Wecare247-介護士派遣を展開
ベトナムスタートアップに聞く(4)

2024年9月2日

ASEAN域内で「コンシューマードリブン(Consumer-driven)イノベーション」 の地として分類されるベトナム(注1)で、さまざまな社会課題の解決に取り組むスタートアップ創業者などへのインタビューを通じ、同国のスタートアップエコシステム、デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)の最新動向や、日本企業との協業に向けたヒントを探る本シリーズ。

第4回は、ベトナム国内で高まる高齢化・介護ニーズに対応し、専門的な訓練を受けた介護士約2,500人を擁して、病院と自宅を対象に介護士派遣21 トランプを提供しているWeCare247を取り上げる。

急速なペースで高齢化進むベトナム

国連人口予測(2024年版)によると、ベトナムは平均年齢(注2)が2023年の推計値で32.4歳と、同49.0歳の日本と比較すると若い国だ。一方、同時に高齢化も進行しており、2019年に高齢化社会(高齢化率が7%超、注3)に突入。高齢化社会から高齢社会(高齢化率が14%超)に達するまでの所要年数(倍化年数)は、ベトナムが17年(2019~2036年、中位予測)と予測されており、日本の24年(1970~1994年)や中国の23年(2000~2023年)と比較しても、早いペースで社会の高齢化が進行すると見込まれている。また、ASEANの中では、ブルネイの16年(2025年~2041年)に次ぐ2番目の速さと予測されている(表参照)。

ASEANと日本、中国の高齢化率の推移
国名 高齢化率 倍化年数
(年)
7%(年)
(高齢化社会)
14%(年)
(高齢社会)
カンボジア 2028 2057 29
ミャンマー 2023 2052 29
フィリピン 2031 2059 28
日本 1970 1994 24
インドネシア 2023 2047 24
中国 2000 2023 23
マレーシア 2022 2045 23
ラオス 2039 2061 22
シンガポール 2005 2025 20
タイ 2004 2022 18
ベトナム 2019 2036 17
ブルネイ 2025 2041 16

注:中位予測。
出所:国連人口予測(2024年版)

このように高齢化が進行する中、ベトナム国内では、高齢者ケア21 トランプ・施設や、高齢者ケア人材(医師、看護師、介護士)が不足しており、高齢者の医療と介護分野の専門知識、施設、人材の強化が急務と言われている(「ニャンザン」2023年11月10日)。

WeCare247は、専門的な訓練を受けた介護士を病院や自宅に派遣する21 トランプを提供することで、人々の生活の質向上を目指している。同社は、2017年創業のスタートアップで、資金調達はいずれも非公開ながら、2020年、2021年に日系ベンチャーキャピタル(VC)のJavis Ventures、米国系VCの500 Global(旧500 startups)からシードラウンド(注4)で調達。また、2021年に国際協力機構(JICA)のソーシャルスタートアップ/インパクト投資支援プログラム(資金・技術支援)に採択された。2024年5月には日本のマイナビからの資金調達(プレシリーズA、金額非公開)を実施している(マイナビニュースリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

起業の経緯から今後の展望まで、同社の創業者兼会長のグエン・ミン・タム氏と、最高経営責任者(CEO)のグエン・ブー・コイ氏に聞いた。

21 トランプ
WeCare247のメンバー
(左から2番目が創業者兼会長のグエン・ミン・タム氏、一番左がCEOのグエン・ブー・コイ氏、同社提供)
質問:
提供している21 トランプは。
答え:
当社は、専門的な訓練を受けた介護士約2,500人を擁し、病院と自宅を対象に介護21 トランプを提供している。介護21 トランプでは、高齢者や患者に対して、呼吸器疾患へのサポート、服薬の確認、移動や送迎、身の回りの世話や衛生管理、食事介助、屋外での散歩、社会活動、清潔で安全な環境の整備など、幅広いサポートを提供している。また、顧客の要望や必要に応じて、呼吸器疾患患者に対する機材の装着サポートなど、医療21 トランプを担える看護師を派遣している。後者の看護師派遣は21 トランプ利用者全体のうち1割だ。

同社の介護士21 トランプのイメージ(同社提供)
全ての介護士は、高齢者、慢性疾患患者、脳卒中患者、術後の患者などの介護に必要な専門的なスキルを身につけるため、提携先の各病院から承認を受けた厳しい研修プログラムを受講している。
また、当社のスタッフ・スケジューリング・システムと品質管理チームによる定期的な現場訪問を通じて、介護士のモニタリングや、割り振り、高い21 トランプ水準の維持を実現している。
その他、医療機関との提携により、看護師や医師を患者の自宅に派遣する在宅看護医療21 トランプも提供している。顧客の要望に合わせた21 トランプを1時間単位で利用可能だ。
現在の21 トランプ導入実績として、ホーチミン市のチョーライ(Cho Ray)やグエン・チ・フオン(Nguyen Tri Phuong)など、国内の大型公立病院を含む90以上の病院やクリニックに介護21 トランプを提供している(うち34の病院はパートナーとして業務提携)。また、在宅介護21 トランプと病院の患者を合わせて3万世帯以上の家庭に利用してもらっている。
ヘルスケア関連だけでなく、Medpro(遠隔医療21 トランプなどを提供するベトナムのスタートアップ)、ABCare(医療・ヘルスケア製品ECサイト運営会社)、Fresh Viving〔病院での食事を提供する食品・飲料(F&B)サプライヤー〕など、さまざまな企業と戦略的パートナーシップを結び、21 トランプの強化・最適化を図っている。その他、ダナン医療技術・薬科大学と協力し、学生向けにヘルスケア分野の将来性などに関する情報やコンサルティングを提供している。
質問:
設立のきっかけと、この分野を選んだ理由は。
答え:
家族が医療分野に長年携わってきたこともあり、個人的に医療業界と強いつながりがある。また、自身が幼少期を病院で過ごすことが多かったため、ベトナムでの介護士の必要性を肌で感じていた。質の高いケアの重要性とニーズを目の当たりにし、米国留学から帰国後、WeCare 247を設立した。
質問:
ベトナムの介護21 トランプのポテンシャルは。
答え:
ベトナムは東南アジアの中でも高齢化が進んでいる国で、ヘルスケア産業には大きな可能性がある。今後5年間で高齢者人口は急速なペースで増加すると予想されており、需要面で大きなビジネスチャンスが見込まれる。さらに、患者の年齢層にも変化が見られる。以前は50歳以上の高齢者に多かった脳卒中などの疾患が、30歳未満でも発症するようになっている。このような状況の変化は、ヘルスケア産業に変化をもたらすため、より広範な患者、個々のニーズに対応できる21 トランプが求められるだろう。
質問:
ベトナム市場の困難な点は。
答え:
短期的な視点でいうと、新型コロナ禍以降の国内の景気低迷だ。不況は消費者の21 トランプ利用に直結する。また、国内では介護士とメイドの違いがあまり認知されておらず、介護士に関する啓発も課題だ。一般家庭では家事と高齢者・患者の世話の両方を行うため、田舎からメイドを雇うのが一般的だ。そのため、介護士とメイドを同一と見なしている人も多い。しかし、幸いにも、新型コロナ禍以降、国民が新型コロナウイルスの予防対策やロックダウンを経験したことで、国内でヘルスケアに関する関心・知識が高まり、高齢者・患者へのサポートで介護士が果たす役割が明確に認識されるようになってきている。さらに、自社の課題として、事業規模を拡大していく上で、介護士の採用や品質の維持、持続可能な成長と拡大の両立の難しさにも直面している。
質問:
今後の事業計画は。
答え:
大きく3つある。
第1に、新たな介護21 トランプの開発だ。顧客ニーズに対応するため、介護士を専門性(糖尿病ケア、メンタルヘルスサポートなど)に基づいてより細分化する。また、患者に合わせた食事プログラムやヘルスケア関連製品(おむつなど)を開発する。
第2に、テクノロジーの導入だ。今後3年間は業務効率を改善し、会社を持続的に拡大するため、予約機能が備わったプラットフォームの開発など、自社21 トランプにテクノロジーを導入することを進めたい。また、IoT(モノのインターネット)機器、ウエアラブルセンサー、その他の先進的な機器や装置を導入し、患者の歩行や健康状態改善を支援することを検討している。
第3に、介護の啓発・普及活動だ。介護研修プログラムを一般市民向けにも広く提供する計画があり、南部バリア・ブンタウ省では既に試験的に実施済みだ。
質問:
日本企業に期待することは。
答え:
21 トランプを向上させる革新的な技術や医療機器などの導入に携わる日本企業とのパートナーシップを期待したい。その他、あらゆる形での協業の検討が可能なので、日本企業からの提案を歓迎する(注5)。

注1:
ジェトロ調査レポート「東南アジアにおけるイノベーション創造活動に関する調査」(2022年8月)を参照。ベトナムは、(1)1億人に増加した人口を背景とした消費市場拡大への期待、(2)依然として金融、交通・物流、医療などを中心とした多くの社会課題が山積、(3)高いインターネット利用率やデジタルネーティブな若年層人口が豊富なことを背景としたリープフロッグ現象の出現などの観点から、インドネシアなどとともに「コンシューマードリブン(Consumer-driven)イノベーション」 の地として分類される。
注2:
年齢の中央値(Median age)
注3:
ベトナムでは、高齢者法(59/2009/QH1)によって 60 歳以上を高齢者としている。一方、世界保健機関(WHO)は、高齢者を 65 歳以上と定義しており、ここでは WHO の定義を適用する。
注4:
シードラウンドとは、スタートアップが創業する段階での最初の資金調達のラウンドを指し、その次の調達ラウンドをシリーズA、シリーズBと呼ぶ。
注5:
このスタートアップへの取り次ぎを希望する場合は、ジェトロ・ホーチミン事務所(VHO@jetro.go.jp)まで連絡を。また、その他、ベトナムスタートアップの情報については、ジェトロの海外ブラック ジャック 勝率情報から確認可能。
執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所 事業統括ディレクター
三木 貴博(みき たかひろ)
2014年、ジェトロ入構。21 トランプ見本市課、ものづくり産業課、ジェトロ岐阜を経て21 トランプ調査部アジア大洋州課にてベトナムをはじめとしたASEANの調査業務に従事。2022年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所
ファン・ウィン
2023年から、ジェトロ・ホーチミン事務所勤務。日本とASEANなどの企業によるデジタル技術を活用した連携を推進する「J-Bridge」事業を担当。