ケニア医療用品製造大手リバイタルが注射器生産を拡大
ゲイツ財団や日本企業が後押し
2022年2月22日
ケニアのモンバサ輸出加工区で医療用品を製造するリバイタル。同社は2018年から本格的に製造を開始した。現在ではケニア国内だけでなく、アフリカ域内へ輸出する。
そのリバイタルが、注射器の生産拡大に取り組む。アフリカでは人口の増加に伴い、新型コロナウイルスだけでなく、はしかやHIV/AIDSに対応するため、注射器や医療用チューブの需要が高まっている。アフリカ域内で医療用品を生産拡大することは喫緊の課題といえる。
こうした中、同社は2021年11月4日、プレスリリースでビル&メリンダゲイツ財団から400万ドルの助成金を受給したことを発表。同年12月27日には、日本の大原薬品工業とAAICからの出資も受けた。これを元手に製造ラインを拡張し、現在の注射器生産能力は月5,400万本、年間6億4,800万本にまで拡大した。アフリカ最大規模といえる。AAICダイレクターで、リバイタルの取締役に就任した半田滋氏はジェトロに対し、「注射器などの生産能力を強化していくとともに、今後は(新型ウイルスへの対応だけでなく)マラリアやHIVなどアフリカに症例の多い疾患について、研究開発(R&D)にも取り組んでいく」と話した。また、そうした自社の生産・開発能力やケニアの地理的な強みを理由に、「ジェネリックや医療用品の製造、流通基地として、高いポテンシャルを有している」とした。
世界の注射器供給は先進国に傾斜
世界の注射器市場は、2020年の時点で約63億8,000万ドルといわれている。2030年には、115億6,000万ドルにのぼるとの試算もある。米国のベクトン・ディキンソンやテレフレックス、英国のスミス・メディカル、日本のテルモやニプロが大手だ。2020年時点で世界の注射器の輸出額を見ると、トップは米国(8億7,167万ドル、構成比12.4%)で、中国(7億6,563万ドル、同10.9%)、フランス(6億9,032万ドル、同9.8%)が続く。先進国にほぼ集中していることがわかる。日本は第19位(5,930万ドル、同0.8%)だ。
2021年には、新型コロナウイルスのワクチン接種が始まり、各国の注射器メーカーが製造キャパシティを相次いで拡張した。例えば、日本のニプロは同年4月、2022年3月までに1年間の製造キャパシティを1億本に拡張すると発表した。テルモも同年3月に、最新モデルの注射器の国内製造を開始したことを発表。2021年度中に同モデルを2,000万本、生産するとした。
一方、新興国は流通医療用品の多くを輸入品に依存する。現地生産化は期待どおりには進展していない。COVAXファシリティや国際機関の調達に参加するには、ISOなど国際安全基準をクリアする必要があるからだ。さらに、WHOの品質安全基準(PQS)を満たすには、さらに厳しい審査を通過しなければならない。工場の維持にも莫大(ばくだい)な費用を要する。結局、新興国企業にとってはハードルが高いのが現実だ。2022年1月末の時点で、ISO規格に準拠しPQSを満たしたアフリカ企業は、リバイタルだけとみられている。輸入に頼っているばかりでは、調達のリードタイムや物流コストが一向に下がらない。また半田氏は、「先進国で物流や生産量が滞ると、アフリカへの供給にも影響する」と指摘する。
例えば、ケニアの注射器の輸入額をみると、市場は年々拡大している。2020年の注射器(HSコード9018.31)の輸入額(輸出加工区からの輸入を含む)は549万ドル。2年前の2018年と比べ39.6%上昇した。輸入額の内訳をみると、ベルギー(2020年、構成比41.0%)から最も多く輸入している。これに、中国(同23.2%)、スペイン(同13.9%)が続く。しかし、世界中で注射器の需要が高まった2021年は、11月までのケニアへの注射器の輸入額が488万ドル、輸入量は約5,652万本で、前年同期をそれぞれ9.6%、18.1%下回った(図参照)。また、ケニアで新型コロナワクチン接種が開始されたのは、2021年3月からだ。その後、輸入量が増減を繰り返しており、先進国の需要増により影響を受けた可能性も考えられる。ユニセフは、幼少期のワクチン接種用に年間8億本の注射器を必要とし、2021年末までに10億本が必要になると試算している。
「ユニバーサルヘルスカバレッジ」実現に向けて
医療の普及を目指す「ユニバーサルヘルスカバレッジ」は、ケニヤッタ大統領が自身の政権の柱の1つに掲げてきたコンセプトだ。そのために設定してきた目標は、2022年に満期を迎える。
ケニアでは新型ウイルスへの対応も後押しし、医療施設の拡張が続いている。医療用品が国際基準で現地生産できるようになれば、安全な医療に安定的にアクセスできる機会が増えることになる。こうした「ユニバーサルヘルスカバレッジ」へのステップに、日本企業が事業投資という形で参加したことにも着目し、今後の動向に注目したい。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ナイロビ事務所 調査・事業担当ディレクター
久保 唯香(くぼ ゆいか) - 2014年4月、ジェトロ入構。進出企業支援課、ビジネス展開支援課、ジェトロ福井を経て現職。2017年通関士資格取得。