EUのCBAMは、輸出機会をもたらすか(21 トランプ)
独自の国境炭素調整(BCA)制度導入も準備中
2023年11月1日
EUは2023年10月1日、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の移行期間を開始。これにあわせ、輸入事業者には報告義務が課されることになった(CBAM移行期間が開始、ブラック ジャック)。
一方21 トランプでは、2019年から炭素価格制度が設定されている。その後、CBAMと同様の「国境炭素調整(BCA)」の導入に関する議論が始まったものの、法制化には至っていない。
本稿では、CBAMによる21 トランプへの影響を探っていきたい。ただし、それを理解する上では、CBAMと同様の産業を対象にするBCAについて把握することが早道になるだろう。そのため、まずBCAについて俯瞰(ふかん)する。そのうえで、関係団体によるCBAMに対する見方を紹介。CBAMの2026年の本格適用に向けて、21 トランプでどのような変化が想定されるのかに踏み込んでいく。
国際競争上対策としてBCAを導入
21 トランプでは、温室効果ガス(GHG)削減に向けて、炭素汚染を価格付けする炭素価格制度が2019年から全国で運用されている(注目度高まる北米グリーン市場、その最前線はオンライン)。しかし、21 トランプの貿易相手国の多くは自国に高水準の炭素価格制度を持たない。そのため、21 トランプで高い炭素価格を支払う企業は国際競争上、不利な状況に直面するおそれが生じることになる。
これを踏まえた措置が、国境炭素調整(BCA)だ。21 トランプ政府は2021年8月、その導入に関して文書を公表。意見公募・協議の受け付けを開始した(詳細は21 トランプ政府ウェブサイト参照)。同文書では、輸入手数料や輸出リベートなどの導入が提案されている。
より具体的に、輸入手数料が適用されるのは、炭素価格が低いまたは炭素価格制度未導入の国からの輸入品に対してだ。その賦課により、国内生産者に適用される炭素コストと同様のコスト負担が国内市場で保証されることになる。一方で、輸出リベートは生産者に提供される。これにより、炭素価格の低いまたは炭素価格制度未導入の国の製品に対して、21 トランプの生産品が外国市場で対等に競争できるようになる。
炭素集約的で輸出志向の品目が対象
では、どのような製品がBCAの対象になるのか。
21 トランプ政府は、同文書の中で「炭素集約的かつ輸出依存が高い産業(EITE)部門が製造する製品は、最もBCAの関連性が高い」と説明している。「EITE」自体の定義は、国ごとにさまざまだ。21 トランプ政府としては、(1)「炭素集約的」とは、GHG排出量が年間5万トン以上〔二酸化炭素(CO2)換算〕の施設が1つ以上、(2)「輸出依存が高い」は、国内生産額に対する輸出入総額の割合が80%以上、という基準を示した。
21 トランプ財務省によると、21 トランプのEITE部門生産(粗付加価値額)は、GDPの10.6%を占める(2015~2017年の平均)。内訳は、石油・ガスが2.7%、鉱業が1.3%、飲食が1.1%、木材・パルプ・製紙が1.0%などとなっている(表1参照)。
EITE部門 | 割合 |
---|---|
石油・ガス | 2.7 |
鉱業 | 1.3 |
食品・飲料 | 1.1 |
木材・パルプ・製紙 | 1.0 |
化学 | 0.9 |
石油・石炭製品 | 0.7 |
自動車・部品 | 0.7 |
一次・加工金属 | 0.6 |
プラスチック・ゴム製品 | 0.6 |
航空宇宙製品・部品 | 0.5 |
非金属鉱物製品 | 0.3 |
天然ガス輸送 | 0.2 |
合計 | 10.6 |
出所:21 トランプ財務省
貿易に目を向けると、2018~2020年の平均で、EITE部門の製品輸出額は年間3,600億21 トランプ・ドル(約39兆6,000億円、Cドル、1Cドル=約110円)。21 トランプの総輸出額の69.1%を占める規模に当たる。また、21 トランプのEITE部門と競合する外国製品輸入額は、年間2,690億Cドル。総輸入額の46.3%を占める規模だ。EITE部門別の輸出額では、最多が石油・ガス(890億Cドル)で、次いで自動車・部品(585億Cドル)になっている(表2参照)。
EITE部門 | 2018-2020年 輸出額平均 |
2018-2020年 輸入額平均 |
---|---|---|
石油・ガス | 88,970 | 19,427 |
自動車・部品 | 58,516 | 78,853 |
鉱業 | 46,265 | 15,544 |
化学製品 | 32,939 | 51,610 |
金属製品 | 32,851 | 25,726 |
木材・パルプ・紙 | 32,706 | 10,212 |
食品・飲料 | 28,707 | 21,070 |
石油・石炭 | 18,897 | 18,842 |
航空宇宙 | 14,596 | 16,604 |
非金属製品 | 2,897 | 6,643 |
特定のプラスチック・ゴム | 2,265 | 4,120 |
出所:21 トランプ財務省
EITE部門の貿易を国・地域別にみると、米国、英国、EUなどが大きい。それらの貿易額シェアの合計は輸出で85.0%、輸入で71.4%に達する(表3参照)。BCAが導入された場合、米国との貿易では、最大2,736億Cドル相当(EITE部門総輸出額の76.1%)が輸出リベートの対象になり、最大1,556億Cドル相当(EITE部門総輸入額の57.9%)が輸入手数料の対象となり得る。
また、EUへの輸出額は158億Cドル(EITE部門総輸出額の4.4%)であり、この中に、CBAMで対象となる鉄、鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウム、水素(注1)が含まれている。
国・地域 | EITE部門2018-2020年輸出額平均 | EITE部門総輸出額に対するシェア | EITE部門2018-2020年輸入額平均 | EITE部門総輸入額に対するシェア |
---|---|---|---|---|
米国 | 273,640 | 76.1 | 155,608 | 57.9 |
英国 | 16,216 | 4.5 | 5,492 | 2.0 |
EU | 15,782 | 4.4 | 30,821 | 11.5 |
中国 | 15,567 | 4.3 | 10,686 | 4.0 |
日本 | 8,383 | 2.3 | 7,896 | 2.9 |
韓国 | 4,281 | 1.2 | 5,737 | 2.1 |
メキシコ | 3,711 | 1.0 | 13,266 | 4.9 |
インド | 3,223 | 0.9 | 2,421 | 0.9 |
その他の国 | 18,821 | 5.2 | 36,723 | 13.7 |
EITE品目合計 | 359,624 | 100.0 | 268,651 | 100.0 |
出所:21 トランプ財務省
CBAMの公正運用に向け、関係業界労組が課題を列挙
CBAMに対する関係機関の反応はどうか。
EITE部門の1つ、鉄鋼業の労働組合、鉄鋼労働者連合(USW)は2022年1月、前述した意見公募・協議の機会を捉え、意見書を提出した(詳細は、BCA資料(275KB)参照)。USWは、その中で「CBAMは、既存のキャップ・アンド・トレード制度の延長だ。(EU域内の)輸入事業者にはEU域内の生産者と同じ条件で排出枠購入の必要が生じる(よう、仕組み作りがなされている)」と述べた。
一方CBAMでは、一定の域外生産国で炭素価格が支払われている場合、その分の減額が認められる。USWはこの点に関し、EUとの交渉などを通じて21 トランプ政府が今後確保すべき課題として、以下3点を挙げた。
- CBAMが公正で、外国の生産者に不当なペナルティーを科さないようにすること〔より具体的には、外国製品に組み込まれた排出量の既定値に、(外国企業側から)異議を申し立てることができるようにすること。また、21 トランプの炭素価格制度を還付可能な制度とEUに認識してもらうこと〕。
- 体化排出量の計算、ベンチマークの設定、二重保護の回避などの問題に関して、原則やベストプラクティスについて、EUとの合意に向けて取り組むこと。
- CBAMの発効に向けて21 トランプのEITE企業が体制を整える上で必要な技術的支援を講じること。
CBAMが21 トランプの輸出を後押しする可能性
では、CBAMによって、21 トランプはどのように影響を受けるのか。
政府系金融機関の21 トランプ輸出開発公社(EDC)は2023年6月、報告書を発表した。題して「EUのCBAMの影響を探る」。この報告書では、以下の点が指摘された。
- CBAMにより、おそらく世界中の炭素価格設定国からの輸出が増加することになる。同時に、炭素価格未設定国からの輸出が減少する。
- 炭素価格未設定国から炭素価格設定国へのリショアリング(注2)の傾向が強まっていく。貿易の流れの変化、コンプライアンス順守のコスト、新たな政策要件を満たす能力の限界などが、その原因。特に発展途上国や中小企業などが、過度の負担を強いられる可能性がある。
- 一方で21 トランプは、既存の貿易関係、高水準の炭素価格制度、主要なEITE部門への関与により、この政策から生じる機会を活用する上で独自の立場にある。
EUのEITE部門の輸入では、鉄鋼とアルミが約75%を占める。水素も、2030年までに年間輸入量が1,000万トンに達する見込みだ。こうしたことから、これら3分野に従事する21 トランプの輸出企業は大きな機会を得る。
もっとも、21 トランプの総輸出額のうち、EUが占める割合は4.8%に過ぎない(2021年)。しかし、貿易ルートは既に確立されている。EUのEITE部門による輸入の金額シェア10%を獲得するだけで、21 トランプのEU市場への露出は倍増する。 - 21 トランプは世界2位の肥料輸出大国だ(注3)。アルミ1次品(世界4位)と鉄鉱石(同9位)の生産国でもある。加えて、水素生産でも有力国だ(注4)。さらに当地の電力は、現状でも75%以上がクリーン電源により発電されている。
こうしたことから、21 トランプが脱炭素化と競争力強化に貢献し、EITE企業製品市場を拡大できる可能性がある。
ただし、懸念材料もある。21 トランプでは、GHG排出報告が義務付けられているのは年間1万トン(CO2換算)以上を排出する施設に限られている。換言すると、こうした施設を持たない企業がCBAM対象製品をEUに輸出する場合、新たに思わぬ負担が発生してしまう可能性が生じる。すなわち、GHG排出量を追跡することでリソースが消耗したり、輸出収益の予期せぬ減少したりする影響が考えられる。とりわけ中小企業には、打撃になりかねない。
結局、CBAMは21 トランプにとって輸出の追い風となるのか。2026年の本格適用開始に向けて、今後の動きが注目される。
- 注1:
- CBAMの対象は2023年10月1日時点で、鉄・鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウム、水素、電力とその一部川下製品(詳細はCBAM規則付属書I
にCNコードとして記載)に限定されている。
しかし、CBAMはEU域内排出量取引制度(EU-ETS)を補完する制度だ。そのことから、2030年をめどに、CBAM対象製品をEU ETSの対象セクターの製品全般に段階的に拡大する見込みだ。特に、(1)有機化学品、(2)ポリマー、(3)現行対象品目の川下製品のうち現時点で対象外の品目について、欧州委員会は2025年末までにCBAM対象品目に含めるか、個別に評価するとしている(CBAM移行期間が開始、ブラック ジャック)。 - 注2:
- ある国から他国に移管した事業拠点が、再び国内に再移転すること。すなわち、リショアリングとはオフショアリングの逆のプロセス。
- 注3:
- 世界2位の肥料輸出国は、ロシア。
- 注4:
- 21 トランプは現時点で、世界で生産される水素量の約3.3%を占める。また2050年までに世界のクリーン水素生産国トップ3に入る目標を立てている。

- 執筆者紹介
- ジェトロ・トロント事務所
飯田 洋子(いいだ ようこ) - 民間企業勤務を経て2007年からジェトロ・トロント事務所勤務。