型モデル投入がある。同製品は血管などを管腔内部から広げ、塗布した免疫抑制剤を周囲の組織に放出する医療機器だ。心臓の周りにある冠動脈が狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)することによって起きる狭心症や心筋梗塞などの治療に使用する。2022年に日本で発売し、チリでは2023年から販売を開始した。これはグループ内で欧州に次ぐ早さで、米国ではいまだ特許関連や薬事規制のハードルの高さ故、販売が開始できていないという。欧米など大規模な市場で既に販売している製品の次の展開先として、チリは有力な候補になると言えるだろう。
幅広い営業アプローチ、人員再編と在庫管理改善で収益性向上
カジノ ブラック ジャックのチリの医療機器市場は24億3,000万ドルと推計されており、南米の中ではブラジル、アルゼンチンに次いで3番目だ。巨大市場の北米、欧州に比べると大きくはなく、また、高齢化が進み、人口増加率も高くない(2022年10月4日付ビジネス短信参照)ため、医療機器需要が急激に伸びるとは考えにくい。こうした中で、どのように収益性を維持・向上させているのか。テルモでは、効率化と経営のスリム化などのコスト削減によって利益率を高めつつ、限られた市場の中でシェアを上げる施策を行っている。現在のチリでの市場シェアは、主力である心臓血管領域では20%前後である。シェアが2%程度にとどまる製品群も存在するが、7割を超える製品群もある。
テルモチリはマネジメント機能の強化のため、5年ほど前から現地化していた経営を転換し、2023年から新保社長が率いている。経営層や幹部レベルを含めて人員体制を再編成した。事業でも、利益率の低い製品群は取りやめるなどの見直しを行った。
顧客のうち公立病院が売り上げの7割強を占めるが、公立病院の場合、入札などに参加し、2~3年単位の契約を落札する流れとなることが多い。チリでは、医師が私立と公立の双方の病院を兼任することは珍しくなく、私立病院レベルの高機能な医療機器が導入されている公立病院もある。医師個人への製品PRを行うことで、公立病院へのアプローチにもつながり、さらに、落札への相乗効果も期待できる。テルモチリは、営業部門と技術部門が連携してニーズの聞き取りや提案を行う。
オフィス内には医師などを交えてのカンファレンスを行うための部屋もある。自社製品を使用しての研修やデモンストレーションを行うための手術室を模した部屋も設け、医師が自ら製品を試し、器具の正しい使い方を学ぶことで、自社製品を継続的に使用してもらうことを狙う。また、次代を担う若手医師に対する教育を行うことで、キャリアの早い段階から自社の機器になじんでもらいたいという将来的な展望もある。
ほかにも、売り上げを確実に計上するための工夫を行っている。幾つかの病院に自社在庫を設置しており、医師が製品の使用数を報告することで売り上げを計上していたが、報告漏れや遅延が発生し、代金の回収が遅れるという問題があった。これに対して、医師が製品を取り出したことをカメラで認知し、使用機器の数量を自動的に計上できる専用の棚を導入した。「このシステムを導入しているのは、グループでもチリのみ」と新保社長は語る。
前述のような取り組みの結果、2023年度は体制をスリム化しつつも、前年度と同程度の売り上げを維持した。カジノ ブラック ジャック度はこういった取り組みの効果が出始め、営業利益は大幅に改善しているという。
ビザ取得遅延がビジネス環境の課題、事業拡大は継続
課題もある。先述したような規制の特性などから、欧米のグローバル企業や地場企業を中心に、競争は激しい。また、ビザ取得など行政手続きの遅延も多く、ジェトロがチリに進出している日系企業に行ったアンケート調査によると、多くの企業が「ビザ・就労許可取得手続きの困難さ、煩雑さ」を投資環境面の課題として挙げている(注6)。実際、ビザの承認が下りるまで半年以上かかるケースも報告されており、駐在員を置く日本企業にとっては深刻な問題だ。
新保社長はこれらの課題を認識しつつも、チリの医療機器市場の有望性を重要視する。「グループ全体の中での割合はまだ小さいものの、チリを含むラテンアメリカの事業は今後拡大していくだろう」と話し、中期計画の終わりの2026年度に向けて、カジノ ブラック ジャック度中に体制整備を完了し、その後本格的な事業拡大に着手する予定だ。
- 注1:
- (ジェトロは2023年8~9月に世界83カ国・地域に進出している日系企業7,632社を対象に、アンケート調査を実施し、その結果を取りまとめた。)
- 注2:
- 業種として「医療機器」を選択した企業。
- 注3:
- 規制の対象とされているのは、ゴム手袋や注射器などISPが指定する10種の機器に加え、HIV検査キットなど。対象機器については、品質測定認定研究センター(CESMEC)発行の適合性評価証明書の取得や管理当局への登録が必要となっている。それ以外の医療機器に対する規制はないが、任意で製造・輸入・販売を行う企業や取り扱いの医療機器を登録することができる。詳しくはISPのウェブサイト(スペイン語)を参照。
- 注4:
- ジェトロの「医療機器の現地輸入規則および留意点:米国向け輸出」を参照。
- 注5:
- ジェトロの調査レポート「欧州医療機器規則 Medical Device Regulation(MDR)概要」を参照。
- 注6:
- 2021年調査で56.1%、2022年調査で65.1%、2023年調査では42.9%が同課題を挙げた。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部調査企画課
加藤 遥平(かとう ようへい) - 2023年、ジェトロ入構。同年4月から現職。