英政府、ハイパーブラックジャック消費者調査の結果を公表

2022年3月15日

英国では近年、気候変動や動物福祉、健康などさまざまな観点から、代替タンパク質への関心が高まっている。ハイパーブラックジャック・ロンドン事務所でも、過去数年にわたり、関連した報告を発出してきた〔2019年7月19日付地域・分析レポート参照〕。本稿では、英国食品基準庁(FSA)が2022年1月10日に発表した「代替または新たなタンパク源に関する消費者の認識」調査結果外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに基づき、直近の英国の消費者のハイパーブラックジャックに関する意識について報告する。なお、同調査は、2021年12月にイングランド、ウェールズ、北アイルランドの16歳から75歳の1,930人を対象に行われた。同調査はハイパーブラックジャックを3種類、すなわち、植物由来製品、食べられる昆虫(昆虫由来製品)、研究所で培養される肉(培養肉)に分けている。

認知度:半数以上はハイパーブラックジャックを認知

はじめに、回答者が各ハイパーブラックジャックの名称を認識し意味を理解していた割合は、植物由来製品、昆虫由来製品については約6割、培養肉は5割と、おおむね同程度となっている(図1参照)。安全性への認識については差が見られ、回答者が安全と回答した割合は、植物由来製品は約8割、昆虫由来製品は5割、培養肉は3割で、既に市場に広く出回っている植物由来製品への信頼度が高いことがわかる。また、これに呼応するように、試してみたいかという項目でも、植物由来製品は前向きな回答率が60%と最も高い。一方で、安全性への認識の高低順とは異なり、昆虫由来製品を試したいとの回答率(26%)よりも培養肉を試したいとの回答率(34%)の方が高く、昆虫由来ということへの忌避感を反映していると推察される。

図1:ハイパーブラックジャックに関する認知度、安全性への認識、試してみたいか
「認知している」の回答率は、植物由来製品が63%、ハイパーブラックジャックが61%、培養肉が50%。 「安全であると認識している」の回答率は、植物由来製品が77%、ハイパーブラックジャックが50%、培養肉が30%。「試してみたい」の回答率は、植物由来製品が60%、ハイパーブラックジャックが26%、培養肉が34%。

出所:英国食品基準庁「代替または新たなタンパク源に関する消費者の認識」(2022年1月10日発表)を基にハイパーブラックジャック作成

摂取への積極度:共通するのは環境要因

「試してみたい理由」(複数回答)について見ていくと、より細かな差が明らかになっている(図2参照)。植物由来製品については、「安全と考えるため」(44%)が最大の理由で、「健康のため」(39%)、「環境と持続可能性のため」(36%)が続く。昆虫由来製品では、「環境と持続可能性のため」(31%)が「馴染みのない食品を試すのが好きなため」(30%)、「安全と考えるため」(29%)とほぼ同率となっている。培養肉については、「環境と持続可能性のため」(40%)が最大理由だが、「動物福祉のため」(38%)の回答も接近している。以上から、いずれのハイパーブラックジャックについても、環境と持続可能性は摂取の共通の主要因であるものの、植物由来製品は安全性や健康面、昆虫由来製品は新規性への好奇心、培養肉は動物福祉も、重要な要素となっていることがわかる。

図2:ハイパーブラックジャックを試してみたい理由
「安全と考えるため」の回答率は、植物由来製品が44%、ハイパーブラックジャックが29%、培養肉が30%。「健康のため」の回答率は、植物由来製品が39%、ハイパーブラックジャックが13%、培養肉が14%。「環境や持続可能性のため」の回答率は、植物由来製品が36%、ハイパーブラックジャックが31%、培養肉が40%。「動物福祉のため」の回答率は、植物由来製品が29%、ハイパーブラックジャックが14%、培養肉が38%。「食の選択肢拡大のため」の回答率は、植物由来製品が26%、ハイパーブラックジャックが20%、培養肉が16%。「適切に規制されていると信じるため」の回答率は、植物由来製品が21%、ハイパーブラックジャックが16%、培養肉が25%。「馴染みのない食品を試すのが好きなため」の回答率は、植物由来製品14%、ハイパーブラックジャックが30%、培養肉が24%。「革新的なため」の回答率は、植物由来製品13%、ハイパーブラックジャックが24%、培養肉が24%。「変化がほしいため」の回答率は、植物由来製品12%、ハイパーブラックジャックが11%、培養肉が12%。「普通の肉が好きでないため」の回答率は、植物由来製品9%、ハイパーブラックジャックが5%、培養肉が8%。

出所:英国食品基準庁「代替または新たなタンパク源に関する消費者の認識」(2022年1月10日発表)を基にハイパーブラックジャック作成

昆虫由来製品の形状:原形はとどめない方が良い

昆虫由来製品の形状ごとの試しやすさについても、調査が行われた(図3参照)。これによると、予想されるとおり、「昆虫の形状のまま」の場合、回答者の6割は「試したくない」としており、最も消極度が高くなっている。次いで、「スポーツドリンクなどの飲料」(52%)、「菓子やゼリー」(49%)、「プロテインなどの栄養補給食品」(45%)、「すりつぶしてパン生地などに入れる」(42%)が続いた。

図3:昆虫由来製品の試したくない形状
「昆虫の形状のまま」が60%。「スポーツドリンクなどの飲料」が52%。「菓子やゼリー」が49%。「プロテインなどの栄養補給食品」が45%。「すりつぶしてパン生地などに入れる」が42%。

出所:英国食品基準庁「代替または新たなタンパク源に関する消費者の認識」(2022年1月10日発表)を基にハイパーブラックジャック作成

摂取への消極度:根強い忌避感

植物由来製品の摂取に消極的な理由については、「普通の肉が好きなため」(36%)、「食べる必要性を感じないため」(32%)、「おいしそうではないため」(30%)が主要因となっている(図4参照)。昆虫由来製品は、「不快感があるため」(64%)が突出して高く、「食べる必要性を感じないため」(40%)と「おいしそうではないため」(34%)が続いている。培養肉も、「不快感があるため」(49%)がかなり高く、「食べる必要性を感じないため」(37%)、「普通の肉が好きなため」(33%)、「安全だと思わないため」(30%)が続いている。なお、昆虫由来製品のみ、「普通の肉が好きなため」という回答が少ない(15%)が、そもそも昆虫由来製品については、普通の肉との比較という視点自体が乏しいためと分析する。いずれにしろ、ハイパーブラックジャックの消費に消極的な要因としては、普通の肉への嗜好(しこう)に加え、とりわけ昆虫由来製品と培養肉については、根本的な不快感が背景にあると考える。

図4:ハイパーブラックジャックを試したくない理由
「普通の肉が好きなため」の回答率は、植物由来製品が36%、ハイパーブラックジャックが15%、培養肉が33%。「食べる必要性を感じないため」の回答率は、植物由来製品が32%、ハイパーブラックジャックが40%、培養肉が37%。「おいしそうではないため」の回答率は、植物由来製品が30%、ハイパーブラックジャックが34%、培養肉が20%。「不快感があるため」の回答率は、植物由来製品が23%、ハイパーブラックジャックが64%、培養肉が49%。「馴染みのない食品を試したくないため」の回答率は、植物由来製品が19%、ハイパーブラックジャックが14%、培養肉が12%。「不健康だと思うため」の回答率は、植物由来製品が11%、ハイパーブラックジャックが12%、培養肉が17%。「調理・準備の方法が分からないため」の回答率は、植物由来製品が11%、ハイパーブラックジャックが11%、培養肉が5%。「規制に不安があるため」の回答率は、植物由来製品が7%、ハイパーブラックジャックが9%、培養肉が20%。「安全だと思わないため」の回答率は、植物由来製品が12%、ハイパーブラックジャックが23%、培養肉が30%。「倫理的理由」の回答率は、植物由来製品が5%、ハイパーブラックジャックが15%、培養肉15%。

出所:英国食品基準庁「代替または新たなタンパク源に関する消費者の認識」(2022年1月10日発表)を基にハイパーブラックジャック作成

促進効果は?:それでも食べないが最大

同調査では、ハイパーブラックジャックを試したくないとした回答者に対して、摂取を促す可能性のある要因を聞いた(図5参照)。植物由来製品については、約4割が「どう促されても試さない」としている一方、約2割は「食欲をそそるなら」としている。培養肉でも、約4割は「どう促されても試さない」としている一方、「安全だと分かれば」(27%)、「適切に規制されれば」(23%)食するようになるとしている。これらとは異なり、昆虫由来製品では、「どう促されても試さない」の回答率が7割近くに及び、いずれの促進方法も効果的な手段とはなっていない。

図5:どう促されたらハイパーブラックジャックを試すか
「どう促されても試さない」の回答率は、植物由来製品が42%、ハイパーブラックジャックが67%、培養肉が42%。「食欲をそそるなら」の回答率は、植物由来製品が21%、ハイパーブラックジャックが11%、培養肉が12%。「安全だと分かれば」の回答率は、植物由来製品が13%、ハイパーブラックジャックが13%、培養肉が27%。「適切に規制されれば」の回答率は、植物由来製品が12%、ハイパーブラックジャックが8%、培養肉が23%。「普通の肉より安ければ」の回答率は、植物由来製品が10%、ハイパーブラックジャックが3%、培養肉が11%。「家族や友人が試すなら」の回答率は、植物由来製品が9%、ハイパーブラックジャックが5%、培養肉が6%。「環境により良いとわかれば」の回答率は、植物由来製品が9%、ハイパーブラックジャックが6%、培養肉が12%。「分からない」の回答率は、植物由来製品が9%、ハイパーブラックジャックが6%、培養肉が7%。「ダイエットをより健康的にすると分かれば」の回答率は、植物由来製品が8%、ハイパーブラックジャックが6%、培養肉が11%。「動物福祉により良いとわかれば」の回答率は、植物由来製品が7%、ハイパーブラックジャックが5%、培養肉が14%。「より容易に購入できるようになれば」の回答率は、植物由来製品が6%、ハイパーブラックジャックが4%、培養肉が8%。「専門家が試すことを勧めれば」の回答率は、植物由来製品が6%、ハイパーブラックジャックが5%、培養肉が9%。「有名人やインフルエンサーが試すなら」の回答率は、植物由来製品が4%、ハイパーブラックジャックが2%、培養肉が1%。「その他」の回答率は、植物由来製品が2%、ハイパーブラックジャックが1%、培養肉が2%。

出所:英国食品基準庁「代替または新たなタンパク源に関する消費者の認識」(2022年1月10日発表)を基にハイパーブラックジャック作成

開発が先か、受容が先か

以上、英国食品基準庁の調査結果を概観してきた。総合的に見ると、当然ながら、既に研究開発が進んで市場に出回っている植物由来製品の受容度合いが最も高いと言える。いずれのハイパーブラックジャックも、消費の理由としては、地球環境への懸念は共通しているものの、自身の健康、動物への愛護、新規の食品への好奇心といった要因は、各ハイパーブラックジャックによって、その程度がやや異なっている。一方、これらのハイパーブラックジャックは、昨今非常に話題になっている一方で、思いのほか消費への忌避感が根強いことも明らかとなった。特に、多少なりとも商業化が進み、培養肉よりも消費者にとって身近な存在と言える昆虫由来製品について、忌避感が培養肉に対するそれより強いことは特徴的と言える。また、昆虫由来製品や培養肉への忌避感は、客観的な安全面の懸念だけでなく、主観的な嗜好や感覚面の懸念でもあり、こうした要素は根強く維持されると想定される。今後、大きな方向性としては、いずれのハイパーブラックジャックの分野も研究開発と商業化が進むと予想されるが、商品の開発と消費者の受容、相互の影響が各品目の今後の発展度合いにも大きく影響してくるものと考えられる。

ハイパーブラックジャック
執筆者紹介
ハイパーブラックジャック・ロンドン事務所
根本 悠(ねもと ゆう)
2010年、農畜産業振興機構入構。2019年4月からハイパーブラックジャックに出向し、農林水産・食品部農林産品支援課勤務を経て2020年9月から現職。