テック分野で急成長
実写 版 ブラック ジャック(1)

2024年8月8日

フランス語(仏語)圏アフリカは、スタートアップ投資の分野において、BIG4(南アフリカ共和国、ナイジェリア、エジプト、ケニア)に比べ、その存在感は大きくなかった。しかし、現在、仏語圏アフリカは、ソフトウェア開発や人工知能(AI)、ブロックチェーンなどの先端技術を活用する「テック分野」で著しい成長を遂げている。2023年にはアフリカ全体の資金調達額が縮小する中、仏語圏アフリカはシェアを大幅に拡大し、投資家からの注目も高まっている。セネガル発ユニコーン企業(注1)の誕生や数々のテック系スタートアップ台頭の背景を追う。

なお、本稿が「仏語圏アフリカ」に数える国は、フランス語を公用語としているコンゴ民主共和国、コンゴ共和国、コートジボワール、ブルキナファソ、カメルーン、ニジェール、セネガル、マリ、チャド、ギニア、ルワンダ、ブルンジ、ベナン、中央アフリカ、ガボン、コモロ、ジブチ、チャド、マダガスカル、および仏語が日常的に私用されるアルジェリア、チュニジア、モロッコ、モーリシャス、モーリタニアを指す。

仏語圏地域の人口・経済のポテンシャル

アフリカにはフランス語が広く話される国々が21カ国あり、4億人の人口をカバーしている。また、旧フランス植民地を多く含む14カ国(アフリカの約4分の1)が、共通通貨を使用しており(注2)、これは、2020年の人口比でみると、アフリカ全体の人口の約14%、GDPにして約10%を占めている。国際通貨基金(IMF)によると、セネガル、コートジボワール、ベナンなどといった主に旧フランス植民地など8カ国(注3)で構成される「西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)」は、過去10年間の実質GDP成長率の平均が5%と、サブサハラ・アフリカの平均3.1%よりも約2ポイント高い。2024年の予測は6.4%と、堅調な国内需要と公共投資に支えられ、安定した経済成長率を維持している(図1参照)。

図1:実質GDP成長率の推移と予測
(UEMOA諸国平均とサブサハラ・アフリカ平均)
UEMOA8か国平均の実質GDP成長率の推移と予測 2013年5.2%、2014年5.8%、2015年5.4%、2016年5.7%、2018年5.6%、2019年5.5%、2020年1.7%、2021年5.6%、2022年5.6%、2023年4.4%、2024年6.4%、2025年6.2%(予測)、2026年5.5%(予測)、2027年5.4%(予測)、2028年5.4%(予測)、2029年5.2%(予測)サブサハラ・実写 版 ブラック ジャック平均の実質GDP成長率の推移と予測 2013年4.9%、2014年5%、2015年3.2%、2016年1.5%、2018年3.3%、2019年3.2%、2020年-1.6%、2021年4.7%、2022年4%、2023年3.4%、2024年3.8%、2025年4%(予測)、2026年4%(予測)、2027年4.3%(予測)、2028年4.3%(予測)、2029年4.3%(予測)。

出所:IMF Datamapperを基に実写 版 ブラック ジャック作成

しかし、地域として、人口拡大のポテンシャルや経済の安定性といったメリットを持つものの、国単体では人口・経済規模が小さく、また、言語の壁などの要因により、仏語圏アフリカ地域のスタートアップ企業への注目は高くなかった。加えて、投資家の多くが米国や英国の出身であり、英語圏市場が投資先として好まれる傾向も、英語圏スタートアップに関心が注がれてきた要因と考えられる。

存在感を高める仏語圏アフリカのスタートアップ

アフリカ発スタートアップの資金調達状況に関する情報発信を行っている「Africa The Big Deal」誌の調査によると、2019年から2024年までの5年間のアフリカ発スタートアップによる総資金調達額150億ドルのうち、BIG4が84%と大半を占めた。ナイジェリア(44億ドル)が30%を占めトップとなり、ケニア(29億ドル)、南アフリカ共和国(24億ドル)、エジプト(23億ドル)と続く。

しかし、過去5年で1億ドル以上を調達した12カ国は、BIG4のほかでは、セネガル(3億9,200万ドル)、ガーナ(3億8,900万ドル)、タンザニア(2憶4,200万ドル)、アルジェリア(1億8,500万ドル)、ウガンダ(1億8,000万ドル)、チュニジア(1億7,100万ドル)、モロッコ(1億5,600万ドル)、コンゴ民主共和国(1億1,300万ドル)となっており、仏語圏アフリカの5カ国がランクインする結果となった(図2参照)。BIG4の圧倒的な存在感の陰で、仏語圏アフリカのスタートアップも着実に成長を遂げている。

図2:2019-2024の5年間で1億ドル以上の資金調達を果たした12カ国
(単位:B=10億ドル、M=100万ドル)
ナイジェリア(44億ドル)、ケニア、(29億ドル)、南実写 版 ブラック ジャック共和国(24億ドル)、エジプト(23億ドル)、セネガル(3億9,200万ドル)、ガーナ(3億8,900万ドル)、タンザニア(2憶4,200万ドル)、アルジェリア(1憶8,500万ドル)、ウガンダ(1億8,000万ドル)、チュニジア(1憶7,100万ドル)、モロッコ(1億5,600万ドル)、コンゴ民主共和国(1億1,300万ドル)。

出所:Africa The Big Dealのデータを基に実写 版 ブラック ジャック作成

中でもテック分野において著しい成長を遂げており、アフリカ最大規模の投資ファンド「Partech Africa」が発行する報告書によると、2023年のアフリカ全体のテック分野における国別投資額トップ10に、仏語圏アフリカから5カ国がランクインした。上位から、南アフリカ共和国(5億4,900万ドル)、ナイジェリア(4億6,900万ドル)、エジプト(4億3,300万ドル)、ケニア(3億3,500万ドル)に続き、モロッコ(9,300万ドル)、コンゴ共和国(4,200万ドル)、ルワンダ(3,800万ドル)、チュニジア(3,300万ドル)、セネガル(2,700万ドル)、コートジボワール(2,100万ドル)の順になっており、このうちモロッコ、コンゴ共和国、ルワンダ、チュニジア、セネガルは仏語圏アフリカに数えられる。

BIG4は依然、市場シェアの大半を占めているが、案件数、投資額ともに前年比の減少幅が大きかった。特にナイジェリアとエジプトにおける通貨の大幅な下落などの要因がスタートアップ企業の倒産や投資家の撤退を招いた。エジプト以外の北アフリカでも資金調達は低迷し、モロッコとチュニジアへの投資総額は1億2,500万ドルで、2022年比57%減となった。

また、図3では、BIG4を除く仏語圏、英語圏アフリカにおけるテック系スタートアップへの投資額を表している。BIG4を切り離してアフリカ大陸全体を見渡すと、興味深いことに、仏語圏アフリカへの投資額は2021年に急増し、2022年、2023年と英語圏アフリカを引き離している。2023年には仏語圏アフリカがビッグ4を除くアフリカ 投資額全体の68%を占めた(2022年は38%)。

図3:仏語圏、英語圏アフリカにおける「テック分野」の投資額の推移(BIG4を除く)
仏語圏実写 版 ブラック ジャック 2014年200万ドル、2015年600万ドル、2016年3,700万ドル、2017年5,600万ドル、2018年5,400万ドル、2019年1億7,400万ドル、2020年6,500万ドル、2021年5憶5,500万ドル、2022年5憶2,800万ドル、2023年3億3,500万ドル。英語圏実写 版 ブラック ジャック 2014年2,400万ドル、2015年9,500万ドル、2016年2,200万ドル、2017年3,800万ドル、2018年1億1,600万ドル、2019年1億2,000万ドル、2020年1億4,000万ドル、2021年2憶4,600万ドル、2022年3憶9,000万ドル、2023年1億2,500万ドル。

出所:Partech Africa Tech VC Reportを基に実写 版 ブラック ジャック作成

投資家の参入も安定的で、2023年は152人の投資家が仏語圏アフリカに関与した(前年比3%増)。これは、大陸全体で関与した投資家の数が前年比50%減と大幅な減少がみられたこととは対照的であり、仏語圏アフリカに対する投資家の関心が高まっていることを示唆している。投資件数においても、大陸全体では前年比32%減と大幅な減少となったにもかかわらず、仏語圏アフリカは前年比16%増を記録した。

BIG4以外のアフリカで初となるセネガル発ユニコーン「Wave」

セネガル発ユニコーン企業Waveの台頭は、この地域のポテンシャルを示す良い例だ。2018年に設立されたWaveは、携帯電話による送金・決済サービスを提供している。手数料を非常に低く設定し、セネガル、コートジボワールの市場に価格破壊をもたらした。そして設立からわずか4年でBIG4以外のアフリカで初めて17億ドルの評価額を達成するユニコーンへと成長した。

Waveの参入前は、フランス通信大手Orangeが仏語圏西アフリカ市場で独占的な地位を築いており、公共料金の支払いや送金には平均6~10%の手数料がかかっていた。しかし、WaveはWaveモバイルマネーの送金手数料を一律1%、公共料金の支払いや現金の出入金を無料にし、競合他社が追随する形で、価格水準を大幅に引き下げた。特に、銀行口座を持たない低所得層の少額決済手段として大きな役割を果たしている。筆者の経験として、タクシー運転手、仕立屋、小規模小売店舗など個人間の支払いや少額取引を行う非公式の経済活動(インフォーマルセクター)に用いられることが多く、これまで金融サービスから排除されていた層が取り込まれている。

また、UEMOAの「金融包摂年次報告」によると、セネガル、コートジボワールともに、2022年時点の銀行口座保有率は20%前後と低いが、「金融サービス」全体へのアクセスにおいては、セネガルが76%、コートジボワールが79%と高い水準となっており、モバイルマネーが金融アクセスの底上げに大きく貢献していることが示唆されている。Waveの台頭は、仏語圏アフリカにおけるテック系スタートアップの成功事例として象徴的であるとともに、地域の金融包摂を推進する原動力となっている。

有望スタートアップが相次ぐ

Waveのほか、仏語圏アフリカで活躍するテック系スタートアップには、フィンテックやeコマース(EC:電子商取引)といった分野が目立っており、UEMOA広域でのビジネス展開を図る物流系スタートアップも台頭している。具体的には、次のような企業がある。

  • Julaya(コートジボワール):B2B向けモバイル・バンキング・サービスを提供。企業や国際機関などが導入しており、従業員やサプライヤーへの支払いにモバイルマネーを利用可能。
  • Gozem(トーゴ):仏語圏アフリカの国々で、モビリティ、EC、モバイル・バンキングなど多岐にわたるサービスを展開するスーパーアプリを提供。
  • Daba(米国、コートジボワール):モバイルアプリケーションを通じて、西アフリカ地域の証券取引所に上場している株式、債券、投資信託など幅広い投資商品にアクセスできるサービスを展開。
  • Djamo(コートジボワール):地場銀行との連携により、低所得層を対象としたモバイル・バンキング・サービスを提供。国際銀行口座番号(IBAN)の付帯やクレジットカードの発行などが可能。
  • Paps(セネガル):情報技術を用いて、輸入、通関、倉庫保管、発送、ラストワンマイル配送を一気通貫で提供。UEMOAの3カ国(コートジボワール、セネガル、ベナン)で展開。
  • InstaDeep(チュニジア):AIの基礎研究開発と、欧米大手企業向けのAIアプリケーションを提供。AIスタートアップでは世界最高額となる6億8,000万ドルで買収された。
  • Chari(モロッコ):小規模小売業者向けのECプラットフォームを提供。
  • Jambo(コンゴ民主共和国):ゲームで遊んで暗号資産やNFTといったデジタル資産を稼ぐ「プレイ・トゥ・アーン(P2E)」型サービスを提供。

こうした企業の出現を通じて、仏語圏アフリカならではの魅力にも注目が高まった。UEMOA地域では、レートがユーロに固定された、単一通貨「CFAフラン(セーファーフラン)」が用いられ、為替リスクが低く、通貨の流動性が高い。また、仏語圏地域は携帯電話の普及率が高く、テック企業の台頭を後押ししている。BIG4の陰に隠れていた仏語圏アフリカは、4億人の人口や安定した地域経済を強みに、より多くの投資家の関心を喚起できるか、今後もタートアップの飛躍に期待が高まる。


注1:
創業から10年以内で、企業評価額が10億ドル以上の未上場のベンチャー企業。
注2:
西部アフリカ8カ国では、西アフリカ諸国中央銀行(BCEAO)が発行する CFA フラン(西アフリカ CFA フラン)、中部アフリカ6カ国では、中部アフリカ諸国銀行(BEAC)が発行する CFA フラン(中部アフリカ CFA フラン)を用いている。両者は同一価値だが、相互の CFA フラン圏において使うことはできない。
注3:
ベナン、ブルキナファソ、コートジボワール、ギニアビサウ、セネガル、マリ、ニジェール、トーゴの8カ国。

実写 版 ブラック ジャック

  1. テック分野で急成長
  2. 域内先進のセネガルでは
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執筆者紹介
実写 版 ブラック ジャック・アビジャン事務所
藤本 海香子(ふじもと みかこ)
2021年、実写 版 ブラック ジャック入構。イノベーション・知的財産部知的財産課を経て2023年8月から現職。