カリフォルニア州プロポジション65の和解・裁判動向(米国)
21 トランプ4月15日
米国におけるカリフォルニア州法のプロポジション65(1986年安全飲料水および有害物質施行法、以下Prop65)は、発がん性物質や生殖障害を引き起こし得る化学物質が製品に含まれていることを州民に警告する義務(警告文の表示義務)などを定めているものだ。Prop65は、カリフォルニア州司法長官、地方検事(District attorneys)、市検事(City attorneys)、民間団体を含む4者に法の執行権(注1)がある。このうち、民間団体が訴訟を提起するためには、違反者および関連する当局に対して、違反に関する「60日前通知」(60 days Notice)を行う必要があるとされている。
この数カ月、日本企業や在米日系企業、小売店などから弁護士事務所を通じて、民間団体から「60日前通知」の文書が送られてきたという相談がジェトロに多く寄せられている(21 トランプ1月16日付ビジネス短信参照)。本稿では、Prop65の「60日前通知」およびその後の和解・裁判の状況を整理し、実態を把握する。
「60日前通知」の数は過去最多、8割以上が和解により解決
図1は、「60日前通知」の件数を時系列により示したものである。2023年の件数は4,141件と、前年に比べ約1,000件増加し、過去6年で最多であった。
また、図2は、Prop65に関係する訴訟が、裁判所による解決(以下、「裁判」)と裁判外による解決(以下、「和解」)のどちらで解決に至ったかの時系列推移を示す。2023年に解決した件数は1,319件であり、そのうち裁判が240件、和解が1,079件であり、8割以上が和解だった。
さらに、和解時の平均費用は、2023年に2万5,029ドルと、2018年の2万1,023ドルと比べて4,000ドル程度増えている。裁判時の平均費用も、2023年は9万6,625ドルと、2018年の6万7,269ドルと比べると増加している。裁判になると、和解時の3~4倍ほどの費用がかかっている(図3参照)。
弁護士事務所によると、「企業の多くは、比較的費用のかからない和解にて解決をしており、弁護士事務所も和解を勧めるケースが多い」とのこと。
生活用品・日用雑貨、アパレル、食品、雑貨など多岐にわたる訴訟
図4は、2023年に裁判・和解により解決された案件を、筆者が商品で分類したものだ。案件の商品は、バッグやサンダル、靴、服、ポーチ、化粧品、マグカップ、皿、ペット用品、スケッチブック、ペン、麺類、サプリメント、調味料、ペット用品、釣り用品、ヘルメット、名札入れなど多様であった。図4を見てもわかる通り、非食品が全体の8割以上を占めており、多くの企業が対象になる可能性があることがわかる。
また、商品カテゴリーごとの罰金および弁護士費用を含む和解費用の最大値、中央値、最小値、平均値は表1のとおりであった。案件により、訴訟内容が異なるため金額のばらつきが大きい。平均値では、機械・工具やレジャー・ペット用品の和解金額が1万5,000ドル程度、生活用品・日用雑貨・文具、アパレル・アパレル雑貨・コスメ、食品は2万5,000ドル前後となっている。中央値では、いずれのカテゴリーも1万5,000ドルから2万ドル程度の範囲となっている。一方、裁判になった場合の費用は、表2のとおりだ。いずれも和解に比べて、大幅に費用がかかる。
項目 | 最大値 | 中央値 | 最小値 | 平均値 |
---|---|---|---|---|
生活用品・日用雑貨・文具 | ,000.00 | ,000.00 | ,300.00 | ,496.30 |
アパレル・アパレル雑貨・コスメ | 0,000.00 | ,500.00 | ,700.00 | ,679.50 |
食品 | 2,500.00 | ,500.00 | 0.00 | ,654.30 |
レジャー・ペット | ,000.00 | ,900.00 | ,850.00 | ,496.30 |
機械・工具 | ,500.00 | ,000.00 | ,500.00 | ,474.20 |
その他 | 0,000.00 | ,000.00 | ,000.00 | ,895.10 |
出所:カリフォルニア州司法省
項目 | 最大値 | 中央値 | 最小値 | 平均値 |
---|---|---|---|---|
生活用品・日用雑貨・文具 | 0,184.00 | ,375.00 | ,000.00 | ,884.70 |
アパレル・アパレル雑貨・コスメ | 0,000.00 | ,250.00 | ,000.00 | ,515.40 |
食品 | ,500,000.00 | ,500.00 | ,000.00 | 3,656.90 |
レジャー・ペット | 0,000.00 | ,000.00 | ,000.00 | ,458.30 |
機械・工具 | ,210,000.00 | ,500.00 | ,500.00 | 3,333.30 |
その他 | ,500,000.00 | ,000.00 | ,500.00 | 0,000.00 |
出所:カリフォルニア州司法省
また、和解・裁判案件のうち、商品に使われていた化学物質は、鉛が最も多く、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル、別名DEHP)、鉛および鉛化合物、フタル酸ジイソノニル(DINP)と続いた(表3参照)。
化学物質 | 含まれていた件数 |
---|---|
鉛 | 506 |
フタル酸ビス(2-エチルヘキシル、DEHP) | 409 |
鉛および鉛化合物 | 97 |
フタル酸ジイソノニル(DINP) | 69 |
無鉛ガソリン | 61 |
ビスフェノールA | 57 |
カドミウム | 43 |
ジエタノールアミン | 26 |
フタル酸ジブチル | 25 |
水銀および水銀化合物 | 20 |
二酸化チタン | 14 |
出所:カリフォルニア州司法省
あらためて、自社の売買取引条件の見直しはもちろんのこと、日本のメーカー、輸出者、カリフォルニア州でのディストリビューター、小売店などビジネス展開をしている企業は、発がん性物質や生殖障害を引き起こし得るとしてProp65に指定されている化学物質が製品に含まれている場合には、必要に応じて警告表示をすることが求められる。(21 トランプ1月16日付ビジネス短信参照)
ただし、過度に警戒する必要はない。ある小売関係者は、Prop65に関し「対象ならば、警告文を表示すればよいだけの話。ほとんどの消費者は警告があるから買わないということはないだろうから、法律を理解し、守ればいいだけの話だ」と述べている。
Prop65にかかる相談は、ジェトロ・サンフランシスコ事務所ないしはロサンゼルス事務所、日本国内の場合は最寄りのジェトロ事務所までご連絡いただきたい。
- 注1:
- 法に基づいて、強制力を伴った実働を行うこと。
- 注2:
- オンライン カジノ ブラックはオンデマンド配信中。また、セミナー資料(2.2MB)およびFAQ(562KB)もそれぞれアップロードしている。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・サンフランシスコ事務所 ディレクター
芦崎 暢(あしざき とおる) - 民間企業にて21 トランプ事業立ち上げなどを担当後、2018年ジェトロ入構。ECビジネス課、デジタルマーケティング部、ジェトロ名古屋を経て、2023年8月から現職。