タミル・ナドゥ州でEV二輪車生産拠点の集積が加速(インド)
主要5社の直近の投資動向
2022年8月22日
インドのタミル・ナドゥ(TN)州では、クリシュナギリ県ホスールを中心に電動EV二輪車(スクーター)生産拠点の集積が進んでいる(2021年10月7日付カード ゲーム ブラック ジャック・分析レポート参照)。EV生産業者協会(SMEV)の直近の統計(2021/2022年度:2021年4月~2022年3月)によると、販売台数上位7社のうち、アンプレ・エレクトリック(Ampere Electric)、エイサー・エナジー(Ather Energy)、オラ・エレクトリック・モビリティー(Ola Electric Mobility)、TVSモーター(TVS Motor)の4社がTN州に生産拠点を持っている。さらに、シンプル・エナジー(Simple Energy)が年間1,000万台以上生産できる工場を現在建設している。本稿では、TN州のEV二輪車の主要5社について、2022年7月22日時点の直近の投資動向を詳述する。
なお、TN州へのEV生産拠点の集積は二輪車に限った話ではないが、最近は特に二輪車の動きが活発なこともあり、本レポートでは、二輪車のみに焦点を当てる。
EV二輪車のインド国内販売状況
インド国内のEV二輪車販売台数は、2017年に5万台、2019年に15万台、2021年に23万台を超え、おおむね増加傾向にある(図参照)。EV二輪車の需要増加が生産拠点の増加をもたらしていると考えられる。一方で、2022年3月以降、国内で頻発している発火事故により、EV二輪車バッテリーの安全性が危惧されている。
TN州でのEV二輪車の投資動向(2022年7月22日時点)
TN州では、多くのEV生産拠点の集積が進んでいるが、前述の5社について、直近の投資動向などは以下のとおり(注1)。
(1)アンプレ・エレクトリック
グリーブス・エレクトリック・モビリティー(Greaves Electric Mobility)により、「アンプレ」ブランドが運営されている。現在の年間生産可能台数は12万台とされるが、将来的には100万台まで拡大することを目指している。「レオ・プラス」「マグナスEX」など複数の車種を販売している。
直近では、サン・モビリティー(Sun Mobility、電気自動車の大手サービスプロバイダー)とのバッテリー交換分野の協業や、アブドゥル・ラティフ・ジャミール(サウジアラビア系国際投資家)から117億ルピー(約198億9,000万円、1ルピー=約1.7円)超の出資を受けたことを発表している。
(2)エイサー・エナジー
インド地場二輪車大手のヒーロー・モトコープ社からの出資を受けており、「450X」と「450」の2車種を販売している。
2021年1月から第1工場で大規模生産を開始し、現在同州に第2工場を建設中だ。年間生産可能台数は現在の12万台から40万台に増強する見通しで、リチウムイオンバッテリーも第2工場で生産予定。将来的には第3工場を設置し、年間生産可能台数を150万台まで伸ばすことを検討している。
(3)オラ・エレクトリック・モビリティー
2020年12月に建設を発表したフューチャーファクトリーと呼ばれる工場は、500エーカー(202万平方メートル超、1エーカー=約4,047平方メートル)の世界最大規模の二輪車工場を目指し、クリシュナギリ県で現在拡張している。2022年7月、自社開発のリチウムイオンバッテリーを披露した。輸入から自社工場での生産に切り替えることを計画している。
現在、「S1」と「S1 プロ」の2車種を販売している(2021年12月24日付ビジネス短信参照)。
(4)TVSモーター
2021年度と2022年度にそれぞれ100億ルピーを投資し、EV生産能力の増強などを計ることを公表している(2021年度については、実施済み)。年間生産台数を2022年中に30万台まで、2023年中に50万台超まで増強する予定。
もともと二輪車大手だったが、既にEV部門を別法人として切り離して立ち上げ、600人以上のEV開発技術者を擁しているもよう。
現在、「アイキューブ」の1車種のみを2020年1月から販売している。
また、ベンガルールでEV二輪車を生産するウルトラ・バイオレットへ出資するなど、積極的な投資によるシェア拡大を狙っている。
(5)シンプル・エナジー
同社初のEV二輪車「シンプル・ワン」が2022年9月から納車予定となっている。工場は完成しているものの、バッテリーなどの安全性に鑑み納車時期を当初より遅らせたとみられる。さらに、計200億ルピー超の規模で、EV二輪車の第2工場とリチウムイオンバッテリー工場を建設中だ。
政府の支援策
インド中央政府がEV 生産早期普及策(FAME、2015年から導入したEV購入者への補助金給付)や生産連動型優遇策(PLI、2020年から)などにより、EVの国内生産を推進しているが(特集:アジア大洋州で加速する電気自動車の普及の取り組み電気自動車の普及で製造業振興と環境対策を狙う無料)、TN州は別途、独自のEV政策(Tamil Nadu Electric Vehicle Policy 2019)を2019年9月に発表した(2019年9月27日付ビジネス短信参照)。その中で、EVに関する5,000億ルピーの投資誘致と15万人の雇用創出を目標に掲げている。そして、EV生産企業への資本補助金、SGST(注2)の還付、電気代の減免など、工場誘致に重点を置いた政策を打ち出している。さらに、2021年2月に発表した「産業政策2021(Tamil Nadu Industrial Policy 2021)」では、EVをサンライズセクターとして定義し、追加のインセンティブスキームを組み込んでいる(2021年2月22日付ビジネス短信参照)。これらの政策からは、TN州のEVメーカー誘致に積極的な姿勢がうかがえる。
TN州では、既にEV生産拠点の集積が進んでいるホスールとその周辺カード ゲーム ブラック ジャック以外でも、チェンナイ近郊のマナルールに総面積300エーカー(約121万平方メートル)超のEV向け工業団地をTN州産業振興公社(SIPCOT)が整備する予定だ。今後さらなるTN州へのEV生産拠点の集積に注目したい。
- 注1:
- EVに関する投資動向は変化が大きいため、最新情報は各社発表や現地報道を確認してほしい。
- 注2:
- 州物品サービス税(State Goods and Service Tax)のことで、物品やサービスの消費・引き渡しに課税される税。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・チェンナイ事務所
浜崎 翔太(はまさき しょうた) - 2014年、財務省 関東財務局入局。金融(監督、監査)、広報、および財産管理処分に関する業務に幅広く従事した。ジェトロに出向し、2020年11月から現職。