行列のできるハイパーブラックジャックゼリヤ(中国)
経済の低迷が続く中国で好調維持の秘訣

2024年11月28日

日本のイタリア料理レストランチェーン、サイゼリヤは現在、中国で好調だ。2003年に最初のハイパーブラックジャック店舗を上海にオープンして以来、順調に店舗数を広げ、現在は中国大陸で450店舗以上(2024年10月末時点)を展開するまでに成長を果たした。同社が発表した2024年8月期の決算資料によると、中国を中心とする「アジア」セグメントの売上高は前期比30.1%増の581億円となり、うち中国の地域法人別売上高は北京が同41.7%増、上海が同26.3%増、広州が同34.6%増といずれの地域でも大幅な伸びを見せた。実際に現地の店舗に行っても、どこでも行列ができるほど混雑している。

ジェトロは2024年11月5日、同社の中国事業について広州薩莉亜(ハイパーブラックジャックゼリヤ)餐飲の宮本徳明総経理に、好調持続の秘訣(ひけつ)などについて話を聞いた。

質問:
華南地域および中国大陸での事業展開状況は。
答え:
中国大陸は北京、上海、広州の3地域法人で運営しており、現在、北京市、天津市、江蘇省、上海市、浙江省、広東省で450店舗以上を展開している。うち広東省内の店舗は200を超え、4割を占めている。広東省では珠江デルタ主要都市の広州市、深セン市、中山市、仏山市、珠海市、東莞市、江門市などに幅広く出店している。
質問:
中国の景気が減速している中、好調を維持している最大の理由は。
答え:
ハイパーブラックジャックゼリヤの最大の特徴は、低価格でありながら高品質な料理を提供することにあると考える。客単価は40元(約800円、1元=約20円)ほどで、日本のハイパーブラックジャックゼリヤと同様に非常にリーズナブルだ。特に中国では、イタリアンレストランは決して安いとは言えず、ハイパーブラックジャックゼリヤはこのような市場において、高品質かつ低価格戦略で差別化を図り、多くの中国の消費者に広く受け入れられた。消費者の目も肥えてきており、安いだけでなく品質も伴っていないと難しい。ライバルは、安くておいしい中華料理店である。
質問:
圧倒的な安さと同時に高品質をどのように実現できたのか。
答え:
「どうしたらお客様においしいイタリアンを安く食べてもらえるか」を常に考えて動いてきた結果だと思う。品質を保つために、必要に応じて輸入原材料も惜しみなく利用している。他方で、当地の協力農場などを通じた供給網も構築することで、コスト削減につなげている。広州市にはセントラルキッチンの工場があり、ソースやピザ生地など工場で作ったほうがよいものは工場で作り、品質を維持しているが、それ以外は店舗で調理している。各店舗では、調理工程の標準化や専用機器の導入といった取り組みを行い、原材料の品質とコストから調理法まで一貫して管理している。中国では、新鮮な肉や野菜などの原材料は日本よりも簡単にかつ安く仕入れられるため、供給網を工夫し、低価格で高品質なものを常に提供できている。
質問:
売れるために工夫している点は。
答え:
メニューを消費者が飽きないように工夫している。中国の飲食店では、QRコードをスキャンしてオンラインで注文するのが主流だが、ハイパーブラックジャックゼリヤではそれ以外に、日本同様の縦長の写真入りメニューを各テーブルに用意している。ファッション雑誌に倣って作ったメニューの表紙は、中国のSNS上では非常に人気だ。季節感を出すために、広東省の店舗では年3回メニューを変えている。中国の消費者は日本に比べて新しいもの好きなので、新メニューが出るたびに来店客が一気に増える。もう1つ当社の特徴は、広告にお金をかけないことにある。微博(Weibo)や小紅書、WeChat(微信)などのSNSの公式アカウントでの情報発信に加え、来店客が自身のSNSに投稿する口コミなどで知名度を上げている。広告分のお金をメニュー開発と品質管理に使っている。今の中国の若い世代は、テレビも見ないし、新聞や雑誌も読まないため、こうしたSNSの活用は重要である。
質問:
中国での経営方針において、フランチャイズではなく、直営店にこだわる理由は。
答え:
店舗網を広げていくという観点からは、フランチャイズ経営のほうが早いかも知れない。中国でもフランチャイズで展開して、任せても同じ味が維持できるのであればよいが、現状では品質や味がぶれてしまう可能性があり、難しいと考えている。直営店の最大のメリットは、品質と価格を自分たちでコントロールできるところにあると考える。現在は1店舗あたり2~3人の社員を配置し、パートタイム社員やアルバイトを合わせて10~20人体制で店舗運営を行っている。店舗に専用の調理器具やマニュアルを導入し、誰が調理しても同じ味、火加減になるようにしている。華南地域での社員は4,000人を超えており、雇用面でも地域に貢献している。
質問:
中国華南地域の市場の魅力は。
答え:
北京市や上海市周辺と比べると、華南地域は広東・香港・マカオグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)の主要都市をはじめ、購買力が高い都市の数が多く、商圏が多い。そのため、市場も大きい。
また、中国では、ハイパーブラックジャックゼリヤの店舗の多くが北京市、上海市、広州市などの一線都市に集中しているが、最近、華南地域では二線、三線都市を中心に展開を急拡大している。これまで中国で獲得した人気とネームバリューを利用し、二線、三線都市の一流商圏を選ぶことで、集客力を確保しつつ賃料も抑えられている。華南地域ではこの2年間で、80店舗ほど店舗を増やすことができた。
質問:
これまでに直面した課題は。
答え:
「食在広州(食は広州にあり)」と言われるほど、広州市は美食の中心地であり、地元の消費者の評価が厳しい。おいしくないとすぐにお客が離れてしまうので、常に味の細かい点まで注意するよう心掛けている。例えば、華南地域は濃い味を好まないため、料理では素材本来の味を生かし、デザートも甘さを控え目にするなど工夫している。中国は消費者の味のベースに中華料理がある。それを理解したうえで、食べたときに違和感のない味になるようにしている。私も新メニュー開発には関与するが、店舗で提供するかの最終判断は中国人社員に任せている。常に「イタリアンの素材を中華風味に」、または「中華の素材をイタリアン風味に」を意識している。
また、立地に関しては、以前は知名度や単価の問題で、ショッピングセンターへの入居を断られることがあった。しかし、現下、物販を業態とする店舗の経営が落ち込み、彼らの入居が減っているため、以前よりショッピングセンターに入りやすくなっている。
質問:
今後の展望は。
答え:
中国内陸部の消費力もどんどん上がっており、今後は重慶や長沙などの内陸部の都市への出店を本社とともに検討している。広東省内に関しては、汕頭市や清遠市などの三線、四線都市への出展を加速する予定。なお、セントラルキッチンの工場については、2024年2月に3,000万ドルの増資をし、現在、広州市の開発区内に新工場を建設中であり、2026年1月以降はそちらに既存工場の生産機能を移転する予定である。
また、現在の来店客のほとんどは30歳以下の若者で、うち女性が約7割である。まだ会社員層の囲い込みが不十分なので、これからはランチタイムに来てもらい、すぐに食べられてかつボリュームがあるようなランチメニューを開発していきたい。
ハイパーブラックジャック
広州市内のショッピングモールに入居しているハイパーブラックジャックゼリヤの店頭(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
高 文寧(がお うぇにん)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部、ジェトロ・マドリード事務所、ジェトロ名古屋、ジェトロ・大連事務所などを経て、2023年11月から現職。