零細小売・飲食がEC化・デジタル化、現地スタートアップが活躍
ブラック ジャック 遊び方
2021年10月6日
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、世界全体でデジタル技術を活用したビジネスへの移行が進んでいる。IT大国インドでもコロナ禍以降、デジタル活用が一層加速。スタートアップの参入や投資も過熱している。
本シリーズでは、インドのデジタル化と関連するスタートアップの動きについて、分野や領域ごと(小売り・飲食、ギグエコノミー、調達・物流、製造業、フィンテックなど)に分けて追ってゆく。第1回となる今回は、小売り・飲食のデジタル化とソーシャルコマースについて報告する。
零細小売・飲食業にもデジタル化の波
コロナ禍以降、インドで電子商取引(EC)やデリバリー市場の拡大が顕著だ。アマゾンやフリップカートをはじめとして、EC業者は業績を大きく伸ばしている。このほか、産業特化型のECサービスの新規参入も続く。2021年7月には、フードデリバリー大手のゾマトが新規株式公開(IPO)で937億5,000万ルピー(約1,400億円、1ルピー=約1.5円)を調達。同じく業界大手のスウィッギーも、12億5,000万ドルの資金調達を発表した。このように、投資や資金調達の動きも活発だ(新型コロナ禍で経済が落ち込む中、eコマースが活況(ブラック)。
一方で、インドの小売業は、キラナ(組織化されていない零細事業者)が全体の8割以上を占める。この業態は、コロナ禍と外出・営業制限などで多大な影響を受けてきた。そうした零細事業者を含め、従来型店舗のEC化や、店舗業務のデジタル化、非接触化も急速に進んでいる。また、多くの飲食店では、紙のメニューの代わりにQRコードが設置されている。スマートフォン上で、メニュー閲覧から注文・決済まで完結する仕組みとなっている。
これらの領域で、コロナ禍前後に創業し急成長を遂げているスタートアップがある。2020年創業のスタートアップDukaan(ドゥカーン)は、零細事業者を含む小売店が「30秒で」ECサイトを開設できるサービスを提供する。事業者は、スマホ向けアプリで商品を登録し、ショップのリンクやQRコードを顧客にシェアする。この簡単な手順だけで、オンラインストア開設が可能になる。現在、370万件以上の事業者ユーザーを獲得。延べ689万ドルの資金調達に成功している。こうした技術は小売りテックの中でも、特に「キラナテック」「ドゥカン(ヒンディー語で店の意味)テック」とも呼ばれる。
また、小規模小売・飲食事業者向けのオンライン化支援ツールを提供するのが、DotPe(ドットぺ)だ。同社は、デリー首都圏・ハリヤナ州グルグラムに拠点を置く。支援ツールにより、例えば、事業者がスマホで在庫をスキャンすることで、簡単にオンラインカタログを作成できる。このほか、無料メッセージアプリのワッツアップ上で販売・注文できる仕組みもある。2021年3月には、創業1年強でグーグルなどから約2,750万ドルの資金調達に成功した。
Shoopy(ショッピィ)の商材は、飲食・小売業者向けのソフトウエアソリューションだ。現地語を含め、多言語対応している。商品・カタログのオンライン化に加え、請求書発行、在庫管理、ソーシャルコマース、プロモーション、会計管理など各業務のデジタル化機能、オンライン顧客向けのプラットフォームが提供される。2020年の創業からすでに25万ドルを調達した。
これらのサービスに共通するのは、販売時点情報管理(POS)システムなど、高額な初期導入コストは必要としないことだ。そのため、小規模事業者にとって負担なく導入しやすいビジネスモデルとなっている。インドではデジタル公共インフラ(インディア・スタック)の一環として、2016年にモバイル電子決済システムUPIが導入された。ユーザーは、QRコードや仮想支払いアドレス(VPA)を通じて簡単に小口決済ができる。UPIはインド全土で広く普及。ワッツアップや、ペイティーエム、フォンぺ、グーグルペイなどの電子決済サービスとも連携する。既述のスタートアップのサービスも、こうした電子決済サービスと連動設計。オンラインで、決済まで完結できる仕組みとなっている。
ソーシャルコマースが拡大
また、ワッツアップやフェイスブックなど、SNSを活用した「ソーシャルコマース」と呼ばれる分野も拡大を続けている。ソーシャルコマースは、小規模事業者や個人がSNSなどのプラットフォーム上で商品の販売、注文、決済のやり取りを可能にする仕組みだ。安価なインターネットとスマホの普及により、インドのSNSユーザー数はワッツアップが約4億6,000万人、フェイスブックが約3億4,000万人、インスタグラムが約1億8,000万人に上るとされる(注1)。
ソーシャルコマースは、特に大手EC業者がカバーしきれていないTier 2、Tier 3都市(注2)などの地方都市でネットワークを拡大している。ベイン・アンド・カンパニーのレポートによると、インドのソーシャルコマースの総取引額は 2024/2025 年度までに、160 億~200億ドルに達する。2019/2020 年度は15 億~20 億ドルだったので、5年間で約10倍に拡大する見込みだ。またこのレポートでは、女性事業者を含む4,000 万超の小規模事業者がオンライン事業を開始するとも指摘された。
2021年7月には、フリップカートがモバイルアプリShopsy(ショップシー)をスタートした。このアプリにより、個人や小規模事業者はソーシャルコマースを簡単に始めることができる。表は代表的なソーシャルコマース関連スタートアップ事例だ。こうしたプラットフォームを通じて、地方や農村部でもデジタル化が加速するものと考えられる。
企業名 | 概要 |
---|---|
GlowRoad(グローロード) | リセラー(再販業者)プラットフォーム |
Meesho(ミーショ) | リセラー(再販業者)および中古品販売プラットフォーム |
DealShare(ディールシェア) | 食品・日用品等の共同購入型プラットフォーム |
Mall91(モール91) | 共同購入、ライブコマース等の販売プラットフォーム |
Bulbul(ブルブル) | 動画・ライブコマースによる販売プラットフォーム |
SimSim(シムシム) | 動画・ライブコマースによる販売プラットフォーム |
出所:各社発表からブラック ジャック 遊び方作成
現地スタートアップとの連携が市場開拓課題の解決手段に
店舗EC化支援の類似サービスには、例えばShopify(ショピファイ、本社カナダ)などがある。しかし、これまでに挙げたインド系スタートアップが提供するサービスは、モバイル端末での使用に特化しているところが特徴だ。インドの小規模事業者は組織化されておらず、パソコンは持たない一方でスマホは駆使する。そのビジネス環境に目を向けて開発されているわけだ。
過去、ウーバーは、インドでの展開にあたり、インドのモバイル使用環境に合わせた「Uber Lite」を開発。結果、他の新興国への展開にも活用できた事例がある。インドでの開発事例は、リバースイノベーションや他の新興国への展開に生かすヒントになりそうだ。
また、インド市場の販路拡大や進出準備の手段として、現地のスタートアップ企業と連携するのも一手だろう。例えば、日本企業がインドの小規模事業者および地方都市の販売ネットワークに単独で入り込むのは、難度が高い。ネットワークや技術面で強みを持つ現地スタートアップと連携することで、テストマーケティングや販売データ収集などを効率的に進めることも可能だろう。
- 注1:
- 出所は「IndiaToday」および「Statista Research Department」。
- 注2:
- 「Tier2都市」とは、人口が100万~400万人規模の都市を意味する。「Tier3都市」は、50万~100万人。
- 執筆者紹介
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ブラック ジャック 遊び方・ニューデリー事務所
酒井 惇史(さかい あつし) - 2013年、ブラック ジャック 遊び方入構。展示事業部、ものづくり産業部、ブラック ジャック 遊び方京都、デジタル貿易・新産業部を経て、2020年12月から現職。