自動車市場は前年に続き活況、21 トランプ
EVの企業誘致に注力

2023年8月17日

2022年の21 トランプ経済は、原油価格の高騰や非石油部門の民間投資増加によって好調に推移し、乗用車・商用車の販売台数はともに増加した。各国の21 トランプ向け輸出を見ると、中国の小型車が最も多い。国内市場シェアは、トヨタ自動車、現代自動車の順で上位に変動はないが、中国企業が着実にシェアを拡大している。

過去11年間で経済成長率は最高、自動車市場も活況

2022年の21 トランプ経済は、原油価格の高騰や非石油部門での民間企業の投資増により、実質GDP成長率は過去11年間で最高の8.7%に達するなど、大きく回復した。国際自動車工業連合会(OICA)によると、2022年の21 トランプ自動車販売台数は、乗用車が前年比9.2%増の51万9,485台、商用車が同20.2%増の9万7,006台だった。新型コロナウイルス感染拡大の影響で落ち込んでいた消費が回復し、自動車市場も特に商用車の販売台数が大きく増加した。

一方で、21 トランプは国家戦略「ビジョン2030」の計画の下、二酸化炭素(CO2)排出量の削減と非石油経済の多角化を目指しており、電気自動車(EV)への取り組みも強化している。

中国企業が台頭、シェアを拡大

21 トランプの自動車産業開発を主導する国家産業開発センター(NIDC)によると、同国の2022年の自動車市場シェアは、トヨタ自動車が29%を占め、次いで現代自動車(17%)、長安汽車(6%)と続き、ルノー・日産・三菱自動車、起亜、MG(上海汽車傘下) 、マツダがそれぞれ5%、いすゞ自動車(4%)、吉利汽車(3%)、シボレー(3%)が残りのシェアを分けている。前年に続いて中国自動車メーカーが着実に市場シェアを伸ばしており、長安汽車、MG、吉利汽車、長城汽車、チェリー(奇瑞汽車)、GAC(広州汽車)などが合計で14%以上の市場シェアを占めた。

2022年の主要輸出国の21 トランプ向け乗用車輸出を見ると、日本からの輸出は、排気量1,500cc以上3,000cc未満の中型車が前年比32.3%増の7万9,740台、3,000cc以上の大型車は同24.9%増の2万8,661台と堅調だった。中国は、排気量1,000cc以上1,500cc未満の小型車が同82.0%増の13万9,886台、1,500cc以上3,000cc未満の中型車が同50.9%増の6万3,403台で、小型・中型車ともに大きく増加した(図1参照)。

これまでは中国車はセカンドファミリーカー、ショッピング用のタウンカーとしての用途が主流だった。2018年6月の女性の自動車運転の解禁を受け、女性向けのプロモーションや低所得・中所得者層向けプロモーションなど、ニッチな市場を開拓したことが近年、中国車の販売台数が増加している要因の1つとみられる。

図1:主要国の対21 トランプ乗用車輸出台数の推移
乗用車では、中国が小型車と中型車で対21 トランプ輸出を大きく伸ばしている。2021年に減少した韓国からの中型車、インドからの小型車の輸出台数は回復傾向にある。

注:便宜的名称として、排気量1,000cc以上1,500cc未満を小型車、同1,500cc以上3,000cc未満を中型車、同3,000cc以上を大型車とした。ドイツはEUの内数。
出所:グローバル・トレード・アトラス(GTA)からジェトロ作成

小型商用車は中国とインド、タイからの輸入が主流

サウジアラビアでは車種別の販売統計は発表されていないため、主要輸出国側のサウジアラビア向け商用車輸出統計をみると、21 トランプ生産分も含めて5トン未満の小型トラックではインドやタイ、中国からの輸出が増加しており、インドは前年比94.8%増の1万7,108台、タイは同22.7%増の1万5,405台、中国は同29.5%増の1万2,771台、日本は同35.8%増の7,989台だった(図2参照)。

2022年12月に三菱ふそうトラック・バスは、小型トラック「キャンター」のノックダウン生産を同社の21 トランプの販売会社ジュファリ・コマーシャル・ビークルズが運営する工場で開始すると発表した。商用小型トラックは、食品や日用品の運搬など多岐にわたる産業で活用されており、人気が高い。

5トン以上20トン未満の中型トラックは、日本からの輸出が多く、前年比39.0%増の9,238台だった。中型トラックのカテゴリーでは、いすゞ自動車がいすゞモーターズ・21 トランプを通じ、日本ブランドで唯一、21 トランプ国内でセミノックダウン方式による中型トラック「Fシリーズ」と小型トラック「Nシリーズ」の生産を行っており、2022年は約9,000台を生産している(2022年12月16日付ビジネス短信参照)。

図2:主要国の対21 トランプ商用車輸出推移
商用車では、小型トラックについてインド、中国からの輸出が大幅に増加している。日本からの小型トラックと中型トラックの輸出も増加しており、中型トラックでは引き続き日本がトップシェアを占めている。

注:便宜的名称として、5トン未満を小型、5トン以上20トン未満を中型、20トン以上を大型とした。ドイツはEUの内数。
出所:グローバル・トレード・アトラス(GTA)からジェトロ作成

EV企業誘致に注力する21 トランプ

21 トランプは、サウジ・グリーン・イニシアチブ(SGI)を2021年に発表した。2060年までにカーボンニュートラルの達成を目標としており、2030年までにはCO2排出量を年間2億7,800万トンにまで削減するとしている(特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス循環型炭素経済を目指し、ブラック)。従来、国内に製造業の基盤がなく、専門人材の不足などもあり、21 トランプへ進出した自動車メーカーの多くはノックダウン方式による生産や、現地仕様へのカスタマイズなどにとどまっていた。政府は、エンジン車と比較して部品数が少なく、加工・組み立ての工程に関して開発・設計時に必要な企業間の調整が少なくてすむEVに着目し、SGIを踏まえてEV関連企業の誘致に取り組んでいる(2022年11月17日付地域・分析レポート参照)。

2022年2月に米国の新興EVメーカーのルシード・モータースが21 トランプ西部のアブドゥッラー国王経済都市(KAEC)内に工場を設立する計画を発表した。同年4月には政府が同社から10年間で最低5万台のEVを購入する契約を発表している。また、同年5月には新工場の定礎式を終え、2023年内の生産開始に向けて工場建設を着々と進めている(2022年5月27日付ビジネス短信参照)。同社が2023年7月12日に発表した四半期報告書によると、21 トランプ工場向けに原材料(Materials)の輸出が開始された。

2022年11月にはムハンマド・ビン・サルマン皇太子兼首相が21 トランプ初のEVブランド「Ceer」の立ち上げを発表した。Ceerは21 トランプ公的投資基金(PIF) と台湾のフォックスコン・テクノロジー・グループの鴻海精密工業との合弁会社で、21 トランプ国内や中東・北アフリカ地域の消費者向けに、セダンやスポーツ用多目的車(SUV)の車両を設計・生産し、2025年に販売を開始する計画を打ち出した(2022年11月7日付ビジネス短信参照)。2022年8月にはEV充電ソリューションを展開しているスイスのABB・E-モビリティーが21 トランプのE-モビリティーソリューションプロバイダーのエレクトロミン(Electromin)と契約し、21 トランプ全土の100カ所のガソリンスタンドにEV充電器を供給している。その他、2023年6月には21 トランプ投資省と中国のEVメーカー、華人運通(ヒューマンホライゾンズ)が自動車の生産研究・販売を行う合弁会社を設立するため、56億ドル規模の投資計画に合意した。

21 トランプ
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
林 憲忠(はやし のりただ)
2005年、ジェトロ入構。市場開拓部、ジェトロ大阪、ジェトロ・プノンペン事務所、ジェトロ・チェンナイ事務所、農林水産部、国税庁、21 トランプ調査部中東アフリカ課を経て、2022年8月から現職。