米鉄道労使交渉、米商工会議所が連邦議会に交渉決裂時の即時介入を要請
(米国)
ロサンゼルス発
2022年09月14日
米国では、鉄道会社と従業員の労働組合の間で労使交渉が継続しており、9月16日以降はストライキなど実力行使に訴えることが可能となる。こうした中、米国商工会議所は9月12日、連邦議会のナンシー・ペロシ下院議長(民主党、カリフォルニア州)らに書簡を送り、鉄道会社と労働組合が自主的な合意に至らない場合、直ちに行動を起こし大統領緊急委員会(PEB)の勧告(注1)を実施するよう要請した。
書簡は、PEBの勧告を受けた交渉期間が終了する9月16日に全国規模のストライキが発生する可能性が高いと危機感を示した上で、鉄道会社と労働組合の両当事者が合意に達しない場合、連邦議会のみがストライキを阻止するために介入できると指摘し(注2)、交渉が決裂した場合には連邦議会に対してREBの勧告を実施するよう求めている。
鉄道サービスが停止した場合の影響については、「乳製品、果物、野菜などの生鮮食品が生産地で腐り、46州で毎日約1,220万人が利用するアムトラックのサービスが停止し、工場や港に運ばれる資材や商品に支障が生じ、暖房用燃料やその他の重要な燃料、化学品の輸送が阻害される」と説明し、米国経済に1日当たり20億ドル以上の追加コストが発生するとした。米国鉄道協会(AAR)が試算した(2022年9月12日記事参照)。
米国最大の農業者団体のアメリカン・ファーム・ビューロー連合(AFBF)や全米穀物飼料協会(NGFD)など30を超える農業業界団体も9月8日に上院商業科学運輸委員会と下院運輸インフラ委員会に書簡を送り、連邦議会に鉄道労使交渉への介入を求めていた。
鉄道業界では2020年1月から主に賃上げを争点とした労使交渉が貨物鉄道会社と従業員の労働組合の間で継続している。連邦政府機関の全国仲裁委員会(NMB)による仲裁が不調に終わったため、ジョー・バイデン大統領は7月15日にPEBを設置する大統領令に署名し(2022年7月20日記事参照)、PEBは8月16日に解決に向けた勧告をバイデン大統領に報告していた(2022年8月22日記事参照)。全米の貨物鉄道会社を代表して交渉を行う全米輸送会社会議委員会(NCCC)はこれまでに9組合との暫定的な合意に達したと発表している(2022年9月2日記事、9月8日記事、9月13日記事、9月14日記事参照)。PEBによる勧告後30日間で労使双方が合意に至らない場合には、9月16日からストライキやロックアウト、雇用条件の一方的な変更が可能となるため、貨物鉄道会社はストライキなどの事態発生に備え、危険物の輸送を中止する緊急措置を顧客に通知するなど、緊張が高まっている。
(注1)2020年から2024年までの5年間に複利24%の賃上げ(即時発効は14.1%)と、同期間中の毎年1,000ドルの特別ボーナス支給などがPEBによる勧告の主な内容とされている。
(注2)全国鉄道労働組合総連合会(NRLC)は、過去に行われた連邦議会の介入措置として、交渉継続のための交渉期間の延長、PEB勧告の実施、強制仲裁を挙げている。
(永田光)
(米国)
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