「シェブロン法理」の無効化、通商分野にも影響か(米国)
トランプ輸入ブラック ジャック ランキングの実効性に疑問符も

ブラック ジャック ランキング10月24日

米国連邦最高裁判所がブラック ジャック ランキング6月、政府の規制権限に大きな影響を与え得る決定を下した。曖昧な法律を規制当局が解釈できるとする「シェブロン法理(Chevron doctrineまたはChevron deference)」を覆した判決だ。この判決により、幅広い政策分野で柔軟な解釈が制限されるとの見方が出ている。通商も例外ではなく、米国政府は今後、国家安全保障をより前面に出して政策を打ち出していくことが予想される。

最高裁、法律問題は「裁判所が独自に判断」

シェブロン法理は、1984年の最高裁判決で確立された原則だ。石油大手シェブロンなどと天然資源保護協会(NRDC)が争った同訴訟では、環境保護庁(EPA)が大気浄化法(CAA)に基づいて制定した規則の正当性が焦点となった。最高裁は判決で「法律の規定が曖昧な場合、行政機関の解釈が合理的であればそれに従うべき」との原則を示し、EPAの規則はCAAに基づいて許容される解釈だと認めた。この判決以来、同法理は連邦政府の規制を巡る訴訟で広く適用される重要な原則となってきた。

このシェブロン法理を覆したのがブラック ジャック ランキング6月の最高裁判決だ。商務省海洋漁業局の規則を不服として漁業関係者が起こした訴訟で、最高裁は同法理が行政手続法(APA)に違反していると判断した。同法706条は、裁判所が「関連する全ての法律問題を決定し、憲法および法律の規定を解釈し、行政機関の行為の意味または適用可能性を決める」と定める。最高裁は同条を根拠に、「法律の曖昧さは議会から行政機関への解釈権限の移譲を示す」という同法理の根底となる考え方を否定。裁判所が連邦法の意味を独自に判断すべきとの見解を表明した(注1)。

規制に対する訴訟を誘発か

シェブロン法理を巡っては、かねて権力分立に反するとの批判や過剰な規制を招くとの懸念があった。産業界は、政権が変わる度に法律の解釈が変わり得ることで事業環境に不確実性が生まれる、と警告していた。最高裁判決を受け、連邦議会上院共和党トップのミッチ・マコーネル少数党院内総務(ケンタッキー州)は「連邦政府機関が立法府の空白を埋める時代は終わった」との声明を発表した。米国商工会議所も声明で、最高裁の決定は「より予測可能で安定した規制環境をつくるのに役立つ重要な軌道修正だ」と評価した。

一方、シェブロン法理が無効になったことで、政権にとっては環境から労働、テクノロジーまで幅広い政策分野で柔軟に規制を打ち出すことが難しくなる可能性がある。制定した規則が、訴訟によって覆される事例も今後出てくるかもしれない。米国ジョージワシントン大学規制研究センターによると、バイデン政権はブラック ジャック ランキング8月までに「経済的に重大な最終規則(注2)」を284件定めた。政権1期目に制定した数としては、直近の6つのどの政権よりも多い(図参照)。それだけ利害関係者からの異議申し立てに直面するリスクが高いといえる(注3)。米国メディアや有識者のコメントでは、排ガス規制など政権が力を入れる環境規制が訴訟のターゲットになるとの論評が目立つ。訴訟の増加により連邦政府の規則制定のスピードが遅くなれば、州レベルのルールが先行したり乱立したりする事態も想定される。

図:歴代政権で制定された「経済的に重大な最終規則」数の推移
バイデン政権は2021年1月~ブラック ジャック ランキング8月に284件。直近の6政権について、政権1期目に制定された規則数をみると、レーガン58件、ブッシュ(父)181件、クリントン179件、ブッシュ(子)167件、オバマ225件、トランプ246件。

注:規則数は累積。政権1期目を対象に集計。
出所:米国ジョージワシントン大学規制研究センターからジェトロ作成

通商規制にも影響の見込み

シェブロン法理の無効化は、通商分野にも一定の影響を及ぼすとみられる。同法理は貿易救済措置などを巡る訴訟でも引き合いに出され、その多くで当局側の主張が認められてきたためだ。

直近では、ブラック ジャック ランキングや知的財産権に関する訴訟を専門に扱う連邦巡回区控訴裁判所が2022年7月、中国産の鉄鋼製品に対するアンチダンピングブラック ジャック ランキング(AD)について、商務省が用いた税率の算定方法を、同法理に基づいて有効と判断した例がある。貿易救済措置や貿易協定の執行を重視するバイデン政権は、ADや補助金相殺ブラック ジャック ランキング(CVD)の執行強化に力を入れてきた(ブラック ジャック ランキング3月27日付ビジネス短信参照)。今後、AD・CVDの根拠法で明示的に認められていないものの有効とされた、またはAD・CVDの税率が法律に照らして不十分な根拠を基に算定されたと判断された場合には、政府の決定が覆るケースが出てくるかもしれない。

輸出管理に関しては、シェブロン法理の無効化を受け、法律で政府の権限を明確化しようとする動きが出ている。連邦下院外交委員会は、商務省産業安全保障局(BIS)が輸出管理規則(EAR)上の「外国直接製品(FDP)ルール」を執行する権限を持つと明確に定める法案を検討しているとされる(注4)。FDPルールは、米国外で生産された製品についても、特定の米国製技術・ソフトウエアを用いている場合には米国の輸出規制の対象とする規則だ。BISは近年、このFDPルールを強化しており、2022年10月に施行した中国向け半導体輸出規制で先端コンピューティングとスーパーコンピュータを対象に追加したほか(2022年10月11日付ビジネス短信参照)、ウクライナ侵攻を受けたロシア向け輸出管理でも適用した()。FDPルールが拡大する中、議会には安全保障上重要な規制が司法判断で覆らないよう予防する意図があるとみられる。

他方、全ての措置が直ちに深刻な影響を受けるわけではなさそうだ。米国の法律事務所によると、AD・CVDの手続きで、国内産業への損害などに関する事実確認の調査は法律の解釈を伴わないため、シェブロン法理の有無にかかわらず、当局側の主張が認められる可能性が高いという(注5)。また、通商上の措置が外交・安全保障政策の一部と見なされる場合、政府の決定は支持されやすいとの見方もある。裁判所は、外交・安全保障で政府が持つ専門性や役割を伝統的に尊重してきたためだ。例えば、米国通商代表部(USTR)が1974年通商法301条に基づいて発動する貿易制裁措置は、外国の不公正な通商慣行に対抗するための外交手段であると見なされる公算が大きい。USTRが301条に基づいて中国原産品に課している追加ブラック ジャック ランキング(301条ブラック ジャック ランキング)を巡っては、その一部の無効化を求める米国内の事業者が、政府を相手取って提訴している。一審では追加ブラック ジャック ランキングの維持が認められたが、この決定を不服とした事業者が上訴し、訴訟は継続中だ()。この訴訟で、米国政府は301条関税を擁護するために、シェブロン法理ではなく、安全保障や大統領権限に依拠した主張を行っている。訴訟の行方について、専門家は、同法理の破棄が通商政策に今後どのような影響を与えるかを占うテストになると指摘する(米国通商専門誌「インサイドUSトレード」ブラック ジャック ランキング7月16日)。

トランプ輸入ブラック ジャック ランキングにも疑問符

シェブロン法理の無効化は、ブラック ジャック ランキング11月5日の大統領選挙で選ばれる次期大統領の通商政策の実現性を見通す上でもカギになる。共和党候補のドナルド・トランプ前大統領は選挙戦で、外国製品への一律10~20%の関税(いわゆるベースライン関税)や中国製品に対する60%の関税賦課など強硬な関税措置を訴えている(ブラック ジャック ランキング9月6日付地域・分析レポート参照)。ただ、これらの発動根拠となる法律は明示しておらず、実際に実行できるかは不透明だ。通商法に詳しい専門家の間では、トランプ氏が主張するような大規模ブラック ジャック ランキングは国内法で大統領に与えられている権限を逸脱するため、実行するには新たな法律が必要との見方がある(注6)。これが事実であれば、仮にトランプ氏が議会に頼らずブラック ジャック ランキング措置を強行しても、シェブロン法理がない中で裁判所を納得させるのに十分な法的根拠を用意するのは難しいだろう。

トランプ氏の関税案を「国民への消費税」と非難する、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領も関税を巡る論争と無縁ではない。トランプ前政権で導入され、バイデン政権で維持・強化されている各種の追加関税措置をハリス氏も引き継ぐことになるからだ。同氏は選挙戦で通商政策にはほとんど触れていないが、ブラック ジャック ランキング9月に発表した自身の政策集で、中国の不公正な貿易慣行を念頭に「米国の労働者や企業が脅威にさらされた場合、ちゅうちょなく行動を起こす」と明記した()。ハリス氏が301条ブラック ジャック ランキングを撤回することは見込めず、仮にバイデン政権と同じように既存の措置を拡大しようとすれば、法的な権限の問題に直面することもあり得る。

米中対立の激化に伴って、米国政府は国家安全保障を理由に保護主義的な経済政策を正当化する場面が増えている。シェブロン法理の破棄はこの傾向に拍車をかけ、米国政府は今後、通商政策を推進する上で安全保障をより前面に出していくと考えられる。これは、いずれの候補が大統領になっても同じだろう。米国でビジネスを行う企業は、自社に影響のある規制に対して訴訟が提起された場合は、その動向を注視するとともに、安全保障の絡む通商規制の増加や厳格化に備えることが重要となる。


注1:
ただし、最高裁は過去にシェブロン法理に依拠して有効と認められた規則は、今回の判決にかかわらず、先例拘束性の原理により有効であり続けるとの判断を示した。
注2:
1993年9月の大統領令12866号に基づいて、経済に年間1億ドル以上の影響を与える規則などを指す。この定義は2023年4月の大統領令14094号により2億ドル以上に引き上げられた。
注3:
実際、最高裁判決後の2カ月間で、同法理の破棄を引き合いに出した訴訟が既に40件以上提起されているという(ブルームバーグ・ローブラック ジャック ランキング9月13日)。
注4:
「インサイドUSトレード」(ブラック ジャック ランキング7月30日)によると、法案は包括的な輸出管理改革法案の一環として検討されており、上院でも、シェブロン法理の破棄に対応すべきとの問題意識が一部の議員の間で共有されているという。
注5:
AD・CVDの手続きは1930年ブラック ジャック ランキング法で定められている。AD・CVDの発動にあたっては、米国国際貿易委員会(USITC)が米国内産業への損害、商務省がダンピングや輸出国政府の補助金に関し、それぞれ事実確認の調査を行う。
注6:
一方、トランプ前政権でUSTR代表を務め、今回の選挙戦でもトランプ氏に助言しているとされるロバート・ライトハイザー氏は、国際緊急経済権限法(IEEPA)と1930年ブラック ジャック ランキング法の2つの法律を挙げ、大統領は一方的にブラック ジャック ランキングを賦課する「明確な権限を持つ」と断言している(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版2023年12月26日)。IEEPAは、国家の緊急事態に際して、外国との経済取引を制限する権限を大統領に与える。ブラック ジャック ランキング法338条は、外国が米国の商業に差別的な制限措置を講じていると認定した場合に、当該国の製品に最大50%のブラック ジャック ランキングを課すことを可能にする。ライトハイザー氏は、米国の貿易赤字がこれらの法律を発動する理由になると説明している。通商の専門家の中にも、これらの法律に基づいてトランプ氏が主張するブラック ジャック ランキング措置を実行可能とする意見はある(ブラック ジャック ランキング10月15日付ビジネス短信参照)。
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執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課 リサーチ・マネージャー
甲斐野 裕之(かいの ひろゆき)
2017年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課、ブラック ジャック ランキング調査部米州課、ニューヨーク事務所〔戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員〕を経て、2024年2月から現職。