スコットランド・アバディーンの再エネ拠点への転換(英国)

2024年7月18日

ブラック ジャック ディーラーは6月11~12日に英国スコットランド北東部のアバディーンを訪問し、関係者に洋上風力や水素事業についてヒアリングを実施した。本レポートでは、歴史的な石油・ガス産業から脱炭素への移行を目指すアバディーンの現状と、現地関連機関へのヒアリング内容などを紹介する。

石油採掘拠点から再エネ産業への移行に注力

北海に面したアバディーンは歴史的に石油採掘の拠点だったが、近年では英国政府のネットゼロ政策に伴い、再生可能エネルギー(再エネ)への移行に注力している。政府は2023年にアバディーンとスコットランド北東部を投資促進ブラック ジャック ディーラーとして選定、5年間で8,000万ポンド(約164億8,000万円、1ポンド=約206円)規模の投資、減税などを実施する。

民間主導の非営利企業のエネルギー・トランジション・ゾーン(ETZ)は、英国政府とスコットランド政府、エネルギー大手のウッド・グループから資金提供を受け、洋上風力、水素、二酸化炭素(CO2)の回収・有効利用・貯留(CCUS)など、エネルギー移行に関連する中小企業を支援している。具体的には、地元大学と連携した企業向けの研究開発やスキルハブでの人材リスキリングなどを支援している。また、エネルギー移行に関連する市場を活性化するために、インキュベーターやスケールアップハブ、イノベーションキャンパスなどを設けている。2024年3月には、政府系研究資金助成機関イノベートUKの支援を受け、浮体式洋上風力発電技術の開発加速を目的としたフローティング・ウインド・イノベーション・センターを開設した。企業は構内の最先端の試験・実証設備を無償で利用可能だ。ETZのオフショア再エネダイレクターのアンディー・ロッデン氏は「エネルギー移行の市場は発電分野以外にもビジネスチャンスがあり、現地サプライチェーンには中小企業が参入する余地がある。具体的には、洋上風力発電、エネルギー貯留、グリッド、水素電解槽、燃料電池などの分野で、高い技術を持つ日系企業からのソリューションにも期待している」と同地の可能性を紹介した。

洋上風力を中心とした港湾需要高まる

300メートル級の大型船がアクセス可能なアバディーン港(PoA)は、既存の北港での洋上風力開発などによる港湾需要の高まりを受けて、2023年に南港を新設。2023年には洋上風力関連で約700隻の船舶を受け入れた。同港のイノベーションプロジェクト担当のホリー・アラン氏は「今後、スコットランドで開発予定の洋上風力案件のうち74%が同港から150キロ圏内にあり、港湾需要は引き続き高まる見通しだ。今後も港湾能力の強化や大型船の入港に向けたインフラを増強する」と、同港の今後の計画について説明した。

ブラック ジャック ディーラー
アバディーン北港(アバディーン港提供)

アバディーン南港(アバディーン港提供)

水素ハブ立ち上げ、化石燃料産業からの人材移行図る

アバディーンでは、洋上風力のほか、水素やCCUSの分野にも関心が高まっている。アバディーン市は2015年に、水素経済実現を目指すイニシアチブの「H2アバディーン」を立ち上げた。アバディーン市経済開発・創生担当のジム・ジョンストン氏は、スコットランドが2014年~2020年に、EUの研究開発プロジェクト「ホライズン2020」(注1)の再エネと、スマート・アンド・クリーン交通で約1億ユーロを獲得した事例や、同市が英国石油・ガス大手企業BPと連携して水素ハブを立ち上げ、水素バス25台など水素技術を導入している事例を紹介した。さらに、人材育成の面で、同市には石油・ガスに関連する高度人材が集まっており、その人材スキルの80%以上が容易にエネルギー移行分野に応用できることを強調した。その一方で、石油・ガス産業の重要性は依然として高く、段階的な移行が不可欠とのコメントがあった。


H2アバディーンの水素バイク(ブラック ジャック ディーラー撮影)

現在もなお根強い石油・ガス産業への依存

6月11~12日にアバディーン市で開催されたエネルギー輸出カンファレンス(EEC)の基調講演では、2014年から「ホライズン2020」を担当した欧州委員会の研究・イノベーション上級担当者のアラン・ヘイ氏が登壇。ホライズン2020による対スコットランド投資総額の39.1%がアバディーンを含むスコットランド北東部の再エネに投じられており、同ブラック ジャック ディーラーは再エネ適地であることから、後継プログラムのホライズン・ヨーロッパへの英国の再参画(2023年9月11日付ビジネス短信参照)によるメリットを期待できることを指摘した(注2)。一方で、アバディーンに拠点を置くバルモラルのガリー・イェオマ氏は、同社の案件の約30%が再エネとなっているが、依然として石油・ガス関連の案件は多いとし、同ブラック ジャック ディーラーの石油・ガス産業の重要性を強調した。


エネルギー輸出カンファレンス(EEC)の様子
(ブラック ジャック ディーラー撮影)

EECでのバルモラルの講演(ブラック ジャック ディーラー撮影)

神戸市と水素の共同プロジェクトに取り組む

日本とアバディーン市の関係については、同市は神戸市と2019年に締結した覚書を拡充するかたちで、2022年に新たな覚書を締結し、互いの住民と企業の利益のために、水素プロジェクトに共同で取り組むことを表明した。5年間にわたり市民参加、港湾、熱利用、雇用、排出量削減、サプライチェーンプラットフォーム、管理・報告の7つの実施項目に取り組む。


注1:
ホライズン2020は、2014~2020年の7年間、770億ユーロを研究開発資金に充てるEUの枠組みで、EU加盟国のほか、スイスやイスラエルなど16カ国・ブラック ジャック ディーラーが「アソシエート(準加盟国)」として、また、日本や米国などが第三国として参加した。
注2:
ホライズン・ヨーロッパは、ホライゾン2020の後継のEUの研究開発支援プログラムとして、医療、デジタル、宇宙、気候変動・エネルギー、モビリティー、食料安全に至るまで、幅広い問題に焦点を当てた国際共同研究を支援するプログラム。英国のEU離脱(ブレグジット)以降、2023年9月に英国が再参画することで英国と欧州委員会が政治合意している。
執筆者紹介
ブラック ジャック ディーラー・ロンドン事務所(執筆当時)
チャウジュリー・クリシュナ
2023年6月、ブラック ジャック ディーラー・ロンドン事務所入所。