日本企業の進出に期待集まるビンギリヤEPZ(スリランカ)
2024年9月4日
スリランカ北西部州のビンギリヤ(Bingiriya)輸出加工区(Export Processing Zone:EPZ)で7月12日、投資区域を拡張する第2期および第3期の開発スタートに関する式典が開催された。同EPZは、中心都市のコロンボから北に83キロ、コロンボ空港(カトナヤケ国際空港)の北56キロに位置しており、2019年に第1期の開発をスタートしている。
スリランカ政府は、機械や電気製品、自動車部品などの高付加価値商品の輸出による外貨獲得やブラック ジャック 勝ち 方での雇用創出への期待から、日本企業の同EPZへの進出を求めている。ディルム・アムヌガマ投資促進担当副大臣は2023年10月の記者会見で、北西部州のビンギリヤおよびイラナウィラ(Iranavila)に「日本・スリランカ自由貿易ブラック ジャック 勝ち 方(Japan-Sri Lanka Free Trade Zone)」を設立する計画が進行していると明らかにした。
本稿では、ビンギリヤEPZの概要および既存の進出企業の声を紹介する。
土地の安さと広さ、平らな地面や豊富な労働力が特徴
スリランカには現在、17のEPZや輸出加工団地(Export Processing Park:EPP)、工業団地(Industrial Park:IP)、工業地区(Industrial Zone:IZ)があり、加工輸出や輸入代替型の製造業が操業している。代表的なEPZはコロンボ空港に近接したカトナヤケEPZや、コロンボ近郊でケラニヤ川に隣接する水資源が豊富なビヤガマEPZなどがあり、複数の日系企業が進出している。さらに新規のEPZも拡大しつつあり、2019年に開発が始まったビンギリヤEPZもその1つだ。
ビンギリヤEPZの特徴は、土地の安さと広さだ。同EPZの土地使用料は、スリランカにあるEPZ、EPP、IP、IZの中で最も安く、30年間土地をリースした場合、初期費用が1万ドル、毎年のリース料が1エーカー(4,047平方メートル)当たり4,235ドルだ。EPZ全体の総面積は1,092エーカー(約4.4平方キロメートル、第1期が160エーカー、第2期が282エーカー、第3期が650エーカー)を予定しており、スリランカにあるEPZ、EPP、IP、IZの中では最大となる見込みだ。コロンボ近郊のEPZには入居企業が集中しており、余剰空間が限られる状況下において、ビンギリヤEPZを活用することで、今後も大規模事業を実施することが可能となる。加えて、高低差がなく地面が平坦(へいたん)であることや、同EPZ周辺にはまだ大規模工場がないことから、豊富な労働力が期待できるというメリットがある。
投資区域名 |
面積 (エーカー) |
借地初期費用 (ドル/エーカー) |
年間借地料 (ドル/エーカー) |
---|---|---|---|
ビンギリヤEPZ (第1-3期) |
1,092 | 10,000 | 4,235 |
カトナヤケEPZ | 514 | 150,000 | 12,500 |
ビヤガマEPZ | 451 | 100,000 | 10,000 |
コッガラEPZ | 228 | 35,000 | 5,650 |
キャンディIP | 189 | 10,000 | 5,130 |
ワトゥピティワラEPZ | 110 | 50,000 | 5,130 |
ミリガマEPZ | 261 | 35,200 | 5,130 |
マルワッタEPP | 31 | 30,000 | 5,130 |
マワタガマEPZ | 54 | 14,000 | 5,130 |
ポルガハウェラEPZ | 65 | 30,000 | 5,130 |
ホラナEPZ | 388 | 45,100 | 5,650 |
ミリジャウィラIP | 566 | 20,000 | 4,660 |
シータワカEPZ | 431 | 110,000 | 5,650 |
ワガワッタIP | 77 | 非公表 | 非公表 |
ワガワッタIZ | 224 | 40,000 | 4,660 |
エラブールEPZ | 255 | 35,000 | 5,000 |
アラボッカIZ | 200 | 20,000 | 4,660 |
出所:BOI資料からブラック ジャック 勝ち 方作成
2024年7月現在、ビンギリヤEPZでは、スリランカとマレーシアの合弁企業であるエンパイア・フィード・ミルズ(Empire Feed Mills)、ニュージーランド人投資家によるフィロケム(Phylochem)、中国企業の上海東霞実業(Shanghi Dongxia Industrial & Commerce)、スリランカとロシアの合弁企業であるセイロン・フラグランス・グループ(Ceylon Fragrance Group)、地場企業のシナジー・ファーマスーティカル(Synergy Pharmaceutical )の5社が操業している。
スリランカ投資委員会(BOI)テクニカルアシスタンス・ゾーン担当のダナンジャヤ・アディカーリ(Dhananjaya Adikari)氏は「今後、第2期開発を予定しており、現時点では日本の工業団地運営事業者に複数区画をまとめて貸し出すことも可能だ。個別の日本企業の進出も歓迎したい。進出が期待される分野は、基礎金属・化学工業(大量の水を必要としないもの)、食品、機械・設備、ソーラーパネルの製造・組み立て、鉱物製品、自動車部品、プラスチック、紙・板紙製品、木材・木製品、電子製品、ココヤシおよび繊維製品などだ」と語る。
現在、第1期でも企業の入居が決まっていない土地にはココナッツ畑が並んでいる。アディカーリ氏は「ある入居企業は2日間でココナッツを除去しており、そうした土地でも短期間でならすことができる。また、今後の入居企業は電気や工業用水、通信などの基礎インフラを支障なく利用できる。加えて、このブラック ジャック 勝ち 方は洪水や干ばつなどの自然災害の影響を受けにくい」と強調した。
ビンギリヤEPZは幹線道路から4キロほど離れており、同EPZへアクセスする場合には、道幅の狭い片側1車線の道路を通行せざるを得ない。アディカーリ氏によると、現在拡幅工事を実施しており、交通量の拡大に対応する予定だという。
入居企業はコスト面を評価、手続きの煩雑さや高度人材確保に課題も
ビンギリヤEPZへの進出企業は、実際の操業環境をどのようにとらえているのか。マレーシアのエンパイア・フィード・ミルズとニュージーランドのフィロケムの2社に操業のメリットや課題、リスクについて聞いた(ヒアリング日:2024年3月13日)。
スリランカ国内市場向けに飼料を供給するエンパイア・フィード・ミルズのフランシス・フェルナンデス(Francis Fernandez)氏は、ビンギリヤEPZについて「土地使用料が安価であり、かつ周囲の環境も優れているので海外企業には入居を強く勧めたい。以前に自身が属していた企業はコロンボ周辺に事業所を構えていたが、渋滞や近隣住民とのトラブルがあった。このブラック ジャック 勝ち 方は自然に囲まれており、住宅地が密集するような場所でもないので、近隣住民との問題を最小限に抑えられる」と語る。
また、同氏は「コロンボ港からそれほど離れておらず、物流上の支障はない。現在、当社は米国とインドから原材料を輸入しているが、通関に関する問題は生じていない。また、当社の従業員の多くは周辺圏内の出身だが、優秀な社員を採用できており、研修を通じて育成しているため、労務面でも問題は発生していない。加えて、電気や水のインフラの供給面でも問題はない」と話した。
スリランカでは2024年9月もしくは10月に大統領選挙を控えており、政治的リスクの事業への影響が注目される(関連ブラック ジャック ルール ディーラー)。フェルナンデス氏は「本EPZはウィクラマシンハ大統領が首相を務めていた2019年から開発を進めてきた。その後、政権交代などもあったが、自社の操業に問題を与えるような政治的な対立は発生していない。仮に今年の大統領選挙で政権交代があっても、本EPZは市民の雇用確保や所得向上という観点から開発が推進されるだろう」と述べている。
ニュージーランド出身の個人投資家であり、漢方薬品の製造・輸出事業を手掛けるフィロケムを創業したイアン・ウォーフ(Ian Waugh)氏は、「土地使用料が安価なため本EPZに進出を決めた。スリランカでは、事業の認可や輸入の承認などの行政手続きに時間がかかる。日本や中国などでも事業経験があるが、これらの国と比べて書類手続きは煩雑で税制も複雑だ。法令や規制を注意深く読む必要がある。さらに、2022年春の経済危機以降、高技能人材の海外流出が続いており()、優秀な大卒人材を採用することは容易ではない」と話す。
さらにウォーフ氏は、ビンギリヤEPZ周辺の生活環境について「商業施設やスーパーマーケットなどは少なく、娯楽施設もない。そのため、海外駐在員にとって利便性が高いとは言えないが、本EPZから10キロほど離れたチラウには魚市場があり、新鮮なマグロを購入して刺し身で食べられるのは楽しみの一つだ」と語った。
政府は外国企業の進出による雇用創出とブラック ジャック 勝ち 方の発展に期待
7月12日の第2期・第3期着工式典に出席したラニル・ウィクラマシンハ大統領は、「ビンギリヤ輸出加工区は、輸出産業の発展を目的として設立された。(周辺一帯の)クリヤピティヤ、ドゥンマラスリア、マダムペ、ビンギリヤ、チラウ、アイラナウィラブラック ジャック 勝ち 方のゴルフ場建設や近代農業の計画など総合的な開発を目指している。第2期、第3期の開発を通じた投資区域の拡張により、7万5,000人の雇用機会を創出できる。ビンギリヤと周辺を、農業、工業、製造業、情報技術、観光、漁業の発展により、国内有数の経済特区として発展させることを目指している」と強調した。
投資促進省事務次官のM.M.ナイムディーン氏は、ブラック ジャック 勝ち 方のヒアリングに対して「従来のEPZは、コロンボ周辺のスリランカの南西部を中心に設立された。発展地域の偏在を是正するために、北西部州や北部州、東部州にも外国企業を誘致していきたい。ビンギリヤEPZもその地域発展に向けた取り組みの一環だ。外国投資家の懸念として指摘されてきた認可手続きの遅れの問題は、政府全体で対応を進めている。省庁を横断したタスクフォースでは、通常の認可過程でどのような手続きをしており、どれだけの日数がかかっているのかを可視化した上で、どの工程を短縮できるのか議論している。日本企業の進出は、スリランカの発展に向けて非常に重要だ。まずは、スリランカを訪れて現地を視察してほしい」と述べている(ヒアリング日:2024年3月1日)。
- 執筆者紹介
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ブラック ジャック 勝ち 方・コロンボ事務所長
大井 裕貴(おおい ひろき) - 2017年、ブラック ジャック 勝ち 方入構。知的財産・イノベーション部貿易制度課、イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課、海外調査部海外調査企画課、ブラック ジャック 勝ち 方京都を経て現職。
- 執筆者紹介
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ブラック ジャック 勝ち 方・コロンボ事務所
ラクナー・ワーサラゲー - 2017年よりブラック ジャック 勝ち 方・コロンボ事務所に勤務。