村田製作所に聞く、カジノ 無料 ゲーム アプリ

2024年10月17日

米中対立によりサプライチェーンのASEANシフトが起こり、中国企業や台湾企業をはじめ、多数の外資系メーカーがタイへの進出を拡大させている。タイの産業集積地である東部経済回廊(EEC)地域などでは労働力や人材、土地などのひっ迫感もみられる。タイは少子高齢化により、労働需給がタイトになっているが、企業進出の拡大によって離職率の上昇や幹部人材の引き抜きといった問題も顕在化している。そうしたなか、タイの北部や東北部といった、これまでの首都近郊やEEC地域とは異なる地方に生産工場を検討する日系企業も現れている。

本稿では、30社を超える日系企業が進出するタイ北部(チェンマイ県周辺)の投資環境に注目し、村田製作所の現地法人ムラタエレクトロニクス(タイ)にヒアリング取材(6月20日)した内容を紹介する。同社は、北部日系企業協議会(JBCNT)の会長企業であり、タイ北部においては最大規模を誇る日系製造業の一つだ。

タイ第2の都市チェンマイ

ジェトロの「」によると、タイ国内の日系企業の進出地域はバンコクおよびその周辺地域に集中している。53.1%がバンコクに集中するほか、生産工場や倉庫は周辺のパトムタニ県(4.9%)やサムットプラカーン県(10.5%)や、バンコクから北に車で1時間ほど走ったところにあるアユタヤ県(4.4%)などに集積している。また、バンコクから東へ1~3時間走ると、東部経済回廊(EEC)と呼ばれるチャチュンサオ県(2.3%)、チョンブリ県(12.2%)、ラヨーン県(4.4%)があり、東南アジア地域有数の工業地帯として工場が林立している。一方、昨今では特にEECエリアに中国企業を始めとする外資系メーカーが相次いで進出し、賃金上昇や人材の引き抜きといった課題も顕在化している。

そうしたなかで脚光を浴びているのが、バンコクから北へ720キロメートル離れた、タイ第2の都市であるチェンマイ市とその周辺の北部地域である(地図参照)。チェンマイは13世紀にラーンナー王朝の首都として栄えた古都として、遺跡・史跡が豊富であることから、観光地として高い人気を誇る都市だ。また、コーヒーの産地でもあるため、特産のコーヒー豆を売りにしたカフェが豊富にあり、カフェで仕事を行うデジタル・ノマド・ワーカー(注)の聖地としても知られる。タイ国営メディアによると、チェンマイはデジタル・ノマドにとって世界328カ所の中で最高の都市に選出されたという。

観光地やノマドでは有名なチェンマイだが、製造業や産業の観点ではどういったメリットがあるのだろうか。ムラタエレクトロニクス(タイ)は、30年以上も前に、カジノ 無料 ゲーム アプリ魅力に着目し、いち早く進出した日系企業である。同社は2023年3月に新たな生産棟を完成させるなど、同地において、生産体制をますます拡大させている。ジェトロは6月20日、同社にヒアリング取材を行い、タイ北部進出の経緯やメリットを聞いた。

図:チェンマイ県とランプーン県
バンコクから北へ720キロメートル離れた、カジノ 無料 ゲーム アプリ第2の都市であるチェンマイ市はチェンマイ県にある。村田製作所はチェンマイ県の南東に隣接するランプーン県に進出している。

出所:d-mapsからジェトロ作成

地元志向で優秀な従業員を確保

ファンクショナルセラミックスをベースとした電子部品メーカーの村田製作所がタイ北部のランプーン県に進出したのは、1988年のことだ。2024年6月現在、従業員数は約6,000人に上り、日本人駐在員は60人超と、タイ北部では最大規模の日系企業となっている。元々、同社ではシンガポール工場で生産していたところ、1985年のプラザ合意後の円高の影響で、セットメーカーのカジノ 無料 ゲーム アプリ進出が一層進展し、電子部品の現地生産・供給を更に求められるようになった。このような情勢からタイへの進出を果たした。

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ムラタエレクトロニクス(タイ)(同社提供)

当時、日系企業の進出先はバンコクやサムットプラカーン県などタイ中部が大部分であり、タイ北部を選ぶ日系企業はほとんどいなかった。そうしたなかで同社が北部のランプーン県を選んだ理由は、比較的安価な労働力が豊富というメリットが大きかった。また、当時、タイ工業団地公社が北部工業団地(NRIE)を造成した時期であったため、入居地も整備されており、タイミングもよかった。

タイ北部における労働力や人材の面でのメリットだが、現地の人材会社によると、カジノ 無料 ゲーム アプリ一般工員やスタッフの賃金水準は、バンコクなど首都圏に比べて2~3割ほど低い水準だという。

ただし、労働力や人材の供給については、必ずしも採用しやすいという訳ではないようだ。この点、ムラタエレクトロニクス(タイ)の笹原広一社長は「何を求めるかによるが、優秀なエンジニアの採用となると簡単ではない。地元志向、勤務地重視の傾向が強いため、北部で働きたい人材層に絞られる」という。

同社の場合、進出先のランプーン県、隣のチェンマイ県やランパーン県出身の地元の従業員が多いという。主にランプーン県内やチェンマイ県から通勤しているか、隣のランパーン県からランプーン県に転居している従業員もある。同社への転職者には、首都圏からのUターン希望者も少なくない。同社で人事担当を務める内藤龍祐シニアマネージャーは、従業員の採用について「安定志向、地元志向の人をターゲットに採用をしている」と語る。

同社ではタイ北部に立地する地元大学からの採用に力を入れ、新卒採用の形式で、採用活動を行っている。特にチェンマイ大学からの採用が多く、同社の新卒採用者約1,000人のうち、約半数は同大学の出身者となっている。一般的に、チェンマイ大学は、タイの地方大学としては最高峰の水準とされており、バンコク首都圏を含めた全国の大学のなかでもトップレベルといってよい。同社も、優秀な卒業生を輩出している同大学から、地元志向の人材を獲得できているという。 2023年に、同社は新たな生産工場(積層セラミックコンデンサ)をランプーン県で竣工したが、数ある世界の生産拠点のなかでタイの体制強化が行われたのは、安定的な経営基盤が存在していたことに加えて、「優秀な現地人材が豊富にいることが決め手だった」と笹原社長はいう。

電力をはじめインフラに不足なし

ムラタエレクトロニクスがタイ北部に進出可能であった要因として、同社の主力製品が小さな電子部品であり、輸送コストが低いことも関係している。タイ進出日系製造業に多い、自動車関連製品などを生産するメーカーの場合、製品が大きくなるため、タイ最大の港であるレムチャバン港に近いEECエリアが選択される傾向にある。

なお、物流面では、同社が入居するNRIEはフリーゾーンに指定されており、関税が免除される恩典がある。バンコクまでの運搬には、トラックで約10~14時間、航空便では約1時間かかる。NRIEから車で30分ほどのところにチェンマイ空港もあるが、首都圏の空港と比べると商用貨物の処理能力は高くないため、国外との輸出入には、バンコクのスワンナプーム空港まで運ぶ方が一般的だ。

同社の場合、国内外から調達する部資材をバンコク近郊の倉庫で一度集約し、まとめてタイ工場へ運ぶことで輸送効率化を図っている。出荷物流の場合は、タイ工場からバンコク近郊の出荷用倉庫へトラックで転送、出荷梱包をしたのち国内外へ発送しているが、状況に応じて、チェンマイ空港からスワンナプーム空港へ航空便で転送するなど、輸送手段を使い分けている。また、クロスボーダー輸送で、マレーシアを経由してシンガポールへ陸上輸送される場合もある。

なお、NRIEからバンコクにトラック輸送する場合において、洪水の場合の事業継続計画(BCP)も気になるところだが、2011年の大洪水時も輸送業者と協力の上複数の輸送ルートを確保するなどして、納品への影響を最小限に食い止めたという。

NRIEは、物流に加えて、電力、水道といった基礎的なインフラも整っている。電力はタイ地方電力公社(PEA)から供給されており、安定している。ムラタエレクトロニクスでファシリティを担当する坊知洋シニアマネージャーは「電力不足については、ほとんど感じられない」と話す。ただし、停電が年1~2回、瞬時電圧低下は年3~4回程度は発生している点は留意が必要だという。

なお、同社の工場には、屋根置き太陽光パネルが設置されており、全体の電気使用量の7%を太陽光発電で賄っている。同社は2035年に再生エネルギー100%を目指しており、再生可能エネルギーの調達を高めていくという。


ムラタエレクトロニクスの生産棟・厚生棟(同社提供)

日本人が暮らしやすい環境

タイに進出する日系企業にとって、駐在員の生活環境は代えがたい魅力と言える。ジェトロの「2023年度 」では、タイの投資環境上の最大のメリットとして「駐在員の生活環境が優れている」ことが挙げられている。

カジノ 無料 ゲーム アプリ日系社会をみると、北部日系企業協議会(JBCNT)には日系企業が34社加盟しており、チェンマイ日本人会の会員数は約300人である。リタイアメントビザで滞在している日本人も多く、全体で約3,500人の日本人が住んでいるとされる。

チェンマイは、バンコク首都圏と比べると、日本食材の調達環境や日本食レストランの選択肢は限られるものの、生活に困る程では無く、日本食レストランも低価格な為、日本人が暮らしやすい街ともいえる。駐在員向け住居についても、外国人駐在員が住むコンドミニアムの数が限られているが、賃料はバンコクよりも安価で済む。

医療環境は、24時間対応の病院が数カ所あり、日本語通訳も常駐しているので、万一の場合も安心できる。ただし、子女教育の面では、日本人学校が存在しないため、インターナショナルスクールに通わせるのが一般的だ。そのため、チェンマイ日本人会によるチェンマイ日本人補習授業校が開設されており、週末に日本語を学ぶ機会が提供されている。


チェンマイの街並み(ジェトロ撮影)

進出先として様々なメリットがあるタイ北部だが、同地域も完全な投資環境、生活環境というわけではない。特に深刻なのが、時期によって発生する大気汚染(PM2.5)の問題で、空気の質が世界で最も悪い都市にランクインしたこともある。その他、バンコクに比べてレジャーや娯楽が少ないといったマイナス面もある。また、投資環境としては、港が遠いといった決定的なデメリットもある。


乾季の大気汚染の様子(同社提供)

雨季の様子(同社提供)

そうしたデメリットを照らし合わせてみても、優秀な地元人材が獲得でき、安定的なインフラが利用できるといったメリットは大きい。日系製造業が進出を検討する上で、タイ北部は有望な選択肢の一つになり得るだろう。


注:
「遊牧民」のように、オフィスや自宅などではなく、パソコンやデジタル端末を使って、カフェやコワーキングスペースなど働く場所にとらわれずにリモートワークで仕事をする人々。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。カジノ 無料 ゲーム アプリ調査部アジア大洋州課、大阪本部、ジェトロ・カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。