米商務省、アンチダンピング税・補助金相殺関税の執行強化の最終規則公表
(米国)
ニューヨーク発
2024年03月27日
米国商務省国際貿易局(ITA)は3月25日、アンチダンピング税(AD)と補助金相殺関税(CVD)措置の執行強化に向けた最終規則を官報で公示した。同規則は30日後の4月24日に有効となる。
ADとCVDは、公正な競争関係を取り戻すことを目的とした貿易救済措置の一種だ。ADは、輸出国の国内価格よりも低い価格による輸出(ダンピング輸出)が輸入国の国内産業に被害を与えている場合に、輸入国がその価格差を相殺する関税を賦課できる措置だ。CVDは、政府補助金を受けて生産などされた貨物の輸出が輸入国の国内産業に損害を与えている場合に、当該補助金の効果を相殺する目的で賦課される特別な関税措置だ。いずれも、米国も加盟するWTO協定で認められている措置だが、具体的な手続きは各加盟国の国内法で定められる。米国の場合は1930年関税法が根拠法となっており、今回の最終規則も同法に基づく(注1)。今回の最終規則は、2023年に規則案が公表されていた()。ITAは、規則案に対して米国企業や外国政府などから53件のパブリックコメントを受領したとしている。
今回、最終規則で示された変更点は、用語の定義の明確化など軽微なものを含めて23点に及ぶ。主な変更点は、おおむね規則案で示されていた内容を踏襲しており(注2)、外国政府が当該国以外に拠点を置く企業に補助金を供与した場合には、CVDの対象とはしないとしていた条項〔連邦規則集(CFR)第19章351.527条〕を撤廃する(注3)。官報では、同条項が定められた約25年前とは貿易環境が異なるとして、具体的には国有政策銀行の支援を受けた国有企業が第三国へ直接投資を行い、第三国の産業政策を推進するケースなどを例示している。
また、351.416条を新たに追加し、AD調査で輸出国と輸入国の価格差の適切な比較を妨げるような「特定の市場状況(PMS:Particular Market Situation)」の有無の認定に際して、知的財産権を含む財産、人権、労働、環境の保護が不十分または存在しないことが対象商品の生産コストに与える影響を考慮するなどとしている。通商専門誌「インサイドUSトレード」(3月22日)はこの条項について、「外国の競合他社が米国企業と同等のコンプライアンスのためのコストを支払っていないために不当な価格競争に直面している、と米国企業が主張してきた結果だ」としている。他方で、官報では何をもって財産、人権、労働、環境の保護が「不十分」とするかは「事実に基づきケースバイケース」で判断するとしており、あいまいな点が残されている。実際にどのような判断基準が示されるかが、今後の争点となりそうだ。
(注1)米国はAD・CVDを多用しており、WTOによると、1995~2023年(6月末時点)で延べADを891件、CVDを319件発動している。WTO協定上、措置の期間は原則5年間までに限られるが、米国では見直し(サンセット・レビュー)を繰り返してそれ以上に継続する例が散見される。
(注2)官報では、多くのパブリックコメントが寄せられた項目に、「特定の市場状況(PMS)」に関する規則(351.416条)を挙げている。パブリックコメントを踏まえた規則案から最終規則の変更点として、PMSについて、(1)対象商品の生産コストに影響を与える状況の有無の認定、(2)対象商品の生産コストがゆがめられたとの事実の認定、(3)問題となっている状況が、それがない時と比較して、対象商品の生産コストのゆがみに寄与した可能性が高いとの認定という3段階を通じて認定が行われると明確化したなどとしている。
(注3)ただし、将来また状況が変化した時のために、留保するとしている。
(葛西泰介)
(米国)
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