政府系アクセラレーション機関の動き
イノベーションハブ・UAE(1)
2024年8月7日
アラブ首長国連邦(UAE)では、政府主導でデジタル化、イノベーション、Web3.0、医療、宇宙、水、食料安全保障など幅広い産業に力を入れ、同国の社会課題解決に資するイノベ―ティブな技術やサービスを積極的に国外から取り込もうとしている。中東のイノベーションハブとして成長するUAEで、スタートアップ(SU)への投資額は6億9,100万ドル(2023年)に上り、中東・北アフリカ(MENA)カード ゲーム ブラック ジャックではサウジアラビアに次いで2位となっている(図1参照)。国別投資件数は158件(2023年)と同カード ゲーム ブラック ジャック内で最多で、SUの投資が集まるカード ゲーム ブラック ジャックのハブとして高いプレゼンスを有している(図2参照)。優れた技術を持つSUをUAEに呼び込むのに当たり、さまざまなルートがある中でも、政府系アクセラレーション機関の存在感は大きい。本稿では、ドバイとアブダビの代表的なアクセラレーション機関の取り組みについて見ていきたい。
アブダビのスタートアップエコシステムとして存在感発揮するHub71
UAEの首都アブダビでは、アブダビ政府系ファンド(ソブリンウェルスファンド)の「ムバダラ投資会社」傘下にある「Hub71」が代表的なアクセラレーション機関として知られている。Hub71は2019年に創設され、100を超える企業が入居している。入居企業は高倍率の審査を通過した精鋭で、分野はフィンテック、ヘルスケア、教育、モビリティー、Eコマース、Web3.0と多岐にわたる。入居企業にはオフィススペースが無償提供されるほか、用途の広い運転資金が支給され、それらは事業や住居費用などにも使用できる。また、UAEの就労ビザは通常2年だが、10年間有効の「ゴールデンビザ」が発給される。投資支援体制も盤石で、ムバダラ投資会社、金融サービス事業促進機関のアブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)、アブダビ投資庁(ADIO)、その他ベンチャーキャピタル(VC)などの提携先へのピッチの機会も定期的に設けられる。
Hub71はADGMに隣接しており、地の利を生かした各種機関との連携がとりやすいことも特徴だ。例えば、国際金融都市を目指すアブダビでは、ADGM主催で「アブダビファイナンスウイーク」が開催される際に、Hub71入居企業60社以上が日替わりで当該イベントの専用ブースに出展した(2023年12月6日付ビジネス短信参照)。また、フィンテックやWeb3.0関連など、金融関連の技術やサービスを取り扱うHub71入居企業が直接ADGMに相談できる環境にある。
2023年2月にはHub71とADGMによるWeb3.0エコシステム構想として「Hub71+Digital Assets」を立ち上げ、Hub71はWeb3.0分野のSU向けに20億ドル規模の投資を行った。UAEはWeb3.0で世界に先駆けて法制度を整備している。アブダビではADGM内の規制当局部門としてFinancial Services Regulatory Authority(FSRA)が2018年に、ドバイではドバイ仮想資産規制庁(VERA)が2022年に、それぞれ発足した。ドバイでは「ドバイブロックチェーン戦略」や「ドバイメタバース戦略」を立ち上げ、当該分野の成長戦略として取り組んでいる。これらの取り組みからWeb3.0分野のSUの進出が増え、UAEは世界有数のWeb3.0のハブとなりつつあり、Hub71とADGMはその一翼を担っている。
ドバイ未来財団では革新的な技術とアイデアに基づく協業に期待
ドバイ首長国にある「ドバイ未来財団(Dubai Future Foundation:DFF)」は、建国100年となる2071年にドバイが世界のイノベーション拠点都市となることを目指し、2016年に政府主導で創設された。DFFが推し進めるイニシアチブのFuture Design & Accelerationの下、ドバイのエコシステム強化に力を入れている。DFFでは、ドバイに拠点を置く(あるいは置く志のある)起業家やSUに対して、一定審査を経てさまざまな支援策を用意している。具体的には、直接の資金的援助ではなく、政府機関や民間企業、投資家などとつなげる役割を果たし、そのために活用可能なアクセラレータープログラムや、ラボ、ミーティングスペースなどを無償で提供するほか、ドバイに拠点を設ける起業家に対しては「ゴールデンビザ」を発給するアレンジを行っている。
DFFのサイード・アル・ファラシ・エグゼクティブディレクターによると、「ドバイで社会課題解決に取り組むSUの中には、市場にフィットするプロダクトを持ちながら、2年経っても適切なコンタクト先を持っていなかったがために、ドバイを去る例もある」という。DFFが提供するアクセラレーションプログラムを通じて、政府関係者のほか、通常のビジネスでは接点を作ることが容易ではない大手UAE企業ともつながれることは大きな利点だ。さらに、DFFでは優秀な学生の提案・アイデアを政府側にプレゼンする機会も提供しており、同じビル内に入居する政府の関係省庁も頻繁に同財団のラボを訪れるという。
また、DFFは年に数回、政府機関や民間企業が抱える課題解決に向けて、それらを解決し得る技術やサービスを有するSU向けに、インキュベーションプログラム(Challenge)を実施している。彼らの技術やサービスの具現化を目指し、Challengeに対して各自の解決策をピッチし、選ばれたSUが協業する機会を得る。現在進行中の事例の1つが、世界的なラグジュアリー・ブランド・コングロマリット向けのプログラムだ。このクライアントはブティックでの顧客の待ち時間が長いことや、若い年齢層の顧客開拓、中古品のトラッキングができないことなどに課題を抱えていた。その課題解決に向けてDFFを訪れたことがプログラム組成の契機となった。また、ドバイ警察は安全対策や交通渋滞の緩和、犯罪防止などの分野でChallengeを提示し、現在はスマートシティーの実現に向けて、世界の研究者やイノベーターなどからロボティクスを活用したアイデアを募っている。
DFFではこうした革新的なアイデアと技術を欲する政府機関や民間企業と連携して、解決策を提示し得るSUを発掘し、協業するチャンスをオープンに提供する手法を取っている。中長期的な視点でUAE市場、あるいはその先の中東・北アフリカカード ゲーム ブラック ジャックを見据える起業家にとって、自らの技術を社会課題解決に生かせるかどうか力試しの場となる。
- 注1:
- 中東のソブリンウェルスファンドについては、カード ゲーム ブラック ジャックの調査レポート「中東政府系ファンドの資金フローに関する調査(1.59MB)」を参照。
- 注2:
- UAEのWeb3.0分野については、カード ゲーム ブラック ジャックの調査レポート「アラブ首長国連邦(UAE)Web3マーケット・レポート(4.3MB)」を参照。
イノベーションハブ・UAE
- 政府系アクセラレーション機関の動き
- Web3.0でbitgrit、アブダビから世界に
- 執筆者紹介
-
カード ゲーム ブラック ジャック横浜 所長代理
堀田 萌乃(ほった もえの) - 金融機関、外務省、在ザンビア日本国大使館(専門調査員)を経て、2014年4月にカード ゲーム ブラック ジャック入構。海外調査部中東アフリカ課、企画部海外地域戦略班(アフリカ担当)などを経て、2021年8月から現職。
- 執筆者紹介
-
カード ゲーム ブラック ジャック・ドバイ事務所
清水 美香(しみず みか) - 2010年、カード ゲーム ブラック ジャック入構。海外調査部中東アフリカ課、海外調査企画課、カード ゲーム ブラック ジャック埼玉などを経て、2023年9月から現職。