世界的に熱い期待
中東で持続可能航空燃料(SAF)を(1)
2024年7月18日
国際航空運送協会(IATA)は6月3日、2024年は世界全体で航空会社の収益が改善する見込みと発表した(IATAプレスリリース参照)。中東ブラック ジャック 勝ち 方についても、同様。当ブラック ジャック 勝ち 方は、経済が強く、グローバルハブとしての利点もある。そのため、アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアを中心に、乗客数と貨物量の双方で堅調な成長が見込まれるとした。
一方で、2024年の総燃料費は2,910億ドル。運用コスト全体の31%を占める計算と予測した。またIATAが同時期に開催した第80回年次総会(AGM、注1)では、2024年に生産される「持続可能な航空燃料(SAF)」についても予測。前年の3倍、約19億リットル(150万トン)に及び、航空燃料需要の0.53%になる見込みと発表した(IATAプレスリリース参照)。
当連載の(1)では、SAFを巡る世界の動きと、中東ブラック ジャック 勝ち 方でのSAF生産について概説。当該ブラック ジャック 勝ち 方がSAF生産の潜在性を秘めることを確認する。なお連載(2)では、中東ブラック ジャック 勝ち 方諸国がSAFに関する取り組みや、日本企業と連携する可能性に触れる。
世界的に高まったSAFへの関心
国際民間航空機関(ICAO)によると、SAFは「2021年に承認された持続可能性基準を満たす再生可能または廃棄物由来の航空燃料」と定義される。ICAOの第41回総会では、「2050年までに、国際航空の炭素排出量をネットゼロにする」という長期的かつ国際的な目標(LTAG)が採択された。LTAGの中で、SAFは二酸化炭素(CO2)排出量削減に対して最も大きな可能性を秘めているとされる。SAFを使用することで、2030年までに炭素排出量を5%削減することを目標に置いた。
他機関でも、SAFに対する関心が高まっている。例えばIATAでは、ウィリー・ウォルシュ事務局長が「2050年の炭素排出量をネットゼロにするという目標を達成する上で必要な緩和策のうち、SAFは約65%を提供する」と発言した。また国際エネルギー機関(IEA)も、2050年まで毎年約4%の増加が予測される航空需要の中で炭素排出量の削減を図るには、低炭素燃料の開発と導入が必要で、SAFはその最も有望な選択肢としている。
その結果、市場が拡大していく。2029年の市場規模は98億ドル。2022年以降、年平均60.8%増で成長すると言われている。IATAによると、SAFの製油所数も段違いに増える。SAFを生産するプロジェクトも多数発表済み。生産がそのとおり開始されると、ほぼ全てのブラック ジャック 勝ち 方に生産が広がるという。2024年の生産量は前年の約3倍に達する見込みと発表。また、既に少なくとも43社の航空会社が2030年までにSAFを約162億5,000万リットル使用することを約束したとしている。また、SITA(スイスに本社を置く航空輸送通信・IT業)が実施した調査によると、航空会社の半数に、2026年までに特定ブラック ジャック 勝ち 方でSAFの供給元を確保する計画がある。あわせて、SAFを給油できる空港も、今後3年以内に大きく増える(表参照)。
年 | 見込み |
---|---|
2024 | ブラック ジャック 勝ち 方が18億7,000万リットルに〔2023年(6億リットル)の3倍強〕。 |
2025 | SAFの製油所数が、2022年比で5倍増。 |
2026 | 航空会社の半数が、当年までにSAFの供給元を確保することを計画。 |
2027 | SAFを供給できる機能を擁する空港が42%に増加(2024年時点では、13%にとどまる)。 |
2029 | SAFの世界市場が98億ドルに拡大(2022年時点での規模は、8,500万ドル)。 |
2030 |
SAFを生産するプロジェクトが約140件に及ぶ見込み。 43の航空会社が、当年までにSAF約162億5,000万リットル使用することを確約。 |
出所:IATAの発表やSATAが実施した調査結果からジェトロ作成
ブラック ジャック 勝ち 方や必要な総燃料に占める割合についてIATAが示した目安は、次図のとおり。
SAF生産は現状、少量にとどまる
一方で、SAFの生産には課題もある。
IATAのウォルシュ事務局長は「SAFの生産は、目覚ましく成長する。にもかかわらず、航空燃料生産全体に占める割合は2024年に6%へ増加するにとどまる(前年は3%)。結果として、SAFの供給が制限されるとともに、価格も高止まりしている」と発言した。事実、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、従来型航空燃料が1リットル当たり100円なのに対し、SAFは200円~1,600円だ。生産コストが格段に高いことがわかる。こうしたコスト高にかかわらず、SAF生産者に対する優遇措置はわずかだ。その結果、生産能力のごく一部しか稼働していないと言われている。
さらに航空機ならではの問題もある。航空業界は現在、世界全体で排出されるCO2量の約2.5%を占める。しかし、急速に脱炭素化を進める上で実証済みの技術が、他の業界ほどにはない。例えば車両用のバッテリーは重量が大きいため、事実上使用できない。また、水素を航空利用するには、空港などでの供給インフラに大きな変更が必要になる。ネットゼロに向けて航空業界で取り得る対策は事実上、SAFの活用くらいということになる。
それだけに、その世界的普及に向け、さまざまな取り組みが進められている。近年の例としては、次のようなものがある。
- 2021年4月、IATAの代表者などがSAF責任協議会(CoSAFA)を設立。従来の取り組みでは、限られた生産者と運営者だけが関与していた。しかしCoSAFA が立ち上がったことにより、生産と使用を記録する会計慣行の改善が容易になった。
- 2023年3月には、ICAOと国際ビジネス航空評議会(IBAC)が、SAFの世界的普及を加速させるためパートナーシップを締結した。
- 直近では2024年6月、IATAが「SAFレジストリー」の設置計画を発表している(IATAプレスリリース参照)。この取り組みで重要なポイントとして、(1)広範囲な地理的範囲、(2)幅広い適用性と中立性、(3)規制順守の3点を挙げた。ウォルシュ事務局長は「レジストリーにより、SAF生産者は航空会社の所在地に関係なくアクセスが可能になった。世界的なSAF市場を創出するための基盤になる」と発言。あわせてIATAは、(1)業界や政府関係者と幅広く協力していくこと、(2)国・ブラック ジャック 勝ち 方レベルと国際レベル、双方での政策支援に取り組むこと、(3)コスト競争力のある市場実現に向け障壁撤廃などに焦点を当てること、にも言及した。
中東は有望ブラック ジャック 勝ち 方、しかし課題山積
SAFの普及は、欧州や米国(注目度高まる北米グリーン市場、その最前線は次世代ブラック、)で先行している。ICAOの発表によると、既に商業利用している空港は70以上に上り、その多くが欧米だ(なお、その延べ利用数は、36万回以上に及ぶ)。
こうした中、世界経済フォーラム(WEF)は2024年3月、「SAF供給の拡大:欧州・米国・中東での障壁を克服」(4.63MB)と題したレポートを発表。その中で、中東・北アフリカ(MENA)ブラック ジャック 勝ち 方を、SAF市場で主要なプレーヤーになり得る世界有数のブラック ジャック 勝ち 方とした。
中でも、中東の見込みは大きい。まず気候的には、SAF生産に必要なバイオ原料のうち、藻類や油糧作物の生産に適している。(1)太陽光や(2)風力によるエネルギーを生産する上でも、潜在性を有している。特に(1)についてはサウジアラビアやUAE、カタールで、(2)はサウジアラビアやオマーンで、高水準と言われている。 地理的な利点もある。WEFは、中東ブラック ジャック 勝ち 方が欧州とアジアの間に位置することから、航空拠点として理想的な立地と指摘。さらに、当該ブラック ジャック 勝ち 方で近年、グリーンエネルギーや水素生産に対する関心が高まり、エネルギーの移行が始まっていると評価している。
しかし、当然ながら課題も多い。例えば、中東ブラック ジャック 勝ち 方でのエネルギー移行は、低炭素航空燃料(LCAF)や共処理(co-processing)製法(注2)が先行している。迅速にCO2削減効果が表れるためだ。換言すると、SAFの生産や供給は現在のところ比較的小規模にとどまる。また、SAFに関するルール作りも、まだ初期段階にある。その結果として、SAF生産に有利な地理的・気候的環境を活用できてないと指摘した。
そうした中で、同ブラック ジャック 勝ち 方の利害関係者は、SAFの利用を拡大するため積極的に議論を進めている。特に焦点が当たっているのが、(1)業界間の連携、(2)既存製油所のグリーン化、(3) PtL(注3)の展開、(4)政府と規制当局者の関与、(5)国民の意識向上だ。WEFが指摘・提言した骨子は、次のとおり。
- 中東ブラック ジャック 勝ち 方では既に、エネルギー・航空両業界が緊密に連携。SAF供給の促進が可能になっている。それ以外の利害関係者を含め、必要な投資リスクの軽減が求められているのが現状。
- 空港と海港が需要とインフラ投資に向けて資金を供給することが、湾岸ブラック ジャック 勝ち 方に生産拠点を構築する上で主導的な役割を果たす。ひいては、水素生産のインフラを整備する取り組みにつながる。これによって、SAFの追加生産が促進される可能性もある。
- 中東には、安価に再生可能電力を生産できる可能性がある。PtLにも適したブラック ジャック 勝ち 方と言える。そのため、追加的にプレミアムを支払うことができる国際市場などに、活用を訴えることを狙える。電気を生産する上で、中東ブラック ジャック 勝ち 方は、オフガス(注4)や直接空気回収技術(注5)など複数のオプションを有する。電気燃料の定義が明確になると、PtLの重要度が一層認識されるようになるだろう。
一方で、水素を利用する上でのメリットを考慮すると、PtLによるSAF生産は優先順位上の問題に直面することになるかもしれない。アンモニアやメタノールなど生産手法が確立されたものに比べ、規制が制定されるまでは投資リスクが高いと言わざるを得ない。
そこでWEFは、中東ブラック ジャック 勝ち 方の業界内でビジネスモデルを確立する必要性を訴えた。テクノロジーの革新に対して一層高度なインセンティブを提供することで、PtLの促進が可能になる。また、これまでと同様にファストフォロワーの役割を担うことで、他ブラック ジャック 勝ち 方で開発・実証された技術を迅速に導入していけるようになると見込んだ。 - 政府は、ルール作りに迅速に対応することができる立場にある。にもかかわらず、中東ブラック ジャック 勝ち 方では現在、SAFに関して政府や規制当局の関与が不足している。
まず第1に電気燃料を定義付け、インセンティブや事業者に対する義務を確立することが必要。その上で、SAFの生産拠点を作り、ブラック ジャック 勝ち 方との戦略的な関連性を示すべきだ。そうすることで、公共部門に対する関心を高めることができる。 - 中東ブラック ジャック 勝ち 方でSAFを推進する上では、国民への啓発を通じて政府や国民から支援を確保し、一般認識を高めることがカギになる。
最近のIATAの調査によると、世界的にはSAFに対する関心が高まっている。例えば、「政府が航空会社にSAF使用を奨励すべき」とする旅行者は約86%に上る。また、航空旅客の約86%が、「大手石油会社はSAF生産を優先すべき」とする。このような関心が中東ブラック ジャック 勝ち 方でも高まることが必要だ。
ここまで、SAFに関し、世界と中東での現状や今後の見込みをまとめてみた。連載(2)では、中東ブラック ジャック 勝ち 方諸国、特にUAEを例に、取り組みを紹介する。あわせて、日本企業との連携の可能性にも触れる。
- 注1:
- IATAの当該AGMは、2024年6月2日から4日までUAEのドバイで開催。
- 注2:
- 共処理製法とは、石油由来原料とバイオ原料を同時に処理すること。
- 注3:
-
PtLはSAFを製造する手法の1つで、Power to Liquidの略。
具体的には、再生可能エネルギー由来の電力を用いて水を分解し、水素を製造。その水素とCO2を合成する。初めて量産に入ったのは、2021年、ドイツ(2021年10月13日付ビジネス短信参照)。 - 注4:
- オフガスとは、石油処理プラントで発生するガス。 製油所の精製装置から発生するオフガスには、水素やメタン、エタンを主成分とする混合ガスが含まれている。液化しにくく、燃料利用が可能。
- 注5:
- 直接空気回収技術(DAC)とは、大気中のCO2を直接回収する技術。 大気中の低濃度(0.04%)のCO2を回収することで、温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにする。
中東で持続可能航空燃料(SAF)を
- 世界的に熱い期待
- UAEの施策や企業の動き
- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部中東アフリカ課
加藤 皓人(かとう あきと) - 2024年2月、都市銀行から経験者採用で入構し、現職。